騎士様は甘い物に目がない

ゆみ

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その目に映るチェリー

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 最近、どこかしら感じていた違和感の正体がちょっとつかめたような気がしている。レジナルドが感じていた違和感とはジークフリートとセシリアに対して、である。もっと言うと二人の距離感とでも言おうか。
 いつだったかステーリアの王太子とジークフリートが話を交わしているその脇で、自分は必死に冷静な振りを装っていたが衝撃を受けたことがあった。ジークフリートは確かに言っていた───セシリアが一晩中腕の中で愛の言葉を囁いてくれたと。そしてその翌日学園を休ませることになったとまで…。つまりはになったとステーリアの王太子に向って言ってのけたのだ。
 しかしレジナルドの目には二人の距離が急激に狭まったようには見えなかった。婚約者になってからセシリアの態度は多少打ち解けてきたものの、ジークフリートは相変わらずセシリアを壊れ物のようにそっと扱っている。
 きっと牽制しただけだったんだな──。本来のジークフリートの性格からしても、相手の事を思いやってもっとゆっくりと関係を作り上げていくはずだった。ただ周りの状況がそれを許さなかっただけだ。優しいのかヘタレなのか…。

「レジー、決まったのか?」
「ん?あぁ、俺はもう決まった。」
 いつもの王都のパン屋に今日は初めて3人で来ている。ちょっとだけ早めに来たおかげで護衛は大変だけどパンがまだ何種類か残っていた。
 狭い店内で爽やかな王子が姫様にパンを取ってやっている…。その手にあるのはダークチェリーの4つ載ったデニッシュ…最後の一つみたいだ。あんなのあったんだ、俺もあれにすればよかった…。

 まとめて会計を済ませていると店番の少女が 騎士様 と小さな声で呼び止めてきた。
「何か?」
 珍しいこともあるものだとレジナルドは余所行き顔で少女に微笑みかけた。少女は店の奥まで小走りで引っ込むと手に何やら瓶を持って慌てて戻ってきたようだ。
「これ、売り物ではないんですが…。私が作ったんです。良かったら騎士様にと思って…。」
 差し出されたのは瓶いっぱいに詰まった大粒なチェリーのコンポートのようだ。
「私に…ですか?」
「はい。」
「……ありがとう。でも、どうして?」
「あの…私が申しあげるのも差し出がましいようですが。まだチャンスはあると思います…。」
 少女はセシリアの方をちらっと見ながらレジナルドに囁いて来る。
 ──チャンス?俺はそんなに物欲しそうな顔をして二人の方を見ていたのだろうか?
「次の機会があれば、今度こそは私が手に入れるよ。」
 貴公子の満面の笑みを張り付けて少女に礼を言うとセシリアが後ろで楽しそうに笑った。
「レジー様、そんなにチェリーのパンが欲しかったのですか?」
「そうですよ、セシリア様。手に入らないとなると尚更…でしょうか?」
 店番の少女はエプロンの端をぎゅっと握りしめ、大きく息を飲み込んだ。
「レジーそろそろ行くぞ?」
「はい。ではまた来るよ、これありがとう。」
「ありがとうございました!」
 レジナルドを伴い店を後にするとジークフリートはセシリアをエスコートしながらもレジナルドにだけ聞こえるようにそっと呟いた。
「あのパン屋の娘はお前に気があるようだな…」
「殿下?」
「お前の見ているものが何かよく分かっていたようだ。」
「…ジークだって俺の事よく見てるじゃん。」
 手に持ったチェリーの瓶が少しだけ重くなったように感じた。
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