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おまけエピソード 「初めてじゃないことを、初めての彼氏と。」 ①
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――これはあたし、藤木里桜がまだ旧姓の田澤里桜だった頃、大学時代の話だ。
あたしにはその頃まで〝彼氏〟と呼べる人がいなかった。恋はそれなりにしていたけれど、どうしても付き合う段階まで進めなかった。いや、あたし自身が拒んでいたのだ。
男性と付き合うということは、いずれ性的な関係まで進むということ。――あたしは高校時代のある事件がキッカケで、そのことに恐怖心を抱くようになっていた。
あたしはすでに処女じゃなかった。高校時代に、望まない形で奪われていたのだ。
当時ちょっと憧れていた男性の先生がいた。三十歳くらいのなかなかのイケメンで、女子生徒たちからモテていて、あたしもその中の一人だった。
ある夏の日の放課後、その先生に人気のないところへ呼び出されたあたしは彼に組み敷かれ、まだ成熟途上の体を暴かれた。
制服のブラウスのボタンを全開にされて胸を揉みしだかれ、スカートをたくしあげられて下着を脱がされた。足を開かされて、肉芽をしゃぶられ、蜜穴に指を突っ込まれて弄ばれた。
『――ん……っ、イヤ……ぁ! 先生、ダメ……ぇっ! あぁーー……っ!』
感じているつもりはなかったのにあたしは達してしまい、それが先生の欲望に火をつけてしまったらしい。
先生はズボンのファスナーを下ろし、下着の穴から剥き出しにした雄竿に避妊具を被せ、蜜でぐしょぐしょに濡れたあたしのナカに――それも最奥部まで挿入したのだ。
避妊されていたとはいえ、膜を突き破られた痛みにあたしは思いっきりのけ反った。
『あ……っ、あっ……あっ……、あぅっ! せ……先生……、ダメ……っ! ぁああっ!』
先生の腰の動きに思わず快感をおぼえ、自分からも腰を揺らしてしまった。本当はイヤだった。こんな形で先生と体を重ねてしまうことが。でもそんな心とは裏腹に、体は勝手に感じて先生からの熱を求めてしまっていた。
『ダメ……、イく……っ! あぁぁーー……っ!』
あたしはまた絶頂を迎え、先生はゴムの被膜の中であたしの奥に熱い精を放った。
『――お前の体、最高にいやらしいな。「イヤ」とか「ダメ」とか言いながら、めちゃめちゃ感じてたじゃん』
『……っ、ちが……っ! あたしはホントに――』
『気持ちよかったぁ。またヤらせろよ』
――あたしはこのことを両親にも、友達にも打ち明けられず、その先生に会うのが怖くてしばらく学校にも行けなくなった。
その先生は二学期に入ってすぐクビになり、学校を去った。あたしだけでなく、何人もの女子生徒にあたしと同じようなことをしていたらしい。
その先生がいなくなってから、あたしは卒業まで学校に行けるようにはなった。でもその代わり、男性に対する恐怖心というトラウマを植えつけられたのだ。
* * * *
――大沢大智と出会ったのは大学でだった。
彼は同じ私立大学の文学部の同級生だった。
少し長めの茶髪に派手めな顔立ち。見た目だけはチャラ男っぽくて近寄りがたい感じだったけれど、その眼差しは穏やかで柔らかい。多分、見た目だけで誤解されやすい人だったんだろう。
彼は休み時間、よくスマホでネット小説を読んでいた。あたしにも同じ趣味があったので、そのことを知った時には親近感が湧いた。
「――ねえ、大沢くん。その投稿サイトよく見てるよね。あたしも好きなんだ、そのサイト」
「田澤……。えっ、お前も好きなのか。まぁ、こっから書籍化されてアニメになって有名になった作品、いっぱいあるからな」
「そうだよね。その作品を書いた作家さんたちも、元は作品を投稿してた名もなき素人さんだったんだって思うとさぁ。いい時代になったもんだよね」
彼とはそれまであまり話をしたことがなかったけれど、まさか共通の趣味を持っていたとは思わなくて嬉しかった。
「オレは文才ないから読み専なんだ。だからこうやって投稿してる連中が正直羨ましいよ。田澤、お前は投稿してねえの? オレより文才ありそうだけど」
「実は……投稿してる。でも全然読んでもらえないんだよねー」
今も趣味として書いている小説は、この頃からサイトに投稿していた。プロになる気はなかったけれど、自分の書いたものを多くの人に読んでもらいたいという気持ちはあったから。
でも現実は厳しく、閲覧数は芳しくなかった。人気のあるジャンルじゃなかったし、素人の書いたものなんてこんなものかと半ば諦めの境地ではあったのだけれど……。
「えっ、投稿してんのか? オレ、読んでみたいな。どれ?」
「……えっ!?」
思いがけず「読みたい」と言ってもらえて、あたしは信じられない気持ちだった。
「あ……あの、ありがと。検索かけるから待ってね。っていうかスマホ借りるよ。えーっと……あった! これ」
「ペンネーム、まったく別人だな。こりゃ分かんねえはずだわ。ありがとな、読んでみるよ」
「うん。読者になってくれてありがと。読んだら感想聞かせてね。ご忌憚のない意見でも受け入れるので大丈夫です」
なぜか敬語になってしまったあたしに、彼は「何じゃそりゃ」と言って笑った。
その笑顔が優しくて、あたしは胸がキュンとなった。大智に恋したのはその時だったかもしれない。
彼は本当にあたしの投稿した小説を読んでくれて、「面白かったぜ」と感想をくれた。
「お前、プロの物書きになる気ねぇの? あんだけ書けんのにもったいない」
「あたしの小説は趣味程度に書いて、読んでもらえればそれで十分だから。それでお金稼ごうなんておこがましいこと考えてないよ。もっと面白い作品が書ける人はごまんといるんだもん。……あ、〝ごまんと〟っていうのはただの喩えね」
「ふぅん? オレはお前、才能あると思うけどねぇ」
「…………ありがと」
あたしは嬉しかった。もちろん彼に褒められたこともそうだったけれど、それが彼の本心からの言葉だったから余計に嬉しかった。彼はウソがつけないし、お世辞とか建前がキライな人だからだ。
それからしばらくして、大智もあたしのことが好きなんだと分かり、あたしたちは付き合い始めた。
お互いの呼び方も他人行儀な名字呼びから「里桜」、「大智」と下の名前で呼び合うようになり、二人の距離もグンと縮まった。
彼は十九歳の時にクルマの運転免許を取り、ドライブデートによく出かけた。クルマは中古の軽だったけれど、大学生が買えるクルマなんてこの程度だろう。彼は苦学生というほどではなかったけど、ごく普通な一般家庭の育ちだったから。
彼との関係はキスまでは順調に進んだ。けれど、その先まで進むのにはかなり時間がかかった。好きな人が相手でも、やっぱりそこであたしのトラウマが顔を出してしまうのだ。
大智はあたしがキス以上の関係に進むのをためらっていた理由を、初めてだからだと思っていたらしい。「あなたがあたしの初めての彼氏だ」と言ってあったからだと思う。
本当は初めてじゃないんだと打ち明けたら、彼はどう思うんだろう? 引かれてしまうかな? それとも、本命の彼氏は作らずに何人もの男と遊んできた尻軽女だと思われて、あたしへの気持ちが冷めちゃうかな……。
そんな不安ばかりが頭の中をぐるぐると駆け回って、あたしも本当のことを彼に打ち明ける勇気がなかなか湧かなかった。
「――ああ、田澤里桜な。アイツ、高三の二学期くらいから急に男を寄り付かせないようになってさぁ。実はレズなんじゃね? ってウワサまで立ったんだよ」
そんな中、あたしは大智が同じ高校出身の同級生とそんな話をしているところに遭遇してしまった。トラウマの原因になった教師との一件は、同級生も誰一人知らなかったのだ。あれは夏休み中の事件だったから。
「いや、レズではねえだろ。もしそうならオレと付き合わねえって。夏休みの間に何かあったって考えるのが普通だろ、こういう場合」
大智はあたしの同性愛者疑惑をバッサリと斬り捨てたけれど、あたしの異変の原因は気になっているようだった。知ったからってどうこうしようとは思っていないみたいだったけれど。
「じゃあ、仏門にでも入るつもりなんかなー」
「仏門って……、卒業後の進路は尼寺かい。だったらオレ、ずっとお預け食らったまんまっつうことか? ないわー」
大智の言った「ないわー」に、あたしは絶望的な気持ちになった。やっぱり男の人って、ヤらせてくれる女が相手じゃないとダメなのかな……と。だから、拒み続けているあたしは彼女として〝ない〟のかと。
でも、彼が笑ってではなく、困ったような顔でそう言ったので、もしかしたらあたしの解釈は間違っているのかも、とも思った。
「オレは、アイツが男を怖がってるならムリにしたいとは思ってねえんだ。できる限りアイツの意思を尊重したいとは思ってて。……けど、やっぱオレも男だからさぁ、ガマンにも限度があるんだよな……」
やっぱりそうだよね。大智も男なんだ。好きな女の子を抱けないのはツラいよね……。
あたしは好きな人にガマンをさせていて、何だか彼に申し訳なく思った。
「だから、どうしたらアイツが怖いと思わないようにできるか、って考えてんだけど」
(…………えっ?)
あたしは耳を疑った。今まで、そんなふうに考えてくれた男が身近にいただろうか?
あたしの方から好意を抱いた相手だけじゃなく、男性から好意を寄せられて告白されたことも何度かあったけれど、あたしとエッチしたいだけなんだと感じ取ったのでみんな断ってきた。
男なんてみんな、自分の欲望を満たしたいだけの生き物なんだと思ってきた。でも、中には大智みたいな男の人もいるんだ。自分の欲求よりも、あたしの気持ちを優先してくれる人が――。
あたし、大智を好きになってよかったなぁと思った。だから怖くても、彼の欲求くらいは満たしてあげたいな、と自然と思えた。
* * * *
そんなあたしと大智の初めてのエッチは大学一年目の終わりに近い、バレンタインデー後の二月にようやく実現した。
この年のバレンタインデーには、大智に手作りチョコレートをあげた。
お菓子作りも実は得意だったのだけれど、それまでに手作りのチョコを食べさせた相手は父だけで、好きな人にあげたのは初めてのことだった。
あたしにはその頃まで〝彼氏〟と呼べる人がいなかった。恋はそれなりにしていたけれど、どうしても付き合う段階まで進めなかった。いや、あたし自身が拒んでいたのだ。
男性と付き合うということは、いずれ性的な関係まで進むということ。――あたしは高校時代のある事件がキッカケで、そのことに恐怖心を抱くようになっていた。
あたしはすでに処女じゃなかった。高校時代に、望まない形で奪われていたのだ。
当時ちょっと憧れていた男性の先生がいた。三十歳くらいのなかなかのイケメンで、女子生徒たちからモテていて、あたしもその中の一人だった。
ある夏の日の放課後、その先生に人気のないところへ呼び出されたあたしは彼に組み敷かれ、まだ成熟途上の体を暴かれた。
制服のブラウスのボタンを全開にされて胸を揉みしだかれ、スカートをたくしあげられて下着を脱がされた。足を開かされて、肉芽をしゃぶられ、蜜穴に指を突っ込まれて弄ばれた。
『――ん……っ、イヤ……ぁ! 先生、ダメ……ぇっ! あぁーー……っ!』
感じているつもりはなかったのにあたしは達してしまい、それが先生の欲望に火をつけてしまったらしい。
先生はズボンのファスナーを下ろし、下着の穴から剥き出しにした雄竿に避妊具を被せ、蜜でぐしょぐしょに濡れたあたしのナカに――それも最奥部まで挿入したのだ。
避妊されていたとはいえ、膜を突き破られた痛みにあたしは思いっきりのけ反った。
『あ……っ、あっ……あっ……、あぅっ! せ……先生……、ダメ……っ! ぁああっ!』
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『ダメ……、イく……っ! あぁぁーー……っ!』
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『――お前の体、最高にいやらしいな。「イヤ」とか「ダメ」とか言いながら、めちゃめちゃ感じてたじゃん』
『……っ、ちが……っ! あたしはホントに――』
『気持ちよかったぁ。またヤらせろよ』
――あたしはこのことを両親にも、友達にも打ち明けられず、その先生に会うのが怖くてしばらく学校にも行けなくなった。
その先生は二学期に入ってすぐクビになり、学校を去った。あたしだけでなく、何人もの女子生徒にあたしと同じようなことをしていたらしい。
その先生がいなくなってから、あたしは卒業まで学校に行けるようにはなった。でもその代わり、男性に対する恐怖心というトラウマを植えつけられたのだ。
* * * *
――大沢大智と出会ったのは大学でだった。
彼は同じ私立大学の文学部の同級生だった。
少し長めの茶髪に派手めな顔立ち。見た目だけはチャラ男っぽくて近寄りがたい感じだったけれど、その眼差しは穏やかで柔らかい。多分、見た目だけで誤解されやすい人だったんだろう。
彼は休み時間、よくスマホでネット小説を読んでいた。あたしにも同じ趣味があったので、そのことを知った時には親近感が湧いた。
「――ねえ、大沢くん。その投稿サイトよく見てるよね。あたしも好きなんだ、そのサイト」
「田澤……。えっ、お前も好きなのか。まぁ、こっから書籍化されてアニメになって有名になった作品、いっぱいあるからな」
「そうだよね。その作品を書いた作家さんたちも、元は作品を投稿してた名もなき素人さんだったんだって思うとさぁ。いい時代になったもんだよね」
彼とはそれまであまり話をしたことがなかったけれど、まさか共通の趣味を持っていたとは思わなくて嬉しかった。
「オレは文才ないから読み専なんだ。だからこうやって投稿してる連中が正直羨ましいよ。田澤、お前は投稿してねえの? オレより文才ありそうだけど」
「実は……投稿してる。でも全然読んでもらえないんだよねー」
今も趣味として書いている小説は、この頃からサイトに投稿していた。プロになる気はなかったけれど、自分の書いたものを多くの人に読んでもらいたいという気持ちはあったから。
でも現実は厳しく、閲覧数は芳しくなかった。人気のあるジャンルじゃなかったし、素人の書いたものなんてこんなものかと半ば諦めの境地ではあったのだけれど……。
「えっ、投稿してんのか? オレ、読んでみたいな。どれ?」
「……えっ!?」
思いがけず「読みたい」と言ってもらえて、あたしは信じられない気持ちだった。
「あ……あの、ありがと。検索かけるから待ってね。っていうかスマホ借りるよ。えーっと……あった! これ」
「ペンネーム、まったく別人だな。こりゃ分かんねえはずだわ。ありがとな、読んでみるよ」
「うん。読者になってくれてありがと。読んだら感想聞かせてね。ご忌憚のない意見でも受け入れるので大丈夫です」
なぜか敬語になってしまったあたしに、彼は「何じゃそりゃ」と言って笑った。
その笑顔が優しくて、あたしは胸がキュンとなった。大智に恋したのはその時だったかもしれない。
彼は本当にあたしの投稿した小説を読んでくれて、「面白かったぜ」と感想をくれた。
「お前、プロの物書きになる気ねぇの? あんだけ書けんのにもったいない」
「あたしの小説は趣味程度に書いて、読んでもらえればそれで十分だから。それでお金稼ごうなんておこがましいこと考えてないよ。もっと面白い作品が書ける人はごまんといるんだもん。……あ、〝ごまんと〟っていうのはただの喩えね」
「ふぅん? オレはお前、才能あると思うけどねぇ」
「…………ありがと」
あたしは嬉しかった。もちろん彼に褒められたこともそうだったけれど、それが彼の本心からの言葉だったから余計に嬉しかった。彼はウソがつけないし、お世辞とか建前がキライな人だからだ。
それからしばらくして、大智もあたしのことが好きなんだと分かり、あたしたちは付き合い始めた。
お互いの呼び方も他人行儀な名字呼びから「里桜」、「大智」と下の名前で呼び合うようになり、二人の距離もグンと縮まった。
彼は十九歳の時にクルマの運転免許を取り、ドライブデートによく出かけた。クルマは中古の軽だったけれど、大学生が買えるクルマなんてこの程度だろう。彼は苦学生というほどではなかったけど、ごく普通な一般家庭の育ちだったから。
彼との関係はキスまでは順調に進んだ。けれど、その先まで進むのにはかなり時間がかかった。好きな人が相手でも、やっぱりそこであたしのトラウマが顔を出してしまうのだ。
大智はあたしがキス以上の関係に進むのをためらっていた理由を、初めてだからだと思っていたらしい。「あなたがあたしの初めての彼氏だ」と言ってあったからだと思う。
本当は初めてじゃないんだと打ち明けたら、彼はどう思うんだろう? 引かれてしまうかな? それとも、本命の彼氏は作らずに何人もの男と遊んできた尻軽女だと思われて、あたしへの気持ちが冷めちゃうかな……。
そんな不安ばかりが頭の中をぐるぐると駆け回って、あたしも本当のことを彼に打ち明ける勇気がなかなか湧かなかった。
「――ああ、田澤里桜な。アイツ、高三の二学期くらいから急に男を寄り付かせないようになってさぁ。実はレズなんじゃね? ってウワサまで立ったんだよ」
そんな中、あたしは大智が同じ高校出身の同級生とそんな話をしているところに遭遇してしまった。トラウマの原因になった教師との一件は、同級生も誰一人知らなかったのだ。あれは夏休み中の事件だったから。
「いや、レズではねえだろ。もしそうならオレと付き合わねえって。夏休みの間に何かあったって考えるのが普通だろ、こういう場合」
大智はあたしの同性愛者疑惑をバッサリと斬り捨てたけれど、あたしの異変の原因は気になっているようだった。知ったからってどうこうしようとは思っていないみたいだったけれど。
「じゃあ、仏門にでも入るつもりなんかなー」
「仏門って……、卒業後の進路は尼寺かい。だったらオレ、ずっとお預け食らったまんまっつうことか? ないわー」
大智の言った「ないわー」に、あたしは絶望的な気持ちになった。やっぱり男の人って、ヤらせてくれる女が相手じゃないとダメなのかな……と。だから、拒み続けているあたしは彼女として〝ない〟のかと。
でも、彼が笑ってではなく、困ったような顔でそう言ったので、もしかしたらあたしの解釈は間違っているのかも、とも思った。
「オレは、アイツが男を怖がってるならムリにしたいとは思ってねえんだ。できる限りアイツの意思を尊重したいとは思ってて。……けど、やっぱオレも男だからさぁ、ガマンにも限度があるんだよな……」
やっぱりそうだよね。大智も男なんだ。好きな女の子を抱けないのはツラいよね……。
あたしは好きな人にガマンをさせていて、何だか彼に申し訳なく思った。
「だから、どうしたらアイツが怖いと思わないようにできるか、って考えてんだけど」
(…………えっ?)
あたしは耳を疑った。今まで、そんなふうに考えてくれた男が身近にいただろうか?
あたしの方から好意を抱いた相手だけじゃなく、男性から好意を寄せられて告白されたことも何度かあったけれど、あたしとエッチしたいだけなんだと感じ取ったのでみんな断ってきた。
男なんてみんな、自分の欲望を満たしたいだけの生き物なんだと思ってきた。でも、中には大智みたいな男の人もいるんだ。自分の欲求よりも、あたしの気持ちを優先してくれる人が――。
あたし、大智を好きになってよかったなぁと思った。だから怖くても、彼の欲求くらいは満たしてあげたいな、と自然と思えた。
* * * *
そんなあたしと大智の初めてのエッチは大学一年目の終わりに近い、バレンタインデー後の二月にようやく実現した。
この年のバレンタインデーには、大智に手作りチョコレートをあげた。
お菓子作りも実は得意だったのだけれど、それまでに手作りのチョコを食べさせた相手は父だけで、好きな人にあげたのは初めてのことだった。
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