秘密基地は大迷宮〈ダンジョン〉に

カイエ

文字の大きさ
57 / 65
四章「帰還」

#9

しおりを挟む
「……何があった?」

 三時間ほどしてカインと連れ立って約束の場所に戻ると、全員が少し疲れた顔で待っていた。

「なにか問題があったのかい?」

 カインが心配をにじませるが、カナが苦笑して両手を小さく振りながら「違うんです」と言った。

「大きな問題はなかったんですけど、ただアリサが……」
「だってあいつら、子供だと思って馬鹿にして……」

 ……どうやらひと悶着あったようだ。

「で、そっちは?」
「最初は良かったんだけど、ケンゴが……」
「なんだよ、俺が悪いのかよ」
「そうじゃないけど……」

 ……こちらはこちらでひと悶着あったようだ。まぁ、アリサとケンゴは似た者同士のトラブルメーカーだしな。

「そういうダイチはどうだったのさ。一緒に行くのかと思ったら、カインさんと行っちゃうしさ」
「すまん……。俺もお前たちと行動したいんだが、どうしても確認しておかないといけないこともあってな……これからもたまに別行動することになる」
「確認しておかないことって?」
「それは……」
「コータ」

 俺が言いよどむと、ケンゴがコータを肘でつついた。

「何さ」
「責めてるみたいになるからやめとけって。ダイチ、普段は秘密基地グループで行動できるんだろ?」
「それはもちろん」

 ちょっと微妙な空気になったのを、ケンゴがうまく丸めてくれた。
 俺は少し驚いたので、ニヤッと笑ってやった。

「さすがはリーダー」
「よせやい。もっと褒めていいんだぜ?」
「どっちだよ!」

 笑い声が起きる。
 うん、やっぱり達はこうじゃないと。

 
 ▽
 
 
 久しぶりの外出、それも新しい環境にテンション爆上げ状態ではしゃぎまわった結果、みんなカインの家に戻った途端に眠りこけてしまった。
 かくいうぼくもちょっと眠い。

「ふぁ……。ぼくもちょっと寝るかな」

 あくびしながら言うとカインがいかにもおかしそうに笑った。

「……何がおかしいんだよ」
「いや、キミがそうやって素直に昼寝しようとしてる姿をシスターが見たらなんて言ったかなと思ってね」
「シスターか……」

 シスター。
 前世における、俺の母親代わりだった人だ。
 今はもういない。

「キミとクルツが昼寝の時間になると教会を逃げ出して苦労させられた話。シスターから何度聞かされたことか」
「あー、シスターは同じ話ばっかり何度もするからな……」
「……あの子達に、前世の話はするのかい?」
「するよ。今晩にでも」

 に帰ってきてからというもの、俺の記憶がどんどん蘇ってきている。
 
 グレアム――皆には「グレン」と呼ばれていた前世の自分。
 孤児なので姓はない。
 かわりに「」なんていう不名誉な二つ名で呼ばれていた。
 
 記憶は鮮明だ。
 今や、自分が一度死んだということが不思議に思えるほどに。
 
 だが、同時に自意識は相変わらず「仁科大地ニシナダイチ」のままだ。
 ダイチとしての自意識は強固で、どれだけグレアムとしての自分を思い出したとしても、見失ったり、入れ替わってしまう心配はなさそうだ。
 それは当然だろう、どんなにグレアムとしての人生が長かったとしても……それは俺じゃない、いわば別人だ。
 俺は仁科大地として生まれ、今も仁科大地として生きている。
 
 そして仲間たち。
 相棒のクルツ、それにパーティの仲間たち――マーガレット、ユーフェン、アイリス、それに案内人シェルパのカルロスも。
 死ぬの記憶はある。
 死のの記憶はない。
 つまり俺は即死だったのだろう。
 なら……あの時後ろにいた仲間たちは――――

「カイン。正直に教えてほしい」
「なにかな?」
「まぁ……実のところ察しは付いてるんだ。だが確証が欲しい」

 俺はカインの目を真っ直ぐに見つめる。

「あいつらは……おれのパーティの仲間たちは死んだのか?」
「うん。全員死んでるね」

 カインはあっさりと、こともなさげに返答する。

「あの日のことはよく覚えているよ。ソフィとオリヴィアがひどく取り乱していた。特にオリヴィアはひどい有様だった。半狂乱っていうのかな。自分を責めて、自殺しかねないほどだった」
「オリヴィアが? なぜ?」
「さぁ? ただ、あの日オリヴィアは同行しなかったろう? 自分がいれば死なせはしなかったとか言っていたな。まぁ、彼女なりに思うところがあったんじゃないか?」
「オリヴィアがいたとしても、死体が一つ増えただけだろ」
「そのへんはオリヴィア自身の問題だからね。でも気持ちはわかるよ、ぼくだって気持ちは同じだった」

 受け止めきれない現実が襲ってきたとき、無力な自分を責めてしまうのは人間のさがみたいなものさ、などと言って肩をすくめるカインの様子は、一見するといつもと変わらない。
 しかし、俺達が死んだことで、オリヴィアたちや、目の前にいるカインにも大きな苦痛を味わわせてしまったのは間違いない。

「……すまん」
「いいさ。でも実際、皆が落ち着くのには数年必要だった。そうだな……去年か一昨年くらいになってようやく、かな」
「ん? そういえば俺が死んでから何年経つ?」
「五年かな」
「五年……」

 そういえば、と俺は思い当たる。
 
 秘密基地の中と外では時間の流れる速さが違う。
 半日ほど探索しても、外に出れば数分しか経っていなかった。つまり、秘密基地の入り口から外の光が届く範囲でしか時間は動いていなかったと見ていい。
 
 なら――ここで過ごす時間はどうなるのだろう?
 向こうの時間と流れ方が違うのだろうか。あるいは同じ?
 
(あっ!)

 なんとなく、こちらでどれだけ過ごそうが向こうの時間は流れていないと思い込んで、あまり深く考えていなかった。
 下手すると、こちらで数日過ごしただけのつもりが、向こうでは十年以上経っていた、なんてこともありうる。
 
(……ヤバい……!)
 
 自分の顔から血の気が引くのがわかった。
 
「グレン、どうしたんだい?」
「あ、ああ、いや……」
「まるでシスターに叱られる直前みたいな顔をしてるけど」
「……似たようなもんだ」

 もしそんな事になったら、両親やみんなはどんなに心配するだろう。
 戻ったときの事を考えると頭が痛くなってきた。

「……なんだかひどい顔色だけど」
「ちょっと寝てくる。現実を受け止めきれない」
「……?」

 カインが首を傾げているが、俺はそこをあとにして、みんなと一緒に雑魚寝で寝逃げを決め込むことにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

処理中です...