秘密基地は大迷宮〈ダンジョン〉に

カイエ

文字の大きさ
42 / 65
三章「遭遇」

#14

しおりを挟む
「ダイチ! 相手は格上だ! 殺すくらいのつもりで本気で行け!」

 オレが声をかけるとダイチは「ヒュッ」と変な息を吐き、カインは「怖いな」と言って笑う。

「でも、そこの彼の言うとおりだ。私は無手でいい。モンスターを倒すつもりで、本気でかかってくるといい」

 そう言って、構えることもなく、ただ「突っ立って」ダイチに笑いかけるカイン。
 ふふふ、カインめ、度肝抜かれるなよ?

「あの、本当に大丈夫ですか? 一応防御用に剣を構えるとか……」
「残念ながら、守るべき対象であるキミに対して、抜く剣は持っていない。それよりもケンゴくん。手を抜かずに本気で来るんだ」
「いいんですね?」
「ああ。万一私がやられたとしても治癒魔術がある。どのみち心配はいらない」

 いたずらっぽいウィンク。

「……分かりました」

 ダイチが木刀を正眼に構える。
 シン、と空気が変わるのを感じ取ってか、カインが「おっ」と小さい声を上げる。
 ケンゴは何度か木刀を軽く動かし、カインを睨み……「ヒュッ」と息を吐いて、右足で地面を蹴り……、ピタ、と止まった。

「どうした?」

 カインが不思議そうに首をかしげる。
 ケンゴはフッと肩の力を抜いて、剣先を下ろす。

「駄目だわ、これ」
「ん? 駄目? 駄目とは?」
「カインさん、突っ立ってるだけなのに、スキがなさすぎ。どこに打ち込んでもやり返されるしかないのがわかる」
「……光栄だね。でも、もし私がモンスターだったとしたらどうする?」
「……打ち込みます」
「じゃあ、かかってきなさい。私は「モンスターを倒すつもりでかかってこい」と言ったはずだ」

 それとも、怖くてできないか?と挑発するようにカインが手をクイと動かす。

「……分かりました」

 そう言って、ケンゴがもう一度木刀を構える。
 ピン、と空気が張り詰める。

「――ほう」

 カインが関心した表情を見せた。

「……行きます」
「キミは、モンスターにもいちいち断りを入れて斬りかかるのかい?」

 カインの挑発を無視して、ケンゴは冷静に相手を見据える。

「……スーーーー…」

 ケンゴの緊張が高まるのがわかる。
 対して、カインは相変わらず突っ立っているだけ。

「ダイチ……アレって本当にスキがないの? あたしにはただ単に突っ立ってるだけに見えるんだけど……」
「突っ立ってるだけだからな」
「ケンゴは『スキがない』って言ってたけど」
「カイン……あの騎士は、完全にスキだらけの状態からでも、いきなりの攻撃に余裕を持って応戦できるだけの実力がある。ケンゴはそれを感じ取っているんだろう」
「……あたしじゃわからない領域の話なのね」

 アリサがため息を付く。
 そんなことを話していると、

「ッリャァアアアアアアアアアアッッッッッッッツ!!!」

 ケンゴが気合を入れ、右足から爆発的な加速を産み、

「ンッ面ェエエエエエエエーーーーーーン!!!!」

 鍛え上げた体に、毎日欠かさず振り続けた竹刀の切れ味。
 加えて、それなりのモンスターを斃して手に入れた位階による力。

「おっ?!」

 驚いたように目を見開くカインに、木刀が振り降ろされる!
 それは地球であれば、よほどの剣の達人でもなければ避けようもない鋭い剣閃。

 しかして。

(まぁ相手は王国騎士だしな)

 木刀の切っ先がカインの額を捉えたと見えたが、その瞬間カインの姿が掻き消え、

「ちょっ……!? 子供だと思って侮ったな……! 驚いたよ」

 焦り混じりの苦笑で、カインがケンゴの後ろから、木刀をつかんでいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...