【完結】敗戦国の戦姫令嬢は生き残るために仇敵皇太子の婚約者になりました

鞍馬子竜

文字の大きさ
59 / 76
第四章:開花

帰郷(6)

しおりを挟む
 馬車は国境の山道を五日かけてイクリプス王国ディゼルド領にたどり着いた。身軽な商人であれば三日で移動できる見込み徒歩移動の騎士がいたのと、疲労で護衛に負担をかけないためにかなり慎重な日程となっている。
 国境を越えてディゼルド領に入ると、見慣れた景色が街道として舗装されていることにひどく違和感を覚えてしまう。なるほど、こんな街道ができてしまえば帝国が攻めてきたらひとたまりもない。

「まさか、もう一度ここに戻ってこれるとは思っていなかったわ」

 麓まで降りて山道から平地に景色が開けると、そこには見慣れたディゼルド領の姿が広がっていた。張りつめていた緊張が解けたように、ふっと体が軽くなったように感じる。

「故郷が恋しかったか?」
「帰れるなら帰りたいとは思っていたけれど……恋しいと思うほどの思い入れはそんなになかったのよね」
「それは、なぜ?」
「……どこかの国が休まず攻めてくるから、ここ数年はほとんど山の中にいたんだもの」

 私の答えに、レイジは気まずそうにうつむき、「すまん」と告げる。

「レイジが前線に出る前からそうだったんだから、あなたのせいだけではないでしょう」

 私はレイジに笑顔を向けるが、なんとなくぎこちなくなってしまったかもしれない。
 レイジはそれ以上なにも言わず、馬車は目的地……ディゼルド領市街地へと進み続けた。


「御大将! お帰りなさいませ!」

 ディゼルド領市街地を抜け、ディゼルド公爵邸にたどり着いた私たちを出迎えてくれたのは、私が指揮してきたディゼルド騎士団の面々だった。

「みんな、久しぶりね」
「御大将! 見違えましたね!」
「御大将! 御大将って本当に貴族令嬢だったんですね?」

 レイジにエスコードされた私へと、一斉に大声がかけられる。
 ディゼルド騎士団の基本は、皆が声を掛け合ってお互いを補い合うこと。ゆえに、日頃からやたらと声が大きい。
 やかましさに心地よさを感じながら、私は握りこぶしを作る。

「あ? 久しぶりに指導してやろうか? 言っておくが、この衣装でもお前たちに負けるとは思っていないぞ?」

 威圧するように足音高く一歩踏み出すと、騎士たちが一歩あとずさった。
 この程度で気負けするなよともう一歩踏み出そうとしたところで、目の前に腕が伸びてきて制止される。

「ステラ、今のお前はディゼルド騎士団長ではない」
「そ、そうね」

 レイジの声で我に返る。私は拳を下ろして、

「私がいなくなっても、ディゼルド騎士団をよろしく頼んだわよ」

 そういうと、再びレイジの手を取って公爵邸に入る。

「御大将って、あんなに綺麗だったんだな……」

 その場をあとにした私を、騎士たちが呆然と見送っていた。


「ステラリア、よくぞ戻ってきた」
「ご無沙汰しております、父上」

 公爵邸の入口で、父上と母上が私たちを出迎えてくれた。
 久しぶりに見た父上は、なんだかひどくやつれて見えた。
 前線を引退してからも衰えない食欲のせいでやや太り気味だった体形は、騎士たちとそん色ないほどスマートになっている。

「お前を守れなくてすまなかった。再び会えると知って、どんなに嬉しかったことか……」

 私に近寄って、そっと抱擁してくれた。母上も私の肩を抱きとめてくれる。
 不器用な父上がここまで本気で私との再会に安堵してくれていることを思うと、父上が私を差し出したという疑念は払拭されたように思う。

 これまであまり深くは聞けなかったけれど、私が帝国に引き渡された理由について明らかにするときが来たのかもしれない。
 私は抱き合ったままレイジに視線を向ける。レイジは無言でうなずいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完 婚約破棄の瞬間に100回ループした悪役令嬢、おせっかいしたら王子に溺愛されかけた為、推しと共に逃亡いたします。

水鳥楓椛
恋愛
 藤色の髪にアクアマリンの瞳を持つ公爵令嬢ヴァイオレット・エレインは、ある瞬間を起点に人生をループしている。その瞬間とは、金髪にサファイアの瞳を持つ王太子ディートリヒ・ガーナイトに婚約破棄される瞬間だ。  何度も何度も婚約破棄をされては殺されてを繰り返すヴァイオレットの人生の行先は———?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

ゲームのシナリオライターは悪役令嬢になりましたので、シナリオを書き換えようと思います

暖夢 由
恋愛
『婚約式、本編では語られないけどここから第1王子と公爵令嬢の話しが始まるのよね』 頭の中にそんな声が響いた。 そして、色とりどりの絵が頭の中を駆け巡っていった。 次に気が付いたのはベットの上だった。 私は日本でゲームのシナリオライターをしていた。 気付いたここは自分で書いたゲームの中で私は悪役令嬢!?? それならシナリオを書き換えさせていただきます

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

処理中です...