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第二章:浸透
変えるべきもの(2)
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翌日。
私は待ち望んでいたその人物を迎え入れた。
「ようこそお越しくださいました。サブリナ様」
ノーステッド侯爵家の長女、サブリナ嬢。
そう。あのレイジ殿下の側近、セルジュの妹である。
「こちらこそ、お招きくださりありがとうございます。兄からいろいろと話は伺っています」
「セルジュとはよき友人としてお付き合いいただいています。サブリナ様も仲良くしていただけると嬉しいです」
「よき友人……ステラリア様は、兄をそのように見てくださっているのですね」
軽い雑談を交わしながら、サブリナ嬢が発言したその点を突っ込むことにした。
「それで……セルジュは私のことをどのように言っているのです?」
「帝国にとっての劇薬であり、殿下の側近という立場でなければ近寄りたくない危険人物だと」
それを聞いて私は苦笑する。
初対面の頃からセルジュの私に対する扱いは変わっていないが、それは家族である妹に対しても同様のようだ。
「まあ、間違いではないでしょうね。ですが、私はセルジュを信頼しています。サブリナ様とも、同じように信頼関係を築いていきたいと考えていますわ」
「そうですか。よろしくお願いします」
サブリナ嬢はあっさりとそう返してきた。
艶やかに整えられた黒髪の下、彼女の眼鏡越しに見たその瞳は理性に満ちていて、冗談の類には思えない。
「……あなたは、私に怯えないのですね?」
「あなたはむやみに力を振るうことはしない。その点だけは、兄は理解していましたので」
はっきりとしたその言葉に、私は思わず彼女の手を取ってしまう。
「ありがとう。そう言っていただけると本当に嬉しく思います」
「……いえ。私はただ、あなたが力を振るう人間ではないと聞いただけですので」
「それでも、ほとんどの令嬢には『私の機嫌を損ねると手袋を投げつけられる』という恐怖が見られました。あのパーティーでの様子を見られた以上、仕方のないこととは思うのですが……あの一件が後の活動にここまで影響するとは思いませんでした」
「令嬢の周囲で剣を抜いて戦闘が発生するような騒ぎなんてありませんでしたから。多くの令嬢が婚約者になりたいと願った帝国唯一の皇子。その婚約者に選ばれたのが敵国の戦姫令嬢ということが、ステラリア様への恐怖を消すことができない要因なのでしょう」
あまりに冷静な分析に私は舌を巻く。
リシャール公爵家のラドニス嬢も聡明ではあったが、ここまで理性的ではなかった。これも、宰相の家系ゆえのものなのだろうか。
「ですが、サブリナ様はそう思われないのですね?」
「上位貴族の令嬢ですでに婚約者がいるのは私くらいのものです。当事者としてではなく、一歩引いた視点で見ることができたからこそでしょう」
サブリナ嬢は、レイジ殿下が「ノーステッド家からは求婚しないでほしい」と強い要望をセルジュに伝え、ノーステッド家はそれを受け入れていたことを教えてくれた。「その際、おそらくノーステッド家の立場に便宜を図るなんらかの交渉があった」とも。
「そうだったのですね……サブリナ様さえよければ、サブリナ様のこともセルジュと同じく普通に話してもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いません。私は誰とでも今の話し方ですのでお気になさらず」
「ありがとう、サブリナ」
改めて私はサブリナの手を取る。
対面する人物のほとんどが私に恐怖や警戒心を抱いている中で、それを抱いていないというだけでも、私にとっては神に等しい貴重な存在だ。
これから切り出す本題がうまくいくよりも、この関係を築けたということの方が重大かもしれない。
……いや、本題も今後にかかわる重要なことなんだけど。
私は待ち望んでいたその人物を迎え入れた。
「ようこそお越しくださいました。サブリナ様」
ノーステッド侯爵家の長女、サブリナ嬢。
そう。あのレイジ殿下の側近、セルジュの妹である。
「こちらこそ、お招きくださりありがとうございます。兄からいろいろと話は伺っています」
「セルジュとはよき友人としてお付き合いいただいています。サブリナ様も仲良くしていただけると嬉しいです」
「よき友人……ステラリア様は、兄をそのように見てくださっているのですね」
軽い雑談を交わしながら、サブリナ嬢が発言したその点を突っ込むことにした。
「それで……セルジュは私のことをどのように言っているのです?」
「帝国にとっての劇薬であり、殿下の側近という立場でなければ近寄りたくない危険人物だと」
それを聞いて私は苦笑する。
初対面の頃からセルジュの私に対する扱いは変わっていないが、それは家族である妹に対しても同様のようだ。
「まあ、間違いではないでしょうね。ですが、私はセルジュを信頼しています。サブリナ様とも、同じように信頼関係を築いていきたいと考えていますわ」
「そうですか。よろしくお願いします」
サブリナ嬢はあっさりとそう返してきた。
艶やかに整えられた黒髪の下、彼女の眼鏡越しに見たその瞳は理性に満ちていて、冗談の類には思えない。
「……あなたは、私に怯えないのですね?」
「あなたはむやみに力を振るうことはしない。その点だけは、兄は理解していましたので」
はっきりとしたその言葉に、私は思わず彼女の手を取ってしまう。
「ありがとう。そう言っていただけると本当に嬉しく思います」
「……いえ。私はただ、あなたが力を振るう人間ではないと聞いただけですので」
「それでも、ほとんどの令嬢には『私の機嫌を損ねると手袋を投げつけられる』という恐怖が見られました。あのパーティーでの様子を見られた以上、仕方のないこととは思うのですが……あの一件が後の活動にここまで影響するとは思いませんでした」
「令嬢の周囲で剣を抜いて戦闘が発生するような騒ぎなんてありませんでしたから。多くの令嬢が婚約者になりたいと願った帝国唯一の皇子。その婚約者に選ばれたのが敵国の戦姫令嬢ということが、ステラリア様への恐怖を消すことができない要因なのでしょう」
あまりに冷静な分析に私は舌を巻く。
リシャール公爵家のラドニス嬢も聡明ではあったが、ここまで理性的ではなかった。これも、宰相の家系ゆえのものなのだろうか。
「ですが、サブリナ様はそう思われないのですね?」
「上位貴族の令嬢ですでに婚約者がいるのは私くらいのものです。当事者としてではなく、一歩引いた視点で見ることができたからこそでしょう」
サブリナ嬢は、レイジ殿下が「ノーステッド家からは求婚しないでほしい」と強い要望をセルジュに伝え、ノーステッド家はそれを受け入れていたことを教えてくれた。「その際、おそらくノーステッド家の立場に便宜を図るなんらかの交渉があった」とも。
「そうだったのですね……サブリナ様さえよければ、サブリナ様のこともセルジュと同じく普通に話してもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いません。私は誰とでも今の話し方ですのでお気になさらず」
「ありがとう、サブリナ」
改めて私はサブリナの手を取る。
対面する人物のほとんどが私に恐怖や警戒心を抱いている中で、それを抱いていないというだけでも、私にとっては神に等しい貴重な存在だ。
これから切り出す本題がうまくいくよりも、この関係を築けたということの方が重大かもしれない。
……いや、本題も今後にかかわる重要なことなんだけど。
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