深窓の異世界転移者2世(聖女の息子)は未だ愛を知らない

仮名山ミムミム

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王都エンペラルにて

親の心子知らず 3

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ノエルは、呼びかけられて後ろを振り向いた。そこには、ランドルフ、リッツェン、メイの討伐統合部隊のトップ3人と、一際体格の良い男が赤いマントを纏って立っていた。



ノエルの名前を呼んだのは、リッツェンのようだ。一団は、リッツェンを先頭にノエルとハンナの側へと近づいてくる。




ハンナはその一団を見て、はっと大きく息を吸い込んだ。




「――おい、まさか…ハンナか!?」




体格の良い男が、ハンナの姿をみて大声をあげた。ハンナはびくっと肩を揺らした。




「ベル、知ってるのか?」




「急に大きな声を出してしまい、申し訳ありません。殿下、こちらは、リンデジャック夫人です」




ハンナは、殿下とよばれたリッツェンの姿を直視するのを避けるように、頭を下げ、両手をそっと揃えてお腹の中心部に置いた。




「…ハンナ・リンデジャックです。息子が…お世話になっております」




リッツェンは、会釈するハンナの様子に片眉を僅かにあげる。しかし、すぐに表情を戻しハンナに声をかけた。




「ノエルの母上殿ですね。こちらこそ、ご子息には大変お世話になっております。リッツェン・ロイスタインと申します。討伐第2部隊の隊長職も兼任しておりまして、今は王宮外ですし、楽になさってください」




リッツェンが笑顔でそう挨拶をした後、ランドルフとメイが続けてハンナに挨拶を行う。




「討伐第1部隊隊長を拝命している、ランドルフ・ヴィクセンです。ご子息は新人ながらも大変活躍されております」




「討伐第3部隊隊長のメイ・ホルンストロームと申します。大変優秀なご子息をお持ちで…ノエルさんは既に我々の統合部隊にとって得難い存在です」




ハンナの前で急に隊長モードに切り替わった3人にこれでもかというくらいお褒めの言葉を頂き、ノエルは戸惑う。




(いつもと雰囲気が全然違う…特にメイ隊長…!あんなに爽やかに笑っているところ初めて見るな…なんだろう…褒められているのにちょっと怖いな)




「――いっ、いえ、そんなお褒め頂けるなんて…光栄です」




ハンナは、突然目の前に現れた美丈夫3人のオーラに圧倒されながら、何とかそう返答する。そして「偉い人と関わりが無いという話でしたよね?」という意味を込めて、ノエルに視線を向けた。



ノエルの中で隊長3名は、ハンナの言うところの『関わって欲しくない偉い人』の範疇外という認識であるため、ハンナの視線の意図に全く気づいていなかった。




「ハンナ、久しぶりだな。アーサー師団長は息災か?あの人無茶するのが通常仕様だからなぁ…側で面倒見るのも大変だろう」




リッツェンに「ベル」とよばれた大男は、ハンナにそう気軽に声をかけた。率直で遠慮が無い話し方からして、2人は相当前からの知り合いなのではと感じさせられる。



ノエルは、その大男の顔をさり気なく観察した。短く切り揃えられた焦げ茶色の髪と、同じく茶色の瞳、日焼けした肌と屈強な身体を持っていた。年の功はアーサーと同じくらい…いや少し歳下だろうか。




「はい…そうですね…」




親しみを込めて話しかけられているというのに、ハンナの対応は真逆だ。ノエルには、ハンナが心中で酷く緊張しているように見えた。




「ところで、ハンナ、その隣のちっこいのがアーサー師団長との息子か?噂は届いてきていたが、会うのは初めてだったな…ベルナンド・ターナーだ」




「ベルナンド・ターナー…師団長…!?お初にお目にかかります。討伐第1部隊所属、ノエル・リンデジャックです」




ノエルは慌てて頭を下げる。名前だけならもちろん知っている、パラビナ王国内全ての軍部をまとめ上げる現在の師団長、その人が目の前に立っていた。




「そんなに、頭を下げないでいいぞ。俺は元平民の成り上がりだ。任務の時は別だが、今は、両親と旧知の仲である間柄として言葉を交わしている」




そう言われ、ノエルは顔をあげてベルナンドと視線を合わせた。




「その榛色の髪…アーサー師団長そのものだな。顔立ちもやっぱりあの人の若い頃に似て…ん?…その目の色…」




ベルナンドが、ノエルの瞳の色について何かを言いかけた時、ハンナが待っていたローバーが到着した。ハンナは慌てて話を終わらせようとする。



「べッ、ベルナンドさん、久しぶりにお会いしたのに残念ですが、もう行かなければ…」




「ベル、私たちもそろそろ行かなくては。王宮の会議に遅れると、色々と面倒なことになる」




どうやら、リッツェン達はこれから王宮で開催される会議に参加するため、揃って移動していたところのようだった。



それぞれハンナに簡単に挨拶を済ませ、リッツェン達は王宮へと向かっていった。一団が立ち去ったのを確認した後、ハンナはノエルに話しかける。




「――ノエルさん、一度アーサーさんとお話されてください。私からアーサーさんに伝えておくので…くれぐれも、あの方々とはできるだけ距離を置くようにしてください。お願いします」



ハンナは緊張の為なのか疲れた様子で、必死にノエルにそうお願いする。


ノエルは、ハンナの勢いに負けるかたちで「わかった」と約束し、ハンナを見送ったのだった。
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