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第3部 秘密の格差恋愛
大切な人の守り方 ④
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――わたしと〈U&Hリサーチ〉の二人で決めた作戦は、小坂リョウジさんの裏アカウントにDMを送り、真弥さんがそのアカウントをハッキング。彼をウソの誘い文句でおびき寄せて二人で会っているところを真弥さんに乗っ取った彼の裏アカでライブ配信してもらい、彼が本性を現したところでそのことを彼に暴露するというもの。よくTVのバラエティーでやっているドッキリ企画に近いかもしれない。
万が一のことを考えて、わたしは内田さんと真弥さんと連絡先と名刺を交換した。貢の携帯番号も教え、わたしの身に危険が迫った時には最終手段として彼に知らせてほしい、と内田さんにお願いした。
この作戦については話していないけど、調査については貢にも伝えてあった。調査料金として五十万円を支払ったことには、「そんな大金を払ったんですか!? 絢乃さん、金銭感覚バグってるでしょう絶対!」と呆れられた。わたし自身もそう思うけれど、彼を守るためなら一億円出したっていい。彼の存在は、決してお金には代えられないから。
顧問弁護士である唯ちゃんのお父さまにも、小坂さんを訴える準備をして頂いた。真弥さんにもらった調査内容はその証拠としてお預けした。ただ、正規ではない手段で手に入れた情報なので証拠能力がどうなのかは分からないけれど……。
――そして、作戦決行の日が来た。
その日は土曜日で、貢には前もって「ちょっと用事があるから」とデートの予定を外してもらった。
内田さんの事務所を訪れてから決行日までの数日間、わたしの様子がおかしかったことは彼も気づいていたかもしれない。もしかしたら彼は、わたしの浮気を疑っていたかもしれないけれど、その心配なら皆無だ。内田さんには真弥さんという可愛い恋人がいるわけだし、わたしには貢しかいないのだ。
SNSでの誹謗中傷は、もうこのネタが飽きられていたのかパッタリ止んだ。その代わり、真弥さんが調べてくれた小坂さんのある情報が、Xで拡散されていった。彼はお付き合いしていた女性と破局するたびに、リベンジポルノを仕掛けていたらしいのだ。――これもまた、三人で練った作戦の一部だった。
普段よりちょっと露出度高めの服装をして、わたしは新宿駅前でターゲットを待ち構えた。少し離れた場所では、自撮りするフリをしてアウトカメラでスマホを構えた真弥さんと内田さんも待機していた。
「――CM撮影の時以来かな? 篠沢会長。こないだはDMありがとう」
「……どうも、お久しぶりです。その節はどうも」
こちらの思惑どおりに待ち合わせ場所へノコノコやってきた小坂さんは、すでに化けの皮が剝がれているとは知らずに俳優らしい爽やかな笑顔をわたしに向けた。
彼は二十四歳。年回りだけでいえば、貢より彼の方がわたしとバランスが取れている。……あくまで年回り「だけ」の話だけれど。
「いやぁ、まさか君が俺に会いたがるなんてねぇ。俺もそれだけ有名になったってことかな。あんなことしたから、俺もう嫌われたのかと思った」
「別にそんなことないですよ。それはそれ、これはこれですから」
……本当は、こんなことがなければお会いしたくなかったですけど。本心ではそう思いながら、それを表に出さないようわたしも作り笑顔で応えた。
「わたしの親友が貴方のファンなんです。五月に豊洲で主演映画の舞台挨拶なさってたでしょう? 彼女、部活があったから行けなくて残念~って言ってました」
これも真赤なウソっぱちだ。里歩はその頃とっくに彼のファンを辞めていたので、行きたがるわけがないのだ。
「へぇ、そうなんだ? 嬉しいなぁ」
「豊洲っていえば、ちょうどあの日、わたしもあのショッピングモールにいたんですよ。彼氏と二人で。偶然ですねー」
わたしは彼が気をよくした手ごたえを得ながら、ちょっと強気にカマをかけてみた。
「へ、へぇー……。すごい偶然だねぇ。っていうか君、彼氏いるんだ? もしかして、撮影の時に一緒にいたあの男?」
彼は平然を装っていたけれど、明らかに動揺していた。わたしはこんな言葉使わないけれど、里歩や真弥さんなら「ざまぁ」と言うところだろう。
「ええ。八歳年上の二十六歳で、わたしの秘書をしてくれてます。お金持ちの御曹司っていうわけじゃないですけど、すごく優しくて頼りになるステキな人です。実はわたしたち、結婚も考えてて。でも彼は決して逆玉狙いなんかじゃなくて、わたしのことを本気で大事に想ってくれてる人なんですよ。わたしも彼のこと、すごく大切に想ってます」
「へぇ…………。じゃあ、なんで君は今日、俺を誘ってくれたの? そんな挑発的なカッコして、コロンの匂いまでさせて。……もしかして、俺を誘惑しようとしてる? 彼氏から俺に乗りかえるつもりとか」
この人、どこまで自分大好きなんだろう? きっと今までも、こうやってどんなことも自分に都合のいいようにしか考えてこなかったんだろう。
「まさか」
わたしは鼻で笑い、彼をどん底に突き落とす宣告をした。
「貴方が、その大事な彼を貶めるようなことをしたから、反撃しに来たんです。貴方が裏アカまで作って、彼に嫌がらせをしてきたから。わたしが分からないとでも?」
「……っ、このアマ……」
「ちゃんと調べはついてるんですよ。だからわたし、逆にそのアカウントを利用しようって考えたんです。貴方の本性を、ファンのみなさんにさらけ出すために。こうやって誘い出せば、プレイボーイの貴方のことだから食いついてくれるだろうと思って。でもまさか、こんなにホイホイ誘いに乗ってくるなんて思わなかった!」
ここまで上手く引っかかってくれるなんて思っていなかったので、わたしは笑いが止まらなくなった。わたしにこんな性悪なところがあったなんて、自分でも驚いた。
「わたしが貴方を誘惑するわけないじゃないですか! 彼を傷つけた相手を好きになるわけないでしょ? 貴方の頭の中、お花畑ですか?」
目の前で彼がプルプル震えているのが分かったけれど、まだこれで終わらなかった。
「わたし、貴方なんか大っっっキライです!」
「……んだと? さっきから黙ってれば好き勝手言いやがって! 俺をバカにしやがって! ふざけんなよ!」
激昂した小坂さんがわたしに掴みかかろうとした時、颯爽と現れたその人は――。
「絢乃さん、危ないっ!」
「えっ、貢!?」
何が起きたのか分からずパニックになっていたわたしを庇うように立ちはだかり、小坂さんにハイキックを一発お見舞いした。
「ハイキック、初めて当たった……」
「…………!? な……っ」
一瞬で吹っ飛ばされた小坂さんは、この状況が吞み込めないらしかった。
わたしも呆然となっている場合じゃなかったと気を取り直し、強気な顔に戻った。
「真弥さん、今の撮れた?」
「はいは~い♪ もうバッチリ」
わたしが目配せすると、建物の陰からスマホを構えた真弥さんと、その後ろに控えていた内田さんが姿を現した。
「アンタの裏アカ、あたしが乗っ取っちゃいました☆ 今ねぇ、この様子の一部始終が全国のアンタのファンに垂れ流されてんの。これでアンタ、俳優としても終わったねぇ。はい、ご愁傷さま」
「小坂さん、貴方はこれまでにどれだけの女性を弄んで傷つけてきたんですか。女性だけじゃない。わたしの大切な人まで晒しものにした! 貴方、人の気持ちを何だと思ってるんですか! わたし、貴方のことを絶対に許しませんから!」
「あんた、どうせ逆玉狙って絢乃さんとお近づきになりたかっただけでしょ? もうバレバレ。甘いんだよ、その考えが」
せせら笑うようにそう言って、真弥さんが腰を抜かしている小坂さんを見下ろした。
「わたしは正式に、貴方を名誉毀損で訴えます。顧問弁護士にはもう、訴訟を起こす準備を整えてもらってるので。ちなみに貴方、事務所をクビになってて後ろ盾はなくなったんですよね? というわけで、訴える相手は貴方個人です。覚悟しておいて」
わたしは次の一言で、彼に完全にトドメを刺した。
「この件で、貴方は完全に社会から抹殺されるでしょうね。ご愁傷さま。女をなめるのもいい加減にして!」
この後パトカーが到着し、小坂さんは警察へ連行されていった。前もって内田さんが通報していたのだ。
こうしてイケメン俳優への反撃作戦は幕を下ろしたのだった。
万が一のことを考えて、わたしは内田さんと真弥さんと連絡先と名刺を交換した。貢の携帯番号も教え、わたしの身に危険が迫った時には最終手段として彼に知らせてほしい、と内田さんにお願いした。
この作戦については話していないけど、調査については貢にも伝えてあった。調査料金として五十万円を支払ったことには、「そんな大金を払ったんですか!? 絢乃さん、金銭感覚バグってるでしょう絶対!」と呆れられた。わたし自身もそう思うけれど、彼を守るためなら一億円出したっていい。彼の存在は、決してお金には代えられないから。
顧問弁護士である唯ちゃんのお父さまにも、小坂さんを訴える準備をして頂いた。真弥さんにもらった調査内容はその証拠としてお預けした。ただ、正規ではない手段で手に入れた情報なので証拠能力がどうなのかは分からないけれど……。
――そして、作戦決行の日が来た。
その日は土曜日で、貢には前もって「ちょっと用事があるから」とデートの予定を外してもらった。
内田さんの事務所を訪れてから決行日までの数日間、わたしの様子がおかしかったことは彼も気づいていたかもしれない。もしかしたら彼は、わたしの浮気を疑っていたかもしれないけれど、その心配なら皆無だ。内田さんには真弥さんという可愛い恋人がいるわけだし、わたしには貢しかいないのだ。
SNSでの誹謗中傷は、もうこのネタが飽きられていたのかパッタリ止んだ。その代わり、真弥さんが調べてくれた小坂さんのある情報が、Xで拡散されていった。彼はお付き合いしていた女性と破局するたびに、リベンジポルノを仕掛けていたらしいのだ。――これもまた、三人で練った作戦の一部だった。
普段よりちょっと露出度高めの服装をして、わたしは新宿駅前でターゲットを待ち構えた。少し離れた場所では、自撮りするフリをしてアウトカメラでスマホを構えた真弥さんと内田さんも待機していた。
「――CM撮影の時以来かな? 篠沢会長。こないだはDMありがとう」
「……どうも、お久しぶりです。その節はどうも」
こちらの思惑どおりに待ち合わせ場所へノコノコやってきた小坂さんは、すでに化けの皮が剝がれているとは知らずに俳優らしい爽やかな笑顔をわたしに向けた。
彼は二十四歳。年回りだけでいえば、貢より彼の方がわたしとバランスが取れている。……あくまで年回り「だけ」の話だけれど。
「いやぁ、まさか君が俺に会いたがるなんてねぇ。俺もそれだけ有名になったってことかな。あんなことしたから、俺もう嫌われたのかと思った」
「別にそんなことないですよ。それはそれ、これはこれですから」
……本当は、こんなことがなければお会いしたくなかったですけど。本心ではそう思いながら、それを表に出さないようわたしも作り笑顔で応えた。
「わたしの親友が貴方のファンなんです。五月に豊洲で主演映画の舞台挨拶なさってたでしょう? 彼女、部活があったから行けなくて残念~って言ってました」
これも真赤なウソっぱちだ。里歩はその頃とっくに彼のファンを辞めていたので、行きたがるわけがないのだ。
「へぇ、そうなんだ? 嬉しいなぁ」
「豊洲っていえば、ちょうどあの日、わたしもあのショッピングモールにいたんですよ。彼氏と二人で。偶然ですねー」
わたしは彼が気をよくした手ごたえを得ながら、ちょっと強気にカマをかけてみた。
「へ、へぇー……。すごい偶然だねぇ。っていうか君、彼氏いるんだ? もしかして、撮影の時に一緒にいたあの男?」
彼は平然を装っていたけれど、明らかに動揺していた。わたしはこんな言葉使わないけれど、里歩や真弥さんなら「ざまぁ」と言うところだろう。
「ええ。八歳年上の二十六歳で、わたしの秘書をしてくれてます。お金持ちの御曹司っていうわけじゃないですけど、すごく優しくて頼りになるステキな人です。実はわたしたち、結婚も考えてて。でも彼は決して逆玉狙いなんかじゃなくて、わたしのことを本気で大事に想ってくれてる人なんですよ。わたしも彼のこと、すごく大切に想ってます」
「へぇ…………。じゃあ、なんで君は今日、俺を誘ってくれたの? そんな挑発的なカッコして、コロンの匂いまでさせて。……もしかして、俺を誘惑しようとしてる? 彼氏から俺に乗りかえるつもりとか」
この人、どこまで自分大好きなんだろう? きっと今までも、こうやってどんなことも自分に都合のいいようにしか考えてこなかったんだろう。
「まさか」
わたしは鼻で笑い、彼をどん底に突き落とす宣告をした。
「貴方が、その大事な彼を貶めるようなことをしたから、反撃しに来たんです。貴方が裏アカまで作って、彼に嫌がらせをしてきたから。わたしが分からないとでも?」
「……っ、このアマ……」
「ちゃんと調べはついてるんですよ。だからわたし、逆にそのアカウントを利用しようって考えたんです。貴方の本性を、ファンのみなさんにさらけ出すために。こうやって誘い出せば、プレイボーイの貴方のことだから食いついてくれるだろうと思って。でもまさか、こんなにホイホイ誘いに乗ってくるなんて思わなかった!」
ここまで上手く引っかかってくれるなんて思っていなかったので、わたしは笑いが止まらなくなった。わたしにこんな性悪なところがあったなんて、自分でも驚いた。
「わたしが貴方を誘惑するわけないじゃないですか! 彼を傷つけた相手を好きになるわけないでしょ? 貴方の頭の中、お花畑ですか?」
目の前で彼がプルプル震えているのが分かったけれど、まだこれで終わらなかった。
「わたし、貴方なんか大っっっキライです!」
「……んだと? さっきから黙ってれば好き勝手言いやがって! 俺をバカにしやがって! ふざけんなよ!」
激昂した小坂さんがわたしに掴みかかろうとした時、颯爽と現れたその人は――。
「絢乃さん、危ないっ!」
「えっ、貢!?」
何が起きたのか分からずパニックになっていたわたしを庇うように立ちはだかり、小坂さんにハイキックを一発お見舞いした。
「ハイキック、初めて当たった……」
「…………!? な……っ」
一瞬で吹っ飛ばされた小坂さんは、この状況が吞み込めないらしかった。
わたしも呆然となっている場合じゃなかったと気を取り直し、強気な顔に戻った。
「真弥さん、今の撮れた?」
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わたしが目配せすると、建物の陰からスマホを構えた真弥さんと、その後ろに控えていた内田さんが姿を現した。
「アンタの裏アカ、あたしが乗っ取っちゃいました☆ 今ねぇ、この様子の一部始終が全国のアンタのファンに垂れ流されてんの。これでアンタ、俳優としても終わったねぇ。はい、ご愁傷さま」
「小坂さん、貴方はこれまでにどれだけの女性を弄んで傷つけてきたんですか。女性だけじゃない。わたしの大切な人まで晒しものにした! 貴方、人の気持ちを何だと思ってるんですか! わたし、貴方のことを絶対に許しませんから!」
「あんた、どうせ逆玉狙って絢乃さんとお近づきになりたかっただけでしょ? もうバレバレ。甘いんだよ、その考えが」
せせら笑うようにそう言って、真弥さんが腰を抜かしている小坂さんを見下ろした。
「わたしは正式に、貴方を名誉毀損で訴えます。顧問弁護士にはもう、訴訟を起こす準備を整えてもらってるので。ちなみに貴方、事務所をクビになってて後ろ盾はなくなったんですよね? というわけで、訴える相手は貴方個人です。覚悟しておいて」
わたしは次の一言で、彼に完全にトドメを刺した。
「この件で、貴方は完全に社会から抹殺されるでしょうね。ご愁傷さま。女をなめるのもいい加減にして!」
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