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魔物討伐隊 立入制限区域レベル6にて
お役目 5
しおりを挟む魔術騎士は少し照れた様子でノエルにそう話しかけた。
ノエルは、目の前の魔術騎士をきょとんと見つめる。
近くにいた魔術騎士や治療士達は、一見気にしてない風を装い、2人のやり取りに聞き耳を立てていた。
「ノエル・リンデジャックを誘ったぞ…!?マジかよ…あいつ勇気あるな…」
「待てよ…あの魔術騎士、今朝人員交代で支援部隊から戦闘部隊に移って来た奴じゃなかったか?」
「ということは、ロイスタイン隊長とのこと知らないんだな…見てるだけで恐ろしい…誰か教えてやれよ…」
聞き耳を立てて2人の様子を見ている隊員達はそんなことを囁き合う。
「えっと…お昼ですか?」
ノエルは突然見知らぬ魔術騎士にお昼を誘われ驚いたが、確かに今は昼休憩の時間だ。
同じ戦闘部隊の隊員として、この場で一緒に昼食をとるのは不自然なことではない…ノエルがそう考えた時、良く通る声が辺りにすっと響いた。
「――ノエル、打ち合わせたいことがあるんだ。こっちへ来て一緒にお昼にしよう?」
ゆるやかなウェーブがかかった金色の髪を靡かせ、一際高貴なオーラを振り撒いてその男は現れた。
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ノエルはリッツェンの呼びかけに、すぐに立ち上がって返事をする。
「はい、今行きます!……あの…ごめんなさい、お昼はご一緒できませんっ」
ノエルは目の前の魔術騎士にぺこりと頭を下げて、足早にリッツェンがいる方向へ駆け出した。
周りの隊員達は、聞き耳を立てていたことを悟られないようにすっと動いて、ノエルがリッツェンの元に駆け寄っていく為の道をさり気なく作る。そして、ノエルに誘いを断られてしまった魔術騎士に心の中で手を合わせていた。
「…あっ!イスタに治療魔術をかけてあげる約束…」
ノエルはリッツェンのところに辿り着く直前、先程のイスタとの約束を思い出し、きゅっと足を止めた。そして辺りを見回す。
少し離れたところに、菫色のツーブロックの後ろ姿を見つけて、そちらへ向かって進路を変更する。
イスタの肩をちょんと叩き、ノエルは声をかけた。
「イスタも一緒にお昼ご飯を食べよう?そのあとで、治療魔術をかけるね」
「ノエルさんっ…はい!お昼ご飯、一緒に食べましょう!治療魔術も、ありがとうございます!」
イスタは、先程の魔術騎士とノエルのやり取りには気がついていなかったようだ。ノエルにお昼ご飯を誘われて、素直に喜ぶ。
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「ノエルが誘いたいなら…イスタも一緒でいいよ」
「……寛大なご配慮、感謝致します…」
背筋にぞわりとした悪寒を感じながら、イスタはリッツェンにお礼を言った。
隊長など役付の隊員達の為の休憩スペースとして設置された大きなテントが張ってあるスペースに、リッツェンはノエルとイスタを招き入れる。
地面にはウッドデッキが敷かれ、テントの中にはソファーとローテーブルまで用意されていた。人払いをされている為か、テントの周囲には他の隊員達はいなかった。
「こんな、隊長達専用のスペースに俺なんかがお邪魔して良いんでしょうか…」
イスタは辺りを見回して、恐縮して呟く。
「ノエルが、イスタも一緒が良いと言うからね…」
リッツェンは、先程ノエルが自分より先にイスタの元に駆け寄ったことを密かに気にしており、含みのある言い方で、イスタに話しかける。
「リッツェン隊長が話があるみたいなんだ。僕だって新人だし、本来ならこのスペースを利用するなんてできないよ」
ノエルは、リッツェンのその様子にまるで気がついてはいない様子で、持ってきた3人分のランチボックスをテーブルに広げる。
「…ノエルとイスタは、仲が良いよね。ノエルが敬語無しでイスタに話しかけてるの羨ましいな」
リッツェンは、不貞腐れたようにそう言うと、ノエルをじっと見つめる。
「えっ…と…敬語が無いのは、イスタは1年後輩ですし…」
ノエルは、なぜリッツェンがそんなことを気にするのかまるで見当もつかない。
イスタはリッツェンの言葉に呆れながらも見かねて口を挟んだ。
「タメ口で話すことくらいで、スネないでくださいよ。こんな、たくさんキスマークつけて…やり過ぎです。周りの隊員達、引いてますよ」
「虫除けだから、引くくらいで丁度いいんだけどな…全く気にしないで寄ってくる空気の読めない者もいるしね?」
リッツェンは微笑みながらイスタに告げる。イスタは「俺のこと虫って言ってます…?」と顔をしかめた。
「…きっ、キスマークって…僕の話…?だって、見えないところに付けるって…」
ノエルは顔を赤くして、両腕で自身を抱きしめるようにぎゅっと握る。実は見えていないだけで、ノエルの全身には、リッツェンに赤く吸われた跡がいくつもあった。
毎晩ベッドの上で、リッツェンと『魔力の交換』としてキスをしながら、全身にキスマークをつけられているのだ。
朝になり、着替える時に鏡をみてノエルは驚いたのだが『服を着ていればわからないよ』とリッツェンに言い包められて安心していた。
「そんなに目立たないから、大丈夫。イスタが大袈裟なだけだよ」
リッツェンは、ノエルの頭を撫でる。
ノエルはじろっとリッツェンを睨んだが、上目遣いで見つめたところで、リッツェンを喜ばせるだけだった。
リッツェンは幾分か機嫌を直したところで、ようやく本題を切り出す。
「――ノエル、明日からメイのところに行ってもらえるかな?」
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