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公爵家の使用人
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マルセルはジャンと共に新しい住居で暇を持て余していた。窓の外には完璧な青空が広がり外出するにはもってこいの天気なのだが、先程出て行ったロベールに外出禁止をキツく言い渡されていたからだ。
王都クロゼに公爵家の馬車で到着した三人は、途中下車することもなく真っ直ぐに王都での生活拠点となる学園近くの屋敷に入った。
当初ロベールとマルセルは学園寮の一角を借りるつもりでいたのだが、ジャンが一人増えるという事もあり手狭になるだろうと言う事で、公爵が急遽王都にある公爵家所有の屋敷を使えるよう手配してくれたのだった。
問題は屋敷に到着して直ぐに発覚した。屋敷にいる使用人は何故か女性ばかりで年頃も丁度ロベール達と釣り合うくらいの者ばかりで揃えられていたのだ。
出迎えた使用人を見た瞬間に絶句したマルセルを他所に、ジャンはどこまでも涼しい顔をしてマルセルを部屋まで送ってくれたのだが……。ロベールは悪態をつきながら公爵に抗議に行くから部屋から一歩も出るなと言い渡して出て行ったところだった。
「……あいつは使用人全員を入れ替えろとでも言うために飛んで行ったんだろうな。ご苦労な事だ……。公爵は一体何を考えてるんだろうな。ロベールに早く孫でも作らせたいのか?」
「さぁ?全くの他人事のような顔をしているが案外狙いはマルセルかもしれないぞ?」
ジャンは窓辺まで歩いて行くとそこから外の景色を眺めながら苦笑した。
「私か?私は使用人の顔などわざわざ見ない。」
「今までザールやミレーヌの屋敷ではそれで良かったのかもしれないが、王都ではもう少し警戒した方がいいんじゃないか?」
「まぁ……確かに。」
マルセルは正論を吐くジャンをじっと見つめている内に、その視線の先に何があるのかが気になりだし、ジャンの隣へ並ぶとそこに何があるのかと確認した。窓から見えるのは先程馬車で入ってきた敷地内の道だけ……特段変わった様子もない。
「何を見ている?」
マルセルが不思議そうに聞くとジャンは視線をマルセルに向け、真剣な顔で答えた。
「この屋敷に到着してどう思った?ミレーヌやザールの屋敷と比べて少し狭いとでも思ったか?でも考えてみろ?王都の一等地に俺たち三人だけのためにこれだけの広さの屋敷を用意してもらうっていうのは普通じゃ考えられない事だ。」
「並の貴族や一般の住まいと比べるとそうだろうな。……公爵家の屋敷なんだから。」
ジャンは窓の外の空と同じ蒼い色をした目でマルセルを見つめたまま話を続けた。
「ロベールとマルセルにとっての普通は他の者には通用しないと思った方がいい。学園に通っているうちはまだいい、周りは貴族の子女ばかりだから。苦労するのはザールに戻ってからだ。陛下や公爵の援助もなく動こうとしてるんだろ?」
マルセルはジャンの言葉に頷きながらもう一度窓の外の何でもない景色に目をやった。
「私たちが今から普通の感覚を養うのは苦労するだろうが……。」
「慣れだよ。そう言う俺もまだステーリアの感覚が抜けなくて困ってるところだが……。」
「ステーリアの?」
「あぁ。言葉も通貨も、まだトロメリンの感覚には慣れないな。」
「そうか……。考えてみたら私は今までザールの屋敷に閉じこもってばかりいたから、屋敷の外の世界は異国のようなものだな。トロメリン語も通貨も分からない。」
「言葉も?俺はマルセルのことだからてっきりトロメリン語は完璧なんだとばかり……。」
「ジャンが留学している間に言語はかなり勉強した。だが実際に話す機会はそんなになかったからな。」
「学園が実践の場か。」
顔を上げた二人の目に、一台の馬車が邸内に入って来るのが見えた。公爵家の紋が入っているからロベールが帰ってきたのだろう。
「ロベールの奴、やけに早かったな。」
「確かに。公爵を王宮に訪ねて行ったんだろ?」
「そのはずだが。」
スピードをゆるめた馬車は二人の視界から外れた。マルセルとジャンは顔を見合わせるとどちらからともなく窓辺からソファーへと移動してロベールを待つことにした。ロベールの事だからきっと真っ先にこの部屋に飛び込んでくるだろう。
やがて二人の予想通り騒々しい足音が響いてきた。
「二人には悪いが、この屋敷の女使用人全員をひとまず引き揚げさせることにしてきた。」
部屋に飛び込むなり息をはずませたままのロベールは二人に向かって軽く頭を下げた。
「待て、今何と言った?使用人全員を引き上げさせる?」
「あぁ。俺もカチンときて、つい売り言葉に買い言葉で……。」
「それで、いつ使用人はいなくなる?」
「すぐにだ。さっき責任者には伝えておいた。悪いがミレーヌの別荘から代わりが来るまでしばらくの間は我慢してくれ。」
「……我慢?」
マルセルとジャンは呆気にとられてロベールを凝視した。ロベールは懐から重たそうな袋を取り出すと、それを机の上に音を立てて置いた。
「当面の資金は準備してある。この後買い出しに行こうと思うんだが……。どうする?三人で行くか?」
「それは止めておこう。丁度この辺りの様子を見に行こうと思っていたんだ、俺が一人で行ってくる。ロベールはマルセルと一緒に残っていて欲しい。」
「……俺はそれでも構わないが。」
ロベールが迷っているうちに、ジャンは袋の口を開けると小さく感嘆の声を上げた。
「袋一杯の銀貨……しかも新品か、すごい量だな。」
「さすが箱入り息子、とでも言いたいんだろ?しばらくはそれで間に合うはずだ。じゃあ頼んでいいか?」
ジャンは銀貨を数枚袋から取り出すと、静かに頷いた。
「それと、馬を借りたいんだが。」
「あぁ、男の使用人は残っているから心配するな。それから……コックは女だったから、何か食べるものを……。」
「……公爵もどうかと思うがロベールも大概だな。」
マルセルは大きくため息をつくとロベールの足を軽く蹴った。
王都クロゼに公爵家の馬車で到着した三人は、途中下車することもなく真っ直ぐに王都での生活拠点となる学園近くの屋敷に入った。
当初ロベールとマルセルは学園寮の一角を借りるつもりでいたのだが、ジャンが一人増えるという事もあり手狭になるだろうと言う事で、公爵が急遽王都にある公爵家所有の屋敷を使えるよう手配してくれたのだった。
問題は屋敷に到着して直ぐに発覚した。屋敷にいる使用人は何故か女性ばかりで年頃も丁度ロベール達と釣り合うくらいの者ばかりで揃えられていたのだ。
出迎えた使用人を見た瞬間に絶句したマルセルを他所に、ジャンはどこまでも涼しい顔をしてマルセルを部屋まで送ってくれたのだが……。ロベールは悪態をつきながら公爵に抗議に行くから部屋から一歩も出るなと言い渡して出て行ったところだった。
「……あいつは使用人全員を入れ替えろとでも言うために飛んで行ったんだろうな。ご苦労な事だ……。公爵は一体何を考えてるんだろうな。ロベールに早く孫でも作らせたいのか?」
「さぁ?全くの他人事のような顔をしているが案外狙いはマルセルかもしれないぞ?」
ジャンは窓辺まで歩いて行くとそこから外の景色を眺めながら苦笑した。
「私か?私は使用人の顔などわざわざ見ない。」
「今までザールやミレーヌの屋敷ではそれで良かったのかもしれないが、王都ではもう少し警戒した方がいいんじゃないか?」
「まぁ……確かに。」
マルセルは正論を吐くジャンをじっと見つめている内に、その視線の先に何があるのかが気になりだし、ジャンの隣へ並ぶとそこに何があるのかと確認した。窓から見えるのは先程馬車で入ってきた敷地内の道だけ……特段変わった様子もない。
「何を見ている?」
マルセルが不思議そうに聞くとジャンは視線をマルセルに向け、真剣な顔で答えた。
「この屋敷に到着してどう思った?ミレーヌやザールの屋敷と比べて少し狭いとでも思ったか?でも考えてみろ?王都の一等地に俺たち三人だけのためにこれだけの広さの屋敷を用意してもらうっていうのは普通じゃ考えられない事だ。」
「並の貴族や一般の住まいと比べるとそうだろうな。……公爵家の屋敷なんだから。」
ジャンは窓の外の空と同じ蒼い色をした目でマルセルを見つめたまま話を続けた。
「ロベールとマルセルにとっての普通は他の者には通用しないと思った方がいい。学園に通っているうちはまだいい、周りは貴族の子女ばかりだから。苦労するのはザールに戻ってからだ。陛下や公爵の援助もなく動こうとしてるんだろ?」
マルセルはジャンの言葉に頷きながらもう一度窓の外の何でもない景色に目をやった。
「私たちが今から普通の感覚を養うのは苦労するだろうが……。」
「慣れだよ。そう言う俺もまだステーリアの感覚が抜けなくて困ってるところだが……。」
「ステーリアの?」
「あぁ。言葉も通貨も、まだトロメリンの感覚には慣れないな。」
「そうか……。考えてみたら私は今までザールの屋敷に閉じこもってばかりいたから、屋敷の外の世界は異国のようなものだな。トロメリン語も通貨も分からない。」
「言葉も?俺はマルセルのことだからてっきりトロメリン語は完璧なんだとばかり……。」
「ジャンが留学している間に言語はかなり勉強した。だが実際に話す機会はそんなになかったからな。」
「学園が実践の場か。」
顔を上げた二人の目に、一台の馬車が邸内に入って来るのが見えた。公爵家の紋が入っているからロベールが帰ってきたのだろう。
「ロベールの奴、やけに早かったな。」
「確かに。公爵を王宮に訪ねて行ったんだろ?」
「そのはずだが。」
スピードをゆるめた馬車は二人の視界から外れた。マルセルとジャンは顔を見合わせるとどちらからともなく窓辺からソファーへと移動してロベールを待つことにした。ロベールの事だからきっと真っ先にこの部屋に飛び込んでくるだろう。
やがて二人の予想通り騒々しい足音が響いてきた。
「二人には悪いが、この屋敷の女使用人全員をひとまず引き揚げさせることにしてきた。」
部屋に飛び込むなり息をはずませたままのロベールは二人に向かって軽く頭を下げた。
「待て、今何と言った?使用人全員を引き上げさせる?」
「あぁ。俺もカチンときて、つい売り言葉に買い言葉で……。」
「それで、いつ使用人はいなくなる?」
「すぐにだ。さっき責任者には伝えておいた。悪いがミレーヌの別荘から代わりが来るまでしばらくの間は我慢してくれ。」
「……我慢?」
マルセルとジャンは呆気にとられてロベールを凝視した。ロベールは懐から重たそうな袋を取り出すと、それを机の上に音を立てて置いた。
「当面の資金は準備してある。この後買い出しに行こうと思うんだが……。どうする?三人で行くか?」
「それは止めておこう。丁度この辺りの様子を見に行こうと思っていたんだ、俺が一人で行ってくる。ロベールはマルセルと一緒に残っていて欲しい。」
「……俺はそれでも構わないが。」
ロベールが迷っているうちに、ジャンは袋の口を開けると小さく感嘆の声を上げた。
「袋一杯の銀貨……しかも新品か、すごい量だな。」
「さすが箱入り息子、とでも言いたいんだろ?しばらくはそれで間に合うはずだ。じゃあ頼んでいいか?」
ジャンは銀貨を数枚袋から取り出すと、静かに頷いた。
「それと、馬を借りたいんだが。」
「あぁ、男の使用人は残っているから心配するな。それから……コックは女だったから、何か食べるものを……。」
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マルセルは大きくため息をつくとロベールの足を軽く蹴った。
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