34 / 76
4
王の血
しおりを挟む
執務室には、異様な沈黙が落ちていた。
二人の王太子がソファーについてからもうどれくらい時間がたっただろうか?窓の外では初夏の風に木々の葉が揺らめき、どこからか小鳥が騒ぐ声が聞こえてくる。
扉近くに控えていたレジナルドが小さく咳ばらいをする。ジークフリートは機嫌よさそうに窓の外を眺めている。突然執務室に現れたフェルナンドの方は、どっかりと腰を据え、目を閉じたままだ。
「リアの事で、話があるんだろう?なぜ黙ったまま何も言わない?」
フェルナンドがゆっくりと目を開けると、ジークフリートはまだ窓の外を見ていた。いや、むしろこちらを見る気はないのだろう。
「何から話すべきか考えていた…」
「──今更何を」
呆れたようにジークフリートが笑うと、フェルナンドもまた鼻で小さく笑い窓の外を見た。
「ヴィルヘルムにはビューロー侯爵家以外にもお前にふさわしい家格の令嬢が沢山いる…。なのに何故よりによって彼女なんだ?」
思ったよりも冷静なフェルナンドの話し方にレジナルドは肩の力を緩めた。
「あぁ…。まさか二人でこんな風に一人の女性を取り合うことになるとは思ってもみなかった。」
「そうだな。…まさかだ。」
「…なぜ彼女なのか、それは難しいな…自分でもなぜなのか分からない。気が付いた時にはもう既に彼女のことを愛していた──。」
フェルナンドはジークフリートに怪訝な顔を向けてくる。
「愛?…まさかヴィルヘルムの王太子の口からその様な言葉が出る日が来るとは!」
「意外か?」
ジークフリートは蒼い目を細めると、蕩けるように笑った。
「──リアも、私のことを愛していると言ってくれた。」
「何だと!」
「フェルナンド殿下、お座りください!」
ソファーから立ち上がり、ジークフリートに向っていこうとしたフェルナンドの肩をレジナルドが掴んで制止する。王太子に向って手荒な真似はできないが、相手がフェルナンドであれば少々暴れられても難なく抑えられるだろう。
「ビューロー侯爵令嬢がお前のことを愛しているなど、そのような言葉を口にするわけがない!」
「──なぜそう思う?」
「それは…」
「フェルナンド、教えてやる。昨日の夜この腕の中で、リアは私に愛を囁いてくれた──一晩中ね。おかげで今日は学園を休ませることになってしまった…。」
ジークフリートが妖艶に笑ってみせると、レジナルドが掴んだままだったフェルナンドの肩から力が抜けていくのが分かった。
「──嘘だ、そんな事。信じない…」
「フェルナンド、セシリアを聖女かなにかと勘違いしていないか?──確かに彼女の存在は尊い。だが、彼女もただの一人の女性だ。」
「私は…ステーリア王家の正統な『血』を守らねばならない!そのためには彼女が必要なんだ!彼女の中には私と同じステーリアの『血』が流れて…」
「それがなんだ?これ以上私たち王家の者は『血』に縛られて生きていかねばならないのか?この身体の中にその『血』は存在している、その事実だけでもう十分だろう?」
「ジークフリート──」
「目を覚ませフェルナンド。私たちは『自らの血』で王になるのだ、そうだろう?縛られるのは王だけでいいんだ、妃にまでそれは必要ない。」
「──血に縛られるのは王だけ…。」
フェルナンドは項垂れて自らの両手を見つめた。白いその手首にははっきりと血管が見える──。
二人の王太子がソファーについてからもうどれくらい時間がたっただろうか?窓の外では初夏の風に木々の葉が揺らめき、どこからか小鳥が騒ぐ声が聞こえてくる。
扉近くに控えていたレジナルドが小さく咳ばらいをする。ジークフリートは機嫌よさそうに窓の外を眺めている。突然執務室に現れたフェルナンドの方は、どっかりと腰を据え、目を閉じたままだ。
「リアの事で、話があるんだろう?なぜ黙ったまま何も言わない?」
フェルナンドがゆっくりと目を開けると、ジークフリートはまだ窓の外を見ていた。いや、むしろこちらを見る気はないのだろう。
「何から話すべきか考えていた…」
「──今更何を」
呆れたようにジークフリートが笑うと、フェルナンドもまた鼻で小さく笑い窓の外を見た。
「ヴィルヘルムにはビューロー侯爵家以外にもお前にふさわしい家格の令嬢が沢山いる…。なのに何故よりによって彼女なんだ?」
思ったよりも冷静なフェルナンドの話し方にレジナルドは肩の力を緩めた。
「あぁ…。まさか二人でこんな風に一人の女性を取り合うことになるとは思ってもみなかった。」
「そうだな。…まさかだ。」
「…なぜ彼女なのか、それは難しいな…自分でもなぜなのか分からない。気が付いた時にはもう既に彼女のことを愛していた──。」
フェルナンドはジークフリートに怪訝な顔を向けてくる。
「愛?…まさかヴィルヘルムの王太子の口からその様な言葉が出る日が来るとは!」
「意外か?」
ジークフリートは蒼い目を細めると、蕩けるように笑った。
「──リアも、私のことを愛していると言ってくれた。」
「何だと!」
「フェルナンド殿下、お座りください!」
ソファーから立ち上がり、ジークフリートに向っていこうとしたフェルナンドの肩をレジナルドが掴んで制止する。王太子に向って手荒な真似はできないが、相手がフェルナンドであれば少々暴れられても難なく抑えられるだろう。
「ビューロー侯爵令嬢がお前のことを愛しているなど、そのような言葉を口にするわけがない!」
「──なぜそう思う?」
「それは…」
「フェルナンド、教えてやる。昨日の夜この腕の中で、リアは私に愛を囁いてくれた──一晩中ね。おかげで今日は学園を休ませることになってしまった…。」
ジークフリートが妖艶に笑ってみせると、レジナルドが掴んだままだったフェルナンドの肩から力が抜けていくのが分かった。
「──嘘だ、そんな事。信じない…」
「フェルナンド、セシリアを聖女かなにかと勘違いしていないか?──確かに彼女の存在は尊い。だが、彼女もただの一人の女性だ。」
「私は…ステーリア王家の正統な『血』を守らねばならない!そのためには彼女が必要なんだ!彼女の中には私と同じステーリアの『血』が流れて…」
「それがなんだ?これ以上私たち王家の者は『血』に縛られて生きていかねばならないのか?この身体の中にその『血』は存在している、その事実だけでもう十分だろう?」
「ジークフリート──」
「目を覚ませフェルナンド。私たちは『自らの血』で王になるのだ、そうだろう?縛られるのは王だけでいいんだ、妃にまでそれは必要ない。」
「──血に縛られるのは王だけ…。」
フェルナンドは項垂れて自らの両手を見つめた。白いその手首にははっきりと血管が見える──。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる