元気の良さだけが取り柄な私に、今日も貴方は優しい

ゆみ

文字の大きさ
14 / 23

二人連れの異国人

しおりを挟む
「お待たせしました、フライ二つね。ロベールさん、いつも言ってるけど熱いから気を付けてね!」
「ありがとう、今朝は何も食えなかったからもう今すぐにでも齧り付きたいとこなんだけどなぁ。」
「……パンを食ってた。」
「あん?あんなちっちゃなパン一つじゃ腹の足しにもならん。もっとましな宿に移るべきだな。」
「……あと少しの辛抱だ。」
「日々を大切に生きるのが俺のモットーなの!」

 クラリスは珍しく会話をしているマルセルをちらちらと盗み見た。

「どうした?マルセルが気になるの?」
「あ、はい…いえ、そうじゃなくて!」
「ははぁ、さてはこの顔に惚れたな?」
「ロ、ロベールさんってば!違いますよ!お話をされてるのが珍しいなと思って気になっただけです。」

 ロベールはフライをナイフで大きく切り分けると、フォークに刺したまま湯気が立ち上るのを見ながら破顔した。

「分かってるよ、ちょっとからかっただけ。ひょっとしてマルセルがトロメリンの言葉を話せると思ってなかった?」
「えぇ。聞いたことがなかったので。」
「挨拶はしていたつもりだが?」
「あ、そういえば…そうでした。」

 ぼそっと呟いたマルセルの方を見ると、真面目くさった顔をしてナイフで付け合わせの野菜を小さく切っていた。

「トロメリンでの仕事も多いからな。俺だってザール語を話せるんだぜ?」
「え?そうなんですか?」
「何だよその驚きようは?言っとくけど、マルセルのトロメリン語より俺のザール語の方が堪能だからな!」

 ロベールはフライを大きく口を開けて食べると満足そうに頷いた。マルセルはそれを横目にまだ野菜をつついている。どうやらマルセルは猫舌らしいということがここ数日でクラリスが気付いたことだ。

「あの…お二人はお仕事の仲間なんですか?」
「ん?あぁ、まぁ…そういうことになるのかな。」
「どんなお仕事なんですか?トロメリンとザーラを行き来してるんでしょ?」
「それは今だけだよ。俺たちは……そうだな、何て言えばいいかな?」
「……大きな会社を立ち上げているところだ。」
「大きな会社か……確かにそうだな。今はまだ小さいから大きくするために人材を探しにトロメリンへ来てるんだよ。」
「会社の人材探しに…ですか。なんだか凄いですね。」
「良かったらクラリスちゃんも──」

 叔母が向こうのカウンターから手招きをしているのが目に入り、クラリスはお盆を胸に抱えると慌てて二人にお辞儀をした。

「すみません、長話をしてお食事の邪魔をしちゃいましたね。ごゆっくりどうぞ!」

 くるりと二人に背を向けるとカウンターへ料理を受け取りに戻っていくクラリスを見送りながら、マルセルは黙って机の下のロベールの足を蹴飛ばした。

「いって!」
『冗談もほどほどにしておけ。妙なことをあの娘に言うな。』
『何だよ?仕事のことはうまくごまかしただろ?』
『それだけじゃない。俺はまだアイツに殺されたくない。』
『ちょっとからかっただけだろ?それにお前の顔に見惚れてた訳でもなさそうだったし。』
『それは確かに……。』

 二人は周りの客に話の内容が分からないようにひっそりとザール語で会話を交わすと、再び食事に戻った。

『こっちはあと何日くらいかかる?』
『3,4日…かな?』
『そうか。』
『だから宿を……』
『そんな金はない。』
『そんな訳ないだろ?何ならお前の銅貨をかき集めろよ!』
『面倒なことは断る。』
『……ったくはいつも二言目には面倒だとか言いやがって。やろうと思えば簡単にできるだけの上等な頭持ってんのにさ。』
『余計なことに頭を使いたくないだけだ。そういうことはアイツにこそ言ってやれ。』
『アイツの方こそ今まさに忙しいとこだろ?俺たちが二人ともあっちに居ないんだからな。』
『……フォローは任せたぞ?』
『ったく、誰のせいだと思ってんだよ?』

 マルセルは薄紫の瞳を細めると忙しくテーブルの間をすり抜けていくクラリスの姿を目で追った。

『しょうがない。アイツがあれ程までに入れ込む娘をこの目で確かめたかったのだから…。』

 ロベールはあっという間に皿を空にすると目の前にあるマルセルの皿を物欲しそうに眺めた。

『それで?あの娘を見た感想は?』
『まだ分からないが……まぁ悪くはない。』
『あぁ確かに。俺も素質はある様に思う。』
『あとは本人次第というところか。』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《完結》戦利品にされた公爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
戦いの《戦利品》として公爵邸に連れて行かれた公爵令嬢の運命は?

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。10~15話前後の短編五編+番外編のお話です。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。  ※R7.10/13お気に入り登録700を超えておりました(泣)多大なる感謝を込めて一話お届けいたします。 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.10/30に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。 ※R7.12/8お気に入り登録800超えです!ありがとうございます(泣)一話書いてみましたので、ぜひ!

老伯爵へ嫁ぐことが決まりました。白い結婚ですが。

ルーシャオ
恋愛
グリフィン伯爵家令嬢アルビナは実家の困窮のせいで援助金目当ての結婚に同意させられ、ラポール伯爵へ嫁ぐこととなる。しかし祖父の戦友だったというラポール伯爵とは五十歳も歳が離れ、名目だけの『白い結婚』とはいえ初婚で後妻という微妙な立場に置かれることに。 ぎこちなく暮らす中、アルビナはフィーという女騎士と出会い、友人になったつもりだったが——。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

処理中です...