7 / 23
待ち人来らず?
しおりを挟む
日はとっくに沈んでしまった。そろそろ人気のメニューは売り切れが目立つ時間帯になって来た。
クラリスはまだまだ忙しく料理をテーブルに運んでいたが、扉が開く度に期待を込めた目で振り向くのはもう辞めていた。
いつもならもっと早い時間に来るはずのジャンがこの時間になっても来ないのだ。
──昨日私が変な事言っちゃったせいかな……。
客が帰った後のテーブルを片付けながらジョッキを四つ取り上げるとカウンターの奥に向かう。
「クラリス?」
「?」
ジョッキを抱えたままギョッとして振り向くとそこにはいつの間に来ていたのかマークの姿があった。
「マーク?」
「なんだよ、そんなに驚く事ないだろう?」
酒を飲んでいるのだろう、赤い顔をしたマークはクラリスに一歩一歩と詰め寄って来てその度にクラリスは後退した。
「珍しいじゃない?酔ってるの?」
「そうだよ。さっきからそこで飲んでたのに何でお前がテーブルに来ないんだよ?」
「あ……。ごめん、ちょっと先にこのジョッキ持って行きたいんだけど……?」
先程からジョッキを抱えたままの状態での立ち話の為、心ここに在らずなクラリスにマークは構わず話し続ける。
「どこに行くんだ?俺の前から消えるのか?」
「いや、だからジョッキを片付けないと……」
マークの顔がクラリスに近寄ると酒の臭いがした。どうやら今夜は肉屋のにおいより酒のにおいが勝っているようだ……。どちらにしろクラリスにとっては──。
「その辺で止めておけ……」
クラリスがカウンター際に詰め寄られ、身動きが取れなくなっていた所でマークの大きな身体がいきなり横に大きく移動したのが分かった。
何事かとマークの身体の向こう側に目をやると、薄茶の髪が揺れるのが見えた。
「ジャン?」
「……大丈夫?」
「あ、私は……大丈夫……」
何が起こったのか分からずにボーッと突っ立っているクラリスの手からジョッキを取り上げると、ジャンは何事もなかったかのように涼しい顔をしてカウンターの上にそのジョッキを置いた。それを見ていたマークが更に顔を赤くしているのが分かった。
「貴様!騙したな?」
「……」
マークはブルブルと震える手でジャンを指差すとそのまま勢いよく飛びかかろうとした。しかし一足早く身をかわしたジャンにそのまま後ろ手を取られて直ぐに床に引き倒されてしまう。
遠目に様子をうかがっていた客たちもそろそろ騒ぎに気付き出している。これ以上店内で騒がれるのは流石にまずい。
「ジャン、マークを連れて外に……。」
クラリスがジャンの耳元に囁くとジャンは静かに頷いてマークを立たせた。
カウンターからすぐ目の前にある扉を開き二人を通りに出すと続いてクラリスも外に出た。
「痛い!離せ!」
「……」
「マーク、暴れるのはやめて!」
「コイツが俺の脇腹に剣を突き付けて何か言ったんだ!」
「剣?」
「クラリスに話してる時にいきなり後ろから剣を突き付けられて驚いて避けたんだよ!」
「あ、そういう事だったのね?」
詰め寄られていたあの状態でいきなり横に移動したのは剣を突き付けられたと勘違いしたから…のようだ。
クラリスが答えを求めてジャンの方を見るとジャンは少し考えた後でマークの腕を離し、外套の中に手を入れた。
「お、おい!やめろ!」
驚いて大声を出しながら腰を抜かしそうになるマークの目の前にジャンは抜き身の刀を一瞬見せると目配せをし、また元に戻した。
クラリスも、おそらくはマークも抜き身の剣を見るのはこれが初めての経験だった。マークは通りに座ったまま酔いがすっかり覚めた様子でジャンを見上げた。
「本物?」
「……騙してはいない。」
「コイツがクラリスに付きまとってる男なのか?冗談じゃない!頭がどうかしてるんじゃないか?」
「ジャンは別にそんなんじゃない!付きまとってるのはマークの方じゃないの?」
「俺はクラリスの婚約者なんだからその言い方はないだろう?」
「いつ私がアンタなんかと婚約したのよ?」
「いつって、それは……。」
ジャンは黙って言い争う二人を見ていたが、クラリスと目が合うとその目が面白そうに笑った。
「二人目の婚約者登場だな……」
「何?まさかお前この男とも婚約したのか?」
「え?いや、それは……」
「……金物屋の孫だ。」
「は?」
マークは通りに寝そべるのではないかと言わんばかりに大げさに仰け反った。
クラリスはまだまだ忙しく料理をテーブルに運んでいたが、扉が開く度に期待を込めた目で振り向くのはもう辞めていた。
いつもならもっと早い時間に来るはずのジャンがこの時間になっても来ないのだ。
──昨日私が変な事言っちゃったせいかな……。
客が帰った後のテーブルを片付けながらジョッキを四つ取り上げるとカウンターの奥に向かう。
「クラリス?」
「?」
ジョッキを抱えたままギョッとして振り向くとそこにはいつの間に来ていたのかマークの姿があった。
「マーク?」
「なんだよ、そんなに驚く事ないだろう?」
酒を飲んでいるのだろう、赤い顔をしたマークはクラリスに一歩一歩と詰め寄って来てその度にクラリスは後退した。
「珍しいじゃない?酔ってるの?」
「そうだよ。さっきからそこで飲んでたのに何でお前がテーブルに来ないんだよ?」
「あ……。ごめん、ちょっと先にこのジョッキ持って行きたいんだけど……?」
先程からジョッキを抱えたままの状態での立ち話の為、心ここに在らずなクラリスにマークは構わず話し続ける。
「どこに行くんだ?俺の前から消えるのか?」
「いや、だからジョッキを片付けないと……」
マークの顔がクラリスに近寄ると酒の臭いがした。どうやら今夜は肉屋のにおいより酒のにおいが勝っているようだ……。どちらにしろクラリスにとっては──。
「その辺で止めておけ……」
クラリスがカウンター際に詰め寄られ、身動きが取れなくなっていた所でマークの大きな身体がいきなり横に大きく移動したのが分かった。
何事かとマークの身体の向こう側に目をやると、薄茶の髪が揺れるのが見えた。
「ジャン?」
「……大丈夫?」
「あ、私は……大丈夫……」
何が起こったのか分からずにボーッと突っ立っているクラリスの手からジョッキを取り上げると、ジャンは何事もなかったかのように涼しい顔をしてカウンターの上にそのジョッキを置いた。それを見ていたマークが更に顔を赤くしているのが分かった。
「貴様!騙したな?」
「……」
マークはブルブルと震える手でジャンを指差すとそのまま勢いよく飛びかかろうとした。しかし一足早く身をかわしたジャンにそのまま後ろ手を取られて直ぐに床に引き倒されてしまう。
遠目に様子をうかがっていた客たちもそろそろ騒ぎに気付き出している。これ以上店内で騒がれるのは流石にまずい。
「ジャン、マークを連れて外に……。」
クラリスがジャンの耳元に囁くとジャンは静かに頷いてマークを立たせた。
カウンターからすぐ目の前にある扉を開き二人を通りに出すと続いてクラリスも外に出た。
「痛い!離せ!」
「……」
「マーク、暴れるのはやめて!」
「コイツが俺の脇腹に剣を突き付けて何か言ったんだ!」
「剣?」
「クラリスに話してる時にいきなり後ろから剣を突き付けられて驚いて避けたんだよ!」
「あ、そういう事だったのね?」
詰め寄られていたあの状態でいきなり横に移動したのは剣を突き付けられたと勘違いしたから…のようだ。
クラリスが答えを求めてジャンの方を見るとジャンは少し考えた後でマークの腕を離し、外套の中に手を入れた。
「お、おい!やめろ!」
驚いて大声を出しながら腰を抜かしそうになるマークの目の前にジャンは抜き身の刀を一瞬見せると目配せをし、また元に戻した。
クラリスも、おそらくはマークも抜き身の剣を見るのはこれが初めての経験だった。マークは通りに座ったまま酔いがすっかり覚めた様子でジャンを見上げた。
「本物?」
「……騙してはいない。」
「コイツがクラリスに付きまとってる男なのか?冗談じゃない!頭がどうかしてるんじゃないか?」
「ジャンは別にそんなんじゃない!付きまとってるのはマークの方じゃないの?」
「俺はクラリスの婚約者なんだからその言い方はないだろう?」
「いつ私がアンタなんかと婚約したのよ?」
「いつって、それは……。」
ジャンは黙って言い争う二人を見ていたが、クラリスと目が合うとその目が面白そうに笑った。
「二人目の婚約者登場だな……」
「何?まさかお前この男とも婚約したのか?」
「え?いや、それは……」
「……金物屋の孫だ。」
「は?」
マークは通りに寝そべるのではないかと言わんばかりに大げさに仰け反った。
0
あなたにおすすめの小説
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。10~15話前後の短編五編+番外編のお話です。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。 ※R7.10/13お気に入り登録700を超えておりました(泣)多大なる感謝を込めて一話お届けいたします。 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.10/30に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。 ※R7.12/8お気に入り登録800超えです!ありがとうございます(泣)一話書いてみましたので、ぜひ!
老伯爵へ嫁ぐことが決まりました。白い結婚ですが。
ルーシャオ
恋愛
グリフィン伯爵家令嬢アルビナは実家の困窮のせいで援助金目当ての結婚に同意させられ、ラポール伯爵へ嫁ぐこととなる。しかし祖父の戦友だったというラポール伯爵とは五十歳も歳が離れ、名目だけの『白い結婚』とはいえ初婚で後妻という微妙な立場に置かれることに。
ぎこちなく暮らす中、アルビナはフィーという女騎士と出会い、友人になったつもりだったが——。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる