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290話 説得 16
しおりを挟むあれから、再び勉強部屋に戻ってきた桂本さんに背中の傷の手当てを受け、血が付いてしまったシャツも着替えた俺は、何をする気力もなくベッドで横になっていた。
まぁ、気力があってもこんな部屋じゃ、やれることなんて勉強くらいしかないんだけど。
父さんと話せるまでは勉強はやらないつもりだし、今日はもうずっとこうしていよう。
...疲れた。
怖かった。痛かった。
消毒され、包帯を巻かれた背中はまだヒリヒリと痛む。
でも、これで父さんと話せる。...多分。
多分というのは、桂本さんが痕の残るお仕置きもしてもいいという許可を父さんに貰ってしまったら、俺は言うことを聞くしかないから。まだ確実に父さんと話せると決まったわけじゃない。
消えない傷をつけられるのは、さすがに耐えられない。苦痛も相当増すだろうがそれよりも、ずっと傷が残っていたら、ここから逃げたとしても永遠に坂北家に囚われたままのような気がするから。
そして何より、南原さんを傷つけてしまうから。
「南原さん...。どうしよう。俺、もし父さんが消えない傷を許可したら...。」
どうなってしまうのだろう。
「帰れるかな。また、会えるかな。ぅ...南原さん...。」
ポロリと流れた涙がシーツを濡らし、俺はまた星のネックレスにすがった。
父さんと話をさせて貰えるまでは勉強をしない、なんて言わなければ、お仕置きは痕が残らない程度のままだったかもしれない。でも、俺にはこれしか思い付かなかったから。
それに、悪いことばかりではなかった。
父さんとちゃんと話す時が来たら、精一杯やろう。ちゃんと気持ちを伝えて、父さんの気持ちも聞いて、そしてそれを踏まえた上で説得するんだ。
どんなに不安でも、怖くても、泣いても、俺は絶対に自由を諦めない。
「ひっく、南原さ...真也、真也...! 」
昨日、夜遅くまでの勉強に加え、連日の目隠しで消耗しきっていた俺は、こうして星のネックレスを握りしめて泣いているうちに、いつの間にか眠ってしまったのだった。
目が覚めると窓の外は真っ暗になっていて、机の上には夕食が置いてあった。かなり寝てしまったらしい。
食欲...無いけど食べなきゃ...。
「うっ...! 」
ベッドから起き上がろうとすると、背中がズキッと痛んで思わず呻き声を上げる。
ああ...そうだった...。
腕や腰を大きく動かしたりすると背中が酷く痛むので、俺はできるだけゆっくりベッドを抜け出した。
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