神様の青く光るそのなかに

かえる。

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怪事件

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 ある男が言った。
「俺は命令されたんだ。神様から命令されたんだ!神様に会ったんだよ俺は!だから・・・だからあいつを殺したんだ!」
 警視庁刑事部特別捜査官の城崎誠(きのさき まこと)は自分の担当している事件の犯人、田原正和(たはら まさかず)からこの言葉を聞いた。逮捕する瞬間に叫んだ言葉だ。それを叫んだっきり田原は黙り込んでしまい、いまだ取り調べにも応じていない。
「おい、城崎~昼飯いかねーか?」
同僚の柴田(しばた)に声をかけられ時計を見るともうすでに昼の2時を回るところだった。どうりで腹が減ったわけだ。
「お、行く行く」
軽く返事をしてジャケットを羽織る。柴田の後ろを追いかけて、外に出ると柴田は待ってましたと言わんばかりの顔で俺に話しかけてきた。
「お前の担当してた事件なんだっけ?あのー神様がなんちゃらかんちゃらってやつ。あれどーなった?」
「どーにもこーにも犯人の田原が何にも喋りゃしない。置物ですかーってくらいにな。本当に困ったもんだよ。」
そう、本当に困っている。そうそうに犯人逮捕には至ったものの現場の状況や動機辻褄合わせには田原の証言が欲しい。そろそろ上からの早くしろという圧力も強くなってくる頃だろう。
「本当にそいつが犯人なのか?まぁ実行犯がそいつだとしても動機も全くないんだろ?」
柴田の言う通りだ。田原に動機は無い。俺ら担当刑事も、田原が神様となのる人物がいてその人物が計画し、田原に実行するよう命じたのでは無いかと考えた。しかしどれだけ捜査してもそんな人物一人も出でこない。
そんなことを話しているうちにいきつけの定食屋についた。俺は好物の生姜焼き定食を頼んだ。
「もう一度事件の概要教えてくれよ」
柴田にそう聞かれた時、ちょうど俺の生姜焼き定食と柴田の頼んだハムカツ定食がきた。
「食べながらでもいいなら聞くか?」
「あまり気持ちいいもんじゃないがきくよ笑」
「わかった。まずは事件が起こったのは今からちょうど二週間前の7月1日午前2時。東京都渋谷区の路地裏に死体が発見された。被害者は大手家電メーカーの副社長、雨宮駿介(あまみや しゅんすけ)。死体はひどく損傷していたが一番の死因は首の大きな穴だ。」
「穴・・・?」
「ああ。首筋の頸動脈のあたりに500円玉くらいの穴が開いていたんだ。どうやって開けたのかはいまいちわかってないのが現状だ。でも鑑識に聞いたところによると金属でできたなにかで開けられているらしい。そしてその首筋に被害者のものではない血痕が残っていた。」
「それが田原のだったと」
「そういうこと。」
「なんでわかったんだ?」
「被害者の雨宮は宗教団体クロシエスにはいっていたらしい。」
宗教団体クロシエスとは犯罪撲滅をモットーとして汚れた社会をクリーンにしたいという目的から集まった人たちで作られた。その設立者は雨宮の父親だった。
「そのクロシエスの幹部の中に田原もいたんだ。」
「そこでつながるってわけか。」
「クロシエスは各地の病院に貢献するため、幹部は全員献血を行っていた。その血を全て調べたところヒットしたんだ。」
「その幹部会の時にお前が捕まえた・・・と。その時に叫んだっきり何も話さないんだよなぁ、不思議なやつだ。」
犯人は捕まえたのにこんなにすっきりしないのは初めてだ。なぜ田原は自供しないのか。ただ刑期が伸びるだけなのに。
「さ、飯も食い終わったし帰るか!今日は俺がおごるよ。」
柴田がおごってくれるだなんて珍しい。今日はラッキーな日なのかもしれない。田原のことでうじうじ考えるのはやめよう。
俺は前を向き店の外に出た。大きな深呼吸をして。
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