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身を隠す者
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第3王子の成人を祝う日だとは言え、準備された昼食は見るからに豪華過ぎて、どう見ても一人用ではなかった。
シルヴィは出された食事を前にジョエルとケビンと顔を見合わせた。どうやら二人にとってもこの事態は想定外だったようだ。
「これって……」
「間違ってはいませんよ?ちゃんと確認しましたから。」
「あれじゃないですか?婚約祝い的な?」
「ロジェ様と一緒に祝うと言うなら確かに頷ける量だけれど……。」
「張り切りすぎちゃったんじゃないですか?」
「コックが?隊長が?」
「いや、両方?」
シルヴィは手近にあった果物をつまもうとしていたが、二人のいつもと変わらないやり取りに思わず吹き出しそうになった。
それに気がついた二人も思わず笑顔になる。
「でも、まぁ無事に終わって良かったです。」
「そうですよ。遅くなりましたが、ご婚約おめでとうございます。」
「……ありがとう。」
「ホント、ガレル商会で捕まえた不審者がまさか隊長の婚約者になられる方だったとは……。」
「ケビン、それは心に仕舞っておけ。」
シルヴィは苦笑いをしながら料理に手を伸ばした。
自分だってまさかこんなに短期間で婚約まで一気に進むとは思ってもいなかった。
人生を左右するようなことがここ数ヶ月で立て続けに自分の身に起きているのはまだ現実味がなく、不思議な気分だった。
「二人はロジェ様とは長い付き合いなの?」
「そうですね。私達は成人してから王子直属の部隊に配属になりましたから。」
「……今幾つ?」
「私が27でこいつが25です。」
シルヴィは首を傾げた。ロジェは今日で成人、20歳を迎える。この国の王子は一体何歳から隊を持たされるというのだろうか?
「成人してからってもう7年も?どういう事なの?」
「そうですね、確かにそのくらい経ちます。ロジェ様は13歳から隊を指揮されていますし、私は初期からずっといる数少ないメンバーのうちの一人です。」
「13ってそんなに早くから?」
「名目上ですよ。隊を率いて出動するようなことはそうそうありませんから。」
「ほぼ遊び相手みたいなもんですよ。だからまぁ隊長のことなら大抵のことは知ってますけどね。」
──大抵のことは知っている……。
シルヴィはスープを飲みながらしばらく考えた。この二人はどこまでレオとロジェのことを知っているのだろうか?
少なくともジョエルは自分の家にレオとエドモンを匿っていたのだからその辺りの事情には詳しいはずだ──。
「ねぇ、私ジョエルにずっと聞きたいことがあったんだわ。」
ジョエルは待っていましたとばかりにその場で姿勢を正した。
「何でしょう?」
「エドモンと貴方は知り合いなの?」
「エド?なんだ、そっちですか。アイツは幼馴染ですよ。働き始めるまではずっと近所に住んでいたんです。」
「幼馴染?そうなんだ。」
ジョエルの幼馴染である一流の職人がいわば弟子であった侯爵家の後継ぎと二人揃って国から出て行く──よく考えなくても大騒動だ。
それなのにここまで表沙汰にならないということは、事前に用意周到準備が整っていたからに違いない。
シルヴィはふと手を止めると顔を上げた。
「ねぇ、レオ様も13から隊を率いていらしたの?」
「いいえ、それは。」
ジョエルとケビンは顔を見合わせるとどちらが話すかというように肘で突きあっていたが、やがてケビンがあきらめたようにシルヴィに話しはじめた。
「ロジェ様は特別早かったんです。国王に武の才能を認められたと言いますか。レオ様はそれほどこの分野に秀でておられた訳ではありませんでしたので……。」
「いいのよ、気を使わなくて。レオ様はそういうの
苦手だったんでしょう?」
「はい。ですから今回の北方遠征の間だけ隊長として参加されました。ここ何年かはそういう方も随分増えて来ているので特別珍しいという訳でもないんですよ。」
「エドもレオ様の部隊に所属していました。」
「それでレオ様の部隊だけが雪崩に巻き込まれたの?」
ジョエルとケビンはここにきて急に言葉に詰まった。話せない裏事情がまだあるようだ。
シルヴィはこれ以上は今二人に聞いても答えてくれないだろうと、食事に意識を向けることにした。
次は何に手を付けようか──。フォークに手を伸ばそうとしたとき、気のせいかどこか遠くから自分の名前を呼ばれた気がした。
「何か聞こえなかった?」
「えぇ、確かに──」
3人は話すのをやめて聞き耳を立てた。すぐにジョエルとケビンは立ち上がると扉の方に向かう。
話し声と慌ただしい足音が確かにこちらに近付いて来ている。
「シルヴィ様、そこから動かないで下さい。」
扉から目を離さないままでケビンがそう言った直後、荒々しく扉を叩く音がすると同時にノブが勢い良く回された。
扉の向こうに現れたのはシルヴィより少し年上と思われる女性だった。肩を揺らして息をする度に耳元の大振りなピアスが揺れてシャラシャラと音が響き、首元には見事なダイヤモンドのネックレスが輝いている。
その人は目を大きく見開いて部屋の中を隈なく確認した。
「ソフィ様、これは一体何の騒ぎでしょうか。」
「レオ様は?」
「ここにはおられません。」
ソフィ・ガレルはジョエルの言葉を無視すると部屋の中を一通り見回し、最終的にシルヴィに狙いを定めた。
「じゃああれは誰?」
無理矢理部屋に押し入ろうとするガレルの娘をすかさずジョエルとケビンが静止する。
廊下の向こう側からも何者かが手を伸ばしソフィの肩を引き止めたようだ。
「見苦しい事は止めなさい。レオ様はここにはおられない。納得しただろう?」
「でもお父様!」
ソフィの後ろから現れたのは穏やかな顔をした中年の男性──ソフィの父親だった。
シルヴィは出された食事を前にジョエルとケビンと顔を見合わせた。どうやら二人にとってもこの事態は想定外だったようだ。
「これって……」
「間違ってはいませんよ?ちゃんと確認しましたから。」
「あれじゃないですか?婚約祝い的な?」
「ロジェ様と一緒に祝うと言うなら確かに頷ける量だけれど……。」
「張り切りすぎちゃったんじゃないですか?」
「コックが?隊長が?」
「いや、両方?」
シルヴィは手近にあった果物をつまもうとしていたが、二人のいつもと変わらないやり取りに思わず吹き出しそうになった。
それに気がついた二人も思わず笑顔になる。
「でも、まぁ無事に終わって良かったです。」
「そうですよ。遅くなりましたが、ご婚約おめでとうございます。」
「……ありがとう。」
「ホント、ガレル商会で捕まえた不審者がまさか隊長の婚約者になられる方だったとは……。」
「ケビン、それは心に仕舞っておけ。」
シルヴィは苦笑いをしながら料理に手を伸ばした。
自分だってまさかこんなに短期間で婚約まで一気に進むとは思ってもいなかった。
人生を左右するようなことがここ数ヶ月で立て続けに自分の身に起きているのはまだ現実味がなく、不思議な気分だった。
「二人はロジェ様とは長い付き合いなの?」
「そうですね。私達は成人してから王子直属の部隊に配属になりましたから。」
「……今幾つ?」
「私が27でこいつが25です。」
シルヴィは首を傾げた。ロジェは今日で成人、20歳を迎える。この国の王子は一体何歳から隊を持たされるというのだろうか?
「成人してからってもう7年も?どういう事なの?」
「そうですね、確かにそのくらい経ちます。ロジェ様は13歳から隊を指揮されていますし、私は初期からずっといる数少ないメンバーのうちの一人です。」
「13ってそんなに早くから?」
「名目上ですよ。隊を率いて出動するようなことはそうそうありませんから。」
「ほぼ遊び相手みたいなもんですよ。だからまぁ隊長のことなら大抵のことは知ってますけどね。」
──大抵のことは知っている……。
シルヴィはスープを飲みながらしばらく考えた。この二人はどこまでレオとロジェのことを知っているのだろうか?
少なくともジョエルは自分の家にレオとエドモンを匿っていたのだからその辺りの事情には詳しいはずだ──。
「ねぇ、私ジョエルにずっと聞きたいことがあったんだわ。」
ジョエルは待っていましたとばかりにその場で姿勢を正した。
「何でしょう?」
「エドモンと貴方は知り合いなの?」
「エド?なんだ、そっちですか。アイツは幼馴染ですよ。働き始めるまではずっと近所に住んでいたんです。」
「幼馴染?そうなんだ。」
ジョエルの幼馴染である一流の職人がいわば弟子であった侯爵家の後継ぎと二人揃って国から出て行く──よく考えなくても大騒動だ。
それなのにここまで表沙汰にならないということは、事前に用意周到準備が整っていたからに違いない。
シルヴィはふと手を止めると顔を上げた。
「ねぇ、レオ様も13から隊を率いていらしたの?」
「いいえ、それは。」
ジョエルとケビンは顔を見合わせるとどちらが話すかというように肘で突きあっていたが、やがてケビンがあきらめたようにシルヴィに話しはじめた。
「ロジェ様は特別早かったんです。国王に武の才能を認められたと言いますか。レオ様はそれほどこの分野に秀でておられた訳ではありませんでしたので……。」
「いいのよ、気を使わなくて。レオ様はそういうの
苦手だったんでしょう?」
「はい。ですから今回の北方遠征の間だけ隊長として参加されました。ここ何年かはそういう方も随分増えて来ているので特別珍しいという訳でもないんですよ。」
「エドもレオ様の部隊に所属していました。」
「それでレオ様の部隊だけが雪崩に巻き込まれたの?」
ジョエルとケビンはここにきて急に言葉に詰まった。話せない裏事情がまだあるようだ。
シルヴィはこれ以上は今二人に聞いても答えてくれないだろうと、食事に意識を向けることにした。
次は何に手を付けようか──。フォークに手を伸ばそうとしたとき、気のせいかどこか遠くから自分の名前を呼ばれた気がした。
「何か聞こえなかった?」
「えぇ、確かに──」
3人は話すのをやめて聞き耳を立てた。すぐにジョエルとケビンは立ち上がると扉の方に向かう。
話し声と慌ただしい足音が確かにこちらに近付いて来ている。
「シルヴィ様、そこから動かないで下さい。」
扉から目を離さないままでケビンがそう言った直後、荒々しく扉を叩く音がすると同時にノブが勢い良く回された。
扉の向こうに現れたのはシルヴィより少し年上と思われる女性だった。肩を揺らして息をする度に耳元の大振りなピアスが揺れてシャラシャラと音が響き、首元には見事なダイヤモンドのネックレスが輝いている。
その人は目を大きく見開いて部屋の中を隈なく確認した。
「ソフィ様、これは一体何の騒ぎでしょうか。」
「レオ様は?」
「ここにはおられません。」
ソフィ・ガレルはジョエルの言葉を無視すると部屋の中を一通り見回し、最終的にシルヴィに狙いを定めた。
「じゃああれは誰?」
無理矢理部屋に押し入ろうとするガレルの娘をすかさずジョエルとケビンが静止する。
廊下の向こう側からも何者かが手を伸ばしソフィの肩を引き止めたようだ。
「見苦しい事は止めなさい。レオ様はここにはおられない。納得しただろう?」
「でもお父様!」
ソフィの後ろから現れたのは穏やかな顔をした中年の男性──ソフィの父親だった。
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