28 / 31
一旦 落ち着こう
しおりを挟む
ソフィの父親──ガレル商会の代表の向こうには数人の男性が合図さえあればいつでも取り押さえられる距離を保ちながら待機している。
ガレル父子は許可がなければこんな王宮の深部にまで立ち入ることはできない。レオを探してここまでたどり着いたというのならば、許可を出したのはロジェしかいない。
シルヴィはどうしたらいいのか分からず立ち並ぶ人影の中にロジェの姿を探した。
遅れて現れたロジェは人垣をかき分けるとそのままジョエルの脇を通って部屋の中に入り、シルヴィの隣まで来ると素早くその肩を抱いた。
黙ってそれを見ていたソフィが我に返ったのか再びヒステリックに叫びだした。
「その女がそうなの?オードランの娘?」
「ソフィ様!落ち着いて下さい。」
「レオ様をどこに隠したのよ!一体どこまで私の事を邪魔したら気が済むの?この泥棒猫!レオ様を返しなさい!」
ソフィは怒りがおさまらないようでシルヴィに向かって大声でまくし立て続けた。
父親はソフィから少し距離をとると、ジョエル達が二人がかりで娘を止めているのをどことなく申し訳無さそうな顔で眺めている。
「レオ様の次はロジェ王子にまで媚を売ってるの?もしかしてエドもアンタが隠したんじゃないでしょうね?」
ロジェはシルヴィを後ろにかばうと、ソフィに向かって冷めた声で告げた。
「いい加減にしたらどうだ、シルヴィは関係ない。それにレオはもう王宮にはいないと言ったはずだ。」
「成人の式典が終わったらすぐにレオ様に会わせてくださるはずじゃなかったのですか?こんなの……約束と違います。私とレオ様の婚約の話はどうなるのです?」
シルヴィはソフィの言葉に動揺してロジェの背中を見た。しかし後ろからではその表情までは見ることができない。
「レオがいないのだから今この場ではその話はできない。第一君は来るのが遅かった。君が来た時には既にレオは去った後だったはずだ。」
「私は式典が終わったらすぐに会えるようきちんと待機しておりました。」
「そうか。私はレオと会いたいのであれば来いと言ったはずだが?本気で婚約したかったのであれば、待っていても無駄だ。」
「そんな、私は待っているようにと部屋に案内されたから従ったまでです!それに式典には貴族でないと入れないと……。」
ロジェはシルヴィを振り返ると珍しく笑みを浮かべた。
「残念ながらレオは私とともに一足先に成人として認められていたからな、一般の式典には参加していない。どちらにせよ君とレオが会うことはなかった。レオは逃げたんだ。諦めろ。」
ロジェがジョエルとケビンに向かって手を振ると、二人はガレル親子を部屋から押し出しながら出て行き、そのまま後ろ手に扉を閉めた。何かをまだ喚いているソフィの声が一気に遠のく。
──レオ様があんなに急いで出発されたのは、このせいだったのね。
口を開くこともできずに突っ立ったままのシルヴィに向かって、ロジェが申し訳無さそうな顔をした。
「……いろいろと、言いたいことはあると思う。分かっている、全て私の責任だ。」
「ガレルの娘の事ならば心配ないとおっしゃいました。」
ロジェは黙ったまま頷いた。
「もしレオ様が王宮であの娘と顔を合わせていたら、本当に婚約させるつもりだったのですか?」
「それは有り得ない。ソフィは別室に待機させて部屋の前には厳重に見張りを立てていたし、レオも一般の式典には顔を出さなかった。二人がここで鉢合わせることがないよう細心の注意を払っていた。」
シルヴィは今朝ロジェの馬車で王宮に到着した時、警備の人数が随分と多かったことを思い出した。
あれはレオとソフィを会わせないための配慮だったということか。
「でも約束されたのでしょう?ソフィを騙すような嘘を仰るなんて、私にはロジェ様が何を考えておられるのか分かりません。」
ロジェは嘘という言葉に反応するように顔を上げると、シルヴィの両肩に手を置いた。
「いいかシルヴィ、私は嘘はついていない。」
「そうでしょうか。」
「そうだ。ただ、ソフィがレオを探してここまで踏み込んで来るとは思わなかったが……。君は無関係なのに巻き込んでしまって、すまなかった。」
確かにレオの仮の婚約者となったことで結果的にはソフィの邪魔をすることになってしまった訳だが、その後のレオやエドモンのことについてまで自分が関わっていたように言われる筋合いはなかった。
シルヴィはうつむくと婚約指輪に輝く大粒のサファイヤをじっと見つめた。ロジェの手がそこに重ねられる。
「エドの怪我を報告しに行った時にソフィはむしろ喜んでいた。それどころかもう自分の次の相手のことしか頭にはないようだった。だからレオが爵位を継がないことが分かった途端、今度はエドの代わりにレオを婿に欲しいと言い出したんだ。」
シルヴィはロジェの手に光る指輪に視線をうつした。ロジェの指輪のサファイアの方が色が薄く、レオの瞳の色には近い気がする。
「レオからの手紙を受け取った時の君とは全く違う。そう思わないか?」
「そういえば、私の所に手紙を届けに来てくださったのもロジェ様でしたね。」
「君は手紙を開ける時とても緊張していた。でも文面を見て嬉しそうに笑った。覚えているか?」
「……笑っていましたか?」
「レオの無事を確認して微笑んでいる君はとても……綺麗だった。シルヴィ、私は君の事を──」
コンコンコン と扉がノックされると、外からケビンの呼びかける声が続いた。
「……ちょっと待て。」
ロジェは慌ててシルヴィから離れると大きくため息をついた。
「とりあえずこれでしばらくの間はゆっくりできる。まだ君に話していないことは沢山ある。これからはゆっくりと私の事が分かってもらえるよう……努力するつもりだ。」
「……はい。」
めずらしく大人しく頷いたシルヴィを見て、ロジェはぎょっとした。
「おい、どうしてそんな顔を……ケビン達に誤解される!」
「ロジェ様のせいです!」
「いや、私はまだ何も……」
シルヴィが両手で熱くなった顔を覆うと、扉の外からケビンが申し訳無さそうに声をかけた。
「お邪魔してすみません、オードラン伯爵がお待ちです。」
「分かってる、すぐ行く。」
ロジェは乱暴にシルヴィの腕を掴んで引き寄せると、真っ赤になったシルヴィを強く抱きしめた。
「そんな顔のままで外には出せない。」
「分かってますから言わないでください。」
ガレル父子は許可がなければこんな王宮の深部にまで立ち入ることはできない。レオを探してここまでたどり着いたというのならば、許可を出したのはロジェしかいない。
シルヴィはどうしたらいいのか分からず立ち並ぶ人影の中にロジェの姿を探した。
遅れて現れたロジェは人垣をかき分けるとそのままジョエルの脇を通って部屋の中に入り、シルヴィの隣まで来ると素早くその肩を抱いた。
黙ってそれを見ていたソフィが我に返ったのか再びヒステリックに叫びだした。
「その女がそうなの?オードランの娘?」
「ソフィ様!落ち着いて下さい。」
「レオ様をどこに隠したのよ!一体どこまで私の事を邪魔したら気が済むの?この泥棒猫!レオ様を返しなさい!」
ソフィは怒りがおさまらないようでシルヴィに向かって大声でまくし立て続けた。
父親はソフィから少し距離をとると、ジョエル達が二人がかりで娘を止めているのをどことなく申し訳無さそうな顔で眺めている。
「レオ様の次はロジェ王子にまで媚を売ってるの?もしかしてエドもアンタが隠したんじゃないでしょうね?」
ロジェはシルヴィを後ろにかばうと、ソフィに向かって冷めた声で告げた。
「いい加減にしたらどうだ、シルヴィは関係ない。それにレオはもう王宮にはいないと言ったはずだ。」
「成人の式典が終わったらすぐにレオ様に会わせてくださるはずじゃなかったのですか?こんなの……約束と違います。私とレオ様の婚約の話はどうなるのです?」
シルヴィはソフィの言葉に動揺してロジェの背中を見た。しかし後ろからではその表情までは見ることができない。
「レオがいないのだから今この場ではその話はできない。第一君は来るのが遅かった。君が来た時には既にレオは去った後だったはずだ。」
「私は式典が終わったらすぐに会えるようきちんと待機しておりました。」
「そうか。私はレオと会いたいのであれば来いと言ったはずだが?本気で婚約したかったのであれば、待っていても無駄だ。」
「そんな、私は待っているようにと部屋に案内されたから従ったまでです!それに式典には貴族でないと入れないと……。」
ロジェはシルヴィを振り返ると珍しく笑みを浮かべた。
「残念ながらレオは私とともに一足先に成人として認められていたからな、一般の式典には参加していない。どちらにせよ君とレオが会うことはなかった。レオは逃げたんだ。諦めろ。」
ロジェがジョエルとケビンに向かって手を振ると、二人はガレル親子を部屋から押し出しながら出て行き、そのまま後ろ手に扉を閉めた。何かをまだ喚いているソフィの声が一気に遠のく。
──レオ様があんなに急いで出発されたのは、このせいだったのね。
口を開くこともできずに突っ立ったままのシルヴィに向かって、ロジェが申し訳無さそうな顔をした。
「……いろいろと、言いたいことはあると思う。分かっている、全て私の責任だ。」
「ガレルの娘の事ならば心配ないとおっしゃいました。」
ロジェは黙ったまま頷いた。
「もしレオ様が王宮であの娘と顔を合わせていたら、本当に婚約させるつもりだったのですか?」
「それは有り得ない。ソフィは別室に待機させて部屋の前には厳重に見張りを立てていたし、レオも一般の式典には顔を出さなかった。二人がここで鉢合わせることがないよう細心の注意を払っていた。」
シルヴィは今朝ロジェの馬車で王宮に到着した時、警備の人数が随分と多かったことを思い出した。
あれはレオとソフィを会わせないための配慮だったということか。
「でも約束されたのでしょう?ソフィを騙すような嘘を仰るなんて、私にはロジェ様が何を考えておられるのか分かりません。」
ロジェは嘘という言葉に反応するように顔を上げると、シルヴィの両肩に手を置いた。
「いいかシルヴィ、私は嘘はついていない。」
「そうでしょうか。」
「そうだ。ただ、ソフィがレオを探してここまで踏み込んで来るとは思わなかったが……。君は無関係なのに巻き込んでしまって、すまなかった。」
確かにレオの仮の婚約者となったことで結果的にはソフィの邪魔をすることになってしまった訳だが、その後のレオやエドモンのことについてまで自分が関わっていたように言われる筋合いはなかった。
シルヴィはうつむくと婚約指輪に輝く大粒のサファイヤをじっと見つめた。ロジェの手がそこに重ねられる。
「エドの怪我を報告しに行った時にソフィはむしろ喜んでいた。それどころかもう自分の次の相手のことしか頭にはないようだった。だからレオが爵位を継がないことが分かった途端、今度はエドの代わりにレオを婿に欲しいと言い出したんだ。」
シルヴィはロジェの手に光る指輪に視線をうつした。ロジェの指輪のサファイアの方が色が薄く、レオの瞳の色には近い気がする。
「レオからの手紙を受け取った時の君とは全く違う。そう思わないか?」
「そういえば、私の所に手紙を届けに来てくださったのもロジェ様でしたね。」
「君は手紙を開ける時とても緊張していた。でも文面を見て嬉しそうに笑った。覚えているか?」
「……笑っていましたか?」
「レオの無事を確認して微笑んでいる君はとても……綺麗だった。シルヴィ、私は君の事を──」
コンコンコン と扉がノックされると、外からケビンの呼びかける声が続いた。
「……ちょっと待て。」
ロジェは慌ててシルヴィから離れると大きくため息をついた。
「とりあえずこれでしばらくの間はゆっくりできる。まだ君に話していないことは沢山ある。これからはゆっくりと私の事が分かってもらえるよう……努力するつもりだ。」
「……はい。」
めずらしく大人しく頷いたシルヴィを見て、ロジェはぎょっとした。
「おい、どうしてそんな顔を……ケビン達に誤解される!」
「ロジェ様のせいです!」
「いや、私はまだ何も……」
シルヴィが両手で熱くなった顔を覆うと、扉の外からケビンが申し訳無さそうに声をかけた。
「お邪魔してすみません、オードラン伯爵がお待ちです。」
「分かってる、すぐ行く。」
ロジェは乱暴にシルヴィの腕を掴んで引き寄せると、真っ赤になったシルヴィを強く抱きしめた。
「そんな顔のままで外には出せない。」
「分かってますから言わないでください。」
0
あなたにおすすめの小説
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
お城のお針子~キラふわな仕事だと思ってたのになんか違った!~
おきょう
恋愛
突然の婚約破棄をされてから一年半。元婚約者はもう結婚し、子供まで出来たというのに、エリーはまだ立ち直れずにモヤモヤとした日々を過ごしていた。
そんなエリーの元に降ってきたのは、城からの針子としての就職案内。この鬱々とした毎日から離れられるならと行くことに決めたが、待っていたのは兵が破いた訓練着の修繕の仕事だった。
「可愛いドレスが作りたかったのに!」とがっかりしつつ、エリーは汗臭く泥臭い訓練着を一心不乱に縫いまくる。
いつかキラキラふわふわなドレスを作れることを夢見つつ。
※他サイトに掲載していたものの改稿版になります。
婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした
鍛高譚
恋愛
『幼すぎる』と婚約破棄された公爵令嬢ですが、意識不明から目覚めたら絶世の美女になっていました
幼すぎる、頼りない――そんな理由で婚約者に見限られた公爵令嬢シルフィーネ。
心ない言葉に傷ついた彼女は、事故に遭い意識不明となってしまう。
しかし一年後、彼女は奇跡的に目を覚ます。
そして目覚めた彼女は――かつての面影を残しつつも、見る者すべてを惹きつける絶世の美女へと変貌を遂げていた!
周囲の反応は一変。婚約破棄を後悔する元婚約者、熱視線を送る他家の令息たち、さらには王太子からの突然の縁談まで舞い込み――?
「もう、誰にも傷つけられたくない。私は私の幸せを手に入れるの」
これは、冷たく突き放された少女が美しく咲き誇り、誇りと自由を手に入れる、ざまぁ&逆転恋愛劇。
噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される
柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。
だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。
聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。
胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。
「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」
けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」
噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情――
一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる