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王都エンペラルにて
夜会 2
しおりを挟むそれからコニーの行動は素早かった。
コニーは、王都に住む従兄弟に連絡をして、自分の友達の治療士が夜会に参加してみたいと言ってるので同伴者として連れていってもらえないだろうかという話と、招待されている夜会の招待客リストも送って欲しいとお願いをしてくれた。
人の良いコニーの従兄弟は、ふたつ返事で快諾をしてくれ、親切にも夜会の招待客リストをすぐに送ってくれた。
ノエル、コニー、エミンの3人は送ってもらったリストを見ながら、ベルナンド・ターナー師団長が招待されている夜会の中でも比較的規模が小さいものを選んだ。
日程は割とすぐに開催されるものだったが、参加の返答は直前まで変更可能なものであったため、コニーの従兄弟に招待客として同伴者付きの参加の返事をしてもらい、ノエルは同伴者として、夜会に参加できることになったのだった。
思いつきの計画だったのにも関わらず、トントン拍子に事が進み、いよいよ、夜会当日となった。
「ノエル、もう少しだからじっとしてて!」
「ごめん、ちょっと擽ったくて…」
王都にある治療士の宿舎のノエルの部屋で、コニーはノエルの向かいに座り、真剣な顔でノエルの頬にパウダーチークをのせる。同時にエミンは後ろで、ノエルの髪を整えていた。
「もはや、男の子の必需品ともいえるメイク道具一式を持ってないなんて…身だしなみは大事だよっ」
コニーは最後の仕上げに、パフを使ってフェイスパウダーをポンポンとノエルの顔全体に押しつける。
ノエルの林檎色の唇にも、透明なリップが塗られていた。
「髪も整ったよ。手元の鏡で確認してみて」
エミンは後ろからノエル肩に両手をのせ、鏡をみるように促した。
ノエルは鏡に映る自分の顔を覗いて見る。夜会は、男であっても身だしなみを整え、ドレスアップするのが貴族の嗜みらしい。
「わぁ…僕じゃないみたい…」
コニーとエミンにされるがままに、化粧を施され髪をセットされたノエルは、仕上がった自分の顔を見て驚きの声をあげた。
「次からは、このくらいのメイクは自分でできるようにならないとねっ?肌がもともとキレイだからって、それに甘じたらダメなんだからね?」
鏡を持ち、驚いたままのノエルに、コニーは声をかけた。ノエルは正直、コニーがどうやって化粧をしていたのかもう思い出せなかったが「ありがとう、次は頑張る」と意気込みだけは伝える。
「今回は、ハーヴィ君の見立てじゃなく、コニーが選んだ衣装なんだね。これもノエルによく似合ってる」
エミンは、夜会のために仕上がったノエルの姿全体をみて、そう感想を漏らした。
コニーが、ノエルためにセレクトしたのは、王都で今流行っているという少し短めの丈の黒のタキシードのジャケットスーツに、茶色をベースとしたチェックのベストと、スリムなデザインの黒のパンツに黒のリボンタイを合わせたコーディネイトだ。
榛色のノエルの髪の毛とヘーゼルナッツ色の瞳が上手く調和する色合いとなっていた。
「また、知り合いのデザイナーさんに無理言ってお願いしちゃった。一からデザインを考えてる時間が無かったから、元々仕立てたデザインをちょっと直したものだけど、悪くないよね」
コニーは、満足げにノエルの衣装を見てコメントする。
「今、ふと思ったんだけど…、コニーの従兄弟の同伴者として、パーティーに参加するのはいいとして、その同伴者って、所謂恋人とか、愛人とか、そういった意味に取られることはないの?」
平民であるエミンは、貴族社会のマナーについて明るくない為、コニーにそう訪ねる。ノエルはもちろん知らないので、エミンと一緒にコニーの言葉を待った。
「えっとね、夜会の同伴者ってだけなら、友人とか、職場の先輩後輩とか、家族とか、自分と関係がある人を幅広く連れて行くことができるんだ。特別な意味を持つ同伴者の場合は、また別のマナーがあるの」
「別のマナー?」
ノエルは、コニーに聞き返す。
「アクセサリー、スカーフ、それから花とかなんでもいいから、お揃いのものを1つ身につけて参加するの。そして、それを想い人の瞳の色にすることが多いんだ~素敵だよねっ。僕もいつか、好きな人ができたら、お揃いのアクセサリーとかつけて、夜会に参加したいよぉ」
コニーは片手で頬を抑えながら、うっとりとした表情で話す。
「なるほど…じゃあ、今回ノエルが、コニーの従兄弟の同伴者として参加しても、お揃いの小物つけていなければ、恋仲ではないと認識してもらえるんだね。ノエル、よかったね」
エミンは優しくノエルに語りかける。コニーも同時にそうかと頷いてエミンに話を合わせた。
「そうそう、だから安心してベルナンド師団長に話しかけられるよっ」
コニーは、意味ありげにパチッと可愛くノエルに、向かってウィンクをした。
ノエルはあまり理解してはいなかったが、会話しておいでと背中を押されたものと解釈をして「うん、頑張って話しかけてみるね」と返事をした。そして、改めて2人と向き合い、お礼の言葉を告げる。
「コニー、エミン、本当にありがとう。僕一人だったらここまでの準備、絶対にできなかった」
ノエルからお礼を言われた2人は少し照れたように笑顔を見せる。
「その代わり、僕に好きな人ができたら全力で援護してよねっ」
「こんなことで良かったらいつでも力になるからね」
コニーとエミンからそう言葉をかけらたノエルは、2人が協力してお膳立てしてくれた機会を絶対に無駄にはしないと心に誓った。
「そろそろ、プライベートのローバーが宿舎近くに着く時間だよ。夜会の会場の入り口で従兄弟が待っているから、見つけたら声をかけてみてね。僕と同じ紫色の髪の毛だから、すぐにわかると思う」
「あまり、気負わず、楽しんできてね」
ノエルは、覚悟を決めたように、コニーとエミンの顔を見て頷いた。そして、2人に見送られ、ノエルは一人夜会の会場へと向かったのだった。
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