291 / 341
289話 説得 15
しおりを挟む「っーー! そんな...! やだ...やめて下さい、そんなの! 」
俺はさーっと血の気が引いていくのを感じ、フルフルと首を振った。
痕が残るって、多分、一生。
次はそんな大怪我をさせられるのか。今以上の苦痛を受け入れなきゃいけないのか。
いや、それよりも。
そんな傷を見たら、南原さんはどう思うだろう。
もちろん、痛いことをされるのはすごく怖いけど、それ以上に気がかりなのはそれだ。
桂本さんに付けられた、一生消えない傷。
南原さんはきっとすごく怒るだろうし、悲しむだろう。もしかしたら、嫌われてしまうかもしれない。
怖い。そんなの、絶対に嫌だ。
「嫌なら逆らわなければいいだけのことです。ああ、もしくは透さんが茂さんを説得することができれば、逃れられるかもしれませんね。」
「っ...」
不意にスルリと目隠しが外されて、眩しさに瞬きを繰り返す。
「許可が下りたら次のお仕置きは焼き印でも押して差し上げますよ。その白い肌には、さぞ映えるでしょうね。」
ぼやけた視界が鮮明になってくると、目の前には人形のような美貌で冷たく微笑みながら俺を脅す桂本さんがいて、ゾッと背筋が凍りつくような寒気がした。
「桂本さんは...俺のことが嫌いなんですか...? 」
両手の拘束も外され、力無くその場に座り込んだ俺は、疲労で思考能力が落ち、頭に浮かんだことをそのまま口に出していた。
背中...痛い...。
「なんですか、その質問は。」
桂本さんは、そんな俺に怪訝そうな目を向けてくる。
「だ、だって...」
こんなに酷いことをしてくるなんて、そうとしか思えない。いくら仕事といえど、一方的に人を痛めつけるなんて、普通だったらできない。
いや、ただ嫌ってるだけならここまではしないだろう。何か理由があるのかもしれない。
「そうですね...嫌いというより憎い、ですかね。」
憎い...?
「.........俺、何かしました...? 」
ぼーっとする頭で少し考えてみたが、心当たりは全くない。そもそも、桂本さんと会ったのは幼少期だ。そのころから酷い仕打ちを受けていたということは、まだ幼い俺は既に桂本さんに憎まれていたことになる。
「さぁ、どうでしょう。」
桂本さんは、訳が分からないでいる俺を嘲笑すると、「着替えと手当てするものを持ってきます。」と言ってこの勉強部屋を後にした。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
1,044
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる