悪役令嬢、中身はサイコパス〜王子様、社会的にも物理的にも終わりです〜

城間ようこ

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公爵夫人と前王妃

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「王妃殿下、本日届きました書簡でございます」

「ええ。……これは、フレンセッツ公爵家からの招待状?お茶会とあるけれど」

王国には四家の公爵家があり、ウィンフィレア公爵家が王室寄りであるのに対して、フレンセッツ公爵家は貴族派として名高い。

──話には、にもかかわらず夫人は前王妃にすり寄って……懇意にしていたと聞くけれど。

ヴィクトリアとしては相手の真意を掴みたいところだ。何が狙いなのか。

夫人も、ただで前王妃と親しくしていたとは思えない。何らかの狙いがあって、打算的に関係を持っていたと考えるのが自然だ。

「──このお茶会には参加する旨を伝えて」

「はい、かしこまりました」

しかし、それにしても招待状からさえ違和感が伝わってくる。何しろ、そのお茶会の日取りが明日なのだ。このように時間的な余裕のない誘いは貴族相手でも失礼にあたる。

──さて、藪からは何が出てくるかしらね。

何が出ようが、相手に悪意や害意があれば返り討ちにするのがヴィクトリアだ。

そして、それをよく知る国王もまた、話を聞いて彼女の狙いを察した。

「ヴィクトリア、フレンセッツは王家を快く思って働いたことなど、一度たりともない家門だ。君ならば上手く捌けると思うものの、念のため近衛兵を配置させよう」

「陛下、お気遣いありがとうございます。鼠の退路を塞ぐのにも役立ちましょう」

ヴィクトリアは甘く微笑むが、目は鋭く光っている。

「今宵は明日に備えて、湯浴みと手入れを丹念にしなければなりませんわね……」

「それならば、庭園で見事な香りの薔薇が咲き誇っているようだから、湯に浮かべるといい」

「素敵ですわね、そうさせて頂きます」

そして、薔薇を贅沢に浮かべた浴槽で体を清め、香油で肌を整えた。磨いた美しさを無駄にしないよう、早めに就寝して英気を養う。

翌日、定刻よりわざと少し遅れてフレンセッツ公爵家の会場に入ると、優雅とは言えない人数が集結している。

呆れながら眺めると、生地をたっぷりと使って体型をごまかす典型的なドレスを身にまとった女性が、まずヴィクトリアへと声をかけてきた。──フレンセッツ公爵夫人だ。

「ご挨拶申し上げます。──新しい王妃様にお越し頂けて嬉しく思いますわ、このお茶会には、前王妃様にも毎回お越し頂けておりましたの。前王妃様はいつも朗らかに楽しんでくださっていたので、私どもにも近しく分け隔てなく接して頂けて……素敵な時間を共にできていましたのに……」

──王妃への敬称が「様」ね……しかも、この前王妃への言い方。処刑された罪人だというのに、これは断罪に関与した私への当てつけとも言える。

「そう、前王妃とはずいぶん近しい関係を構築されていたようね」

「──はい、さようでございますわ。ですから、新しい王妃様にも仲良くして頂けたら嬉しく思いますの」

公爵家夫人とは思えないような、くだけた話しぶりである。さすがのヴィクトリアも、この馬鹿馬鹿しさには言い返すより、沈黙で返すことを選んだ。

その重みに気づいていないのか無視しているのか、着席したヴィクトリアに夫人がさっそく茶を勧めてくる。

「王妃様、こちらのお茶は頂くと心がほぐれるようなハーブティーでございます」

「……そう、皆が同じお茶を頂くのね?」

「もちろんでございますわ、私たちは時間と場所を共有するのですから」

──貴族女性たちは序列を無視して、思い思いにカップを取り、ハーブティーを頂いている……その貪る姿に品位は感じられないからこそ、少し慎重に様子を見なくては。

それだけでなく、己の能力によりハーブティーから感じ取ったものの帰結を確かめるため、あえてヴィクトリアはカップに口をつけずにもてあそんだ。

すると、程なくして女性たちが恍惚とした表情に変わり、雰囲気ががらりと変わって怪しくなる。

「──それにしても、私たちはなんと美しく咲き誇る存在なのでしょう?」

ひとりが口を開けば、皆がそれに追随する。

「ええ、……それなのに家の男たちは分かっておりませんわ。私たちは、このような茨の監獄でしか人と会うことが許されないのですもの……」

──庭園には季節の薔薇も咲いてはいるけれど……庭師がきちんと手入れをしているし、第一、他の花々が華やかに調和を成しているあたり、ここは監獄ではなく開かれた空間。

ヴィクトリアの読みが当たっていれば、これから先はたいそう乱れたお茶会になる。

「──あら、楽士をお呼びになりましたの?素敵な音色が奏でられておりますわ。皆さま、お立ちになって踊りましょう」

「ええ、ええ。ワルツに殿方などいらなくてよ。──けれど、ヴァイオリンの音が高くて耳が痛くなるわ」

「軽やかにステップを踏めば、それも気にならなくなりますでしょう?ほら、お手を」

口々に言って、女性たちは踊り始めた。足はもつれそうに覚束なく、体はゆらゆらと傾いでいる。

「公爵夫人も踊りましょう」

「ええ、喜んで」

周りに合わせて応える公爵夫人を観察してみると、どうにも彼女はハーブティーに口をつけなかったようだ。目の焦点は確かだし、足取りもしっかりしている。

「あら、私ときたら何と素晴らしい騎士様にお相手して頂けているのでしょう」

「私もですわ。逞しく見える腕の中……なのに柔らかくて眠ってしまいそう」

もはや乱痴気騒ぎと化している。ヴィクトリアは観察を続ける気にもならず、結論を出した。

──ここには、お茶会に招待された女性しかいない。……決定的ね、このお茶会は貴族女性たちが愉楽を求めて罪を重ねているだけのもの。

そして、公爵夫人はとことん貴族派の人間として、前王妃に接していたことも確かだ。ヴィクトリアは厳かに命じた。

「──近衛兵、皆を抵抗させずに独房へ収監するように。そして、貴族裁判の準備を始めることを陛下にお伝えなさい。──貴族女性たちが、定期的に幻覚剤を用いた茶会を開いてきたことは、この国の恥になるでしょう。まして王妃であるわたくしにまで服薬させようとした……厳罰が必要なこともお伝えするように」

「──きゃあっ、獣が!助けてくださいませ、今にも喉を食いちぎろうとしているわ!」

「王妃様?!私のお茶会に、なぜ濡れ衣を着せるのでございますか?!」

フレンセッツ夫人は客人とは異なる悲鳴を上げたが、ヴィクトリアは冷ややかに言い渡した。

「フレンセッツ夫人、王家を陥れようと策を練り、前王妃に幻覚剤を飲ませていたことはともかく……世は変わりました。新たな国王と王妃は、規律を乱し国を乱すものを決して許しはしないと知りなさい」

「そのような!私は皆さまと歓談して、楽しいひと時をと、それだけを!──離しなさい、このっ……王妃様、お助けくださいませ!王妃様──」

「帰ります。馬車は支度できていますね?」

「はい、いつでも退席できるよう整えてございます」

「ならば結構」

ヴィクトリアは身を翻して、ヒールを鳴らしながら立ち去った。背後から聞こえる甲高い声の数々には苛立ちをおぼえたものの、彼女たちには裁判と適正な処罰が待っている。

──不快なお茶会だったこと。でも、そうね……王家に仇なすフレンセッツは潰せるわ。その収穫でよしとしましょう。

出向いた成果はあった。それなりに満足して日もまだ高いうちに王城へ帰り、熱い紅茶を淹れさせる。

ストレートで口にしてひと心地つき、今日の仕事は終わったと言わんばかりにヴィクトリアは私室でくつろいだ。

そして晩餐の時間になって国王と顔を合わせると、さっそく言及があった。

「どうにも貴族たちが騒がしいようだ。各家から夫人の減刑を求める嘆願書が引きも切らない。──ヴィクトリア、君ならばこうした貴族派の動きを利用するだろう?」

「……そうですわね、無視して厳罰に処せば反発が起きますので……けれど許されざる罪も事実でございますから、こう考えます。──罪に関わった家門の領地から一部を没収すること、その条件で減刑致したいと思います」

──天と地の狭間で見た王国は、肥沃な農地に鉱山資源に、各地の温泉にと恵まれた国だった。全ての家門から、それらのうち最も良いところを奪えれば減刑するにも旨みがあるし恩も着せられる。

「──ならば、それぞれの家門の土地にあるものを調べさせよう。選びがいもあり、楽しい仕事になりそうだ」

「ご賢察に感服致します、陛下」

──さすがは嫡子を押しのけて立太子された人。私の言いたいことを正確に汲み取れている。

ヴィクトリアは今度こそ柔らかく目を輝かせて、心からの微笑みを国王に向けたのだった。

のちに、このお茶会は民衆の読む大衆紙でも大きく報じられた。

平民たちは愚かな貴族夫人と、王妃に手をかけようとしたフレンセッツ公爵夫人を許せるはずもなく、やれ斬首にしろ大衆の面前で裁けと声を大にして叫んだ。

国王とヴィクトリアは、この怒りの声を利用しながら民をなだめる事にして、裁判には平民も臨席できるよう取り計らった。

無論、斬首刑にはしない。代わりに家門全ての降格と、領地の美味しい部分を全て没収である。これで国庫はかなり豊かになる。

一方判決に対して、あまりにも温情を与えすぎていると民は皆思った。

しかし長期的に見て、金になる領地を失い、降格もして社交界での身の置き場もなくした貴族連中の末路には溜飲が下がった。

そうして、さすがは頭脳明晰で理知的な視野を持つお方、我らの国王陛下と王妃殿下だと、賞賛する結果となった──。
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