深窓の異世界転移者2世(聖女の息子)は未だ愛を知らない

仮名山ミムミム

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王都エンペラルにて

夜会 4

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ノエルは、突然話しかけてきた男性を見た。


高価そうなタキシードを着て、小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。そして、コニーやティムと同じ紫色の髪の毛をしていた。




「はい…コニーとは友人ですが…貴方は…」




「ふんっ、やはりそうか。アイツのお抱えデザイナーから、今夜の夜会に友人を参加させるって聞いてな。愚弟の友達だかなんだか知らないが、ティムに取り入って、何の目的があるんだ?」




「コニーのお兄様でしょうか…?初めまして、ノエル・リンデジャックです」




「誰も名乗れとは言ってないだろう。質問にはすぐに答えろ」




初対面で突然話しかけてきたコニーの兄だという人物は、高圧的な態度でノエルに詰め寄った。




「ティムさんにお願いして夜会に参加させてもらっています。目的を貴方に説明する道理は無いかと思いますが…」




「これだから治療士は…教養も学も無いときてる。どうせ、その見目で目ぼしい男でも漁りにきたんだろ。男娼風情が自分の親族と並んで歩いているだけで、不快だ。コニーも、それしかない能がないくせに、最近はその最低限の務めもできてないと見える…」




ノエルは、かぁっと頭に血が上るのを感じた。自分のことは何と言われても我慢できるが、コニーについては、我慢することができなかった。




「…その発言、撤回してもらえますか?」




「はぁ?」




ノエルは、道理が通らない主張をする目の前の無礼な男を睨みつけた。





「コニーは、勇敢にも立入制限区域レベル6の魔物蠢く地域で、治療魔術を使って討伐部隊に貢献してきました。あなたが、思っているような下卑た仕事など一切しておりません。教養をつけるべきはご自身の方だと思い直すのが賢明かと存じます」




「――っ!なんだと!?言わせておけば…男娼風情が恥を知れっ!!」




「…そこまでだよ、ダン」




今にもノエルに飛びかかってきそうだったコニーの兄を静止するティムの一言が飛び込んできた。ティムは両手に飲み物を持って、穏やかにほほ笑んでいるが、目は笑っていなかった。




「――ちっ」




ダンと呼ばれたコニーの兄は、わかりやすく舌打ちをして、ティムに挨拶もせずにその場を立ち去った。去り際に、射殺しかねない視線をノエルに向けていった。ノエルは怯むものかと、負けずに目を逸らさなかった。




「うちの親族が申し訳なかったね。あれは、コニーのすぐ上の兄のダン・ユーストマだ。私と同じ王立魔術研究所で魔術士として働いている。今日は誰かの同伴者としてきたのか…招待されていることに気が付かなった」




ティムはノエルに謝罪しながら、冷たい果実酒の入ったグラスを渡した。ノエルは、お礼を言ってグラスを受け取った。




「本当に、コニーのお兄さんなんですか…?あんな言い方…酷すぎる」




ダンは初対面だというのに話しかけてきて、慇懃無礼な態度で、明らかにコニーや治療士であるノエルを見下していた。ノエルは、コニーとダンが兄弟であると聞いても、実感が沸かなかった。




「人を見下すことで、自分の矜持を保ちたいんだろうね…そんな人間が自分の親族だということが恥ずかしい限りではあるが…」




コニーは最初、ノエルにとても好戦的な態度をとっていた。ダンや家族によって与えられたプレッシャーによるものだったのかもしれない…そうノエルは思い返していた。




「コニーは、優秀な僕の同期の一人です。あんな風に言われていい存在ではないです」




「うん…そうだね。コニーのために、怒ってくれてありがとう」




ティムは、そう言って静かに微笑んだ。ノエルはこれ以上、コニーの家族の問題に口を挟むべきではないと思いなおし、言葉を重ねるのをやめた。



気がつけば、ものすごく喉が渇いていた。ノエルはティムから受け取った果実酒を口に含む。冷たい喉越しが心地よかった。そして、グラスに残ったお酒を、続けてグイッと押し込むように全て飲み切ってしまった。




「お酒はイケる口なのかな?」




軽快にグラスの果実酒を飲んだノエルの様子をみて、ティムは声をかけた。




「どうでしょう…?気分は良いです」




ノエルはこれまで、お酒を飲む機会がほとんどなかった。王立魔術師団学校の卒業パーティーで初めてシャンパンを飲んだが、その時は特に酔うことも無かった。2杯目のシャンパンを飲もうとした時、ニックに違う飲み物を渡された為、お酒に強いのか弱いのかわからなかったという事もあるのだが…。


果実酒のアルコールが作用して、ノエルは高揚感を感じる。少しだけフワフワとした気分になってきた。今なら、大胆に動けるかもしれない。ノエルは、キョロっと辺りを見回した。



(――あっ、あの一際大きい人…!)
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