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四章「帰還」
#8
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「「「「異世界だー!」」」」
ようやく外出の許可が出たことで、皆のテンションがはちきれそうだ。
残念ながら、初回ということでお目付け役のカインも同行しているが、オリヴィアと違ってカインの印象はすこぶる良いので、皆むしろ喜んでいるようだ。
「そうだキミたち。これを」
そう言ってカインが小さな巾着袋を渡してくれる。
「これは?」
「お小遣い。少ないけどね」
「「「「お小遣い?!」」」」
「いいんですか?」
「ぼくからじゃなくソフィからだよ。街へ出るなら昼食は外でどうぞ、だそうだ。どうせなら色々買い食いしたほうが楽しくないか?」
「買い食い!」
「やった!」
「ありがとうございます!」
ぼくたちの地元は田舎なので、普段買い食いをする習慣はない。せいぜいが駄菓子屋に寄るくらいで、おやつと言えば友達の家で出してもらうお菓子くらいだ。
だから、皆買い食いにちょっとしたあこがれがある。
しかも異世界の街とくれば、テンションも上がるというものだ。
「ありがとうございます、カインさん。冒険者として稼げるようになったら、きっとお返しします」
ぼくが言うと、カインは少し驚いたような顔になって、
「今はダイチくんの性格が強く出ているみたいだね。中身がグレンだとわかった今、そんなふうにかしこまった言い方をされると何だか違和感があるよ」
「……あまりこっちに引っ張られると、戻った時に困るんじゃないかと思って気をつけてるんだよ」
「戻る……か」
戻る。
元の世界に。
日本に。
本当にそんなことが可能なのだろうか。
カインは何も言わなかったが、同じことを考えているようだ。
フッと肩を竦めたカインは、
「まぁ、好きにすればいいさ。グレンにはさんざん世話になったし、このくらいのことは何でもない」
「助かる」
ぼくとカインが会話していると、きゃあきゃあ言っている子どもたちが「ダイチ」と話しかけてきた。
「……これ、何円くらい?」
「これ? ああ、100スクード銅貨か」
「スクード? って何円?」
「そうだなぁ……1スクードだいたい1円と思って大丈夫だと思う」
「お、わかりやすい!」
「でも、物の値段が全然違うぞ?」
「物の値段?」
皆がキョトンとした顔で俺を見る。
ついでにカインも。
「たとえば、日本だと10円の菓子なんかもあるだろ」
「あるね」
「でも、ダルジニョンだと菓子は贅沢品だ。そうだな、最低でも300スクードくらいは必要かな」
「300スクードが300円だとしたら、結構高いね」
「ポテチが三袋買えちゃう」
「そのかわり食事は日本より安い。肉体労働者が多いからな。串焼きなら200スクードもあれば買える。でっかいし、美味いぞ」
「「「串焼き!」」」
飛び上がって喜んだのはケンゴとコータ、そしてアリサだ。
カナは肉よりも甘味のほうがいいらしく、ちょっとがっかりしている。
「他にもクレープみたいな薄い生地で具を巻いたサンドイッチや腸詰めなど、美味いものには事欠かない。甘味は高いが……材料を買って帰ってソフィにキッチンを借りれば安く済むんじゃないか?」
皆に色々説明していると、カインが面白そうにそれを見て笑っている。
「……どうした?」
「……今度はグレンの性格が強く出てるよ。ぼく相手だとダイチ君なのに、子どもたちと一緒だとグレンになる……普通は逆じゃないか?」
「言われてみればそうだ。まいったな、自分でもよくわからん」
「ダイチっ! 早く串焼き食べに行こうぜ!」
「異世界のお店、楽しみだね!」
「そうだな、行こう!」
皆で市場へ向かうことになった。
▽
市場には野菜、果物、穀物などの食料品や雑貨、そして軽食が取れる屋台が立ち並ぶ。
市場とはいうものの、要するに露天だ。
きちんとした店舗を持っているのは鍛冶屋や武器屋などの物売り以外か、あるいは高級店に限られる。一般庶民の生活ではほとんど必要とされることはない。
庶民の生活はほぼ露天で賄われているため、市場は人通りが多く、活気にあふれている。
店も道ゆく人々も雑多で賑やかだ。
物売りの呼び込みの声。隣の屋台に負けじと大声を出すものだから皆ひどい大声だ。
そんな喧騒に田舎育ちの子供たちは腰が引けるかと思いきや。
「うおっ、すげぇ! マジものの異世界じゃん!」
「えっ、この串焼きが150スクート!? 大きい! うちの店のミニステーキくらいあるんじゃない?!」
「日本でもこんな店が近くにあったらいいのになぁ」
「あたしたちの町はとくに田舎だからね。あっこのアクセサリーかわいい!」
喧騒など全く意に介さず、むしろテンション爆上げだった。
その様子を見ていたカインは何故か嬉しそうに笑った。
「ここの大通りから外れなければまず危険はない。好きに買い食いするといい」
「ほんとっ!?」
「ああ。ずっと見張られてるってのも窮屈だろう?」
「やたっ! 串焼きをいっぱい食べるぞ!」
「ケンゴ、端から端まで全部見てから決めようよ」
「アリサ、あたしはお肉以外のものが食べたいんだけど、別行動する?」
「二人で見て回ろうよ。男どもとは別行動でさ。せっかくだし」
「そも前にちょっと注意。大通りから外れると危険な場所も多い。絶対にこの通りからは出ないように。あと、ないとは思うが、もし妙なのに絡まれるようなことがあればぼくの名前を出すといい」
「ありがとう、カインさん!」
皆はわっと喜んでいるが、
「いいのか? お目付役がそんなことを言って」
「グレンの仲間なんだろう? なら見張っている必要はないさ」
「グレンじゃなくて、ダイチだけどな」
俺の言いように、カインはクツクツと笑う。
「なら、ダイチ君は皆と一緒に行かなくていいのかい?」
「そうだな。ならカイン、一緒に見て回るか? 馴染みの店がどうなってるかも見ておきたい」
俺がそう言うと、カインは「それのどこがダイチ君なんだい?」と言って笑った。
ようやく外出の許可が出たことで、皆のテンションがはちきれそうだ。
残念ながら、初回ということでお目付け役のカインも同行しているが、オリヴィアと違ってカインの印象はすこぶる良いので、皆むしろ喜んでいるようだ。
「そうだキミたち。これを」
そう言ってカインが小さな巾着袋を渡してくれる。
「これは?」
「お小遣い。少ないけどね」
「「「「お小遣い?!」」」」
「いいんですか?」
「ぼくからじゃなくソフィからだよ。街へ出るなら昼食は外でどうぞ、だそうだ。どうせなら色々買い食いしたほうが楽しくないか?」
「買い食い!」
「やった!」
「ありがとうございます!」
ぼくたちの地元は田舎なので、普段買い食いをする習慣はない。せいぜいが駄菓子屋に寄るくらいで、おやつと言えば友達の家で出してもらうお菓子くらいだ。
だから、皆買い食いにちょっとしたあこがれがある。
しかも異世界の街とくれば、テンションも上がるというものだ。
「ありがとうございます、カインさん。冒険者として稼げるようになったら、きっとお返しします」
ぼくが言うと、カインは少し驚いたような顔になって、
「今はダイチくんの性格が強く出ているみたいだね。中身がグレンだとわかった今、そんなふうにかしこまった言い方をされると何だか違和感があるよ」
「……あまりこっちに引っ張られると、戻った時に困るんじゃないかと思って気をつけてるんだよ」
「戻る……か」
戻る。
元の世界に。
日本に。
本当にそんなことが可能なのだろうか。
カインは何も言わなかったが、同じことを考えているようだ。
フッと肩を竦めたカインは、
「まぁ、好きにすればいいさ。グレンにはさんざん世話になったし、このくらいのことは何でもない」
「助かる」
ぼくとカインが会話していると、きゃあきゃあ言っている子どもたちが「ダイチ」と話しかけてきた。
「……これ、何円くらい?」
「これ? ああ、100スクード銅貨か」
「スクード? って何円?」
「そうだなぁ……1スクードだいたい1円と思って大丈夫だと思う」
「お、わかりやすい!」
「でも、物の値段が全然違うぞ?」
「物の値段?」
皆がキョトンとした顔で俺を見る。
ついでにカインも。
「たとえば、日本だと10円の菓子なんかもあるだろ」
「あるね」
「でも、ダルジニョンだと菓子は贅沢品だ。そうだな、最低でも300スクードくらいは必要かな」
「300スクードが300円だとしたら、結構高いね」
「ポテチが三袋買えちゃう」
「そのかわり食事は日本より安い。肉体労働者が多いからな。串焼きなら200スクードもあれば買える。でっかいし、美味いぞ」
「「「串焼き!」」」
飛び上がって喜んだのはケンゴとコータ、そしてアリサだ。
カナは肉よりも甘味のほうがいいらしく、ちょっとがっかりしている。
「他にもクレープみたいな薄い生地で具を巻いたサンドイッチや腸詰めなど、美味いものには事欠かない。甘味は高いが……材料を買って帰ってソフィにキッチンを借りれば安く済むんじゃないか?」
皆に色々説明していると、カインが面白そうにそれを見て笑っている。
「……どうした?」
「……今度はグレンの性格が強く出てるよ。ぼく相手だとダイチ君なのに、子どもたちと一緒だとグレンになる……普通は逆じゃないか?」
「言われてみればそうだ。まいったな、自分でもよくわからん」
「ダイチっ! 早く串焼き食べに行こうぜ!」
「異世界のお店、楽しみだね!」
「そうだな、行こう!」
皆で市場へ向かうことになった。
▽
市場には野菜、果物、穀物などの食料品や雑貨、そして軽食が取れる屋台が立ち並ぶ。
市場とはいうものの、要するに露天だ。
きちんとした店舗を持っているのは鍛冶屋や武器屋などの物売り以外か、あるいは高級店に限られる。一般庶民の生活ではほとんど必要とされることはない。
庶民の生活はほぼ露天で賄われているため、市場は人通りが多く、活気にあふれている。
店も道ゆく人々も雑多で賑やかだ。
物売りの呼び込みの声。隣の屋台に負けじと大声を出すものだから皆ひどい大声だ。
そんな喧騒に田舎育ちの子供たちは腰が引けるかと思いきや。
「うおっ、すげぇ! マジものの異世界じゃん!」
「えっ、この串焼きが150スクート!? 大きい! うちの店のミニステーキくらいあるんじゃない?!」
「日本でもこんな店が近くにあったらいいのになぁ」
「あたしたちの町はとくに田舎だからね。あっこのアクセサリーかわいい!」
喧騒など全く意に介さず、むしろテンション爆上げだった。
その様子を見ていたカインは何故か嬉しそうに笑った。
「ここの大通りから外れなければまず危険はない。好きに買い食いするといい」
「ほんとっ!?」
「ああ。ずっと見張られてるってのも窮屈だろう?」
「やたっ! 串焼きをいっぱい食べるぞ!」
「ケンゴ、端から端まで全部見てから決めようよ」
「アリサ、あたしはお肉以外のものが食べたいんだけど、別行動する?」
「二人で見て回ろうよ。男どもとは別行動でさ。せっかくだし」
「そも前にちょっと注意。大通りから外れると危険な場所も多い。絶対にこの通りからは出ないように。あと、ないとは思うが、もし妙なのに絡まれるようなことがあればぼくの名前を出すといい」
「ありがとう、カインさん!」
皆はわっと喜んでいるが、
「いいのか? お目付役がそんなことを言って」
「グレンの仲間なんだろう? なら見張っている必要はないさ」
「グレンじゃなくて、ダイチだけどな」
俺の言いように、カインはクツクツと笑う。
「なら、ダイチ君は皆と一緒に行かなくていいのかい?」
「そうだな。ならカイン、一緒に見て回るか? 馴染みの店がどうなってるかも見ておきたい」
俺がそう言うと、カインは「それのどこがダイチ君なんだい?」と言って笑った。
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