王太子殿下は甘い物を召し上がりません!

ゆみ

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場違いな笑い声

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 ジークフリートとレジナルドの到着を知らせる早馬が王宮に駆け込んだのは夜も更けた頃だった。離宮からほぼ一日で到着した事を考えると馬を変えながらほとんど休まずに走った計算になる。

「殿下、そんなに急がれて万一の事があったら一体どうなさるおつもりでしたか?」
「スコール団長、話は聞いているのだろう?父上は?」
「陛下のお部屋です…。」
「レジーお前も来い。」
 王宮に着くなり直々に出迎えた第一騎士団団長の小言には見向きもせず、ジークフリートはレジナルドを連れたまま国王の私室へ向かおうとした。
「殿下、レジナルドは騎士団で事情聴取がありますので。」
「ではスコール団長、貴方も父上の所に同行してもらおう。私の話が終わった後で騎士団へ連れて行くといい。」
「しかし…」
 馬を降りてからまだ一言も発していないレジナルドを見るが、やはり口を固く閉じたままこちらを見ようともしない。馬で駆け通しだったであろう二人の髪は乱れ、そこには流石に疲れが見てとれる。
「…分かりました。」

 目の前に置かれた水を飲み干すと、ジークフリートはサンドイッチを口にしながら国王に事の経緯を説明し始めた。初めはどうしても立っていると言い張ったレジナルドも、国王の勧めでその隣に座ったが、こちらは水にすら手を付ける様子がない…。
「レジナルドは甘い物の方が良かったか?」
「陛下、こんな時にそんな悠長なことを…。」
「スコール、よい、こんな時だからこそだ。話を聞けば一番の被害者はレジナルドではないか?」
 予め用意されていたかのようにタイミングよくレジナルドの目の前にマドレーヌが出される。
「レジー、お前らしくないぞ?父上もこう言っている、とりあえず何か食べろ。」
 レジナルドはスコールの方を一瞥するといきなり立ち上がり、国王に向かって跪くと深く頭を下げた。
「陛下…ジークフリート殿下をお守りする為であったとはいえ、私が王妃様に剣を向けたのは事実です。処分を受ける覚悟は出来ています。どうか…」
「処分を受ける覚悟は出来ておると申すか?」
 国王はジークフリートから直接話を聞くことで幾分落ち着きを取り戻したのか、レジナルドの言葉を途中で遮ると、目の前の皿からマドレーヌを一つ手に取った。
「…レジナルドを処分するのであれば王妃も処分をせねばなるまいな。」
「当然そうなりますね、そうなると私の婚約者にを盛ったことを公にせねばなりません。」
「それに声が戻っていた事を隠していたことも処分対象になるか…。これでは王妃の方が処分が重くなるな…。どう思う、スコール?」
「その様に言われましても…。私には何も申し上げることは出来ません…。」
 国王はあっという間にマドレーヌを一つ食べ終わるとまだ跪いたままのレジナルドをじっと見つめた。
「ジークフリート、お前ならばレジナルドの処分はどのようなものが相応しいと思うか?」
「勿論、母上がどの様な報告をされるのか待ってからの処分になるでしょうが…。レジーもういいから取り敢えず座れ。」
 そう言うと、ジークフリートもまたマドレーヌを皿からひとつ取り上げ、それをレジナルドの目の前に差し出した。
「私ならば好きな物を一月我慢させる事にするかもしれません。」
「一月か…随分短いな?私ならば半年だろう。」
 レジナルドはジークフリートの差し出したマドレーヌを静かに受け取ると、何も言わずに食べ始めた。
 それを見た国王とジークフリートは顔を見合わせると大きな声を上げて笑い出す…。
「半年もですか?父上もお人が悪い!」
「私はただ意見を聞いただけだ。処分をするとはまだ決めておらんぞ?」
「私だって好きな物と言いましたがそれが何かまでは言っておりません。」

 スコールは黙ってマドレーヌを食べる息子の肩に手を置くと、グッと力を込めた。
「陛下、ひとまず処分は王妃様のお話を聞くまで保留です。それよりも今は殿下には休んで頂かねばなりません。」
 国王はスコールに向かって手を挙げると、分かったと言うように頷いた。
「では、ジークフリートは下がると良い。それからレジナルド、お前も暫くは公爵家に戻る事は許さん、ジークフリートの目の届く範囲で──謹慎だ。」
「目の届く範囲、と言いますと…?」
「北棟にはお前の部屋があるだろう?そこで過ごせ。」
 北棟にある部屋…。そこは幼い頃レジナルドが使っていた部屋の事だった。使われなくなって久しいが、今は臨時の客室になっているはずの部屋だ。
 困惑するレジナルドにジークフリートはわざとらしくしかめっ面をして見せた。
「明日からは忙しくなる。ゆっくりとここで話している暇などない、行くぞ?」
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