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三章「遭遇」

#10

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「どーーーーーすんのーーーーーー!!!」

 あー、コータのパニック起こしたときの口癖も久しぶりだなぁ……。

「いや、ホントどうすんのよ」

 アリサも不安そうだが、幸い時間だけはいくらでもある。
 問題は食べ物だけど、それも結構どっさり持ってきているので、一日二日は問題ないだろう。

「って、カナは落ち着いてるのね」
「え? うん。だってダイチさんが出てきてないってことは、危なくないってことでしょ?」

 何、その信頼……。

「そういや、最近ダイチさん出てこねぇな」
「まぁ、ここ最近は実際危ないことって「鎧男」と会った時くらいしかなかったから……」

 そう言いながらも、ぼくはちょっとした不安がある。
 ひょっとして、もう「大人ダイチ」、現れないんじゃないだろうか。
 ブルブルと首を横に振って、その考えを追い出す。
「大人ダイチ」に頼りすぎるのもアレだけど、いざという時にはちゃんと助けてくれると信じたい。

「どーーーーーすんのーーーーーーー!!!」
「まぁ、落ち着けって、大丈夫だから。いざとなれば、俺だけ「Nocturnality(夜目)」を解けばいいだけだ」
「そしたらケンゴ、戦えないじゃん!」
「アリサがいる」

 そう言って、ケンゴはコータの両肩に手を置く。

「それに、ダイチもカナも戦える。だから、お前が落ち着いて、できるだけモンスターを避けてくれれば問題ない」
「……そ、そうかな……」

 力強いケンゴの言葉に、コータが少し落ち着きを取り戻す。

「そうだ。だから落ち着け、な? 斥候のお前が落ち着かないと、俺たち全員が危ない」
「……」

 コータがコクコクと頷きながら、落ち着こうとする。
 深く、深呼吸。

「……落ち着いたか?」
「ごめん……うん、落ち着いた」
「コータって、割と何にでも無謀に突っ込んでいく癖に「帰れない」っていう状況に弱いよね」

 ぼくが言うとコータは肩を落とす。

「実はちょっとトラウマがあってさ」
「へぇ?」
「暗いところで迷って帰れない、ってのが、もう駄目みたい」
「いやお前……なのになんでダンジョン潜ってんだよ……」
「やっぱり『静かなるチャレンジャー』だわ、コータ……」
「なにその『静かなるチャレンジャー』って」

 アリサが首をかしげる。

「コータについたアダ名。こいつさ、大人しそうに見えるけど、俺よかよっぽど無茶なんだよ」
「な、何があったの……?」
「いや、それがさ」

 ケンゴがコータの武勇伝を語ろうとした時、コータが引きつった声で小さく叫んだ。

「ケンゴ! 黙って!」
「や、そんな恥ずかしがるようなことでもないだろ?」
「じゃ、なくて!」

 コータがひどく緊張しているのがわかる。

「静かに……!」
「な、なんだよ……」
「敵……じゃなくて! 例の「鎧男」が近くにいる!」
「「「「!!!!!」」」」

 その言葉に、全員が身を強張らせた。
 ダイチとアリサはすでに武器を構えて臨戦態勢だ。
 ぼくはとりあえずカナちゃんをかばうように、コータの視線の先との間に入る。

「みんな……ごめん。パニックを起こしてる間、ちゃんと周りを見れてなかった」
「気にすんな、それより、みんな、逃げるぞ」

 ケンゴが皆に指示を出す。

 いや。それは愚策だ。

「ダメだ、ケンゴ」

 はそう言って、ケンゴの肩に手を起き、ぐっと前に出る。

「それに、もう遅い。相手はもうこちらのことを捕捉してる」
「!!」

 コータが睨む先に、灯りが見える。
 この光は知ってる。「Lumen(光あれ)」だ。

「逃げるとやましいことがあると思われるぞ。逃げずに、落ち着いて対応しろ」
「もしかして、ダイチさん?」

 カナがホッと息をつく。

「大丈夫だ。危険はない」
「危険はない?」
「ああ、危険はない。安心しろ。だからケンゴ、アリサ。武器をあからさまに構えるのはやめておけ。いつでも戦える心づもりをしておくのは良いことだが、それでは相手に『敵対している』と思われるぞ」

 二人は慌てて武器を下ろす。

 ガシャン、ガシャンと、聞き覚えのある足音。
 向こうも警戒しているのか、前に聞いたときよりも幾分ゆっくりの歩調だ。
 そして、いつか見た金髪の男が現れた。
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