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鳴らないスマホ
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午後九時過ぎ。昼間学食で香菜と書いたメモ書きを目の前に広げ、私はアパートの部屋で一人、スマホとにらめっこをしていた。
昨日の夜はこの部屋でシンと二人で泣きながら話をしていたというのが信じられなかった。もっとずっと前の出来事のような気がする。
シンは今どこにいるのだろうか?もしかしたら一人ではなく誰かと一緒にいるのかもしれない。
そう思うと、やはりこちらから連絡をするのは気が引けた。
「距離とるって……シンの言てった通り難しい。」
シンからの連絡を知らず知らずのうちに待ってしまっている自分がいた。シンの声を聞かないままで終わる一日はどんなだったか……もう思い出すこともできない。
一人でいる部屋は思っていた以上に静かで、鳴らないスマホを片手にソワソワしている自分は惨めだった。
こんな風に姿の見えない誰かに時間を縛られるような煩わしさが欲しかった訳ではなかった。もっと自分だけの為に自由に時間を使いたいと思っていたはずなのに――。
スマホの通知音が短く鳴った。香菜からのメッセージだと思って画面をタッチすると、桜田の名前が表示された。シンからだ。
『今 家にいる?』
すぐに返事を返すのもどうなんだろうと思いながら、自然と指が動いていた。
返事をして1分も経たないうちにアパートのインターホンが鳴った。こんな時間に家を訪ねて来る知り合いは一人しかいない。
それでも一応モニターを確認しようと恐る恐る振り返ると、薄暗い画面に白い何かがボウっと浮かんで見えた。
慌ててドアまでかけ寄るとロックをかけたままドアの隙間から外を伺う。
「ごめん、電気ついてたから居ると思って。」
ドアの外に立っていたのはやっぱりシンだった。ロックを開けるために一旦ドアを閉めると、深呼吸をした。
心臓がドキドキと早鐘を打つ。
シンは一体何のために来たのだろうか、どんな話をする為にわざわざ私の部屋まで……。
再びドアを開けると、戸惑ったような顔をしたシンがそこに居た。
「入っていい?」
「うん。」
ぎこちない会話を交わすとそのままシンを部屋に招き入れる。ドアを再び閉めた時、狭い玄関で靴を脱いでいるシンの服が今朝と同じだという事に気が付いた。
大学が終わってからこんな時間まで、一体どこに居たのだろうと不審に思う。
「一回家に帰らなかったの?」
「……うん。」
どうやってここまで来たのか、今まで誰と一緒にいたのか。そんな事を聞く権利が自分にはまだあるのだろうか?
聞いたところで、その相手が女友達だったら……ぐるぐると余計な事ばかりが頭をよぎる。
「高校同じだった奴が車持っててさ、今ソイツと一緒に動いてるんだ。だからこんな時間になった。」
「あ……もしかしてそれって、背の高いあの人?」
「え?」
哲学の授業とその後の食堂、2回ほど見かけたあの男の人だと真っ先に気が付いた。名前を知らないので他に何と言えば分かってもらえるだろうか。
「シンと同じバッグ持ってた人でしょ?今日食堂で見かけたよ。」
「あ……そう。」
シンは狼狽えたように目をそらすとベッドの脇に腰を下ろした。
再び部屋が静まり返る。まるで昨日とは立場が逆転してしまったかのように、私はシンの口から語られる何かを恐れながらじっとしているしかなかった。
「直哉っていうんだ、アイツ。」
「バスケ部の友達?」
「違う。アイツはバスケ部じゃなかったし、むしろ友達って言うより──。」
シンははじめてそこで苦しそうに笑顔を作った。
「ライバルかな。高校3年間ずっとアイツらに負け続けてたの、俺。」
「ライバル……。」
「何やっても勝てなかった。直哉ともう一人バスケ部の幸人っていうのがいたんだけど。勉強も、運動も、何もかも全部。その二人の陰に隠れて……俺全敗。」
私は大学に入ってからのシンの事しか知らなかった。高校の同級生には数人会わせてもらったことはあったけれど、挨拶を交わす程度の関係だったから昔の話など聞いたこともない。
高校の頃からシンは今と同じように人気者で、回りとうまくやってきたものだとばかり思っていたから少しだけ意外に思えた。
「だからさ、大学デビューっていうか……。周りの友達が変わるのを機にちょっと自分も変わりたいとか思って。」
「うん。」
「……嘘、ついてた。周りにも、美緒にも。」
シンは下を向いたまま、次の言葉を口にするのを少しためらった。
私はその嘘の正体を聞かされるのが怖くて、何もないのに部屋をぐるっと見回した。
「ごめん。俺……バスケやってたとか嘘なんだ。」
「え?」
耳が痛くなるような静寂を破って絞り出されたシンの言葉に、私は一瞬自分の耳を疑った。
「練習きつくて1ヶ月でバスケ部辞めた。だから試合とか出たこともない。」
「……それだけ?シンのついてた嘘って、それだけなの?」
「いや……。まだ、他にも。」
昨日の夜はこの部屋でシンと二人で泣きながら話をしていたというのが信じられなかった。もっとずっと前の出来事のような気がする。
シンは今どこにいるのだろうか?もしかしたら一人ではなく誰かと一緒にいるのかもしれない。
そう思うと、やはりこちらから連絡をするのは気が引けた。
「距離とるって……シンの言てった通り難しい。」
シンからの連絡を知らず知らずのうちに待ってしまっている自分がいた。シンの声を聞かないままで終わる一日はどんなだったか……もう思い出すこともできない。
一人でいる部屋は思っていた以上に静かで、鳴らないスマホを片手にソワソワしている自分は惨めだった。
こんな風に姿の見えない誰かに時間を縛られるような煩わしさが欲しかった訳ではなかった。もっと自分だけの為に自由に時間を使いたいと思っていたはずなのに――。
スマホの通知音が短く鳴った。香菜からのメッセージだと思って画面をタッチすると、桜田の名前が表示された。シンからだ。
『今 家にいる?』
すぐに返事を返すのもどうなんだろうと思いながら、自然と指が動いていた。
返事をして1分も経たないうちにアパートのインターホンが鳴った。こんな時間に家を訪ねて来る知り合いは一人しかいない。
それでも一応モニターを確認しようと恐る恐る振り返ると、薄暗い画面に白い何かがボウっと浮かんで見えた。
慌ててドアまでかけ寄るとロックをかけたままドアの隙間から外を伺う。
「ごめん、電気ついてたから居ると思って。」
ドアの外に立っていたのはやっぱりシンだった。ロックを開けるために一旦ドアを閉めると、深呼吸をした。
心臓がドキドキと早鐘を打つ。
シンは一体何のために来たのだろうか、どんな話をする為にわざわざ私の部屋まで……。
再びドアを開けると、戸惑ったような顔をしたシンがそこに居た。
「入っていい?」
「うん。」
ぎこちない会話を交わすとそのままシンを部屋に招き入れる。ドアを再び閉めた時、狭い玄関で靴を脱いでいるシンの服が今朝と同じだという事に気が付いた。
大学が終わってからこんな時間まで、一体どこに居たのだろうと不審に思う。
「一回家に帰らなかったの?」
「……うん。」
どうやってここまで来たのか、今まで誰と一緒にいたのか。そんな事を聞く権利が自分にはまだあるのだろうか?
聞いたところで、その相手が女友達だったら……ぐるぐると余計な事ばかりが頭をよぎる。
「高校同じだった奴が車持っててさ、今ソイツと一緒に動いてるんだ。だからこんな時間になった。」
「あ……もしかしてそれって、背の高いあの人?」
「え?」
哲学の授業とその後の食堂、2回ほど見かけたあの男の人だと真っ先に気が付いた。名前を知らないので他に何と言えば分かってもらえるだろうか。
「シンと同じバッグ持ってた人でしょ?今日食堂で見かけたよ。」
「あ……そう。」
シンは狼狽えたように目をそらすとベッドの脇に腰を下ろした。
再び部屋が静まり返る。まるで昨日とは立場が逆転してしまったかのように、私はシンの口から語られる何かを恐れながらじっとしているしかなかった。
「直哉っていうんだ、アイツ。」
「バスケ部の友達?」
「違う。アイツはバスケ部じゃなかったし、むしろ友達って言うより──。」
シンははじめてそこで苦しそうに笑顔を作った。
「ライバルかな。高校3年間ずっとアイツらに負け続けてたの、俺。」
「ライバル……。」
「何やっても勝てなかった。直哉ともう一人バスケ部の幸人っていうのがいたんだけど。勉強も、運動も、何もかも全部。その二人の陰に隠れて……俺全敗。」
私は大学に入ってからのシンの事しか知らなかった。高校の同級生には数人会わせてもらったことはあったけれど、挨拶を交わす程度の関係だったから昔の話など聞いたこともない。
高校の頃からシンは今と同じように人気者で、回りとうまくやってきたものだとばかり思っていたから少しだけ意外に思えた。
「だからさ、大学デビューっていうか……。周りの友達が変わるのを機にちょっと自分も変わりたいとか思って。」
「うん。」
「……嘘、ついてた。周りにも、美緒にも。」
シンは下を向いたまま、次の言葉を口にするのを少しためらった。
私はその嘘の正体を聞かされるのが怖くて、何もないのに部屋をぐるっと見回した。
「ごめん。俺……バスケやってたとか嘘なんだ。」
「え?」
耳が痛くなるような静寂を破って絞り出されたシンの言葉に、私は一瞬自分の耳を疑った。
「練習きつくて1ヶ月でバスケ部辞めた。だから試合とか出たこともない。」
「……それだけ?シンのついてた嘘って、それだけなの?」
「いや……。まだ、他にも。」
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