深窓の異世界転移者2世(聖女の息子)は未だ愛を知らない

仮名山ミムミム

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魔物討伐隊 立入制限区域レベル6にて

お守り

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「メイ隊長のところに…?」



討伐第3部隊隊長メイ・ホルンストロームは、ノエルがいる戦闘部隊に居たが、特別機動部隊が進む経路に先に入って道を切り開くチームを率いて動いていた。


ノエルは初日に顔を合わせて以来、メイの姿を見ていない。



「メイ達のチームは私達よりも少し先に進んで、病魔ウィルスのレベルや、道の安全性なんかを慎重に見回って、こっちに情報をくれているんだけど、病魔ウィルス濃度が高くなってきたらしく、予想以上に隊員達が病魔ストレスを抱えてしまってるらしい。メイは私達3人の隊長の中でも1番治療魔術が得意なんだけど、そろそろ1人じゃ無理になる頃かなと思ってね」




メイが率いているチームは魔術騎士のみで構成されており、治療士を連れてはいないらしい。


病魔ストレスを可視化できるノエルは、日に日に隊員達のストレスが大きくなっているのを見ている。


こちらに居る隊員達は自分たち治療士でケアできているが、メイや、メイのチームの隊員はどうだろうか…ノエルはメイ達の様子を案じた。





「わかりました。今回の出動前に討伐部隊のラボで、病魔ストレスに効く聖樹の葉の特効薬をたくさん精製してあります。それを明日、メイ隊長のところに持っていきますね」




ノエルが今回の特別機動部隊の為に精製した特効薬のほとんどは、後からついてきている補給部隊が運んでくれていた。


急ぎ、特効薬を戦闘部隊まで持ってきてもらう必要がある。ノエルは治療士の証である深緑色のマントの内ポケットから、小さなノートとペンを取りだすと、特効薬の瓶のサイズに応じた必要数を書き出した。





「ノエルのその…マントにつけてるピン、琥珀石かな?どこかで見たことある気がするんだけど…」





リッツェンは、ノエルがマントからノートを取り出した時に目についた、薄い黄土色の琥珀石のついたピンをじっと見つめる。



このピンは、ノエルが治療士の試験に合格した時に、育ての母ハンナ・リンデジャックからプレゼントしてもらったものだ。


お守りになるから必ずいつも身につけておいて欲しいと強く言われた為、毎回マントにつけるのが日課になってしまっている。




「似たようなものが、どこかで売られていたんでしょうか…?これは結構昔のものらしくて、母からのプレゼントなんです。なんでも魔除けになるとか…母の思い込みだと思いますが」





ノエルはピンを指でそっと撫でる。





「その石、ノエルさんの髪の毛の色と似てますね。素敵なプレゼントですね」





イスタも、ノエルのピンを眺めながら、そう口にする。


ピンの先についた琥珀石は、ノエルの榛色の髪の毛とほとんど同じ色だった。ノエルの本来の髪の毛とは違う色なのだが、それでも毎日つけるこのピンにすっかりと愛着が湧いてきてしまっている。





「売られていたのを見たんじゃなくて…思い出せないけど、昔、これと同じ物をつけている人が居たような…」





「アンティークってやつじゃないですか?王都で流行ったデザインなのかも」





「アンティーク…そうなのか…?小さい時に見た気がする…」





イスタが割と適当な返しをしたのに、リッツェンはますます考え込んでしまった。





「そんなことより、リッツェン隊長。僕が居ない間、きちんと休息をとってくださいね…?」




ノエルは考え込んでいるリッツェンの顔を覗き込む。




この国の第3王子でもあり、討伐第2部隊の隊長でもある貴人は、広い視野を持ち、人格に優れ、明澄な頭脳を持つ。特に、機敏に人の感情を察する人心掌握に関しては右に出るものはいないと他の隊長2人が言わしめる程であった。


リッツェンは、朝早くから魔物を討伐しに、チームを率いて出発し、討伐から帰って来てからは、国への報告のために、通信魔術を使って会議に参加している。


メイと支援部隊にいる討伐第1部隊隊長ランドルフ・ヴィクセンと密に連絡をとり、情報を逐一共有しながら3つの分隊を纏め上げ、明確な指示をそれぞれの役割毎に飛ばす。


その上、下からの進捗報告にも細かく応じている為、日中は休む間もなかった。夜、寝泊まりしているローバーに帰ってからも、遅くまで報告書を書き上げるといった動き方をしていた。



ローバーに戻ってきたリッツェンの周りに、病魔ストレスが高くなっていることをを示す、黒い点が集まっていたので、ノエルは薬を飲むようにリッツェンに言ってはみるのだが、『ありがとう、後で飲むね』と結局薬を飲まずに仕事をしてしまう。



そんなリッツェンを見かね、ノエルが『魔力の交換』をさせて欲しいとお願いをして、舌をからませるキスでリッツェンの病魔ストレスを解消していたのだった。





「そうだね、ノエルがいないと…淋しいな。ずっと一緒だったしね」




『淋しい』と言われると、ノエルもなんだかそう思えてくる。

たった数日だが、リッツェンとは『魔力の交換』も含め、肌を合わせ濃い時間を一緒に過ごしていた。




問題なく何事もさらっとこなしてしまうように見える完璧な王子様は、実は裏では、国との地道な交渉や調整、報告書作成などの事務作業も自ら進んで行っていた。


お世話係として側に居たことで、ノエルが知らなかったリッツェンの姿をたくさん見ることができた。



「リッツェン隊長の分の特効薬も置いておくので、ちゃんと決まった時間に飲んでください。リッツェン隊長が倒れたら…僕は…困ります」
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