ある日王子は国を出ることにした

ゆみ

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曖昧な関係

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 既に月は高く上がり、気付けばすっかり夜が更けていたが、誰もが興奮冷めやらぬ様子で話を止めようとはしなかった。
 やがて船旅の疲れが出たのかうつらうつらしていたジャンが俯いたまま動かなくなった。
 それにいち早く気付いたマルセルはロベールに目くばせをすると声のトーンを落とした。

「続きはまた明日だな。流石に私もしゃべり疲れた…。今日だけで1年分くらい話をしたんじゃないか?」
「確かに。ジャンは寝たみたいだが……どうする?」
「そのうち目が覚めるだろう。いいからそのままにしておけ。」

 いつになく優しい眼差しをジャンに向けるマルセルをロベールはじっと見つめると、小さくため息をついた。

「ジャンには随分優しいんだな。」
「なんだ、お前嫉妬してるのか?」
「なっ…!」

 ロベールは口元を片手で隠すとソファーから勢いよく立ち上がった。

「俺に対する態度と違いすぎないか?言っておくが俺の方がお前との付き合いは長いんだ。それに……2年後に俺たちは結婚するんだ。」
「ロベール、いい機会だから言っておくが、私は男には興味がない。女にもだが。」
「……知ってる。そのお前がジャンだけ特別扱いし始めたから言ってるんだ。俺だって普通の男には興味がない。相手がお前だから結婚なんて馬鹿げた──」
「そのくらいにしておけ。後悔するぞ。」

 マルセルは部屋の扉を黙って指さすと、ロベールをじっと見つめた。ロベールはまだ言い足りないような顔をしてマルセルを見つめていたが諦めたのかそれ以上は口を開かなかった。

「長い付き合いだ、私だってロベールの考えていることくらい分かっているつもりだ。」
「それは……。」
「早く部屋に戻れ。どうせまた明日も早くから押しかけて来るんだろ?」

 ロベールは俯くと拳を強く握りしめ、顔を上げないままでマルセルに答えた。

「……あぁ。たたき起こしに来るからな?覚悟しとけよ?」
「……」
 
 そう言い捨てるとロベールはマルセルと目を合わせることなく部屋を後にした。扉の閉まる音がすると同時にソファーで寝ていたはずのジャンがそっと目を開けたのが分かった。

「起きていたのか……。」
「……ロベールの声で目が覚めた。」
「全部聞いていたのか?」
「……多分ほとんど。話の途中で起き出して席を外す訳にもいかなかったからな。」
「そうか。」

 マルセルはソファーで大きく伸びをすると短い髪をぐしゃぐしゃとかきむしった。

「なんでこんなに私の周りでは面倒な事ばかり起きるんだろうな?いい加減うんざりだ。」

 ジャンはソファーに座り直すと苦笑しながらマルセルを見上げた。

「そういう星の元に生まれ落ちたんだと……あきらめるしかない。生まれも外見も性格も、何一つ簡単に変えられるものなどないからな。」
「分かってる。それにしても……驚かないんだな?ロベールの事。」
「ロベールがマルセルの事をどう思っているかなんて見ればすぐにわかる。だから信用できないと思っていたんだ。だけどマルセルがその事に気付いているのなら話は別だ。」
「……あいつが私を裏切れないのを知った上でいいように利用してるんだ。全く……我ながらひどい性格だと呆れる。」
「ロベールだってうすうす気付いているんじゃないか?それでも利用されてやってるんだ、だったら問題ない。」

 マルセルは眩しそうにジャンの顔を見ていたが、しばらくすると真剣な眼差しになり小声で囁いた。

「お前はどうなんだ?好きな相手がいるのか?」
「人に聞く前に自分はどうなんだよ?さっき男にも女にも興味がないとか言ってたけど?」
「……周りの人間関係がここまで拗れていると人間不信に陥ってもおかしくないだろ?私は恋愛感情がどういうものなのかまだ分からない。」

 ジャンは面白そうにマルセルを見た後、照れくさそうに窓の外に目を逸らした。

「俺だってまだそういう相手には会ったことがない。ただ一つ言えるのは男の相手はムリだ。」
「……それは…三年前の事件で?」
「誤解するな?あの時の奴らには服を破かれて少し殴られただけでそれ以上のことはされてないからな?」
「あ……そうだったのか。」

 マルセルは自分の口から出た間抜けな言葉に思わず吹き出して笑っていた。ジャンの方もマルセルの笑顔を見て自然に微笑んでいる。

「マルセルが笑ったところを初めて見た気がする。」
「あぁ、確かに久しぶりに笑ったかもしれない。なぁジャン、頼みがあるんだが。」

 マルセルは笑いをこらえながらジャンの方を見ると思いついたことをそのまま口に出した。

「ジャンの方が私より先に恋をするような気がするんだ。だから、もしその時が来たら私にも教えてくれないか?」
「教えるって、何を?」
「全部だよ。できれば相手も見てみたい。」
「……マルセルが先だったら俺に全部教えるんだな?だったら構わない。」
「あぁ、そうだ。お前がどんなを好きになるのか気になるな。楽しみが一つできた。」
「楽しみって……。」

 マルセルは大きく息を吐きだすと満足そうに眼を閉じた。心地よい眠気が襲ってくるのが分かる。ジャンはマルセルがソファーで眠ろうとしているのを横目に自分も目を閉じながら父親の事を考えていた。

「……恋愛の話なら父に聞いてみるのが早いかもしれない。」

 独り言のようにひっそりとつぶやかれた言葉を耳にすると、マルセルは目を閉じたままで静かに微笑み口を開いた。

「ポールは駄目だ。母上と結ばれなかったんだから。」
「駄目ってひどいな。でもお互い心は繋がっていたのかもしれない。」
「私はそういう曖昧な関係ならいらない、面倒なだけだからな。」

 ジャンはため息をつきながら目を開けると、無防備にソファーで寝息をたて始めたマルセルをまじまじと観察した。三年前と大きく変わったのは髪の長さくらいだろうか?相変わらずマルセルは色が白く滑らかな肌をしており、黙っていれば女のようにも見えた。いつもそばにいるロベールがマルセル以外に目を向けられない理由が少し分かる気がする。
 ジャンは自分が笑った時に顔を赤くしていたロベールの事を思い出すと顔を顰めてマルセルを見下ろした。

「俺も周りからはこんな風に見えているのか?いや、でも……」
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