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新たな太陽そして潰える月
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それから事態は大きく動き、国王が退位すると同時に王太子が即位すると発表され、王妃は廃妃されることとなり──王太子の婚約者であるヴィクトリアを手にかけようとした罪で、処刑されることとなった。
王太子の即位式では、国民から絶大な支持を受けているヴィクトリアを愛し、大切にしている婚約者なだけあって、大いに祝われて歓迎された。
重厚なローブをまとい、光り輝く王冠を着けた王太子──新国王は、祝賀の儀で宣言した。
「私の身は国民を広く守り、王国を発展させ栄えさせるためにこそある。そのための働きは惜しまないと誓う。全ての国民に安寧と平穏を」
何しろ、ヴィクトリアと共に疫病から国民を救った人物だ。後手に回って失態を犯した前国王とは、国民からの信任が違う。
「王国をあまねく照らす、新たなる太陽にお慶びを申し上げます!」
「これで公女様とご結婚なされたら、きっと王国は豊かになる!」
「農民が貧困で木の根を噛むような暮らしも、新国王陛下は放置などしないだろう!」
口々に喜び寿ぐ民たちを、新国王と婚約者のヴィクトリアが並んで笑顔をたたえて見渡す。
すると、呼応したかのように澄み渡った空に大きな虹がかかった。
「──虹だ!こんな晴天に恵まれているなかで!」
「ああ、神よ!神様から祝福されたんだ!」
「王国が神に守られ、新国王陛下が神に望まれて即位なさった証だろう!」
ヴィクトリアは薬と毒こそ自在に作れるが、天候を操る力はない。それでも、青空には美しい虹が現れて、国民の気持ちをさらに高揚させている。
──天界の神々は、本当に今日という日をお祝いして下さっているのかもしれないわ。
そう思うと、人間らしい感情が希薄なヴィクトリアでさえも感慨深くなってくる。
──それに。王太子殿下は新国王に即位した。そうなれば、廃妃された元王妃の断罪というお楽しみが待っている。
さすがに即位式と同時には処刑出来ないが、日取りはもう決まっており、元王妃は地下牢で罪人服を着せられ、常に美しく結い上げていた髪も乱れて埃にまみれ、石のように固い寝床と薄っぺらく古びた毛布以外に寒さをしのぐものもない日々だ。
じきに、牢番が飲み水も与えなくなるだろう。
そのみすぼらしさ、落ちぶれた姿を思うと、新国王を祝う気持ちとは別の笑みも浮かんでしまう。
「ヴィクトリア、君の晴れやかな笑顔を見つめる国民たちも、良い笑顔になっている」
新国王から親しげに耳打ちされて、彼女はにこやかに応えた。
「はい。陛下のご即位が待ち望まれていたと実感することが出来ましたし……わたくしたちの望む元王妃の最期も待っておりますもの」
「義母上は王家の一員だったものとして、あるまじき最期を迎えるように仕組んでいるのだろう?」
「さあ、どうでしょうか?わたくしは元王妃が国の暗部であり悪であったと知らしめるのみですわ」
「義母上には、罪の通りに処罰されてもらわないといけないね」
「ええ。陛下の御世に先代の穢れがあってはなりませんので」
慈しみと親しみに満ちた微笑みを交わし合っているようでいて、集まった国民には聞こえない声で話す内容は物騒だ。
しかし、ヴィクトリアは新国王の即位を本心からめでたいと思っているし、新国王もそんなヴィクトリアに対して、改めて彼女を婚約者と呼べることの嬉しさを噛みしめている。
祝賀の儀を済ませれば、その場に集まりきれなかった国民にもお披露目するために、晴れ晴れしくパレードを行なうのが通例だが、まだ先代国王と元王妃の所業を裁けていないことを考慮し、全てが片付くまでは保留することとした。
そして、この日からヴィクトリアは、新国王の伴侶になる身として王宮に入り、正妃の宮殿で暮らし始めることとなった。
そこにはナタリーも専属メイドとして付き従っている。ヴィクトリアのことを熟知している有能な人材だから、身近に置いて手放さない。
ナタリーには、地下牢に収監されている元王妃の様子を見に行かせて報告させていた。
どうやら、体を洗う水もなく、日に日に不潔な姿となっていおり、鬱々として恨み言を口にしているらしい。
──新国王に貴族派が忠誠を誓ったら、元王妃を処刑させましょう。
落ちるところまで落ちた元王妃の姿も十分に聞けて、もう満足しているし、聞き続けていても飽きてくる。
そうなる前に散って欲しいのが本音だ。
新国王はまだ歳若いが、庶子でありながら立太子されただけのことはある。人望を集めるのが上手く、ヴィクトリアの功績と家門の後援も手伝って、幸い、歯向かう貴族はいなかった。
おかげで元王妃が処刑される日も決まり、牢番は命じた通り三日前から水さえ与えないようにして、元王妃ははじめこそ不満から金切り声を上げていたが、処刑を迎える頃には声もろくに出せなくなっていた。
そうして、新国王とヴィクトリアが特等席で見守るなか、汚れてみすぼらしくなった元王妃が衆人に晒されて処刑台の前に引き出されることとなり、人々が囁きを交わすなか、ヴィクトリアはおもむろに立ち上がり元王妃へと近づく。
「元王妃は許されざる罪人ではございますが、最期に喉を潤して差し上げたく存じます」
これには周りからどよめきが起こった。
「見てごらん。未来の王妃殿下は、何て慈悲深いお方なんだろう」
「ご自分に害をなそうとした悪人に……」
この声が聞こえている元王妃の顔つきは、処刑台を前にして恐れに視点が定まらず、荒みきって歪んでいる。
──演出は十分ね。誰も彼もが私を善良だと思い込んでいる。
心で頷き、元王妃に水を差し出す。
「……わたくしのことが憎くとも、あなたを苦しみから救う……この水だけは拒まないで下さいませ」
元王妃には拒めないことを、ヴィクトリアは誰よりも分かっている。投獄されていた間に与えられてきたのは、顔が映るほど薄いスープ一皿と、ちぎれないほど固い黒パン一つを一日一度のみ。
しかも、処刑の三日前からは水すら一口も許されていなかった。
元王妃は餓えと渇きにどれほど苦しんでいるか?もはや極限まで達しているだろう。
──水には、悪意を吐露する自白剤の効果のみを付与して、あえて毒性は仕込まなかった。私絡みの断罪で、また処罰前に絶命させてしまえば、国民が疑念をいだくわ。
ヴィクトリアは聡く、罪人が神の怒りを買ったという演出は、第二王子と子爵令嬢のときだけに限ればこそ国民も得心がいくというものだと考えている。
果たして、元王妃はヴィクトリアから奪うように水の皮袋を掴んで、一気に飲み干した。
すると、絶望と恐怖に染まった表情から一転して、屈辱をあらわにして甲高い声で喚き始めた。
もし手足に枷がついていなければ、ヴィクトリアに襲いかかっていたことだろう。
「私はミハイユの王女!尊ばれるべき血筋の高貴な身だと分からぬか!ミハイユが疫病に見舞われたときも、王女として王妃として人員を派遣したというに、そのものらが疫病を国に入れたと責を問われるなど!私は己に良かれと思い、ミハイユとこの国の民の尊崇を集めんとしただけのこと!」
この発言を聞いた国民は「こいつのせいで疫病に襲われたのか」と驚き、当然ながら憤りで怒号を飛ばした。
同時に、王太子の婚約者であり、救国の女神でもあるヴィクトリアに毒を盛ったことも許しがたいが、致死性のない毒物で処刑されることとなった元王妃の処罰は重くないかと思っていたものも、なるほど王国に危険な疫病をもたらした張本人と分かれば重刑でも納得がいった。
国王が秘匿しようとしていたことを、民衆が見ている場で叫んでしまった元王妃には、もう何の救いも与えられない。彼女に注がれるのは、国民からの処罰感情のみである。
「派遣した医師団が罹患して命を落とした?たかが貧村に疫病が広まった?そのようなことで私がなぜ罪に問われる?どうせ廃妃を企むものどもの悪意で陥れられたのだろう!私はミハイユを救うべく働きかけた権威ある王妃ぞ!」
たとえミハイユ王国の王女でも、今はマズリア王国に嫁いだ身である。なのにこれは、失言にも程がある。
しかし自白剤で自己保身の心を失っている彼女の暴言は止まらない。
ヴィクトリアは静かに元王妃へと問いかけた。
「あなたが、わたくしを害そうとされたのも……わたくしのことを妬み憎んだのですか?」
すると、元王妃は油膜が張ったような、濁ってぎらついた眼をヴィクトリアに向けて、呪詛を吐いた。
「あのメイドが……お前の立場も!国民のお前への信頼も!何もかも台無しになるような醜聞を広めてくれると思っておったものを!それが、あの約立たずめ!王宮へ招いた席で毒を盛る?!そのようなことをすれば私が疑われるではないか!私は国王が退位しても、王太后として庶出の卑しいものを傀儡にしてやるつもりだったというに!」
「ああ……何ということでしょう、わたくしを謀略せんとしただけではなく……マズリア王国を国難に晒してでも……元王妃が我欲を貫こうとされていただなどと……」
「──処刑人、もはやこれ以上の耳汚しは不要だ。元王妃に猿ぐつわを噛ませ、処罰の実行を」
ここで新国王が厳かに命じた。ヴィクトリアは悲嘆に暮れるふりを装って立ち尽くしていたが、この一言を受けて、ゆっくりと新国王の隣席に向かい戻ることにして、とぼとぼと悲しそうにしながら──内心では嘲笑いつつ、着席した。
元王妃は自覚していた悪意も無自覚の悪意もさらけ出し、抗いながらも猿ぐつわで言葉を封じられ、そうして斬首台に固定された。
──斬首……血を見るのは構わないけれど……表向きの私にはそぐわないのよね。念のために用意した薬を使わないと。
惨い処刑の衝撃で気を失うふりをするために、かつて第二王子と子爵令嬢の断罪でも使った薬は用意しておいている。実に用意周到である。
呻こうにも呻けない元王妃に、斬首の刃が落ちる。
それをしっかりと味わうように見届けてから、次の瞬間、ヴィクトリアは薬を仕込んで短く悲鳴を上げ、新国王の腕の中へ身を沈めるように倒れ込んだ。
──仇なすものが、また消えたわ。これからのことは、新国王と計って決めればいい。
そう、ほくそ笑みながら。
王太子の即位式では、国民から絶大な支持を受けているヴィクトリアを愛し、大切にしている婚約者なだけあって、大いに祝われて歓迎された。
重厚なローブをまとい、光り輝く王冠を着けた王太子──新国王は、祝賀の儀で宣言した。
「私の身は国民を広く守り、王国を発展させ栄えさせるためにこそある。そのための働きは惜しまないと誓う。全ての国民に安寧と平穏を」
何しろ、ヴィクトリアと共に疫病から国民を救った人物だ。後手に回って失態を犯した前国王とは、国民からの信任が違う。
「王国をあまねく照らす、新たなる太陽にお慶びを申し上げます!」
「これで公女様とご結婚なされたら、きっと王国は豊かになる!」
「農民が貧困で木の根を噛むような暮らしも、新国王陛下は放置などしないだろう!」
口々に喜び寿ぐ民たちを、新国王と婚約者のヴィクトリアが並んで笑顔をたたえて見渡す。
すると、呼応したかのように澄み渡った空に大きな虹がかかった。
「──虹だ!こんな晴天に恵まれているなかで!」
「ああ、神よ!神様から祝福されたんだ!」
「王国が神に守られ、新国王陛下が神に望まれて即位なさった証だろう!」
ヴィクトリアは薬と毒こそ自在に作れるが、天候を操る力はない。それでも、青空には美しい虹が現れて、国民の気持ちをさらに高揚させている。
──天界の神々は、本当に今日という日をお祝いして下さっているのかもしれないわ。
そう思うと、人間らしい感情が希薄なヴィクトリアでさえも感慨深くなってくる。
──それに。王太子殿下は新国王に即位した。そうなれば、廃妃された元王妃の断罪というお楽しみが待っている。
さすがに即位式と同時には処刑出来ないが、日取りはもう決まっており、元王妃は地下牢で罪人服を着せられ、常に美しく結い上げていた髪も乱れて埃にまみれ、石のように固い寝床と薄っぺらく古びた毛布以外に寒さをしのぐものもない日々だ。
じきに、牢番が飲み水も与えなくなるだろう。
そのみすぼらしさ、落ちぶれた姿を思うと、新国王を祝う気持ちとは別の笑みも浮かんでしまう。
「ヴィクトリア、君の晴れやかな笑顔を見つめる国民たちも、良い笑顔になっている」
新国王から親しげに耳打ちされて、彼女はにこやかに応えた。
「はい。陛下のご即位が待ち望まれていたと実感することが出来ましたし……わたくしたちの望む元王妃の最期も待っておりますもの」
「義母上は王家の一員だったものとして、あるまじき最期を迎えるように仕組んでいるのだろう?」
「さあ、どうでしょうか?わたくしは元王妃が国の暗部であり悪であったと知らしめるのみですわ」
「義母上には、罪の通りに処罰されてもらわないといけないね」
「ええ。陛下の御世に先代の穢れがあってはなりませんので」
慈しみと親しみに満ちた微笑みを交わし合っているようでいて、集まった国民には聞こえない声で話す内容は物騒だ。
しかし、ヴィクトリアは新国王の即位を本心からめでたいと思っているし、新国王もそんなヴィクトリアに対して、改めて彼女を婚約者と呼べることの嬉しさを噛みしめている。
祝賀の儀を済ませれば、その場に集まりきれなかった国民にもお披露目するために、晴れ晴れしくパレードを行なうのが通例だが、まだ先代国王と元王妃の所業を裁けていないことを考慮し、全てが片付くまでは保留することとした。
そして、この日からヴィクトリアは、新国王の伴侶になる身として王宮に入り、正妃の宮殿で暮らし始めることとなった。
そこにはナタリーも専属メイドとして付き従っている。ヴィクトリアのことを熟知している有能な人材だから、身近に置いて手放さない。
ナタリーには、地下牢に収監されている元王妃の様子を見に行かせて報告させていた。
どうやら、体を洗う水もなく、日に日に不潔な姿となっていおり、鬱々として恨み言を口にしているらしい。
──新国王に貴族派が忠誠を誓ったら、元王妃を処刑させましょう。
落ちるところまで落ちた元王妃の姿も十分に聞けて、もう満足しているし、聞き続けていても飽きてくる。
そうなる前に散って欲しいのが本音だ。
新国王はまだ歳若いが、庶子でありながら立太子されただけのことはある。人望を集めるのが上手く、ヴィクトリアの功績と家門の後援も手伝って、幸い、歯向かう貴族はいなかった。
おかげで元王妃が処刑される日も決まり、牢番は命じた通り三日前から水さえ与えないようにして、元王妃ははじめこそ不満から金切り声を上げていたが、処刑を迎える頃には声もろくに出せなくなっていた。
そうして、新国王とヴィクトリアが特等席で見守るなか、汚れてみすぼらしくなった元王妃が衆人に晒されて処刑台の前に引き出されることとなり、人々が囁きを交わすなか、ヴィクトリアはおもむろに立ち上がり元王妃へと近づく。
「元王妃は許されざる罪人ではございますが、最期に喉を潤して差し上げたく存じます」
これには周りからどよめきが起こった。
「見てごらん。未来の王妃殿下は、何て慈悲深いお方なんだろう」
「ご自分に害をなそうとした悪人に……」
この声が聞こえている元王妃の顔つきは、処刑台を前にして恐れに視点が定まらず、荒みきって歪んでいる。
──演出は十分ね。誰も彼もが私を善良だと思い込んでいる。
心で頷き、元王妃に水を差し出す。
「……わたくしのことが憎くとも、あなたを苦しみから救う……この水だけは拒まないで下さいませ」
元王妃には拒めないことを、ヴィクトリアは誰よりも分かっている。投獄されていた間に与えられてきたのは、顔が映るほど薄いスープ一皿と、ちぎれないほど固い黒パン一つを一日一度のみ。
しかも、処刑の三日前からは水すら一口も許されていなかった。
元王妃は餓えと渇きにどれほど苦しんでいるか?もはや極限まで達しているだろう。
──水には、悪意を吐露する自白剤の効果のみを付与して、あえて毒性は仕込まなかった。私絡みの断罪で、また処罰前に絶命させてしまえば、国民が疑念をいだくわ。
ヴィクトリアは聡く、罪人が神の怒りを買ったという演出は、第二王子と子爵令嬢のときだけに限ればこそ国民も得心がいくというものだと考えている。
果たして、元王妃はヴィクトリアから奪うように水の皮袋を掴んで、一気に飲み干した。
すると、絶望と恐怖に染まった表情から一転して、屈辱をあらわにして甲高い声で喚き始めた。
もし手足に枷がついていなければ、ヴィクトリアに襲いかかっていたことだろう。
「私はミハイユの王女!尊ばれるべき血筋の高貴な身だと分からぬか!ミハイユが疫病に見舞われたときも、王女として王妃として人員を派遣したというに、そのものらが疫病を国に入れたと責を問われるなど!私は己に良かれと思い、ミハイユとこの国の民の尊崇を集めんとしただけのこと!」
この発言を聞いた国民は「こいつのせいで疫病に襲われたのか」と驚き、当然ながら憤りで怒号を飛ばした。
同時に、王太子の婚約者であり、救国の女神でもあるヴィクトリアに毒を盛ったことも許しがたいが、致死性のない毒物で処刑されることとなった元王妃の処罰は重くないかと思っていたものも、なるほど王国に危険な疫病をもたらした張本人と分かれば重刑でも納得がいった。
国王が秘匿しようとしていたことを、民衆が見ている場で叫んでしまった元王妃には、もう何の救いも与えられない。彼女に注がれるのは、国民からの処罰感情のみである。
「派遣した医師団が罹患して命を落とした?たかが貧村に疫病が広まった?そのようなことで私がなぜ罪に問われる?どうせ廃妃を企むものどもの悪意で陥れられたのだろう!私はミハイユを救うべく働きかけた権威ある王妃ぞ!」
たとえミハイユ王国の王女でも、今はマズリア王国に嫁いだ身である。なのにこれは、失言にも程がある。
しかし自白剤で自己保身の心を失っている彼女の暴言は止まらない。
ヴィクトリアは静かに元王妃へと問いかけた。
「あなたが、わたくしを害そうとされたのも……わたくしのことを妬み憎んだのですか?」
すると、元王妃は油膜が張ったような、濁ってぎらついた眼をヴィクトリアに向けて、呪詛を吐いた。
「あのメイドが……お前の立場も!国民のお前への信頼も!何もかも台無しになるような醜聞を広めてくれると思っておったものを!それが、あの約立たずめ!王宮へ招いた席で毒を盛る?!そのようなことをすれば私が疑われるではないか!私は国王が退位しても、王太后として庶出の卑しいものを傀儡にしてやるつもりだったというに!」
「ああ……何ということでしょう、わたくしを謀略せんとしただけではなく……マズリア王国を国難に晒してでも……元王妃が我欲を貫こうとされていただなどと……」
「──処刑人、もはやこれ以上の耳汚しは不要だ。元王妃に猿ぐつわを噛ませ、処罰の実行を」
ここで新国王が厳かに命じた。ヴィクトリアは悲嘆に暮れるふりを装って立ち尽くしていたが、この一言を受けて、ゆっくりと新国王の隣席に向かい戻ることにして、とぼとぼと悲しそうにしながら──内心では嘲笑いつつ、着席した。
元王妃は自覚していた悪意も無自覚の悪意もさらけ出し、抗いながらも猿ぐつわで言葉を封じられ、そうして斬首台に固定された。
──斬首……血を見るのは構わないけれど……表向きの私にはそぐわないのよね。念のために用意した薬を使わないと。
惨い処刑の衝撃で気を失うふりをするために、かつて第二王子と子爵令嬢の断罪でも使った薬は用意しておいている。実に用意周到である。
呻こうにも呻けない元王妃に、斬首の刃が落ちる。
それをしっかりと味わうように見届けてから、次の瞬間、ヴィクトリアは薬を仕込んで短く悲鳴を上げ、新国王の腕の中へ身を沈めるように倒れ込んだ。
──仇なすものが、また消えたわ。これからのことは、新国王と計って決めればいい。
そう、ほくそ笑みながら。
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