デブの俺、異世界行ったらイケメン最強!

ゆぃ♫

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目が覚めると朝だった。
久しぶりに、ぐっすり眠れた気がする。
体を起こしながら、少しぼんやり考える。
さて……今日は何からしよう?
……そうだ。
海に行こう。
思いついた瞬間、胸が少し弾んだ。
「父さん、母さん。海に行きたいんだけど」
声をかけると、二人とも忙しそうに手を動かしたまま顔も上げない。
「今日は一緒に行けないからダメよ」
あっさり却下。
そのまま「あっち行ってなさい」と押しやられてしまった。
……えぇ。
でも、ここで引き下がるわけにはいかない。
私は一歩戻って、少し必死に食い下がる。
「でもでも、塩を作るのに行きたいんだけど!
 一人でも行けるし! 行ってもいいでしょ?」
二人が同時にこちらを見る。
「いいわけないでしょ!」
即答。
……だけど。
「塩かぁ……」
二人とも、少しだけ悩むような、複雑そうな顔をした。
――今だ。
もう一押しできる、と思った、その時。
「あのー、今から海のほう行くんで、一緒に連れていきましょうか?」
常連の冒険者さんが、さらっと言ってくれた。
……え?
一瞬、頭が追いつかなくて、次の瞬間、内心でガッツポーズ。
まじか!?
でも、父さんがすぐに首を振る。
「それは申し訳ない。冒険者さんに出すような報酬もないですし……」
ああ、そう来るよね。
期待がしぼみかけた、その時。
「今日食べた分、ただってだけでいいですよ。
 追加でお弁当とかあると、嬉しいな」
そう言って、にこっと笑った。
……この人、本当にいい人だ。
いつもほんわかしていて、怒っているところを見たことがない。
パーティーは三人。
このお兄さんと、魔法使いだと一目で分かる小柄な女性、
それから、大きな剣を持ったガタイのいい男の人。
「お弁当は俺が作るよ」
気づいたら、口が先に動いていた。
エビマヨ、餃子、竹筒に入れたスープ、それにパン。
手早く用意して、それぞれに渡す。
……よし。
出発だ。
「マシューです。今日はよろしくお願いします」
そう言って顔を見回す。
……あれ?
返事をしてくれたのは、優しそうなお兄さんだけだった。
「ロイ。よろしくね。今日は海に手紙を届けるんだ。
 後の二人は、スーとジャック。人見知りでね。無口だけど、いいやつだよ」
なるほど。
無口、か。
ロイと他愛ない話をしながら進んでいく。
海へ行くには、低いけど山を一つ越えないといけない。
そのせいで、魔獣が出ることもあるらしい。
役割分担も聞いた。
ジャックが前衛で盾、ロイが攻撃、スーが補助。
「魔獣が出たら、スーのそばに居てくれ」
……え、戦わなくていいの?
そう聞くと、
「基本はね。でも危なそうだったら、様子を見て牽制して」
とのこと。
牽制……。
いや、無理では?
腰にあるのはナイフが二本だけ。
正直、何ができるかと言われたら、何もできない。
「さ、山に入るよ。引き締めてね!」
その言葉の直後。
……あ。
唐辛子。
思わず足が止まる。
あれ、絶対使えるやつだ。
「あの、行く前に……あれ、採取してもいいですか?」
上目遣いで聞いてみると、きょとんとした顔をされた。
「あれは食べられないぞ? すごく辛い」
うんうん、と頷きながら、
土魔法で根こそぎ引き抜き、クリーンをかける。
干したいから、カバンには入れない。
後で使う。絶対。
……その直後だった。
前方から、大きな獅子が現れた。
「うぁっ!」
足がもつれて、転びそうになる。
後ろにいたスーが、無言で支えてくれた。
心臓が、バクバク鳴る。
近い。大きい。怖い。
ジャックが前に出て、剣と盾で受け止める。
ロイがその後ろから攻撃。
獅子の首をかすめて、浅い傷。
……避けられた?
私の横で、スーが何かをぶつぶつ唱えている。
何をしているのか、まったく分からない。
ロイとジャックが交互に攻撃し、少しずつ押している……ように見える。
でも、怖すぎる。
初めて見る、こんな大きな魔獣との戦い。
足が震える。
「てっ!」
突然、横で大きな声がして、心臓が跳ねた。
同時に、ロイとジャックが横へ避ける。
次の瞬間――
火の塊が、獅子を包んだ。
……え。
なにこれ。
怖すぎる。
獅子が叫び、転がる。
火が消えても、ものすごく怒っている。
いや、食べるのはいいけど……
生きてる動物を丸焦げは、ちょっと……無理。
なんかないか。
なんか……。
――水?
手をピストルみたいにして、獅子の頭を狙う。
「避けて!」
ぎゅっと魔力を込めて、
「ピュッ!」
衝撃があったのは確かで、獅子の動きが止まった。
……静寂。
次の瞬間、
「グァァァ!」
獅子が叫び、倒れた。
……。
ひぃ。
こわい。
しばらくして、ジャックが獅子を確認し、こちらを見る。
「おい、何をした」
……声、低っ。
「あ、初めて声聞きました」
思わずそう言うと、
さらに怖い顔で近づいてくる。
ロイが肩を掴む。
「ジャック、怖がってるから」
でも止まらない。
「何をした」
もう一度。
「あ、あの……水鉄砲を……」
ジャックの眉が、キッと上がった。
……怒られる。
「すごいな」
……え?
怒られなかった。
なにこれ。
ロイが慌ててフォローする。
「こいつ、強い奴好きすぎてやばいんだよ。
 怖い顔だけど、怒ってるわけじゃないから」
……ほんとに?
スーは相変わらず無口だけど、
驚いた顔で、じっとこちらを見ていた。
「……なんか、すみませんでした」
そう言うしかなかった。
心臓、まだドキドキしてる。
でも――
生きてる。
よかった。
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