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魔導士と小隊の所在
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「しかし、お言葉ですが、我が隊に命令を達成できる能力があるとは思えません」
率直に言えば、こうだ。損害を考えれば、少し割に合わない。
「そうだろうな」
「だが、今動ける隊はお前のとこしかない」
「と、言いますと?」
「夜間ゆえに、武装して待機している隊が、お前のところ以外には存在しないのだ」
夜間とは言え、敵の夜襲に備えた隊もいるはずなのだが、何のためか、それは動かせないのだろうか。
「術者を発見次第無力化し、困難な場合は場所を報告せよ」
ともあれ、これは急ぐ必要があるのを理解できた。
軍団には戦列を魔法攻撃から守るため、魔導士部隊もあるのだが、恐らく個人に対する戦闘訓練はしていない。
いや、俺達だってしてないぞ? 乱戦になった場合の格闘術とかは訓練に含まれているけど、隊としての統制が取れる気がしない。
魔導士たちを動かせないのは、おそらく、件の魔法使いから軍団を守るためだろう。
野営地に大規模な魔法攻撃があるかもしれないのだ。少なくとも、奴にはそれを行えるほどの実力がある。
時間が立てば、攻撃魔法が得意な者を選抜し、討伐に向かうだろうが、編成の為の時間も惜しい。
先ずは部隊を急派し、脅威を特定した後、掃討に向かう手筈なのだろう。
確かに、手元にある情報は、残っていた物からの憶測によるものしかない。
揺るぎない物を彼は欲しているのだろう。
ポルトディヌスは、改めて向き直り、こう述べた。
「やってくれるな」
目の腫れはすっかり引いている。
「了解しました。隊の元に戻ります」
「そうだ。隊が出撃できるように、野営地の歩哨には説明をつけておくから、安心したまえ」
納得したように、彼は俺に微笑みかける。さっきまではこれに散々な葛藤を抱いていたはずなのに。
......ん?『隊が出撃できるように』?
「いや、隊は既に出撃していますが」
「そうか」
何やら満足げな顔だった。真意はわからない。
ふと、彼は何やら思い出したように懐を探り始める。
「......ああ、あとこれを」
いろいろな物が取り出された。何らかの羊皮紙や、運貨筒、ハンカチ、巾着。
探り始めてからしばらく、彼は探し物を見つけたようだ。
「これは?」
彼は俺に発見した物を渡す。それは銀の装飾が特徴的な短刀だ。
刃渡りは中指の先から手首までの長さと等しい。
小ぶりだが確かな重みが感じられ、それに、何やら不思議な力を感じる。
これは、あれだ。魔力だ。
因みに、魔力を持つ武器はそんなに珍しくない。むしろ俺たちが腰に下げているこの剣にも力は宿っている。
基本的にどんなものにも宿っているが、魔法剣と言われるほどに纏っている物は極めてまれだ。
そして、これはその類の刃物だ。
俺はその力に敏感じゃ無い。こういう感覚がすると言う事は、極めて大きい力が宿っているのだろう。
柄は樫の木でできており、頭と、縁、目貫の部分が銀で女神の装飾がなされていた。
下緒には紫色の布が使われている。
「パウルス...... もとい、ルキウスならわかるだろう」
これだけで何かが伝わるのか? と傾げたが、彼がそういうのなら、何かがあるのだろう。
状況を回天させるような何かか、個人的に伝えるべきものを。
「はっ」
「ありがとうございます」
確かにそれを握りしめると、天幕を飛び出し、隊の元に向かわんとした。
目には風景が流れるように映り、天幕の内では兵士たちが、同胞がうごめいている。
多分、臨時に配備命令が出たんだ。
術者の目的は不明だが、少なくとも軍事的な目的を持っているのだろう。
暗殺に主眼を置くとしたなら、もっと警備が手薄な移動中を狙うはずだ。
つまり、今、この状況じゃなきゃダメだったと言う事。
軍隊が目標なのだから我々は戦わなければならないのだ。
道中、武器庫に立ち寄り、新たな弓と鏑矢を取る。
もし術者を発見したらこれをそこに飛ばせばよい。
魔導士たちへの合図になるだろうからな。
そこへ攻撃を飛ばしてくれるだろうから、無理な損害を出さずに術者を無力化できる。
そういう意図だ。
俺一人で探す手もあったが、流石にこの闇の中、広い盆地を捜索することは不可能だし、貴重な戦力を遊兵とするのも惜しい。
となれば、隊に追いつくための足が必要だ。
厩舎で馬を借りることも考えたが、それはやめておいた。
何せいななきという物は割と遠くまで聞こえるし、こちらの位置がバレれば魔法が飛んでくるだろう。
一番大きかった理由は、長らく馬に乗っていなかったからだ。これで乗ろうとしても、恐らく馬について行けずに振り落とされるのがオチ。優先されるべき策じゃない。
と、いう訳で俺は走っていた。
このクソみたいな、長い、長い途をだ。
狭い野営地ではほとんど気にかけなかったが、霧もすっかり深くなっている。
月は光明とはなり得ず、雲は未だ厚いままだ。
隊がどこに所在しているか詳しくは知らないが、方角は知っている。
つまり、その向きにひたすら走れば走れば合流できるということだ。
俺の今の装備は体重の四分の一ほどだ。これで少し走れば四十分ほどで隊まで着くな。
奴らは普通より速度を落として行軍しているはずだし、合流地点にはまだ到達していないはずだ。
......ちょっとキツイか? だって捜索の為に野営地付近に戻らなくちゃいけないんだぜ?
この距離を休憩なしで走ると思うと......
いや、役目だ。
俺は小隊長だ。司令官が務めを果たさんとすれば、俺もそれに答えなくちゃならない。
邪念を振り払い、男は部隊の元へと驀進する。期待に応えるため、己の職責のため、彼は走る。
経路は決して平坦では無かった。石に躓きかけたり、土竜の穴に足を引っ掛けたりしたが、部隊の靴職人が手入れしたブーツは壊れることなく、運動に耐える。
途中、いくら進んでも隊が見えないので、魔術師と遭遇したことを心配する場面もあった。
しかし、戦端は男の遥か後方、野営地の付近で開かれたのである。
率直に言えば、こうだ。損害を考えれば、少し割に合わない。
「そうだろうな」
「だが、今動ける隊はお前のとこしかない」
「と、言いますと?」
「夜間ゆえに、武装して待機している隊が、お前のところ以外には存在しないのだ」
夜間とは言え、敵の夜襲に備えた隊もいるはずなのだが、何のためか、それは動かせないのだろうか。
「術者を発見次第無力化し、困難な場合は場所を報告せよ」
ともあれ、これは急ぐ必要があるのを理解できた。
軍団には戦列を魔法攻撃から守るため、魔導士部隊もあるのだが、恐らく個人に対する戦闘訓練はしていない。
いや、俺達だってしてないぞ? 乱戦になった場合の格闘術とかは訓練に含まれているけど、隊としての統制が取れる気がしない。
魔導士たちを動かせないのは、おそらく、件の魔法使いから軍団を守るためだろう。
野営地に大規模な魔法攻撃があるかもしれないのだ。少なくとも、奴にはそれを行えるほどの実力がある。
時間が立てば、攻撃魔法が得意な者を選抜し、討伐に向かうだろうが、編成の為の時間も惜しい。
先ずは部隊を急派し、脅威を特定した後、掃討に向かう手筈なのだろう。
確かに、手元にある情報は、残っていた物からの憶測によるものしかない。
揺るぎない物を彼は欲しているのだろう。
ポルトディヌスは、改めて向き直り、こう述べた。
「やってくれるな」
目の腫れはすっかり引いている。
「了解しました。隊の元に戻ります」
「そうだ。隊が出撃できるように、野営地の歩哨には説明をつけておくから、安心したまえ」
納得したように、彼は俺に微笑みかける。さっきまではこれに散々な葛藤を抱いていたはずなのに。
......ん?『隊が出撃できるように』?
「いや、隊は既に出撃していますが」
「そうか」
何やら満足げな顔だった。真意はわからない。
ふと、彼は何やら思い出したように懐を探り始める。
「......ああ、あとこれを」
いろいろな物が取り出された。何らかの羊皮紙や、運貨筒、ハンカチ、巾着。
探り始めてからしばらく、彼は探し物を見つけたようだ。
「これは?」
彼は俺に発見した物を渡す。それは銀の装飾が特徴的な短刀だ。
刃渡りは中指の先から手首までの長さと等しい。
小ぶりだが確かな重みが感じられ、それに、何やら不思議な力を感じる。
これは、あれだ。魔力だ。
因みに、魔力を持つ武器はそんなに珍しくない。むしろ俺たちが腰に下げているこの剣にも力は宿っている。
基本的にどんなものにも宿っているが、魔法剣と言われるほどに纏っている物は極めてまれだ。
そして、これはその類の刃物だ。
俺はその力に敏感じゃ無い。こういう感覚がすると言う事は、極めて大きい力が宿っているのだろう。
柄は樫の木でできており、頭と、縁、目貫の部分が銀で女神の装飾がなされていた。
下緒には紫色の布が使われている。
「パウルス...... もとい、ルキウスならわかるだろう」
これだけで何かが伝わるのか? と傾げたが、彼がそういうのなら、何かがあるのだろう。
状況を回天させるような何かか、個人的に伝えるべきものを。
「はっ」
「ありがとうございます」
確かにそれを握りしめると、天幕を飛び出し、隊の元に向かわんとした。
目には風景が流れるように映り、天幕の内では兵士たちが、同胞がうごめいている。
多分、臨時に配備命令が出たんだ。
術者の目的は不明だが、少なくとも軍事的な目的を持っているのだろう。
暗殺に主眼を置くとしたなら、もっと警備が手薄な移動中を狙うはずだ。
つまり、今、この状況じゃなきゃダメだったと言う事。
軍隊が目標なのだから我々は戦わなければならないのだ。
道中、武器庫に立ち寄り、新たな弓と鏑矢を取る。
もし術者を発見したらこれをそこに飛ばせばよい。
魔導士たちへの合図になるだろうからな。
そこへ攻撃を飛ばしてくれるだろうから、無理な損害を出さずに術者を無力化できる。
そういう意図だ。
俺一人で探す手もあったが、流石にこの闇の中、広い盆地を捜索することは不可能だし、貴重な戦力を遊兵とするのも惜しい。
となれば、隊に追いつくための足が必要だ。
厩舎で馬を借りることも考えたが、それはやめておいた。
何せいななきという物は割と遠くまで聞こえるし、こちらの位置がバレれば魔法が飛んでくるだろう。
一番大きかった理由は、長らく馬に乗っていなかったからだ。これで乗ろうとしても、恐らく馬について行けずに振り落とされるのがオチ。優先されるべき策じゃない。
と、いう訳で俺は走っていた。
このクソみたいな、長い、長い途をだ。
狭い野営地ではほとんど気にかけなかったが、霧もすっかり深くなっている。
月は光明とはなり得ず、雲は未だ厚いままだ。
隊がどこに所在しているか詳しくは知らないが、方角は知っている。
つまり、その向きにひたすら走れば走れば合流できるということだ。
俺の今の装備は体重の四分の一ほどだ。これで少し走れば四十分ほどで隊まで着くな。
奴らは普通より速度を落として行軍しているはずだし、合流地点にはまだ到達していないはずだ。
......ちょっとキツイか? だって捜索の為に野営地付近に戻らなくちゃいけないんだぜ?
この距離を休憩なしで走ると思うと......
いや、役目だ。
俺は小隊長だ。司令官が務めを果たさんとすれば、俺もそれに答えなくちゃならない。
邪念を振り払い、男は部隊の元へと驀進する。期待に応えるため、己の職責のため、彼は走る。
経路は決して平坦では無かった。石に躓きかけたり、土竜の穴に足を引っ掛けたりしたが、部隊の靴職人が手入れしたブーツは壊れることなく、運動に耐える。
途中、いくら進んでも隊が見えないので、魔術師と遭遇したことを心配する場面もあった。
しかし、戦端は男の遥か後方、野営地の付近で開かれたのである。
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