王太子殿下は甘い物を召し上がりません!

ゆみ

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長すぎた不在

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「陛下、お座り下さい。」
「いや、落ち着いてなど居られぬ。」
 スコール団長は国王を鋭い目で睨みつけると、抑えた低い声で絞り出すように告げた。
「レジナルドは私の息子です…。」
 ゴクリと唾を飲み込んで小さく頷くと、国王はそのまま崩れ落ちるように椅子に座った。
「そうだったな…。すまん、お前の方が落ち着いてなど居れんはずなのに。」
「私は大丈夫です。ジークフリート殿下にも連絡がつきましたから状況は掴めております。」
「…そうだ、分かっている。」
「陛下、陛下の気がかりは王妃様の事でしょう?」
「…王都へ戻ると…そう確かに連絡があったのだな?」
「…はい。」

 第一騎士団にレジナルドの第一報が入った直後、その連絡は追いかけるように入ってきた。陛下宛のその連絡こそが今回の事件の真相を伝えるものだったのは言うまでもない。しかしジークフリートからの連絡には真相だけではなく王妃帰還の報までもが含まれていた。決して表沙汰にすることなく、細心の注意を払って王妃を王宮へ連れ込むこと──喫緊の課題は其方だ。第一騎士団は今この時も全力でこの任務にあたっている。正直、レジナルドの件は有耶無耶にできる程の事態だ…。

 国王は一段声を低くしてスコール団長に確認した。
「声は戻っているのだな?」
「はい、殿下も確認されたと言うことです。」
 国王はもう同じやり取りを何度も繰り返していた。信じられないのはスコールも同様だった。ただ落ち着いていられるのはジークフリートの手紙を何度も読み返したからだ。簡潔に纏められたそれは混乱する状況をよく伝えており、騎士の書く報告書さながらだった。
 あの幼かった王子が我を抑えてこれだけの事を自力で納めようと努力しているのだ。レジナルドの父として、騎士団を纏めるものとして、そして国王の補佐として…スコールにはそれを手助けする他道などない。

「陛下、ひとまずお部屋へ戻りましょう。」
 まだ混乱している国王は執務室ではなく私室で控えている方がいいだろう。王妃の部屋は続き部屋だ。今総出で整えている最中の筈だった。九年の不在は流石に長すぎた…。果たして王妃の帰還までにすべての事が間に合うだろうか。

──陛下にもそれまでには何とか落ち着いて頂かないと…。
 スコールは近くにいた騎士を呼び寄せると、陛下の部屋に酒を持って来るよう指示を出した。

「…陛下、王妃様の相手はそんなにお嫌なのですか?」
 自室でソファーに沈み込み何事か思い悩む様子の国王に、スコールは問いかけた。
「今更声が出ましたから戻りますと言われてもどうしていいか分からんだろう?九年の月日は長すぎた…。」
──ならば、どうして途中で迎えに行かなかったのか…。
 スコールは思わず出そうになった言葉を飲み込んだ。そんな月並みな言葉で詰られる程国王は何もして来なかった訳ではない。ジークフリートもスコールも、きっとリーナも王妃を王都に連れ帰るよう最大限の努力をしてきたはずだ。
「王妃様が離宮から戻られるという事は周りからしてみれば慶事でしょう…。」
「隠れてコソコソと帰るのでは意味が無い。本来ならば王宮の正面から堂々と入ってこなければならんのだ…。」
「王妃様にとって王宮は思い出したくもない場所なのでしょう。足を踏み入れる事さえお嫌なはずです。」
「──リーナがしばらく王宮から離れたいと言ってきた…。母親の顔を今は見たくないと…。」
「リーナ様が…。」
「あれは幼い頃から母親の代わりをしっかりと務めてくれた。いろいろと思うところがあるのだろう…。」
「…」

 レジナルドが王妃に剣を向けたとの知らせを聞いた時には一瞬目の前が真っ白になった。バトラー公爵家はこれで終わったのかと、自らの進退まで考えかけた。しかし今心配しなければならないのはバトラー公爵家のことではない、ヴィルヘルム王家の方だ。このままではこの一家は近い将来離散する…。
 
──唯一の救いはジークフリート殿下か…。

 スコールはジークフリートとレジナルドの馬が王宮の門を潜るのをこれ程待ち焦がれたことは今までなかったことに改めて気が付いた。
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