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王都エンペラルにて
親の心子知らず 2
しおりを挟むハンナは、自身が渡した琥珀石のピンが、ノエルの深緑色のマントの結び目近くにつけられているのをみて、そう口にする。
「うん、毎日つけてるよ。ところで、ハンナ、これってどこで手に入れたの?」
「それは…カレンさんが生前大事に持ってらして、大きくなったらノエルさんに渡したいと言ってらっしゃいました。身を守ってもらえるそうです。でもそれ以上のことは…どこで手に入れたかなど、詳しいことは聞いてないのでわからないんです」
「そうだったんだ…」
ノエルは、琥珀石のピンにそっと手を添えた。病魔ウィルス立入制限区域内で出会った精霊は、このピンにカレンの魔力がかかってると言っていた。
ノエル達人間には、かけられてから数年経った魔術の魔術痕を辿ることはできない為、カレンの魔術がかかっていることなど、精霊に言われなければ気づけないことだった。
(そういえば、リッツェン隊長がこのピンに見覚えがあるって言ってたっけ…)
ノエルは、琥珀石についてリッツェンから言われたことを思い出していた。
「……では、私はこれからリンデジャック本家に行ってきます。ニックさんにも、突然おしかけてしまい、ごめんなさいと伝えてくださいね」
そう言いながら、ハンナはソファから立ち上がる。ノエルも「うん、ニックには今度何かお礼しておくね」と言い、2人は応接室出て、王立魔術研究所を後にした。
王立魔術研究所と、魔物討伐部隊本部は、それぞれ王城を両側からはさむ形で建てられている。
ハンナは、王都エンペラル内にあるリンデジャック本家に行くため、近くのローバー乗り場へと向かった。ノエルはそこまでハンナを送るため、並んで一緒に歩く。
「ハンナも、毎年本家を訪問して…大変だね」
アーサーは、リンデジャック本家とほぼ絶縁状態にある。現在、アーサーの弟が本家の当主の座についているのだが、亡くなった前当主、アーサーの父親と折り合いが悪かった事がアーサーが今も生家に寄り付かない原因とのことだった。
そういう事情もあって、ノエルはリンデジャック家の家系図に名前が載ってはいるものの、リンデジャック本家に訪問したことは一度も無かった。
本家の親戚達は、タースルに住むノエル達3人を居ない者として振る舞っており、偶然同じ場所に居合わせたとしても、声をかけ合うことも無かった。
「一応、貴族として最低限の報告が年次で必要みたいです。エンペラルに来るきっかけにもなりますし、私が望んでアーサーさんの代わりにきているだけなんですよ…それより、ノエルさん、いいですか、くれぐれも危険なことは避けて、できるだけ目立つことのないようにしてくださいね?」
ローバー乗り場に着いた時、最後の念押しとでも言うように、ハンナは真剣な面持ちでノエルに気をつけるようにと伝えた。
「うん、わかってる。それじゃあ…」
ノエルがハンナに別れの言葉を言いかけた時、後ろから声をかけられた。
「――ノエル?」
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