19 / 31
王家と商家
しおりを挟む
昨夜はしっかりと睡眠時間をとったはずだったのに、泣き疲れたせいか安心したおかげか自室で再び眠り込んでしまったシルヴィを昼前にそっと起こしたのは母親だった。
「シルヴィ?よく眠っているようだけど。もうお昼よ。」
「お母様。」
「昨夜は……眠れなかったの?」
「いえ、どちらかというとぐっすりと。」
母親は気まずそうにシルヴィから視線をそらすと、言葉を選びながら話しだした。
「その……あの方とはどういう関係なのか、聞いても?」
「あの方とは?」
「昨日連絡をくださった第三王子。」
シルヴィは明らかに誤解している様子の母親を見て一気に目が覚めた。勢いよく布団から飛び出ると母親の両腕をがっしりと掴んだ。
「何も!レオ様に関することで少しだけお世話になっただけよ。変な風に誤解しないで?」
「そ、そう。それなら良かった。」
「えぇ、本当に。」
「この間は教会でも貴女の事を探してらしたようだったから気になっていたの。」
「あぁ、礼拝の時ね。」
シルヴィがギーとトラブルになった時に駆けつけてくれたあの日の事だろう。そういえば、ロジェは伯爵にシルヴィがどこにいるのか聞いたと言っていた気がする。
何か話でもあったのだろうか──今となっては確認する術もない。
「とにかく、ロジェ王子には気をつけなさい。」
「えぇ。」
シルヴィは母親の忠告に一旦は頷いたものの、心の中で一人首を傾げた。王子に気をつけろとは?一体何が言いたいのだろうか……。
「お母様、ロジェ様に何かあったの?」
「そうね。貴女の嫌いな噂よ。」
「ロジェ様に関する噂?」
「王子のお相手がガレル商会の娘なんじゃないかって話よ。確かにガレル商会の財力は今の王家にとっては魅力的なのかもしれないけれど……。」
母親はそこで言葉を濁したが、何を言いたいのかだいたいの想像はついた。
ガレル商会の財力が欲しい余り王子を商人の元へ生贄に差し出すというような王家の考え方には賛同できないと言いたいのだろう。
「そういえば……。ガレル商会の娘の婚約者が居なくなったと聞きました。」
「そうね。それにも上の方が関わっているんじゃないかという話よ。……だから貴女の心配をしているのよ。」
上の方──つまりは王家が関わっていると……。
「そんな話、馬鹿げてるわ。私昨日この目で見たのよ?レオ様だってご無事だったんですもの。ガレルの職人だというその人もきっと何か事情があって……。」
「シルヴィ?レオ様の置かれている今の状況をしっかりと見て頂戴。あの方の身に何が起きているのか、私は詳しく存じ上げないけれど結局はもうあの方にも戻って来れる場所はないのよ?」
「それは……。」
「貴女には話していなかったけれど。実は過去に侯爵様はガレル商会からの縁談を何度もお断りされていたのよ。それでもあの娘がレオ様のことを諦められないとしつこく言ってくるから、貴女の所に仮の婚約者をしてほしいと話が来たの。」
確かに。ガレル商会の名前までは聞いたことはなかったが、レオが引く手数多で困っていたというのは聞いたことがあった。
レオのあの見た目はガレルの娘の好みにピッタリであることは間違いない。
「お母様。もしかしてレオ様の今回の処分も王家がレオ様を遠ざけたい為に仕組んだと仰りたいの?」
「……そこまでは何とも。でも貴女にはこれ以上ロジェ王子とガレル商会に関わるのはやめて欲しいのよ。」
今度は素直に頷く事ができず、シルヴィは黙り込んだ。
どうしても、もやもやとした思いが消えない。
王家とガレル商会が手を結ぶために邪魔者は退場させられたというのはあまりにも話が突飛すぎる気がした。
第一今の話を聞いた限りでは、レオはむしろガレル商会の娘との縁談を嫌がっているではないか。
シルヴィの脳裏に昨夜のロジェとレオの姿が鮮明に蘇った。二人は熱心に何かを語っていたが、見方によっては言い争っているようにも見えた。
ロジェはレオを今でも何かから必死に守ろうとしている。その何かというのがもしボドワン王家だったとしたら……。
──もう私には関係ない。レオ様もロジェ様も。
母親と入れ替わるように部屋に滑り込んできた使用人が、シルヴィに来客がある事を告げた。
「私に?どなた?」
「それが……体の大きな男性で。ジョエルと言えば分かると。」
「ジョエル?」
今朝別れたばかりのジョエルが一体何の用があるのだろうか──シルヴィは不思議に思いながらもジョエルの待つ部屋へ向かった。
ジョエルは所在なさげに突っ立っていたが、シルヴィが現れると深く頭を垂れた。
「シルヴィ様。突然申し訳ありません。」
「いいのよ、気にしないで。それよりもどうしたの?何かあった?」
ジョエルは頭を下げたまま声を押し殺して一言発した。
「指輪を預からせていただきたい。」
「指輪……?」
誰からの指示だろうか?
指輪と言われてシルヴィが思い浮かべるのはレオからもらったあの指輪しかない。あれをシルヴィに返せと言えるのはレオだけだ。しかしジョエルの上官はレオではなくロジェ──ジョエルとレオとのつながりが見えない。
「貴方に預けてそれを誰のところに届けるつもり?」
「……」
「言えないのであれば、指輪は渡せません。」
「シルヴィ様……」
やっと顔を上げたジョエルの額には汗がにじんでいた。
「シルヴィ?よく眠っているようだけど。もうお昼よ。」
「お母様。」
「昨夜は……眠れなかったの?」
「いえ、どちらかというとぐっすりと。」
母親は気まずそうにシルヴィから視線をそらすと、言葉を選びながら話しだした。
「その……あの方とはどういう関係なのか、聞いても?」
「あの方とは?」
「昨日連絡をくださった第三王子。」
シルヴィは明らかに誤解している様子の母親を見て一気に目が覚めた。勢いよく布団から飛び出ると母親の両腕をがっしりと掴んだ。
「何も!レオ様に関することで少しだけお世話になっただけよ。変な風に誤解しないで?」
「そ、そう。それなら良かった。」
「えぇ、本当に。」
「この間は教会でも貴女の事を探してらしたようだったから気になっていたの。」
「あぁ、礼拝の時ね。」
シルヴィがギーとトラブルになった時に駆けつけてくれたあの日の事だろう。そういえば、ロジェは伯爵にシルヴィがどこにいるのか聞いたと言っていた気がする。
何か話でもあったのだろうか──今となっては確認する術もない。
「とにかく、ロジェ王子には気をつけなさい。」
「えぇ。」
シルヴィは母親の忠告に一旦は頷いたものの、心の中で一人首を傾げた。王子に気をつけろとは?一体何が言いたいのだろうか……。
「お母様、ロジェ様に何かあったの?」
「そうね。貴女の嫌いな噂よ。」
「ロジェ様に関する噂?」
「王子のお相手がガレル商会の娘なんじゃないかって話よ。確かにガレル商会の財力は今の王家にとっては魅力的なのかもしれないけれど……。」
母親はそこで言葉を濁したが、何を言いたいのかだいたいの想像はついた。
ガレル商会の財力が欲しい余り王子を商人の元へ生贄に差し出すというような王家の考え方には賛同できないと言いたいのだろう。
「そういえば……。ガレル商会の娘の婚約者が居なくなったと聞きました。」
「そうね。それにも上の方が関わっているんじゃないかという話よ。……だから貴女の心配をしているのよ。」
上の方──つまりは王家が関わっていると……。
「そんな話、馬鹿げてるわ。私昨日この目で見たのよ?レオ様だってご無事だったんですもの。ガレルの職人だというその人もきっと何か事情があって……。」
「シルヴィ?レオ様の置かれている今の状況をしっかりと見て頂戴。あの方の身に何が起きているのか、私は詳しく存じ上げないけれど結局はもうあの方にも戻って来れる場所はないのよ?」
「それは……。」
「貴女には話していなかったけれど。実は過去に侯爵様はガレル商会からの縁談を何度もお断りされていたのよ。それでもあの娘がレオ様のことを諦められないとしつこく言ってくるから、貴女の所に仮の婚約者をしてほしいと話が来たの。」
確かに。ガレル商会の名前までは聞いたことはなかったが、レオが引く手数多で困っていたというのは聞いたことがあった。
レオのあの見た目はガレルの娘の好みにピッタリであることは間違いない。
「お母様。もしかしてレオ様の今回の処分も王家がレオ様を遠ざけたい為に仕組んだと仰りたいの?」
「……そこまでは何とも。でも貴女にはこれ以上ロジェ王子とガレル商会に関わるのはやめて欲しいのよ。」
今度は素直に頷く事ができず、シルヴィは黙り込んだ。
どうしても、もやもやとした思いが消えない。
王家とガレル商会が手を結ぶために邪魔者は退場させられたというのはあまりにも話が突飛すぎる気がした。
第一今の話を聞いた限りでは、レオはむしろガレル商会の娘との縁談を嫌がっているではないか。
シルヴィの脳裏に昨夜のロジェとレオの姿が鮮明に蘇った。二人は熱心に何かを語っていたが、見方によっては言い争っているようにも見えた。
ロジェはレオを今でも何かから必死に守ろうとしている。その何かというのがもしボドワン王家だったとしたら……。
──もう私には関係ない。レオ様もロジェ様も。
母親と入れ替わるように部屋に滑り込んできた使用人が、シルヴィに来客がある事を告げた。
「私に?どなた?」
「それが……体の大きな男性で。ジョエルと言えば分かると。」
「ジョエル?」
今朝別れたばかりのジョエルが一体何の用があるのだろうか──シルヴィは不思議に思いながらもジョエルの待つ部屋へ向かった。
ジョエルは所在なさげに突っ立っていたが、シルヴィが現れると深く頭を垂れた。
「シルヴィ様。突然申し訳ありません。」
「いいのよ、気にしないで。それよりもどうしたの?何かあった?」
ジョエルは頭を下げたまま声を押し殺して一言発した。
「指輪を預からせていただきたい。」
「指輪……?」
誰からの指示だろうか?
指輪と言われてシルヴィが思い浮かべるのはレオからもらったあの指輪しかない。あれをシルヴィに返せと言えるのはレオだけだ。しかしジョエルの上官はレオではなくロジェ──ジョエルとレオとのつながりが見えない。
「貴方に預けてそれを誰のところに届けるつもり?」
「……」
「言えないのであれば、指輪は渡せません。」
「シルヴィ様……」
やっと顔を上げたジョエルの額には汗がにじんでいた。
0
あなたにおすすめの小説
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる