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理性を失う狼
アイツへの感謝は
「えっと、確かジョセフの部屋は……」
両手で持つトレーには肉多めなディナーと、腕に巻き付けている結局用途不明だった首輪。アナにジョセフの部屋は教わってはいたものの、道を間違えないように、なにより飯を冷ましたりひっくり返さないように。慎重かつ大胆な行動を心がけてジョセフの部屋に向かう。食わせたら風呂にも連れてくか……なんか飯食わせて風呂連れて行くってやってることがお母さんだ。
あと、ジョセフに対しての個人的な感謝ってのはあれだ、昼間JBとの賭け事をした時に出してくれた助け舟のことだ。5ターン耐え忍べば勝ち、このルールになんだかんだ救われたと言っても過言ではないわけで、礼のひとつやふたつ言っておかねば気が済まない。
「ん、ここか……」
ともあれ複数人がいるところで真剣にお礼を言うのはちょっとばかり恥ずかしい。だからこうやって1人でジョセフの部屋まで来たわけだ。料理を詰め込みすぎて重くなったトレーを何とか片腕で持ち、ノックをする。
「ジョセフ、大丈夫か? 飯を食え」
……返事が来ないな。ビーフジャーキーの有無でここまで体調に変化があるものなのか? 本音を言うと飯はめちゃくちゃ食わせたいけど、それよりもまずは体調が心配だ。兎に角無事かどうなのかを聞きたい。欲を言えばドアを開けてどうゆう容体なのかも確認したい。
1人でどうしたものかと考えていると、ガチャガチャと何かが動く。ドアを開けてくれるのかと思い耳をすましたが、それはドアを向こう側ではない、間違いなく音源はこちら側のものだった。
「……は? おまえ、動くの?」
今まで沈黙を貫いてきた赤い首輪、そいつがここに来て意思でも持ったと言うのか、蛇のようにうねうねと動き始めた。いきなりのことに口を開けて驚くことしかできないそんな俺を尻目に、クネクネガチャガチャと動く首輪はドアノブの外側についている鍵穴を見つける。先だけを小さい金具に変容させてガチャリとドアを開けてしまった。……いや、何だよそれ。そんな割と自由に何なら形も変幻自在とか聞いてない、多分JBも知らない。
何もなかったかのように動かなくなる首輪、唖然とする俺、ゆっくりと開く扉。その中にいる、人の形をしていない、耳の生えた獣、金色に輝く目をした動物。ジョセフに対する弁解の言葉も、昼間の感謝の言葉を並べる暇もなく、部屋に引き摺り込まれていった。
……
…………
………………
「どうやって鍵を開けた?」
ひっくり返ってしまったトレー、ぶちまけられる食事、ベットに押し倒される俺。押し倒す怪物。暗い部屋の中でもわかる。黄金の目に白の体毛、犬のような耳と顔立ち、手はいかにも獰猛な爪が隠されていそうだが立てられてはいない。それでも声は、ビックリするぐらい、本当にジョセフで。
「ジョセ、フ?」
疑問文に答えることすら忘れて恐れ慄く。それでもそいつがちゃんとジョセフであるのか確かめるために、震える喉笛を奮い立たせた。
「……ごめん。動揺した。ランプ、つけるな」
低い低いその声でも先までの凶暴さはない。警戒されているだけで、怒ってはいないのか? 獣の手で器用にベットの前のランプをつけた。暗闇によって覆い隠されていたその姿をついに拝むことになった。
真っ白な体毛。獣のような脚と尻尾、筋骨隆々な腕と爪を隠し持った手。そしてやっぱり金色の瞳。そこにいたのは昔童話で読み親しんだ、二足歩行でのイヌ科の獣。狼男というやつだった。
「ジョセフ、なのか?」
さっきは恐怖をはじめとした色々な感情のせいでまともに言えなかったことをなんとか言葉にする。白い獣はその言葉を前に、確かに首を縦に振った。
こいつは、この白い狼男は、ジョセフなんだ。魔法と魔術の世界なんでもありかよ。少しばかり甘く見ていた。見たところ理性はありそうだけど、それなら尚更どうしてこんなことになっているのかを知りたい。
「どうして、そんな姿に?」
「……ビーフジャーキー、ないじゃん?」
「うん」
「俺の家族、俺たちは、自分の欲を抑えることができないと、こんなふうに化け物になっちゃうんだ。……身体は勿論、睡眠も食欲も性欲も、全部獣みたいになっちまう」
俺たち。所謂先祖代々続く体質のようなものだろうか。いいやそれにしても限度ってもんがあるだろう、俺みたいな超能力のない世界から来た人間から見ても呪いとかそういう域だと思う。でも、絶対に目を合わせずただ俯くそれを見るに多分こいつにとってコレは誰にも知られたくない秘密、俺的にいうと身長みたいなコンプレックスであることはわかった。
「ご、ごめん……そんなつもりじゃ……」
どうにかして励ましたいのに、むしろ俺は感謝を伝えるためにここに来たのに、どうしてこうなっちまうんだ。言葉に悩み同じく俯くことしか出来なかった俺の何と情けないことか。
しかし怪我の功名というか、俯いた視線の先にあったそれを見て、俺は臨戦体制を取る。
「なぁ、さ……」
「どうした? ハジメ」
「……勃ってる」
「__うん」
ジョセフの言った言葉を思い出した。
……身体は勿論、睡眠も食欲も「性欲」も、全部獣みたいになっちまう
両手で持つトレーには肉多めなディナーと、腕に巻き付けている結局用途不明だった首輪。アナにジョセフの部屋は教わってはいたものの、道を間違えないように、なにより飯を冷ましたりひっくり返さないように。慎重かつ大胆な行動を心がけてジョセフの部屋に向かう。食わせたら風呂にも連れてくか……なんか飯食わせて風呂連れて行くってやってることがお母さんだ。
あと、ジョセフに対しての個人的な感謝ってのはあれだ、昼間JBとの賭け事をした時に出してくれた助け舟のことだ。5ターン耐え忍べば勝ち、このルールになんだかんだ救われたと言っても過言ではないわけで、礼のひとつやふたつ言っておかねば気が済まない。
「ん、ここか……」
ともあれ複数人がいるところで真剣にお礼を言うのはちょっとばかり恥ずかしい。だからこうやって1人でジョセフの部屋まで来たわけだ。料理を詰め込みすぎて重くなったトレーを何とか片腕で持ち、ノックをする。
「ジョセフ、大丈夫か? 飯を食え」
……返事が来ないな。ビーフジャーキーの有無でここまで体調に変化があるものなのか? 本音を言うと飯はめちゃくちゃ食わせたいけど、それよりもまずは体調が心配だ。兎に角無事かどうなのかを聞きたい。欲を言えばドアを開けてどうゆう容体なのかも確認したい。
1人でどうしたものかと考えていると、ガチャガチャと何かが動く。ドアを開けてくれるのかと思い耳をすましたが、それはドアを向こう側ではない、間違いなく音源はこちら側のものだった。
「……は? おまえ、動くの?」
今まで沈黙を貫いてきた赤い首輪、そいつがここに来て意思でも持ったと言うのか、蛇のようにうねうねと動き始めた。いきなりのことに口を開けて驚くことしかできないそんな俺を尻目に、クネクネガチャガチャと動く首輪はドアノブの外側についている鍵穴を見つける。先だけを小さい金具に変容させてガチャリとドアを開けてしまった。……いや、何だよそれ。そんな割と自由に何なら形も変幻自在とか聞いてない、多分JBも知らない。
何もなかったかのように動かなくなる首輪、唖然とする俺、ゆっくりと開く扉。その中にいる、人の形をしていない、耳の生えた獣、金色に輝く目をした動物。ジョセフに対する弁解の言葉も、昼間の感謝の言葉を並べる暇もなく、部屋に引き摺り込まれていった。
……
…………
………………
「どうやって鍵を開けた?」
ひっくり返ってしまったトレー、ぶちまけられる食事、ベットに押し倒される俺。押し倒す怪物。暗い部屋の中でもわかる。黄金の目に白の体毛、犬のような耳と顔立ち、手はいかにも獰猛な爪が隠されていそうだが立てられてはいない。それでも声は、ビックリするぐらい、本当にジョセフで。
「ジョセ、フ?」
疑問文に答えることすら忘れて恐れ慄く。それでもそいつがちゃんとジョセフであるのか確かめるために、震える喉笛を奮い立たせた。
「……ごめん。動揺した。ランプ、つけるな」
低い低いその声でも先までの凶暴さはない。警戒されているだけで、怒ってはいないのか? 獣の手で器用にベットの前のランプをつけた。暗闇によって覆い隠されていたその姿をついに拝むことになった。
真っ白な体毛。獣のような脚と尻尾、筋骨隆々な腕と爪を隠し持った手。そしてやっぱり金色の瞳。そこにいたのは昔童話で読み親しんだ、二足歩行でのイヌ科の獣。狼男というやつだった。
「ジョセフ、なのか?」
さっきは恐怖をはじめとした色々な感情のせいでまともに言えなかったことをなんとか言葉にする。白い獣はその言葉を前に、確かに首を縦に振った。
こいつは、この白い狼男は、ジョセフなんだ。魔法と魔術の世界なんでもありかよ。少しばかり甘く見ていた。見たところ理性はありそうだけど、それなら尚更どうしてこんなことになっているのかを知りたい。
「どうして、そんな姿に?」
「……ビーフジャーキー、ないじゃん?」
「うん」
「俺の家族、俺たちは、自分の欲を抑えることができないと、こんなふうに化け物になっちゃうんだ。……身体は勿論、睡眠も食欲も性欲も、全部獣みたいになっちまう」
俺たち。所謂先祖代々続く体質のようなものだろうか。いいやそれにしても限度ってもんがあるだろう、俺みたいな超能力のない世界から来た人間から見ても呪いとかそういう域だと思う。でも、絶対に目を合わせずただ俯くそれを見るに多分こいつにとってコレは誰にも知られたくない秘密、俺的にいうと身長みたいなコンプレックスであることはわかった。
「ご、ごめん……そんなつもりじゃ……」
どうにかして励ましたいのに、むしろ俺は感謝を伝えるためにここに来たのに、どうしてこうなっちまうんだ。言葉に悩み同じく俯くことしか出来なかった俺の何と情けないことか。
しかし怪我の功名というか、俯いた視線の先にあったそれを見て、俺は臨戦体制を取る。
「なぁ、さ……」
「どうした? ハジメ」
「……勃ってる」
「__うん」
ジョセフの言った言葉を思い出した。
……身体は勿論、睡眠も食欲も「性欲」も、全部獣みたいになっちまう
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