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episode...02

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《AM 10:09》

蒼空「ん…?」

隣で寝息をたてて眠っている私に気がつくと、自分で後から腰に手を回している事実にまさに開いた口が塞がらないとはこの事だと心底驚いて大きめの声が出た。

蒼空「うわ!」
海桜「……ん?なーに?蒼空くん?起きたんだ…」

寝ぼけ眼で目をこすりながら目を覚した私が、あまりにも冷静すぎたのか昨夜の記憶のない蒼空くんは相当焦っていて、今いる場所が何処なのかも認識できていなかった。

蒼空「え?なんで海桜がここで寝てんの?」
海桜「だって海桜のベットだもん」
蒼空「え?は?!」

私の言葉に思考回路はもう完全にショートしていて、もうパニック状態で全く次の言葉が出てこない蒼空くんは口をパクパクとしている。

海桜「突然来て、寝落ちちゃったの覚えてないの?」
蒼空「は!?」
海桜「俺は海桜と一緒に寝るって言って全然離してくれないから、そのまま仕方なく寝たのも?」
蒼空「………」

全く見に覚えのない事実に、恥ずかしくて赤面しながら頭を抱える蒼空くん。

蒼空「って言うか、会社の新歓迎会で飲まされたとこまでは覚えてるんだけど…俺はいつここに来たんだ?」

ウル覚えの記憶を辿るも、何度思い返しても蘇る記憶は飲まされてた所までで後の記憶は完全にないみたいだった。

海桜「その飲み会の後なんじゃない?って言うか、一緒に寝るのなんて何年もしてなかったけど、すごいあったかかったね~」
蒼空「なにを呑気に…これが他の男だったらどうするんだよ…まったく…」

ブツブツと呟く蒼空くんとは真逆にのほほんとした空気で喋ってる私は、本当に呑気だったかもしれないと後になって思った。
普通の友達でも、女の子ですら高校生になってからは同じベットで寝るなんて滅多にないのに、それも気になっている異性のお兄ちゃんと一晩中同じベットで寝るなんて、いくら兄妹みたいな関係だとは言え大胆だったかもしれない。

蒼空「いや…って言うか彰さん…怒んなかったの?」
海桜「だってお父さんが運べないからって諦めたんだもん」

そこは信用されているんだと思って少し安心してホッとしたような、その信用が少し残念なような呆れてしまうような複雑な気持ちで、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

蒼空「あら、そう…」



それから私は先に階段を降りてリビングの方じゃなく、台所に直接繋がるドアの方へと周ってパジャマ姿のままウロウロしていると、何だかガヤガヤと騒がしい声がした。
私がパジャマ姿のままウロウロしてそのままリビングへ行こうとすると、母親が台所に入って来た。

母親「あら、燐斗くんと渚咲ちゃんが来てるわよ?あ、ちゃんと説明はしといたわよ!」

悪戯とも取れるにこやかな笑顔をして、ウインクしながら言う母親に私は心底驚いた。

海桜「説明って?!」
母親「二人で同じベットで寝てるのよーって」

ウキウキと話す母親にすかさず否定をするも、間違ってはいない事実の出来事に困惑してオロオロとする私。

海桜「ち、違ッ…くないけど違うもん!」
母親「じゃあ私パパとデートしてくるから後はよろしくお願いね」

そう言ってさっさと出かけてしまう母親にブツブツ文句を言ってる所へ蒼空くんが着替えて降りてくるのが見えて、ハッとした時にはもう手遅れだった。

蒼空「海桜、風呂入りたいー」

ガチャリとリビングのドアを真顔で思いっきり勢い良く開けた半裸状態の蒼空くん。
そして、思いもしない先客に戸惑いながらも、冷静にドアをしめる。

蒼空「あ、お客か。いらっしゃい」
燐斗「……おい」

声をした方を見て振り返ると、突然怒りの表情を浮かべて突っかかる燐ちゃんが、蒼空くんの体を思いっきり引っ張ってドンッとそのまま壁に勢い良く押し付ける。

蒼空「なに?だれ?」

昨夜の記憶が殆どない蒼空くんにとっては、見覚えのない顔だったと言うこともあって思わず眉間にシワをよせる。
でもそんな事はお構いもせずに、怒りをぶつける燐ちゃん。

燐斗「幼馴染みだからって好き勝手しすぎだろ」
蒼空「なに?お前だれ?海桜の何なの?」

蒼空くんも珍しく、負けずに喧嘩腰で食って掛かる。

燐斗「彼氏って言ったら?」

燐ちゃんがハッタリをかますと蒼空の表情が更に歪む。

海桜「もー!やめて!」

慌てて仲裁に入るも、止めることはできずにオロオロとしている私を見兼ねてそこに渚咲がすかさず割って入る。

渚咲「やめなさい!」
燐&蒼「あ?」
渚咲「海桜が怖がってるわ!それと、燐にはもう一つあるわ!あなたはただの友達でしょ!海桜は、あたしのだからって何回言わせるのよ!」

渚ちゃんから一括が入る。

燐斗「ご、ごめん…でもさー」
渚咲「でもじゃない!だいたい、あなたは人の事は言えないじゃない!この変態!」

ギャーギャーと渚咲と燐斗の声が響く。
そこに不意に疑問が浮かんだ。

海桜「ところで、なんで二人が来てるの?」

渚ちゃんが、燐ちゃんを押さえ込みながら応える。

渚咲「昨日、海桜と蒼空さん二人にして帰ったから一晩中燐がうるさくって…」

と、呆れた様子の渚ちゃんに加えて蒼空くんが口を開く。

蒼空「なに?お前ストーカー?」
燐斗「うるせーよ…」

真顔の蒼空くんに対して拳を握る燐ちゃん。

蒼空「なんだよ?」
海桜「もー蒼空くん!」
蒼空「それより、海桜、風呂ー」
海桜「あ、うん、沸かしてくるけど、喧嘩しないで!」
蒼空「はいはーい」

軽く返事をする蒼空くんと、ムスッとしてる燐ちゃん。

渚咲「私も手伝う」
海桜「ありがとー」

パタパタと二人がいなくなったのを見計らうようにして、蒼空がまた口を開く。

蒼空「お前、海桜が本当に好きなのか?」

突然の言葉に、少し驚きながらも燐斗は正直に答える。

燐斗「好きじゃなかったら来ねぇだろ」

燐ちゃんのその言葉に、少しの安堵と寂しさに加えて、戸惑っているようにも見える表情を浮かべる蒼空くん。

蒼空「そっか。じゃー、俺に意地でも勝てよ」
燐斗「当たり前だろ」

そこに私と渚ちゃんが戻る。

海桜「蒼空くん、お湯はすぐ湧くから、シャワーで先に入ってきたら?」
蒼空「ん、わかった」

優しく笑う蒼空くんに、綺麗にたたんであるタオルと着替えを渡す。

渚咲「なんか、新婚みたいね」

その様子をニコニコしながら見ていた渚ちゃんが言った。

海桜「もー!!」

耳まで赤く染まっている私とは逆に、渚ちゃんの茶化しにのってくる蒼空くん。

蒼空「新婚か。あなた、お背中流しますって言ってみ?」
海桜「もー!!」

更に耳を赤くして、ポカポカと力無く抵抗する海桜。

蒼空「いっ…て、冗談だろ」
海桜「冗談でも、だめ!」
蒼空「小さい頃は一緒に入ったじゃん」

じゃれつく二人を見て、燐ちゃんがため息まじりに呟く。

燐斗「俺に勝てって…勝たせる気ゼロじゃん…」

その言葉に渚咲が笑う。

渚咲「当たり前じゃない?本当、バカね」

そう言いながら、燐ちゃんの頭をくしゃくしゃと撫でる渚ちゃん。

燐斗「うっせぇ…」










それから私は、蒼空くんの背中を浴室まで押していって、それでもなおもからかい続ける蒼空を無理矢理おいてブツブツと呟きながらリビングに戻る。

海桜「やーっと解放されたーーー」

と、私が床へとヘタリつくと、渚ちゃんが近くにきてお水をくれる。

渚咲「お疲れ様。ねえ海桜」
海桜「なに?」
渚咲「蒼空さんてこのあと何か用事あるのかな?」
海桜「んー。わかんないけど。この時間だし、たぶん仕事は休みなんじゃないかな?」
渚咲「じゃーさ、蒼空さんに言って、お酒買ってお花見に連れてってもらおーよ」

と、渚ちゃんが提案を持ちかけると、あからさまに嫌そうな顔をする燐ちゃん。

燐斗「えーーーー…」
海桜「うん、蒼空くんに聞いてみる!」
燐斗「あの人も誘うの!?」

あからさまにテンションが下がる燐ちゃん。

渚咲「あたり前じゃない。燐だけじゃ非力すぎて、ものたりないもの。ね?海桜?」

渚咲がまたイタズラに笑う。
それから、蒼空がシャワーから出るのを待って出かける準備をした。

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