元気の良さだけが取り柄な私に、今日も貴方は優しい

ゆみ

文字の大きさ
6 / 23

丁度いい相手

しおりを挟む
「あぁそう言えばさっきおばさんが金を持って頭を下げに来てね。あの様子じゃ、セブおじさん、しばらく店に来させてもらえないかもしれないよ?」
「そうなんだ?今日はちょっと飲み過ぎたみたいだったもんね。」
「あの人とは話せたのかい?クラリスが話があるって呼んだんだろ?」

 店の片付けが終わり家族三人で食卓を囲んでいた。食事中にこうやって話をするのは何時でも叔母とクラリスの女二人。叔父は静かに食事を食べると新聞を広げながら一人で酒をちびちびと飲み始めた。

「おじさんを送って行ったら戻ってきてって言ってたの。ほら、お金を返さないといけないから丁度いいかな?って思って。」
「へぇ…本当にそれだけ?にしては長く話し込んでたじゃないか?」

 叔母はトマトをフォークに刺しながらクラリスの痛い所をついてくる。

「そんなに長くはなかったでしょ?」
「…どうだか?」
「ほとんど私が喋ってただけだし……。」

 叔母はトマトを口にするとふーんといいながらクラリスに笑いかけた。

「……この辺では見かけないくらいいい男だもんね。おまけに優しそうだし。まぁ、口数は少ないみたいだけど、その分クラリスがよく喋るから丁度いいんじゃないかい?」
「な、何が丁度いいのよ?」
「とぼけるんじゃないよ、最近ずっとあの人の事ばかり目で追いかけてるじゃないか。」

 クラリスはフォークを置くと紅茶に手を伸ばした。店で出すのよりも安物の色の薄い紅茶…。休憩中にクラリスがいつも飲んでいるのはこの紅茶だ。香りなどほとんどない色のついただけの飲み物。

「丁度よくなんてないのよ、多分。」
「そうなのかい?」
「そうよ。訳アリそうな人だもん。」
「う~ん…まぁ確かに何か隠してはいそうだね。謎の多い男、いいじゃないかい!肉屋の息子とは大違いだ。」
「何でそこでマークが出てくるのよ…?」

 クラリスは不満そうに紅茶を一口飲むと叔母を睨んだ。

 肉屋のマークはクラリスの二つ年上。この辺りの商店街で丁度クラリスと年の釣り合う相手だということで、結婚相手にどうかと親が話を進めようとしていたがある。
 癖の強い赤毛で身体の大きいマークは肉屋の跡継ぎらしい外見だ。そしてこれはなかなか周りにも理解してもらえないのだが……隣に並ぶと肉屋特有のにおいが鼻につく。二度程デートらしきものを叔母に仕組まれた事があって仕方なく付き合ったのだが、クラリスはそのにおいが何よりも耐えられなかった。
 二度目のデートの時にそれとなくマークにも何か香水でもつける気はないのかと聞いてみたのだが、商売柄そういう訳にもいかないそうだ。それに本人は肉屋で生まれて肉屋で育っているのだから、においと言われても分からないようだった。

「マークはあの通り馬鹿がつくほど分かりやすい性格の男だからね?クラリスも知ってるだろう?」
「……まぁ…ね。」

 マークはクラリスの叔母から何かそそのかされたのだろうか?二回目のデートをした半年ほど前から急にクラリスに対して馴れ馴れしく接するようになって来た。まるで自分はクラリスの婚約者であるとでも言わんばかりのその態度には、流石のクラリスも辟易していたところだ。
 先日も買い物で肉屋に立ち寄っただけのクラリスに向かっていきなり詰め寄って来た事があった。

『 最近お前の所に通う男がいるらしいが、一体どういうことなんだ?』

 もちろんクラリスの所に通う男というのはジャンの事だろう。店の常連客の中には商店街の者も多いからどこかから変な噂がたっているのかもしれない。

 クラリスは肉屋で詰め寄ってきたマークの事を思い出すと同時に顔をしかめた。

「……肉屋としての目と腕は確かだ。親父さんの教えがいいんだろう。」

 それまで会話に全く興味がなさそうにしていた叔父が新聞から目をあげることも無く小さく呟いた。
 この店の仕入れる肉はマークの父親が全て手配してくれているのだから父親同士もそれなりの付き合いがあるのだろう。

「ねぇ、お父さんは肉屋のにおいって分かる?」
「もちろん。腐ったようなあの臭いだろう?」
「……」
「マークが嫌なのはそのせいか?」
「……嫁いだらずっとあの中で暮らすことになるんでしょ?肉屋のおカミさんとして。」
「……」
「慣れると思う?」
「俺なら無理だ…吐く。」
「ちょっとアンタ!それは流石に失礼だろう?うちだって揚げ物の油臭いとか文句言われたからって、『じゃあメニュー変えます』とはいかないんだからさ?」
「分かってるがそういうのは本能的なものだ。簡単に慣れるもんでもないさ。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁

瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。 彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

【完結/番外追加】サリシャの光 〜憧れの先へ〜

ねるねわかば
恋愛
彼女は進む。過去に囚われた者たちを残して── 大商会の娘サーシャ。 子どもの頃から家業に関わる彼女は、従妹のメリンダと共に商会の看板娘として注目を集めていた。 華々しい活躍の裏で、着実に努力を重ねて夢へと向かうサーシャ。しかし時には心ないことを言う者もいた。 そんな彼女が初めて抱いた淡い恋。 けれどその想いは、メリンダの涙と少年の軽率な一言であっさり踏みにじられてしまう。 サーシャはメリンダたちとは距離をおき、商会の仕事からも離れる。 新たな場所で任される仕事、そして新たな出会い。どこにあっても、彼女が夢を諦めることはない。 一方、光に囚われた者たちは後悔と執着を募らせていき── 夢を諦めない少女が、もがきながら光を紡いでいく軌跡。 ※前作「ルースの祈り」と同じ世界観で登場人物も一部かぶりますが、単体でお読みいただけます。 ※作中の仕事や制作物、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。

処理中です...