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<第三巻:闇商人 vs 奴隷商人>
プロローグ
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奴隷商人ニート・ソレは王都の元老院にいた。
新しく奴隷制度についての法律が施行されることになったのだ。
特に許認可制の奴隷売買についての項目が強化され、闇の奴隷市場で奴隷を購入した者には大きな罰則が付けられた。
闇奴隷市場とは闇商人が不定期に開く奴隷の競売のこと。
このスティーンハン国の王都以外の大小の街には闇商人たちのネットワークが張り巡らされていた。
多くは略奪によって女子供を拐ってきて売りさばいている。
また、奴隷だけでなく薬物や、闇の魔道具、一般では入手できない騎士の武器や装具なども売買されている。
兵士の中に横流ししている者がいるという情報もあるようだが、まだ尻尾がつかめていないという。
ニートは、元老院で法が成立するのを見届けると、スレイマン侯爵と一緒に王宮を歩いた。
スレイマンが歩きながら話そうというので、従っただけだが王宮を歩くのは初めてだ。
白い石柱が連なる大きな宮殿には、たくさんの人が働いている。
その中には、奴隷はひとりとしていない。
奴隷は、裏方だったり地下などでひっそりと働いているのだそうだ。
このように王宮でさえ奴隷に対して粗末に扱っているのだから、奴隷の地位向上をニートが声高に叫んだところで何も変わらないように思っていた。
だが、『施行前に購入した奴隷については法の適用を受けない』ということで折り合いがつけられたのだ。
大人の事情ということだろう。
「ニート君よ。ライラはどうしているかね?」
唐突にライラの事を聞かれ、面食らったが俺は元気にしているとだけ伝えた。
スレイマンにとってはライラはたくさんいる子供のひとり。
普段はあまりライラのことを聞いてきたりはしない。
「ライラがどうかされたのですか?」
気になって尋ねると、スレイマンは苦い顔をして立ち止まり「少々不穏な動きがあるんだ」と言う。
不穏な動き……? 俺の耳には入っていない。
諜報屋からの情報も寄せられていないということは、まだ入りたての新情報なのだろうか。
「と申しますと?」
俺が先を促すと、スレイマンは入ってきた情報を俺に伝えた。
「情報の出所は言えないが、闇商人の動きがおかしい。気をつけてくれ。キミは闇商人たちに目の敵にされている可能性が高いからな」
「闇商人……? 今のところ気になるような出来事は起きていませんが、気をつけて起きます。もしもの場合はライラを逃がすように手を打って起きましょう」
「ああ、すまない。そういうつもりで言ったんじゃないんだが、しかし……ありがとう」
スレイマン侯爵は頭を下げた。
俺の親父とも懇意にし、さらに俺の世代になっても商人ギルドに対して支援してくれている。
今回の法改正も、侯爵の力添えがあったからこそ実現できたのだと思う。
「俺の方でも調べてみます。危ない時は、ライラを王都に戻しますので、その時は匿ってやってください」
「わかった。おっと、大宰相のイブラハム様だ。ニート君、ひざまづくんだ」
スレイマン侯爵は、廊下の端へ素早く移動すると片膝をついた。
俺もスレイマンに倣って、同じように膝をつく。
「スレイマン侯爵、楽にしてくれ。それに、横にいるのはたしか奴隷商人の……」
「ニート・ソレです」
俺は、顔を上げて名乗る。
好好爺のように笑顔の爺さんだが、眼光は鋭い。
おそらく修羅場を何度となく経験したのだろう。恐ろしくて身が引き締まる気がした。
「おお、そうだった。ソレ家のニートか。最近は路線を変えたようで、キミのところの奴隷は奴隷らしくないと評判だな。実は、私の次男坊がキミの店の獣人族の女に執心でな。相当な熱の入れようなのだ」
イブラハムはそう言うとあごひげを撫でながら、ホッホッホと笑う。
自分の息子が奴隷のショーに通っていることを、こうも堂々と言われるとは思わなかった。
意外と俺が思っているより、ダバオの店は繁盛しているのかもしれない。
何しろ、歌って踊って男どもからチップを集めているのだ。
元いた世界で言う『会いに行けるアイドル』は、すでに定着しているようだ。
「獣人族の女ですか……。もしよろしかったら、ご子息が熱心に応援している娘の名前を教えていただければ、サインをもらってきますよ」
「サイン? なんの署名だ?」
「サインというのは、彼女たちが応援してくれる者へ送る自筆のメッセージのようなものです」
ちょっとニュアンスが違うが、大宰相は頷くと息子に伝えておくと告げて、立ち去った。
「さすがニート君。大宰相の前でも堂々としているな。それに、イブラハム様のご子息への心遣いまで。して、そのサインとやらはどんなものなのだ?」
「え……? もしかして、スレイマン殿も彼女たちにご興味が?」
「そうではない。サインというものに興味があるだけだ。私はまだ見に行ったことはないよ」
娯楽が少ないこの世界には、歌や踊りを見る機会は少ない。
最近は、寸劇なども入れて客の動員数はうなぎ上りになっている。
王都の貴族の間でも話題になっているのかもしれない。
「サインとは、お気に入りの踊り子に自分に宛てて自筆で名前を書いてもらう物なんですが、めったにもらえないので貴重なんですよ。おそらく、人気の子のサインだと高値で取引されているんじゃないかと」
確か、先日ジュンテがそんなことを言っていた気がする。
ジュンテは、王都で奴隷店を任せていた店主で、今は獣人族の女たちを使って劇場を経営させていた。
奴隷店のほうはジュンテの双子の弟のコメリが店主をしている。
そのような話をして、俺たちは別れた。
闇商人か……存在は知っていたが、今まで関わりがないので気にしていなかった。
恨みでも持たれるとやっかいだ。
さて、どうするか……
新しく奴隷制度についての法律が施行されることになったのだ。
特に許認可制の奴隷売買についての項目が強化され、闇の奴隷市場で奴隷を購入した者には大きな罰則が付けられた。
闇奴隷市場とは闇商人が不定期に開く奴隷の競売のこと。
このスティーンハン国の王都以外の大小の街には闇商人たちのネットワークが張り巡らされていた。
多くは略奪によって女子供を拐ってきて売りさばいている。
また、奴隷だけでなく薬物や、闇の魔道具、一般では入手できない騎士の武器や装具なども売買されている。
兵士の中に横流ししている者がいるという情報もあるようだが、まだ尻尾がつかめていないという。
ニートは、元老院で法が成立するのを見届けると、スレイマン侯爵と一緒に王宮を歩いた。
スレイマンが歩きながら話そうというので、従っただけだが王宮を歩くのは初めてだ。
白い石柱が連なる大きな宮殿には、たくさんの人が働いている。
その中には、奴隷はひとりとしていない。
奴隷は、裏方だったり地下などでひっそりと働いているのだそうだ。
このように王宮でさえ奴隷に対して粗末に扱っているのだから、奴隷の地位向上をニートが声高に叫んだところで何も変わらないように思っていた。
だが、『施行前に購入した奴隷については法の適用を受けない』ということで折り合いがつけられたのだ。
大人の事情ということだろう。
「ニート君よ。ライラはどうしているかね?」
唐突にライラの事を聞かれ、面食らったが俺は元気にしているとだけ伝えた。
スレイマンにとってはライラはたくさんいる子供のひとり。
普段はあまりライラのことを聞いてきたりはしない。
「ライラがどうかされたのですか?」
気になって尋ねると、スレイマンは苦い顔をして立ち止まり「少々不穏な動きがあるんだ」と言う。
不穏な動き……? 俺の耳には入っていない。
諜報屋からの情報も寄せられていないということは、まだ入りたての新情報なのだろうか。
「と申しますと?」
俺が先を促すと、スレイマンは入ってきた情報を俺に伝えた。
「情報の出所は言えないが、闇商人の動きがおかしい。気をつけてくれ。キミは闇商人たちに目の敵にされている可能性が高いからな」
「闇商人……? 今のところ気になるような出来事は起きていませんが、気をつけて起きます。もしもの場合はライラを逃がすように手を打って起きましょう」
「ああ、すまない。そういうつもりで言ったんじゃないんだが、しかし……ありがとう」
スレイマン侯爵は頭を下げた。
俺の親父とも懇意にし、さらに俺の世代になっても商人ギルドに対して支援してくれている。
今回の法改正も、侯爵の力添えがあったからこそ実現できたのだと思う。
「俺の方でも調べてみます。危ない時は、ライラを王都に戻しますので、その時は匿ってやってください」
「わかった。おっと、大宰相のイブラハム様だ。ニート君、ひざまづくんだ」
スレイマン侯爵は、廊下の端へ素早く移動すると片膝をついた。
俺もスレイマンに倣って、同じように膝をつく。
「スレイマン侯爵、楽にしてくれ。それに、横にいるのはたしか奴隷商人の……」
「ニート・ソレです」
俺は、顔を上げて名乗る。
好好爺のように笑顔の爺さんだが、眼光は鋭い。
おそらく修羅場を何度となく経験したのだろう。恐ろしくて身が引き締まる気がした。
「おお、そうだった。ソレ家のニートか。最近は路線を変えたようで、キミのところの奴隷は奴隷らしくないと評判だな。実は、私の次男坊がキミの店の獣人族の女に執心でな。相当な熱の入れようなのだ」
イブラハムはそう言うとあごひげを撫でながら、ホッホッホと笑う。
自分の息子が奴隷のショーに通っていることを、こうも堂々と言われるとは思わなかった。
意外と俺が思っているより、ダバオの店は繁盛しているのかもしれない。
何しろ、歌って踊って男どもからチップを集めているのだ。
元いた世界で言う『会いに行けるアイドル』は、すでに定着しているようだ。
「獣人族の女ですか……。もしよろしかったら、ご子息が熱心に応援している娘の名前を教えていただければ、サインをもらってきますよ」
「サイン? なんの署名だ?」
「サインというのは、彼女たちが応援してくれる者へ送る自筆のメッセージのようなものです」
ちょっとニュアンスが違うが、大宰相は頷くと息子に伝えておくと告げて、立ち去った。
「さすがニート君。大宰相の前でも堂々としているな。それに、イブラハム様のご子息への心遣いまで。して、そのサインとやらはどんなものなのだ?」
「え……? もしかして、スレイマン殿も彼女たちにご興味が?」
「そうではない。サインというものに興味があるだけだ。私はまだ見に行ったことはないよ」
娯楽が少ないこの世界には、歌や踊りを見る機会は少ない。
最近は、寸劇なども入れて客の動員数はうなぎ上りになっている。
王都の貴族の間でも話題になっているのかもしれない。
「サインとは、お気に入りの踊り子に自分に宛てて自筆で名前を書いてもらう物なんですが、めったにもらえないので貴重なんですよ。おそらく、人気の子のサインだと高値で取引されているんじゃないかと」
確か、先日ジュンテがそんなことを言っていた気がする。
ジュンテは、王都で奴隷店を任せていた店主で、今は獣人族の女たちを使って劇場を経営させていた。
奴隷店のほうはジュンテの双子の弟のコメリが店主をしている。
そのような話をして、俺たちは別れた。
闇商人か……存在は知っていたが、今まで関わりがないので気にしていなかった。
恨みでも持たれるとやっかいだ。
さて、どうするか……
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