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疫病と王妃の罪
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マズリア王国国内の貴族女性で、王妃に擦り寄るものは一人としていない。しかし、王宮で孤立していると思われがちな王妃だが、隣国──ミハイユ王国では扱いが違う。
王妃とは、マズリア王国との和平と自国の国益を守るために嫁いだ王女殿下として、今なおミハイユの民から支持を受けているのだ。
王家同士の間では、裏で多額の金のやり取りを経て結んだ婚姻ではあるものの、表向きはあくまでも国交のために、当時即位して間もない国王の正妃となった。
だからこそ、王妃は廃妃に出来ないし、それを王妃自身が自己満足に利用していた。
だが、それも第二王子の醜聞により周りに振りかざすことが出来なくなっている。
今となっては、王妃の愚痴を聞く相手は専属のメイドのみだ。
「……国王陛下は、王太子に譲位する決断をされたと私に告げた……あのような庶子ごときが王位に立つなどとは、我が子を思えば許しがたいけれど……」
国王の決断について話されても、一介のメイドには返す言葉がない。王妃の身の回りの世話をするように雇われているだけだ。
「陛下はいつもそう、何かにつけて『国のため』『国民の暮らしのため』と言って、王妃である私を慮ることはしないのよ……」
国王ならば国のため、国民の生活のためを考えて施策するのは当然なのだが、王妃には自分が蔑ろにされていると思っている節がある。
だから、音を立てて最高級の白茶が淹れられたカップを置いて、眼を憎しみに燃やした。
「だから伯爵令嬢ごときを王宮に召し上げ、子を成し、その子どもが王妃である私の生んだ子どもより能力に秀でているからと、私の子どもを差し置いて立太子させたわ」
国王に対して最も不満なのは、我が子を立太子させなかったことだ。
なかなか子宝に恵まれなかったために他の女性が側妃に迎えられたが、それでものちに王子を生むことが出来たのを、努力を認めた神からの恩寵だと信じている。
そんな自分は、誰からも重んじられて然るべきと捉えてきたから、今の閑散とした状態は自負を傷つけるし耐えがたい。
「私はミハイユ王国の第一王女。その私が生んだアスランは、この国で誰よりも尊ばれるべき高貴な生まれの王子だったのに」
──公爵家の小娘がアスランに盾つかなければ、全て上手くいったはずなのに。庶出の王太子など闇に葬り、我が息子を王太子に据えて、国王が退位しても王太后として王位に就いた息子を支配下に置いて栄華を極められたのに。あの憎たらしい小娘のせいで台無しになった。
王妃は危うい言葉を心に留め置いて唇を噛んだ。
元は第二王子の愚かさと浮気が原因だし、そうなるように育てた王妃にも責任はあるのだが、完全にヴィクトリアを逆恨みしている。
──何か……王太子と小娘を始末する方法はないかしら?それでいて私の権威を民に見せつけられるようなことがあれば……。
思案するものの、妙案など思いつかない。第二王子と同様に、地位と身分に応じた享楽を甘受してきたのみで、国政に関わった経験さえない。
業腹な思いをしていると、王妃がミハイユ王国出身だからということで知らせが伝えられた。
「チェザリア皇国から始まった疫病が、私の祖国ミハイユの国境付近にまで?」
「はい。ミハイユの国境付近では疫病が広まり、多くの民が罹患していると報告を受けております」
──私はマズリア王国の王妃であり、ミハイユ王国の第一王女。それを今一度広く知らしめねば。
そのためには好機だと、王妃は考えた。
「──ただちに王宮の医師たちをミハイユ王国へ派遣なさい。医療班を組んで、看護にあたるものも十分に揃えるように。ミハイユの民にも、国境付近に医療施設を設けて手厚い治療を。これは、私の権限で命じることとする」
「は、はい……かしこまりました」
──こうして、王妃の発言により、遠い異国から感染拡大してきた疫病は、ついにマズリア王国にまで到達するに至った。
後日になって側近から報告を受けた王太子は、王妃の暴挙に愕然とした。
「──何?王宮の医師たちが王妃によってミハイユ王国へ派遣されて疫病で命を落とした?疫病とは、チェザリア皇国で感染拡大したものか?」
こうなるならば、ヴィクトリアに話したときに多少の無理を承知で薬を頼めばよかったと、王太子は己の甘さを責める。
だが、ことは一刻を争う。急ぎ国王の元に向かって奏上する。
「父上──国王陛下に申し上げます!ただちにミハイユ王国との国境を封鎖して、病を持つ移民が流入せぬようお命じ下さい!」
「しかし、国益を思えば交易は止められぬ」
「今は国益より国民の命です、陛下!」
「国益とは、すなわち民の暮らしを守るものだと、なぜ分からぬ?」
──駄目だ、意固地な正義と正論は現状に添わないと理解してもらえない。
国王に幻滅し、期待も出来なくなった王太子は、不意にヴィクトリアの姿を脳裡に浮かび上がらせた。
もう、頼みの綱は彼女しかいない。
──その一方で、公爵家の当主であるヴィクトリアの父親は、王太子が力を持つために入れ知恵をした娘に対し、家門の隆盛を阻害したと怒るような人間ではなかった。
むしろ、それだけの手腕を振るえるヴィクトリアを家門の誇りとしている節がある。
「我が娘ヴィクトリアが、王太子殿下の使い方を上手く心得ている以上、血縁関係の前に臣下である公爵家が手出しすることは無用だ。──ヴィクトリアよ、民を牽引出来る王妃となれ」
威厳ある父の言葉に、ヴィクトリアは淑女然として頷いて答えた。
「わたくしは殿下の伴侶として、彼と民を正しく、良き道を歩めるよう支え導く存在であれたらと、己を律してまいります、お父様」
およそ臣下の話す内容ではないが、それを畏れ多くもなどと思う感性は公爵家に存在しない。
なごやかなのに不穏な家族団欒を楽しんでいると、執事長が珍しく慌てた様子でやって来た。
「申し訳ございません、王太子殿下がお嬢様に急ぎのご用件があると、忍びで屋敷を訪れてございます」
「あら、殿下が?呼び出しではなく訪問ならば、よほどのことでしょう。応接室にお通しして。わたくしもすぐに参りますと伝えて」
「はい、そのように」
「お父様、わたくしは失礼致しますわ」
「ああ、王太子殿下に粗相があってはならないからな」
ヴィクトリアは急ぎ部屋着のドレスから着替えを済ませ、応接室へと向かった。
「王国の輝ける星にご挨拶申し上げます。──火急の用事とお見受け致しますが……」
「頭を上げてくれ、私と君は婚約を済ませた関係だろう。──それよりも、憂慮すべき事態になった」
王太子の表情を伺うと、いかにも深刻な雰囲気が伝わってくる。
「王家の恥を晒すことになるが……義母上の指図により、先だって話した疫病が国内にまで及んでしまった。義母上の手前、今はまだ詳細を国民には伏せているが、病は王国内を荒らして王都にまで及んでいるらしい」
「まあ……何ということでございましょう」
──王妃を甘く見ていたわ。愚かものだった第二王子の生みの親なのに。あの王子が真面目に学ぶよう躾もしなかった母親だと失念していた。
しかしそれを悔やむ場合ではない。自己顕示欲のために余計なことをした王妃に関しては、王太子妃として王家に入ったときに手を下せばいい。
その方法については、毒を自在に作り出せるヴィクトリアならば、どうとでもなる。あるいは第二王子のように追いつめてもいい。
今は、それよりも国に迫った危機と向き合わなければならない。
「治療法も感染防止策も判明していない病だ、──しかし一刻を争う。陛下は力にならない。ヴィクトリア、もはや君にしか頼めない」
「分かりました、殿下。国のためとあらば、わたくしは己の力を尽くします」
──要は、病原体が体内で活性化出来ないように……人間に免疫を付与すればいいのよ。感染防止はそれでいいとして、治療薬は?……病原体の働きを阻害して……それだけでは足りないわ。
「殿下、病の症状はどのようなものでしょうか?」
「初期症状は風邪と見分けがつかない。数日して、激しい嘔吐と咳が出るようになり、全身の痛みと高熱を発して解熱が叶わず落命すると聞いた」
──感染経路は、患者の吐瀉物と咳から発する病原体。これを無力化する消毒剤と飲み薬が必要になるとして……あとは、高熱も著しければ生命活動が不可能になるから、解熱剤の作用が要るわね。
だが、高熱が数日にわたり続いたものまでは、体が熱で駄目になっているので救えない。
「……感染末期の患者まで救えるかは分かりかねますが……予防薬と感染初期の治療薬をご用意することは不可能ではないと思います」
「それだけでも心からありがたく思う、薬を作るのに必要な物資があれば用意しよう」
「お言葉に甘えて、清潔な飲み水を多くお願い申し上げます。公爵家の倉庫に運び込んで下さいませ」
「分かった。煮沸した飲み水を運ばせよう」
──水の入った樽を媒体にすれば、一気に大量の薬が作れる。……だけど、それにしてもおかしい。ここまで逼迫しているのに、王都で流行が始まっているという話を聞かないわ。
「不思議に思うことがございます。国に疫病がもたらされたというのに、王都のものが恐慌に陥っているとの話を聞いておりません。なぜでしょうか?」
「……それが、王都での感染は限定的で、看病にあたるものも病がうつったものは僅からしい」
「殿下、病を得たものの特徴をお教え下さいませ」
ヴィクトリアが問いかけると、王太子は神妙な面持ちになって答えた。
「……私たちの婚約披露を行なった炊き出しに参加しなかったもののみが感染していると聞いた」
「あの炊き出しパーティーでございますか?確かに王都の平民たちと貴族を集めて、盛大に開催致しましたが……」
──炊き出しパーティーに……まさか、仕込んだ飲みものが予防となったの?
心と体に良いものに、という効果こそ付与したものの──まさか疫病まで遠ざけるとは、さしものヴィクトリアも驚かずにいられなかった。
しかし、王都では既に、奇跡が起きた人間の共通点が炊き出しパーティーにあると気づくものが出ており、平民たちや貴族の間では「公女様のもてなしは女神の贈り物だった」と、話題になりつつあった。
救国の女神──生き神として降臨した高貴なる令嬢、ヴィクトリア神の誕生である。
王妃とは、マズリア王国との和平と自国の国益を守るために嫁いだ王女殿下として、今なおミハイユの民から支持を受けているのだ。
王家同士の間では、裏で多額の金のやり取りを経て結んだ婚姻ではあるものの、表向きはあくまでも国交のために、当時即位して間もない国王の正妃となった。
だからこそ、王妃は廃妃に出来ないし、それを王妃自身が自己満足に利用していた。
だが、それも第二王子の醜聞により周りに振りかざすことが出来なくなっている。
今となっては、王妃の愚痴を聞く相手は専属のメイドのみだ。
「……国王陛下は、王太子に譲位する決断をされたと私に告げた……あのような庶子ごときが王位に立つなどとは、我が子を思えば許しがたいけれど……」
国王の決断について話されても、一介のメイドには返す言葉がない。王妃の身の回りの世話をするように雇われているだけだ。
「陛下はいつもそう、何かにつけて『国のため』『国民の暮らしのため』と言って、王妃である私を慮ることはしないのよ……」
国王ならば国のため、国民の生活のためを考えて施策するのは当然なのだが、王妃には自分が蔑ろにされていると思っている節がある。
だから、音を立てて最高級の白茶が淹れられたカップを置いて、眼を憎しみに燃やした。
「だから伯爵令嬢ごときを王宮に召し上げ、子を成し、その子どもが王妃である私の生んだ子どもより能力に秀でているからと、私の子どもを差し置いて立太子させたわ」
国王に対して最も不満なのは、我が子を立太子させなかったことだ。
なかなか子宝に恵まれなかったために他の女性が側妃に迎えられたが、それでものちに王子を生むことが出来たのを、努力を認めた神からの恩寵だと信じている。
そんな自分は、誰からも重んじられて然るべきと捉えてきたから、今の閑散とした状態は自負を傷つけるし耐えがたい。
「私はミハイユ王国の第一王女。その私が生んだアスランは、この国で誰よりも尊ばれるべき高貴な生まれの王子だったのに」
──公爵家の小娘がアスランに盾つかなければ、全て上手くいったはずなのに。庶出の王太子など闇に葬り、我が息子を王太子に据えて、国王が退位しても王太后として王位に就いた息子を支配下に置いて栄華を極められたのに。あの憎たらしい小娘のせいで台無しになった。
王妃は危うい言葉を心に留め置いて唇を噛んだ。
元は第二王子の愚かさと浮気が原因だし、そうなるように育てた王妃にも責任はあるのだが、完全にヴィクトリアを逆恨みしている。
──何か……王太子と小娘を始末する方法はないかしら?それでいて私の権威を民に見せつけられるようなことがあれば……。
思案するものの、妙案など思いつかない。第二王子と同様に、地位と身分に応じた享楽を甘受してきたのみで、国政に関わった経験さえない。
業腹な思いをしていると、王妃がミハイユ王国出身だからということで知らせが伝えられた。
「チェザリア皇国から始まった疫病が、私の祖国ミハイユの国境付近にまで?」
「はい。ミハイユの国境付近では疫病が広まり、多くの民が罹患していると報告を受けております」
──私はマズリア王国の王妃であり、ミハイユ王国の第一王女。それを今一度広く知らしめねば。
そのためには好機だと、王妃は考えた。
「──ただちに王宮の医師たちをミハイユ王国へ派遣なさい。医療班を組んで、看護にあたるものも十分に揃えるように。ミハイユの民にも、国境付近に医療施設を設けて手厚い治療を。これは、私の権限で命じることとする」
「は、はい……かしこまりました」
──こうして、王妃の発言により、遠い異国から感染拡大してきた疫病は、ついにマズリア王国にまで到達するに至った。
後日になって側近から報告を受けた王太子は、王妃の暴挙に愕然とした。
「──何?王宮の医師たちが王妃によってミハイユ王国へ派遣されて疫病で命を落とした?疫病とは、チェザリア皇国で感染拡大したものか?」
こうなるならば、ヴィクトリアに話したときに多少の無理を承知で薬を頼めばよかったと、王太子は己の甘さを責める。
だが、ことは一刻を争う。急ぎ国王の元に向かって奏上する。
「父上──国王陛下に申し上げます!ただちにミハイユ王国との国境を封鎖して、病を持つ移民が流入せぬようお命じ下さい!」
「しかし、国益を思えば交易は止められぬ」
「今は国益より国民の命です、陛下!」
「国益とは、すなわち民の暮らしを守るものだと、なぜ分からぬ?」
──駄目だ、意固地な正義と正論は現状に添わないと理解してもらえない。
国王に幻滅し、期待も出来なくなった王太子は、不意にヴィクトリアの姿を脳裡に浮かび上がらせた。
もう、頼みの綱は彼女しかいない。
──その一方で、公爵家の当主であるヴィクトリアの父親は、王太子が力を持つために入れ知恵をした娘に対し、家門の隆盛を阻害したと怒るような人間ではなかった。
むしろ、それだけの手腕を振るえるヴィクトリアを家門の誇りとしている節がある。
「我が娘ヴィクトリアが、王太子殿下の使い方を上手く心得ている以上、血縁関係の前に臣下である公爵家が手出しすることは無用だ。──ヴィクトリアよ、民を牽引出来る王妃となれ」
威厳ある父の言葉に、ヴィクトリアは淑女然として頷いて答えた。
「わたくしは殿下の伴侶として、彼と民を正しく、良き道を歩めるよう支え導く存在であれたらと、己を律してまいります、お父様」
およそ臣下の話す内容ではないが、それを畏れ多くもなどと思う感性は公爵家に存在しない。
なごやかなのに不穏な家族団欒を楽しんでいると、執事長が珍しく慌てた様子でやって来た。
「申し訳ございません、王太子殿下がお嬢様に急ぎのご用件があると、忍びで屋敷を訪れてございます」
「あら、殿下が?呼び出しではなく訪問ならば、よほどのことでしょう。応接室にお通しして。わたくしもすぐに参りますと伝えて」
「はい、そのように」
「お父様、わたくしは失礼致しますわ」
「ああ、王太子殿下に粗相があってはならないからな」
ヴィクトリアは急ぎ部屋着のドレスから着替えを済ませ、応接室へと向かった。
「王国の輝ける星にご挨拶申し上げます。──火急の用事とお見受け致しますが……」
「頭を上げてくれ、私と君は婚約を済ませた関係だろう。──それよりも、憂慮すべき事態になった」
王太子の表情を伺うと、いかにも深刻な雰囲気が伝わってくる。
「王家の恥を晒すことになるが……義母上の指図により、先だって話した疫病が国内にまで及んでしまった。義母上の手前、今はまだ詳細を国民には伏せているが、病は王国内を荒らして王都にまで及んでいるらしい」
「まあ……何ということでございましょう」
──王妃を甘く見ていたわ。愚かものだった第二王子の生みの親なのに。あの王子が真面目に学ぶよう躾もしなかった母親だと失念していた。
しかしそれを悔やむ場合ではない。自己顕示欲のために余計なことをした王妃に関しては、王太子妃として王家に入ったときに手を下せばいい。
その方法については、毒を自在に作り出せるヴィクトリアならば、どうとでもなる。あるいは第二王子のように追いつめてもいい。
今は、それよりも国に迫った危機と向き合わなければならない。
「治療法も感染防止策も判明していない病だ、──しかし一刻を争う。陛下は力にならない。ヴィクトリア、もはや君にしか頼めない」
「分かりました、殿下。国のためとあらば、わたくしは己の力を尽くします」
──要は、病原体が体内で活性化出来ないように……人間に免疫を付与すればいいのよ。感染防止はそれでいいとして、治療薬は?……病原体の働きを阻害して……それだけでは足りないわ。
「殿下、病の症状はどのようなものでしょうか?」
「初期症状は風邪と見分けがつかない。数日して、激しい嘔吐と咳が出るようになり、全身の痛みと高熱を発して解熱が叶わず落命すると聞いた」
──感染経路は、患者の吐瀉物と咳から発する病原体。これを無力化する消毒剤と飲み薬が必要になるとして……あとは、高熱も著しければ生命活動が不可能になるから、解熱剤の作用が要るわね。
だが、高熱が数日にわたり続いたものまでは、体が熱で駄目になっているので救えない。
「……感染末期の患者まで救えるかは分かりかねますが……予防薬と感染初期の治療薬をご用意することは不可能ではないと思います」
「それだけでも心からありがたく思う、薬を作るのに必要な物資があれば用意しよう」
「お言葉に甘えて、清潔な飲み水を多くお願い申し上げます。公爵家の倉庫に運び込んで下さいませ」
「分かった。煮沸した飲み水を運ばせよう」
──水の入った樽を媒体にすれば、一気に大量の薬が作れる。……だけど、それにしてもおかしい。ここまで逼迫しているのに、王都で流行が始まっているという話を聞かないわ。
「不思議に思うことがございます。国に疫病がもたらされたというのに、王都のものが恐慌に陥っているとの話を聞いておりません。なぜでしょうか?」
「……それが、王都での感染は限定的で、看病にあたるものも病がうつったものは僅からしい」
「殿下、病を得たものの特徴をお教え下さいませ」
ヴィクトリアが問いかけると、王太子は神妙な面持ちになって答えた。
「……私たちの婚約披露を行なった炊き出しに参加しなかったもののみが感染していると聞いた」
「あの炊き出しパーティーでございますか?確かに王都の平民たちと貴族を集めて、盛大に開催致しましたが……」
──炊き出しパーティーに……まさか、仕込んだ飲みものが予防となったの?
心と体に良いものに、という効果こそ付与したものの──まさか疫病まで遠ざけるとは、さしものヴィクトリアも驚かずにいられなかった。
しかし、王都では既に、奇跡が起きた人間の共通点が炊き出しパーティーにあると気づくものが出ており、平民たちや貴族の間では「公女様のもてなしは女神の贈り物だった」と、話題になりつつあった。
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