反逆者は凱旋する

藩野真吾

文字の大きさ
19 / 24

短剣

しおりを挟む
「ひょっとすると、どうにかなるかもしれません」

 集団の奥から姿を見せるルキウス。
 手を高く上げており、その掌の内にはしっかりと短刀が握られていた。

「ルキウス! 何かあるのか」
「とりあえずこっちに来い」

 意気揚々と振り上げた剣は着地点を見失っている。

 意外と重い。
 折角抜いてしまったが、しばらくの間我慢してくれ。

 俺は剣を鞘に戻すと、丁度走ってきたルキウスに向く。

 彼は肩で息をするような状態であったが、急いで身なりを整えたかと思うと、いきなり話を始める。

「これは、ポルトディヌスが?」

 恐らくはさっき遣わした者の話を聞いていたのだろう。

「そうだが、それが?」

 何らかの合図として示した物だろうか。何らかの策かもしれない。
 ......正直、見当もつかないな。

「この短刀は、いわゆる『神器』の一つだと」

 神器。

 それは名の通り、神の力を与えられた武器、武具の事である。
 いずれも絶大な魔力を持っていて、使い方次第では会戦の戦況を変える事さえあるという。

「これが、『神器』なのか?」

「ええ、間違いなく」

 確かに、俺が魔力を感じられるほどに強大な力を持っていたが......。
 なぜ、彼、ポルトディヌスはこれを自ら使おうとしなかったんだ?

「ただ、その中でも低位の物ですが」

「神器に等級があるとは初耳だな」

「説明は省きますが、それでも大きな戦力になりえます」

 まあ、ここにあるなら、あるんだ。 理由など必要であろうか?

「これをどう使えばいいんだ?」
「ポルトディヌスはお前なら分かる、と言っていたが」

「ああ、それは―――」
「それは」

 彼は俯く。
 元々暗い夜中だったが、ことさら暗く見えた。

 この短刀に希望を見出す事が出来なかったのか?
 それとも、これを使うのに彼が大きな代償を払わなきゃいけないのか?

 いったい、どういう事だ?

「......これは父の、物だと思います」

 彼の父は行方不明だったはずだ。
 ルキウスの物心付く前に失踪したと聞いている。

 なのに、どうして、そう言えるのか?
 名前なんて掘って無かったし、個人を認識できるすべなど無いと思うのだが。

「なぜ、そう考えるんだ?」

「この、意匠です」

 質問に答えるのも精いっぱい、という様子だ。
 その感情を理解することは......とてもできない。

「この、鳥の様な装飾です」
「これは我が一族が用いていた形式のもので、父のみが継承したと、神殿より聞いておりました」

 珍しいケースだ。
 このような継承などの性質を持つ物の多くは、兄弟姉妹で同じ物を受け継ぐことが多い。

 例えば、紋章とか。

 が、彼が言うには、父しか継承できなかったという。
 このように、一人しか継げないと言うのは、やはり珍しい。
 それこそ、神器が絡むような事態でないと。

「兄弟はいたのか?」

「ええ、いましたが、皆拒んだのです」
「何せ、なものですから」

 不名誉? そんな物を後世に残すなんて、この様式の創始者は、これまた珍しいことを......

「君の父はなんで継承したんだ?」

「誰かが継がなければならないのです」
「そうでなければ、この神器は永遠に眠ってしまう」

 そうか。彼はこのために、顔を暗くしたのかもしれない。

 彼の父が受け継いだ物の為に彼は、ルキウスは。
 この先、汚辱の目で汚されながら生きていくことを危惧しているのかもしれない。

 今、それを気にする人は大分減っているが、やはり心配なのだろうか。

「君は、その様式?を継承する事が嫌なのか?」

「いえ、全く」

 素っ頓狂な声で彼は答える。
 全くの見当違い、考えてもいない様子だった。

 ......なんだか、悪いことしたなあ。

「名誉はとっくに回復されましたから」
「今上皇帝の布告で、同じ様な者も含めて」

 そう。そのおかげで、卑しい身分でも将軍職や、議員になれるようになった......ん?

 布告は二十五年前。俺が三で、ルキウスが生まれた年。これは彼の父が失踪した年でもある。
 そして、ポルトディヌスはなぜこれを持っていたんだ? 彼の父に継承された一振りを、どうして?

 質にでも入れられていたのか?  いや、使えもしない物を買う心がわからない。
 考えられる一つの背景とは、彼は、持っていて、使えた。と言う事。

 それ即ち。

「ポルトディヌスは、お前の父だったのか?」

「いや、私も最初はそう思ったのですが」
「彼は生まれも育ちも、帝都アカネイアと公言しているので違うかと」

 .....ええ? じゃあ、なんで?
 彼の表情の理由も分からないし、司令官が伝えたかったことも分からん。

 万事休す、か。結局俺たちはこの二択から選ぶだけなのかもしれない。

「ポルトディヌスがこれを所持していた理由はともかく」
「この神器で分かることが二つほど」

 結論は、彼の中で、もう出ていたらしい。
 ......余計な事したかな?



「この神器は大きな魔法防壁を作り出せることと」

「私がこれを使用できると言う事は」

 一瞬のためらい。これこそが彼の表情の原因だったのだ。
 受け入れがたい真実だったのだろう。目的としていた物が、突如として消えたのだから。

「私の父はもうこの世に存在しないということです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...