深窓の異世界転移者2世(聖女の息子)は未だ愛を知らない

仮名山ミムミム

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魔物討伐隊 立入制限区域レベル6にて

お役目 4

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***




ノエル・リンデジャックが特別機動部隊に派遣されて早くも3日が過ぎた。ノエルの部隊が配属されたのは1番に先立って進む『戦闘部隊』で、日々、魔物と対峙し討伐をする部隊であった。




「リンデジャック、魔物討伐を終えて、魔術騎士達が間もなくこちらに向かってくるらしい。補給部隊から先程届いた治療薬を取りに行ってもらえる?」





「はい、わかりました。すぐに行きます」





同じく戦闘部隊に配属されたベテランの治療士からそう指示を受けて、ノエルはパタパタと走り出す。




今のところS 級レベルの魔物は出現していないものの、C級からB級レベルの魔物が多く出現するため、魔術騎士はその度に討伐に向かう。


ノエル達治療士は、戦力にはならないため、拠点として留まっている場所に待機をして、帰りを待つという体制が組まれていた。




ノエルと同じ新人治療士のコニー・ユーストマとエミン・グスタフも特別機動部隊に任命されたものの、ノエルとは別の『支援部隊』に配属されている。支援部隊は、戦闘部隊の後をついてくる形の陣形となっているため、ノエルは2人と顔を合わせることができない。




治療士の証である深緑色のマントを揺らし、魔物討伐から戻ってきた魔術騎士たちの間を縫うように走り抜けながら、ノエルは、コニーとエミンも忙しくしているのだろうかと、2人のことを思い出していた。




考えに耽りながら通り過ぎていくノエルの姿を魔術騎士たちは横目で見ながら囁き合う。





「ノエル・リンデジャックだ…走る姿も可愛いよな…」




「俺、昨日、リンデジャックに手当されたちゃったよ」




「なんだそれ、羨ましいな!俺もノエルたんに優しく治療魔術かけてもらいたいよ。魔術じゃなくて、なんなら魔力の交換でも…」




「おいっ!そんなこと、口にしないほうがいいぞっ。ノエル・リンデジャックの首もと見たか?日に日にキスマークが増えてるんだ…」





魔術騎士たち数人は少し怯えたように目線を彷徨わせる。戦闘部隊の中で、ノエルが討伐第2部隊の隊長で第3王子でもあるリッツェン・ロイスタインのお手付きだという話が広まっているのだ。



ノエルは治療士として、怪我をしたり病魔ストレスを抱えた魔術騎士を治療する業務に当たる一方で、お世話係としてリッツェンの側について雑用もこなしている。そして夜は、リッツェンのローバーで寝泊まりをしていた。



時々、ノエルとリッツェンがローバーに籠もり、少し経ってからノエルが顔を赤らめて外に出てくることがあり『中で一体ナニが行われているのか…?』と魔術騎士達は皆知りたがってはいたが、当然誰一人尋ねる者はいなかった。




もちろん、ノエルは目の前の仕事に追われ、そんな噂が周囲で囁かれていることなど、微塵も気がついてはいなかった。








「ノエルさん、俺、持ちますよ。貸して」





魔術騎士の証である深紅のマントを纏ったイスタ・エイブラムスが、薬瓶が入った大きな箱を持つノエルに声をかけ、素早くノエルの手から箱を奪う。





「イスタ!いいよ、疲れてるでしょ。これくらい持てるよ」





「持たせてください。その代わり、戻ったらノエルさんに治療魔術をかけて欲しいです」




イスタのサファイアブルーの瞳が優しげに細められる。ノエルはまるで代わりにならない提案をしてくるイスタに、クスっと笑って言い返す。




「イスタが重たいもの持って余計に疲労を溜めることになったら、より強い治療魔術をかけなきゃならなくなるよ」




「あ、そっか…ノエルさんに余計に魔力を使わせちゃうのかぁ…。んー、でも、これ結構重いんで、やっぱり俺が持ちます。体力はあるんで、これくらい大丈夫です」





そう言って、本当に軽々と重たい箱を持って歩くイスタの姿を頼もしく思いながらノエルは「ありがとう」とお礼を伝える。





「そうそう、さっきの討伐で、やっと聖樹が見つかったんですよ。まだ幼木だったから枝や葉の採取は一旦見送られたんだけど、この先の経路にまだ聖樹がありそうだっていう話らしいです」




「聖樹が…!やっと見つかったんだ…。昨日リッツェン隊長がこのまま聖樹を見つけられなかったら進路を変更するかもって話していて…一先ず見つかって安心だね」




聖樹は、精霊の加護を受けた樹木であり、病魔ウィルスに侵された地でも、影響を受けずに生えていることが多い。

そのような聖樹から採れる葉や枝は、病魔ストレスを解消するのに特に効果が高いと言われているのだ。



聖樹が1本見つかれば、その近くに別の聖樹が生えている可能性が高い。


今回の特別機動部隊では、よりたくさんの聖樹を見つけよとの王命があるため、さらに奥地に進み聖樹を探すことになる。




ノエルはイスタと話しながら、治療士が待機するエリアに戻った。そしてすぐに、討伐から帰還した魔術騎士達を、怪我の程度が重たい順番に診ていく。




今回の討伐は、小さい程度の傷を受けた者しかおらず、比較的早く全員の治療が終わりそうだ。


魔術騎士の人数に比べ、治療士の数が圧倒的に足りていない為、討伐後は治療士にとってある意味『戦場』となっていた。




「――はい、終わりました。傷口がふさがり切るまで、こちらのテープを貼っておいてくださいね。薬はこちらを飲んでください」




ノエルはそう言って、治療した魔術騎士に、小さい薬瓶を渡す。診療ノートにメモしながら、順番待ちの人はいるかと、騎士の後ろ側に視線を向ける。


どうやら、この騎士が最後のようで、治療を待っている魔術騎士はもういなかった。


お昼の時間を過ぎたので、ほとんどの魔術騎士は休憩をとっていた。





「なぁっ…、その、昼を一緒に食べないか…?」
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