王太子殿下は甘い物を召し上がりません!

ゆみ

文字の大きさ
55 / 76
6

束の間の休息

しおりを挟む
 大小様々な石を渡った先には透き通った水が打ち寄せていた。遠目には暗い緑色に見えた湖も、こうして近くまで来ると透明でその底にある小石までもが綺麗に見える。
 セシリアは風になびく髪を押さえながら、湖とその向こうに広がる景色を必死で目に焼き付けようとしていた。
「リア様、それ以上行くと濡れちゃうよ?」
「すみません、水は冷たいと仰っていましたものね…。」
 一歩後ろに下がるとジークフリートが隣に並んだ。
「そんなに一生懸命に何を探していたんだ?」
「鳥?魚?」
「いえ、特に何か探していた訳ではありません。そう見えましたか?」
 ジークフリートとレジナルドは顔を見合わせて頷いている。
「今見えているこの景色を全部覚えていたいと思って。」
「それでそんなに…?」
「あ、そう言えば今朝もリア様窓から一生懸命俺達のこと見てたよね?」
 セシリアがレジナルドの言葉に赤くなり俯くと、ジークフリートがからかうように続けた。
「あれはな、私たちに見惚れていたそうだよ。白馬に乗った王子様がお気に召したそうだ。」
「何だ、惚気か?」
王子様だ、残念ながら…。」
「俺も?」
「早朝の湖の神秘的な雰囲気に見とれていたらいきなりお二人の姿が見えたものですから…つい…。」
 ジークフリートが優しい顔でセシリアの手を取った。
「リアの目には全てのことが新しく映っているんだな、少しだけ羨ましい…。」
「あ…。」
 何かを思い出したようにレジナルドが絶句すると、セシリアは再び遠くの山へ視線を動かした。
「お二人が私にこんなにも美しい世界を見せて下さっているんです、だから忘れないようにしっかりと目に焼き付けておきたいと思って。」
「そんな事言うな…。」
 ジークフリートは切なそうにセシリアの肩を抱き寄せた。
「そうだよ、忘れたらまた一緒に来ればいいだけじゃん。」
「新しい街も美しい景色も、これからまだまだ見せて回りたい場所が沢山ある。覚悟を決めておくんだぞ?」
 セシリアはジークフリートの肩に頭を預けると、黙って頷いた。二人の優しさと、湖の美しい景色に感動して何故だか泣き出したい気分だった。
「なんか俺もらい泣きしそう…。」
 珍しい事にしんみりとしたレジナルドの声が隣から聞こえた。
「私の手はもう埋まっているからな、期待するな?」
「も~、出そうだった涙も引っ込むようなこと言わないでよ!」
「…お二人とも、ありがとうございます、もう大丈夫です。」
 セシリアはジークフリートの肩から頭を離すとそう言えばと何かを思い出したようにジークフリートを見上げた。
「そういえば、この場所にわざわざ連れて来られたのには何か理由があったのですか?」
「…いや、ただ石がある湖岸に降りられる場所で一番近かったのがここだっただけだ。」
「嘘つくなよ、今朝リア様の気に入るような場所をあれだけ探し回ってたくせに…。」
「…」
 セシリアは見上げたジークフリートの耳が少しだけ赤いのを確認すると、レジナルドの方を向いて唇に人差し指を立ててみせた。
「レジー様、あんまりいじめちゃダメです!」
「えぇっ?もう、なんだよそれ。リア様には叶わないな…。」
「──次来た時には舟に乗りたいな。確か離宮にあったはずだ。」
 ジークフリートはレジナルドの視界から隠すようにセシリアを抱き寄せると、わざとらしく話を逸らした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里
恋愛
社交界デビューの日。 訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。 後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。 それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

処理中です...