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二人目の婚約者
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「セブおじさんの孫?」
「……まだ小さいが次期男爵だそうだ。」
クラリスはジャンの言葉に頭を抱えた。
「セブおじさん……まさかジャンにそんな事まで……。」
「どういうことなんだ、男爵って?あ…そうか!レイラが嫁いだ先が爵位持ちだったと確か前に聞いたことがあったな……。」
「……」
「その通りよ。レイラさんが男爵夫人なんだから子供が爵位を継ぐんでしょ?ただ私が婚約するとかいう話はセブおじさんが一人で勝手に口にしてただけで…。私はお断りしたのよ?それに、マーク、あなたとの話も……私、きちんと断ったはずだわ。」
クラリスは暗い通りに座ったままのマークの顔が店の照明を受けて白く浮かび上がっているのをじっと見つめていた。マークは顔を強ばらせながらクラリスの方を見上げている。
「それはお前の本心じゃないと…俺は聞いた。」
「……誰から?」
マークは視線を店の窓の方へ向けると顎でそちらを示した。
「叔母さん。クラリスは俺の事が好きなんだって。だから多少恥ずかしがっていても大丈夫だから気にするなって……。」
ジャンは静かにクラリスに視線を送った。クラリスは首を横に振ると大きくため息をついた。
「……私は何も言ってない。マークの事好きだとか婚約するだとか。それは全部お母さんとマークの間の約束でしょ?しかも1年以上前の話。」
「……だから、その頃は俺の事を……」
「ごめんね。私マークの事そういう風な目で見た事、今までなかった。」
「クラリス!」
マークは慌てて立ち上がるとクラリスに再び詰め寄ろうとした所でジャンに手を掴まれた。
「……そういう事だそうだ。諦めろ。」
「貴様!」
マークは悔しそうにジャンを睨んだものの、外套にふと目を向けるとそこに剣がある事を思い出したようで歯を食いしばった。ジャンはすかさずマークの耳元に何かを囁くと掴んでいた手を離した。
マークはなおも諦めきれない様子でクラリスをじっと見つめていたが、やがて後ずさるようにして二人の前から逃げるように帰って行った。
暗闇に消えて行くマークの後ろ姿が小さくなり、やがて見えなくなると、ジャンはクラリスの方に少しだけ歩み寄った。
「ジャン…ありがとう、助けてくれて。」
ジャンはクラリスに向かい合うように立つと微かに笑みを浮かべて頷いた。
「今日はもう店に来ないんだと思ってた、昨日私が──。」
ジャンは口の前に人差し指を立ててしーっと言いながらクラリスの言葉を遮ると、外套のポケットに手を入れた。
「……明日からしばらく店に来ることが出来ない。だから、これ。」
ジャンはクラリスの手をそっととるとポケットから取り出した紙袋を握らせた。
「私に?何?」
「……紅茶。これが無くなるまでにまた来る。」
「紅茶?」
クラリスが紙袋を開いてみると中にはラベルのついた四角い缶が見えた。缶に入っているというだけで、もう既にクラリスの知っているどの紅茶よりも上のランクの茶葉なのは間違いなかった。
「でも……私こんなのもらっても……」
「困る?」
「……飲めない。」
クラリスは泣き笑いのような顔になってジャンを見上げた。
「もったいなくてこんな高いお茶飲めないよ……。」
「一日で飲み終わられても……困る。」
「そっか、そしたらジャンは直ぐに戻って来ないといけなくなるもんね?」
「……」
ジャンはまだ何かを言いたそうな顔をしたままクラリスを食い入るように見つめていたが、いくら待ってもその口から言葉は出てきそうになかった。
「……ありがとう。大事に飲ませてもらうね?」
ジャンは小さく頷くと店内の様子を窺うように扉に視線を向けた。
「今日はもうそろそろ店も終わりの時間だけど、何か──」
「……俺が…怖くなった?」
「──え?」
ジャンの突然の言葉にはっと視線を戻すと、ジャンは外套の上から剣があるであろう場所を軽く叩いてみせた。
「剣を持ってるから?確かに本物を見たのは初めてだったから少し驚いたけど…。でも…守ってくれたんでしょ?」
「使わなくても守れた。相手は丸腰だった。」
「マークは体だけは大きいわ、ジャンよりもずっとね。」
「……」
「私、この事誰にも言ったりしないから。今まで……その外套で隠してたってことは知られたくなかったんでしょ?」
ジャンはクラリスの目をじっと見つめたままで肯定も否定もしなかった。
「……ただの護身用の剣だ。」
「……まだ小さいが次期男爵だそうだ。」
クラリスはジャンの言葉に頭を抱えた。
「セブおじさん……まさかジャンにそんな事まで……。」
「どういうことなんだ、男爵って?あ…そうか!レイラが嫁いだ先が爵位持ちだったと確か前に聞いたことがあったな……。」
「……」
「その通りよ。レイラさんが男爵夫人なんだから子供が爵位を継ぐんでしょ?ただ私が婚約するとかいう話はセブおじさんが一人で勝手に口にしてただけで…。私はお断りしたのよ?それに、マーク、あなたとの話も……私、きちんと断ったはずだわ。」
クラリスは暗い通りに座ったままのマークの顔が店の照明を受けて白く浮かび上がっているのをじっと見つめていた。マークは顔を強ばらせながらクラリスの方を見上げている。
「それはお前の本心じゃないと…俺は聞いた。」
「……誰から?」
マークは視線を店の窓の方へ向けると顎でそちらを示した。
「叔母さん。クラリスは俺の事が好きなんだって。だから多少恥ずかしがっていても大丈夫だから気にするなって……。」
ジャンは静かにクラリスに視線を送った。クラリスは首を横に振ると大きくため息をついた。
「……私は何も言ってない。マークの事好きだとか婚約するだとか。それは全部お母さんとマークの間の約束でしょ?しかも1年以上前の話。」
「……だから、その頃は俺の事を……」
「ごめんね。私マークの事そういう風な目で見た事、今までなかった。」
「クラリス!」
マークは慌てて立ち上がるとクラリスに再び詰め寄ろうとした所でジャンに手を掴まれた。
「……そういう事だそうだ。諦めろ。」
「貴様!」
マークは悔しそうにジャンを睨んだものの、外套にふと目を向けるとそこに剣がある事を思い出したようで歯を食いしばった。ジャンはすかさずマークの耳元に何かを囁くと掴んでいた手を離した。
マークはなおも諦めきれない様子でクラリスをじっと見つめていたが、やがて後ずさるようにして二人の前から逃げるように帰って行った。
暗闇に消えて行くマークの後ろ姿が小さくなり、やがて見えなくなると、ジャンはクラリスの方に少しだけ歩み寄った。
「ジャン…ありがとう、助けてくれて。」
ジャンはクラリスに向かい合うように立つと微かに笑みを浮かべて頷いた。
「今日はもう店に来ないんだと思ってた、昨日私が──。」
ジャンは口の前に人差し指を立ててしーっと言いながらクラリスの言葉を遮ると、外套のポケットに手を入れた。
「……明日からしばらく店に来ることが出来ない。だから、これ。」
ジャンはクラリスの手をそっととるとポケットから取り出した紙袋を握らせた。
「私に?何?」
「……紅茶。これが無くなるまでにまた来る。」
「紅茶?」
クラリスが紙袋を開いてみると中にはラベルのついた四角い缶が見えた。缶に入っているというだけで、もう既にクラリスの知っているどの紅茶よりも上のランクの茶葉なのは間違いなかった。
「でも……私こんなのもらっても……」
「困る?」
「……飲めない。」
クラリスは泣き笑いのような顔になってジャンを見上げた。
「もったいなくてこんな高いお茶飲めないよ……。」
「一日で飲み終わられても……困る。」
「そっか、そしたらジャンは直ぐに戻って来ないといけなくなるもんね?」
「……」
ジャンはまだ何かを言いたそうな顔をしたままクラリスを食い入るように見つめていたが、いくら待ってもその口から言葉は出てきそうになかった。
「……ありがとう。大事に飲ませてもらうね?」
ジャンは小さく頷くと店内の様子を窺うように扉に視線を向けた。
「今日はもうそろそろ店も終わりの時間だけど、何か──」
「……俺が…怖くなった?」
「──え?」
ジャンの突然の言葉にはっと視線を戻すと、ジャンは外套の上から剣があるであろう場所を軽く叩いてみせた。
「剣を持ってるから?確かに本物を見たのは初めてだったから少し驚いたけど…。でも…守ってくれたんでしょ?」
「使わなくても守れた。相手は丸腰だった。」
「マークは体だけは大きいわ、ジャンよりもずっとね。」
「……」
「私、この事誰にも言ったりしないから。今まで……その外套で隠してたってことは知られたくなかったんでしょ?」
ジャンはクラリスの目をじっと見つめたままで肯定も否定もしなかった。
「……ただの護身用の剣だ。」
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