秘密基地は大迷宮〈ダンジョン〉に

カイエ

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四章「帰還」

#14

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「う、ぐ……」
「あ、起きた」
「ガラハドさん、大丈夫ですか?」

 ガラハドが目を覚まして、うめきながら体を起こす。

「よぉ」
「……吾輩の完敗である……」

 ガラハドが頭を軽く振った。

「グレン……いやダイチだったな。判断の的確さ、技の発動速度、相手の意表を突く展開。いささかも衰えておらんな」
「いや、最初のフェイントが効かなかったら後がなかったよ。剣術ではそこにいるケンゴとアリサにも勝てないし、魔術も威力だけならカナやコータとどっこいどっこいといったところだからな」

 勝てるのは経験値と判断スピード、あとはせいぜい手数くらいのものだ。
 俺くらいの冒険者はゴロゴロ存在している。

「……なのに何故勝てんのだ」
「器用貧乏には器用貧乏の戦い方があるのさ」
「……ふ」

 ガラハドが笑いを漏らしながら立ち上がって体の砂を払う。

「酷い目に遭わされた」
「楽しかったろ」
「ああ! やられっぱなしではあったが、久々に興奮する戦いだった! それに『Aqua(水よ)』ではなく『Aquae(水よ)』を使ってくれたおかげで、ダメージも残っておらんしな!」
「あっ」

 子どもたちが「『Aquae(水よ)』を選んだ理由に気づいたようだ。
 魔力を切れば水が消えてなくなる『Aquae(水よ)』と違って、『Aqua(水よ)』だと肺に水が残って、そのまま後遺症が残ることだってある。
 お互い害意のない模擬戦に『Aqua(水よ)』は禁じ手なのだ。

「――だが、冒険者証は初級からになる。すまんが規則でな」
「十分だよ。俺達は『はぐれ階層』専門で潜るつもりだから」
「『はぐれ階層』か……ならばよかろう。本来はもっと上に上がってからの決まりであるが、特例でポータルの取扱資格をくれてやろう」
「お、太っ腹!」
「『罰当たり』の帰還なのだ。ポータルなしじゃ話にならんだろう」
「「「……ポータルの取扱資格?」」」

 コータ、カナ、アリサが首を傾げる。
 ケンゴは――いつもどおり何も考えていないようだ。

「カインが言ってたろ。ポータルは双方向だ。モンスターが外に出てくる恐れがある。だから取り扱いには免許がいるんだ」
「へぇ……」
「普通はギルドや騎士院が設置したポータルを使わせてもらう。それを自分で設置する免許というわけだな。といってもポータルはすべて国の所有であくまで借り物だし、扱えるのは一度設置したら階層を変更できない、言わば『はぐれ階層』にしか飛べないおもちゃみたいなもんだ」
「こらこら、ポータルは断じておもちゃではないぞ? そもそもポータル取扱資格を持つ冒険者などギルドでも数人しかおらんというのに何という言い草か。だがグレン……いや今はダイチか――貴様にこの程度の特例を与えたところで文句を言うやつはおらんだろうよ」

 話を引き継いだガラハドが呆れた顔を見せる。
 実際、ポータル取扱免許の取得試験はかなり難しい。

「あの、ガラハドさん、ダイチの前世のグレンさんってどんな人だったんですか?」
「お、おい、コータ!」

 コータが余計なことを言い出した。
 あわてて止めたが、ガラハドの笑みが深くなる。

「聞きたいか?」
「聞きたいですっ!」
「カナちゃんっ?!」

 なぜかカナちゃんが勢いよく手を上げたものだから、は思わずそれを止めた。
 だって恥ずかしいじゃんか!

「ガ、ガラハドさん! すみませんがそのへんの話は……」
「わかっておるわかっておる。吾輩も流石にそこまで無粋ではない――というかグ……ダイチよ、口調が変わっておるな?」
「……あれ、本当だ」
「そちらのほうが年相応で良いな。……ああなるほどダイチよ。お前そこのカナという少女にホのj」
「『Thorn(穿てッ!!)』」
「ぐわぁああっ!!!!」

 ガラハドがとんでもないことを口走りそうになったので、条件反射で魔術を打ち込んでしまった。
 
(な、なんてことをを口走ってんだ!)

 聞かれた? 聞かれちゃった?
 顔が熱い。耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかる。
 恐る恐るカナちゃんを見てみると、にっこりと微笑まれた。

 ホッ。どうやら聞かれずに済んだようだ。
 それにしてもカナちゃんは天使!
 
 
 ▽
 
 
「そういえばお前たち。パーティ名はどうするのだ?」
「パーティ名?」
「いや、特には……」
「今まで『秘密基地グループ』としか呼んでなかったから……」
「ガラハドさん、ぼくたちまだこちらに来たばかりで、パーティ名は決まってないんです」

 が説明すると、ガラハドは腕を組む。

「そうは言うが、ソロならともかくパーティでダンジョンに潜る気ならパーティ名は必須である。早々に決める必要があるぞ」
「わかりました」
「リーダーはダイチか?」
「えっ!」

 ガラハドの言葉にケンゴがギクリとする。

「いえ、リーダーはケンゴですよ」
「ほう、そうなのか? なぜだ?」
「なぜって……単純にリーダーとして優秀だからです」

 これは本当のことだ。まぁ本人たっての希望というのもあるが。
 だがガラハドは「そういうことではなく」と首を横に降る。

「ケンゴは前衛であろう? リーダーが前衛というのは……」
「ああ、なるほど。確かに珍しいですね」

 ガラハドとのやりとりににみんなが首を傾げた。

「そうなの?」
「うん、普通は全体を見通せる後衛が指示を出すんだよ。前衛は後ろが見えないからね」
「リーダーが指示を出すもんなんじゃないの?」
「大抵リーダーは後衛が務めるからね。前衛のリーダーもいなくはないけど、その場合もリーダーは全体的な方針を決めるだけ。現場の細かいことは後衛が臨機応変に決めるのが普通だよ」

 そもそも前衛のリーダーそのものが珍しいしね。

「でも、ケンゴはちゃんと周りが見えてるよ?」

 コータが言うと、ガラハドが頷いた。

「うむ、それは認めよう。ケンゴはその若さで指示も適切であった。あれだけ動きながら周りも見えておったし、適正については文句なしであろうよ」
「やたっ」

 ガラハドの言葉にケンゴが拳を握りしめて喜ぶ。

「だが、前衛であるケンゴがリーダーを務めるなら、全体指揮は後衛の誰かに任せるべきである。カナかコータがあたりが適切であろうな」
「あれ? ダイチではなくですか?」
「ダイチは魔石戦の専門家スペシャリストなので、やはり前衛向きである。後衛を育てて信頼するのもリーダーの仕事。そうすればお前の強みをもっと発揮できるであろうよ」
「そっか……」

 ケンゴが神妙にうなづいた。

「考えておきます」
「そういう意味では、お前たちは生前のグレンたちにも似ているな。リーダーのクルツはグレンと同じ前衛だった。皆はグレンにリーダーをやって欲しがっていたがな」
「ぼくはリーダー向きじゃないので……ガラハドさんもご存知でしょう?」
「……確かにそうであったな。グレンはリーダーを嫌がって、クルツの奴に役目を押し付けておった」
「押し付けたって……クルツがリーダー向きだったってのはガラハドさんも認めるところだと思いますけど」
「まぁ『罰当たり』よりはマシという程度であるがな。そう言えば先ほど吾輩を仕留めた『Aquae(水よ)』の使い方。あれはクルツ仕込みか?」
「まぁ、はい。この体になって、残念ながら魔法適正はノーマルになっちゃいましたし、色々試していかないと」

 とガラハドの会話に、皆はキョトンとしている。
 確かに、前世の話をされても、皆にはわからないよな。

「じゃあガラハドさん。近々パーティ名の登録でまた顔を出しますんで」
「パーティ名は冒険者の顔のようなものであるからな。精々良い名前をつけるが良い」
「みんなで話し合って決めますよ。それではギルド長たちにもよろしく」
「伝えておこう」
「それでは」
「ガラハドさん、ありがとうございました!」
「またよろしくおねがいします!」

 挨拶も早々にギルドを後にする。
 と。
  
「……ああ、ちょっと待て」

 入り口をくぐるときにガラハドから声がかかった。

「お前たち、パーティの登録が済んでからでよいから、一つ依頼を受ける気はないか?」
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