反逆者は凱旋する

藩野真吾

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違和感

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 その言葉に、俺たちは呆れ、黙り込んだ。
 またも静かになった部屋も、今度はとうとう息の根を止められて、再び騒ぐ者はいない。少なくとも希望は無かった。不安と失望だけがその場を満たしている。

 たった百人でクーデターを成功させるのは無理だ。何故なら帝都のとある文化が邪魔するから。それによって武力による首都の占拠は大変に難しく、下手をすれば放棄した市民とステゴロで戦う羽目になる。

 何を言い出すと言えばこれだ。そりゃ勿論、俺たち次第にはなるのだろうが、分が悪すぎる。降って湧いたような話だったが、蓋を開ければとんだ泥船。俺はこいつと沈む気はない。
 もしあるとしたら、これは故郷とだ。だが、流石に無謀。今からでも降りるか?

 まあ、話だけでも聞いてやるか...... 話は最後まで聞かないとわからないもんな。わかった後に、蹴ってしまおうか。

「これは大変に困難だ。首都には一万を超える市民がいるし、屈強な皇帝親衛隊が常に五十人はいる。交通と通信を掌握し、皇帝を捕らえて、行政能力を既存のまま奪取することは不可能に近い」

 勿論だ。これを把握していると言う事は、恐らく何か策があるのだろう。
 ただ、数が数だ。皇帝に心酔している市民もいる。圧倒的な勢いで押し込まれ、反逆者として処刑されるのがオチだろう。俺たちは故郷の土を踏むことなく死ぬ。
 反対派もこれを機に排除され、愚かな統治の末にこの帝国は、橙の光を一瞬受けて光ろうが、最後には穏やかな斜陽の時を迎えるだろう。

 誰も得をしない、最も避け得るべき筋書きがそこにあった。

 しかし、皇帝はそのまま放っておいても自らの権力を固めていくだろう。皇帝は就任から八年。まだその基盤は固まりきってはいない。
 反対派の勢力が削がれる前に反乱を起こしたい気持ちもわかる。

 けど、俺達だけってのはさすがに無理があるだろ!

 どっちみち、領土に蛮族をのさばらせている様だったら帝国が末端から腐り落ち、機能不全の内に廃れていくのは明白で、確実なことだ。

 それならいっそ...... いや。俺たちは帰るんだ。帝国に恩はあるが、帰るために戦ってるんだ。他人の未来に殉死する必要があるか?

「そして、帝都であるアカネイアに武器を持ち込む事は禁止されている。軍隊を率いて進軍したとて、近郊に達した時点で反逆とみなされ、大規模な討伐軍が招集されるだろう」

 蜂起すると言っても、このように問題が山積みだ。俺たちは首都にすらたどり着けず、その前に野戦で死ぬだろう。
 生き残ったら、もしかしたら、数多の守備隊、追撃隊の目をかいくぐり、家路につくことができるかもしれない。
 が、それなら今脱走した方がいい。奪還するのと、亡命するのの違いは、そこに蛮族がいるかどうかの違いしかないのだから。

「......」

 クィントゥスは顎に手を当て、何やら考え込んでいる。その視線の先にはテーブルがあったが、恐らく目には映っていない。鷹匠のような、鳥トちょうぼく官のような眼だ。
 見えないものを必死に探しているのだろう。深夜、松明を頼って道を進む時のような、そんな気分で己の問いの答えを探しているのだろう。

 もっと言えば、クィントゥス。彼もこの違和感を感じているのか?

 よくよく考えれば、この人、ポルトディヌスは、一応は、凱旋式を挙げたことがある、いわば英雄として語られる者だ。
 そんな彼がどうしてこんな無謀な蜂起を考えているのか? 考えなしに手柄は立てられない。彼には末を予測する能力が無いことなど考えられない。
 と、なれば何か策があるのか? 不可能を可能にする、いわばゴルディアスの結び目となる解決策が。

 それに頼るってのも心配だけど。

 英雄と呼ばれた彼が権力を固められず、苦戦するほどに皇帝の政治力が高いのか? 聞くような愚か者では足元を取られて、さっさと退位させられるのがオチだ。
 ポルトディヌスにはそれを実現するほどの勢いがあったっておかしくない。実際、蛮族相手に敗戦続きだったからこそ、彼のような存在が望まれたという事もある。彼ならその地位を簒奪できたのではないか?

 俺ならそうする。凡人の考えだか、悪手では無いだろう。

 しかし、現に帝はこの国を、この大版図はんとを一人で統べている。西から東までなら馬で一か月。北から南なら、二十日もかかる。かような者が噂通りの人物なのか?

 そもそも帝都の近況の情報からして悪い物しか流れてこない。その通りならこんなに苦戦しているはずがない。
 噂や近況の情報源はいつも酒場からだ。それを

 ポルトディヌスが北方の軍を担当するようになったのは一年前。司令官というのは制度上、一年ごとに変わるのだが、彼の就任以前はこのような噂は流れてこず、逆に浴場を建てたとか、南方で大なる勝利を収めたとか、そんな話をよく聞いていた。
 そもそも非拡大方針をとる皇帝がなぜ、このような男を北方に送ってきたのか?何らかのアクションを期待していたのか?

 というか、忘れてた。そんな話はよく聞いていたんだ。ゴシップは数少ない楽しみだし、酒場によれば必ず聞こえてくる。明らかに毛色が異なってきたのはいつ頃だったか。

 彼が風評を撒いたのだとしたら納得がいく。兵士が皇帝に反感を持っていたら統率も上手くいく。
 しかし、彼が流したというのなら、恐らく凱旋式のすぐ後だろう。そんな早くから反乱を考えていたのか?



 そして、ひとつの単語が浮かぶ。

 ―――凱旋式。

 そう。これが答えだ。凱旋式とは国に多大な貢献をした将官とその配下の兵士に許される、最高の栄誉だ。軍隊が市内に入城できる唯一の手段で、皇帝が兵士を招いて食事会までする。
 その行程で一泊する機会があり、その闇に乗じれば、或いは......



 色々な情報が頭蓋の内を錯綜する。すべての予想が集結する以前に、考えがまとまらぬうちに、男は述べた。

「そこで、『凱旋式』を利用する」
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