王太子殿下は甘い物を召し上がりません!

ゆみ

文字の大きさ
75 / 76
7

新しい日々のはじまり

しおりを挟む
「もっと他にすることがあると思うんだけどさ、よかったの?本当に。」
「長期休暇も終わったことですし……。ダメでしたか?」
「リアが望むことだ、私は喜んで付き合うさ。」
 結局休む暇など欠片もなく、むしろ騒ぎばかりで長期休暇が終わると、セシリアは何事もなかったかのようにまた学園へ通うと言い出したのだった。

 王妃帰還の報と王宮での一連の騒動のお蔭でレジナルドの離宮での不敬は闇に葬られる形となった。王宮には騒動の余韻は未だ残るものの、その行方は騎士団と国王の傘下に委ねられたので少なくとも王太子やその婚約者が出る幕はなかった。

「まぁ学園からレイラ嬢もいなくなったことだしいいんだけどね。でも本当にしばらくの間は覚悟決めといてね?」
「はい、の名に恥じぬよう頑張ります。」
「レジーも頼んだぞ?」
「心配なのはジークのその豹変ぶりもなんだよ?頼むからもうちょっと抑えて?ほら、もっと離れる。」
 レジナルドはジークフリートの手をセシリアの肩から外すと頼むよと苦笑した。

 長期休暇明けの学園はいつにも増して空気がざわついていたが、まさかその只中に王太子とその婚約者を乗せた馬車が到着するとは誰もが予想もしておらず、学園の玄関前は一目その姿を見ようと集まった者達でちょっとした騒ぎになっていた。

 馬車が学園の玄関正面に停まるとレジナルドが扉に手をかけ、二人に向かって頷いて見せた。
「行くよ?」
 レジナルドは先に馬車を降りると扉を支え、次にジークフリートが降り立つのをじっと見守る。続いて軽やかに降り立ったジークフリートは上着をすっと整えるとそのまま恭しく馬車の中に向って手を差し伸べた。
 馬車の中からセシリアの白い手が現れた瞬間、注目していた学園中の者たちが一気に沸き立った。悲鳴に近いものも混ざっているようだ。
「ほら、ね?」
 二人にだけ見えるように口を動かしたレジナルドが先導するように歩き出すと自然に人垣が割れて道ができはじめた。馬車を降りたセシリアはジークフリートの方に向って頷くと手を取り合ってゆっくりと歩き出す。人垣に囲まれた二人はまるで結婚式を終えたばかりのような祝福を受けることになった。

「おめでとうございます!」
「殿下!おめでとうございます!」
 ジークフリートは祝福の声に応えるように一度立ち止まると、セシリアの左手を軽く持ち上げそこに恭しく口付けた。セシリアの左手には朝の陽射しを受けて銀色の『妃の指輪』が眩く光り輝いていた。
「ジーク様!」
 赤くなり恥ずかしそうにするセシリアを横目に、ジークフリートは嬉しそうにそのを高く掲げると周りによく見えるようにした。
「あ~あ、あれだけ抑えろって言ったのに…。」
 人垣の中には意味も分からずにただ便乗して騒いでいるだけの者も多かったが、ジークフリートが嬉しそうに祝福に応える姿を見てそれがセシリアが正式な妃であると示す指輪であることを悟った者も少なくなかった。本来ならば王太子の結婚式の日に贈られる指輪だと気付いた者は少ないはずだ。
「結婚式まで待たなくても問題ないと母上は言っていたからな。本当の事は私たちだけが知っていればいい。」
「リア様は自分のものだって見せつけたいだけなんじゃないの?」
「違う、これからそうなるんだと見せつけたいだけだ。」
「それ婚約って言うんだよ?知ってた?」
「お二人とも、そろそろ限界です。ジーク様、手を降ろしてください。」
 真っ赤な顔をして訴えるセシリアを目にすると、ジークフリートは何とも言えない表情になりすぐに手を降ろし、セシリアをその背に隠した。
「はいはい、俺は何も見ませんからね?」
「とりあえずこの場を離れましょう?お願いですから……。」

 収拾のつかなくなりそうな勢いの人垣を抜けると、前を行くレジナルドが二人を振り返りながらニッコリと笑った。
「それにしてもこの景色、フェルナンド殿下にも見せたかったな。」
「仮にヴィルヘルムにいたとしても姉上と同い年だからアイツはもう卒業していただろう?」
「あ~、もうそうだけどさ?その通りなんだけどさぁ?何かほらみんながこんなに祝福してるところを見せつけたいよね!」
 ジークフリートはレジナルドの肩を叩くと輝くような笑顔を見せた。
「それなら私に任せておけ。二年後の結婚式にはフェルナンドを必ず招待する。」
「でしたら私にも一つ考えがあります。」
 ざわめきが少し遠のいた所でセシリアが歩みを緩めると嬉しそうに微笑んだ。
「何?リア様の考えって。」
 セシリアはゆっくりと二人の顔を眺めると、内緒話をするかのように人差し指を立てた。
「明日にでも、私招待状を書いてステーリアに送ります。」
「は?明日?」
「二年後の結婚式の招待状を明日……か?」
「はい、いい考えだと思いませんか?」
「いいね、リア様最高!」
「フェルナンドの奴の悔しがる顔が目に浮かぶな!」

 長期休暇明けの学園は騒ぎを聞き付け集まった教師たちによりようやく事態の収拾がつくまで、それから半日かかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...