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<第三巻:闇商人 vs 奴隷商人>
第五話:誘拐と潜入
しおりを挟む酒場でさんざん飲みまくったジルダは宿へと戻ることにした。
手下は、これから女を買いに行く者、女が酌する店へと散り散りになったがジルダはそんな気分になれなかった。
ヴィヴィの「何でもしますから許してください」という言葉が繰り返し再生される。
あの言葉、以前にも耳にしたことがある。幼い頃の記憶、母の最後の言葉。
酒を飲んだせいで感傷的になっているんだと、自分の頬を張った。
宿に戻ったジルダは、冷静に現状を分析していた。
奴隷の闇取引がうまくいかなくなったのは、法の制定後になってからだった。
裏の世界の者相手に奴隷を売りつけることは今でもできているが、それだけではいずれ立ち行かなくなるだろう。
太客だった娼館はまるっきり買ってくれなくなっている。
ふと、奴隷売買をやめて魔道具の取引と麻薬取引だけでもいいのではないかと思いがよぎる。それだけでも十分な利益は確保できるだろう。
だが、闇商人ジルダとしての意地がある。
ここで俺たちが手を引いたら、奴隷商人ギルドのやつらに負けたと世間では思われるだろう。
俺たちは顔で商売をしているのだ、舐められるわけにはいかねぇ。
「奴隷商人と真っ向対決と行くか。だが奴らも元は盗賊、山賊上がり。ぶつかれば双方共倒れもあるだろう。しかも、やつらの背後には王都の騎士団がいるという……どうしたものか」
一つずつ潰して行くか。
寝返らせることができるなら、こちらに引き込むのもいい。
チョルル村には仲間がいる。そいつらと合流して作戦を練るとするか。
幸い、あの村にも奴隷商人がいる。トラファなら、見知った仲だ。
ヤツを罠にはめて引き込むか。抵抗するなら叩き潰すまでだ。
◇ ◇
翌日、チョルル村に着いたジルダ一行は、傘下の闇商人のアジトにいた。
この村の西の山あいでは小さな集落に奴隷を集め、麻薬を栽培させている。
小さな集団だが、自分たちも薬を使っているためか、勇敢な者が多く眠らずに戦い続けることができる手下を多く抱えていた。
手足を切られたくらいでは戦意喪失しないことから、ゾンビ団の異名を持つほどだ。
その首領が、ゾルデと言うミイラのように痩せこけた男だった。
ジルダはこの男を全く信用していないのは、金で平気で裏切るようなヤツだからだ。逆に言うと、金さえ渡せば何でもしてくれる頼もしい奴でもある。
◇ ◇
チョルル村のハズレにあるゾルデのアジトに着いたジルダは、すぐにゾルデに共闘を持ちかけた。
だが、ゾルデは取り合わなかった。
理由は単純だ。ゾルデには麻薬の売買ができればいいのだ。
だからゾルデは麻薬に関係がないからと適当にあしらった。
当然、ジルダが激怒した。
あっという間にジルダはゾルデを投げ飛ばし、動きを封じた。
ジルダはゾルデの顔を踏みつけ、剣先を喉元に突きつけて言う。
「誰のおかげで商売できているのか、よく考えるんだな。俺に歯向かうのなら、お前の大切な畑を焼き払ってやってもいいんだぞ」
「やめ、やめてくれ。わかった。わかったから……」
ゾルデは顔を踏みつけられているにも関わらず、体をかきむしりながらヘラヘラと笑った。薄気味悪い男だ。
「俺に何をさせたい? タダではないんだろ?」
「ああ、成功したらたんまりと報酬をやる。この村の奴隷商人から奴隷を根こそぎ奪ってこい、それだけだ」
ゾルデは、目をひん剥いて驚く。
「奴隷商人を襲うって言うのか? そんなことをしたら……ちっぽけな俺らは潰されてしまうだろうがっ!」
「潰させねえ! 策はあるんだ。協力しろ!」
「本気なのか? あのトラファに勝てるヤツなんていねぇんだぞ」
「俺は正々堂々と戦おうとしてるんじゃねえんだ。頭を使えよ、バカなお前にはわからんか」
こめかみを指すと、ジルダはほくそ笑んだ。
この男は中毒者だが、元は暗殺者だった男だ。
手下どもも隠密行動に長けている者が多い。麻薬で少々いかれていまってるが、使えるだろう。
ジルダは、描いた策をゾルデたちに伝えた。
簡単な話だ。忍び込んで奴隷をかっぱらい、それをネタに奴隷ギルドから俺たちに寝返させるだけだ。
「決行は明日の深夜。それまで、誰にも言うなよ。奴隷は売り物にするんだから、絶対に手を出すな。いいな」
ジルダは、踏みつけていた足を下ろすと、ゾルデの手を取り立たせた。
ゾルデは、だらしなく涎を垂らしながら立ち上がると、へらへらと笑った。
「相手はあのトラファだ。だが、奴隷を盗み出す程度なら俺たちでもできる。明日の夜だな、まあまかせてくれ」
「ああ、期待以上の成果を待ってるぞ」
ジルダは、ゾルデのアジトを後にした。
ヤツが強かったのは十年も前のことだ……
最悪、正面からぶつかっても勝てるはず。だが、じわじわと侵食していけばいい。
◇ ◇
時を同じくして、トラファの屋敷に一羽の伝書鳩が届いた。
「ギルドマスターからお手紙のようです」
見張り係がトラファの部屋に手紙を持って来た。
「ニート様から……?」
引っ手繰るように受け取ると、手紙に目を走らせる。
手紙は側仕えのパオリーアという女からだった。
内容を確認したトラファは、立ち上がると手下をすぐに集まるように指示した。
「こいつは面白いことになったぞ!」
一人、部屋で声を上げたトラファは肩を震わせてた。
武者震いというやつだ。
数人の見張りを残し、手下全員が広間へと集まるのを見てトラファは言った。
「ギルドからの伝令だ。闇商人ジルダがこの村に来ている。どうやら俺たちに何か仕掛けるらしい」
側近の男は、トラファの言葉にフッと笑う。
「面白いことになりましたね。俺たちに喧嘩をふっかけるなんざ、殺してくれと言っているようなもんだぜ。いっちょやったりましょうや」
「おいおい、弱い者いじめはいかんぞ。ニート様に教えていただいただろう? 弱きを助け強きをくじくだっけ?」
「ジルダは強きに入るんじゃねぇんですか? ありゃ、相当の悪ですぜ」
「そりゃそうだな。がははははっ!」
トラファは大声で笑うと、手下たちも手を叩いて笑った。
ひさしぶりにおもしろいことになりそうだ。
「奴隷の女たちを狙ってくるかもしれん。全員、別棟の隠し部屋に移動させてやれ。あそこなら火を放たれようが、ビクともしないだろう」
「しかし、女が一人もいないとなると逆上するんじゃないですかね?」
「そうだな。お前たちが、代わりに部屋にいろ。ちゃんと、女奴隷に見えるように変装しておけよ」
トラファの屋敷には男奴隷は外へ働かせに出していて居ない。
屋敷に残っている奴隷たちは、女の奴隷ばかりだ。
女奴隷は、稼ぎ頭で盗まれると大損する。
なにしろ、毎日メシを食わせ、体を洗い、綺麗な服を与えている。とても、奴隷の扱いではないほど、丁寧に扱っているのだ。
経費もかかるが、売れる金額は以前の数倍にもなっていた。
誘拐でもされたらえらい損をすることになる。
そこで、手下が女装して奴隷の部屋にいることにした。
もちろん、明るいところで見たら男だと気付くだろうが、泥だらけにボロ切れを着ておけば、ちょっと見ただけではわからないはずだ。
「殺されそうなら返り討ちにしていい。もし、アジトに連れていかれるなら、そのまま黙って奴らのアジトへ行け。奴隷らしく無気力を装えばすんなり連れて行ってくれるだろうよ」
「そんなに簡単にいきますかね?」
「さぁどうだろうな。だが、面白いじゃねえか」
ガハハハと笑うトラファにつられ、引き攣り笑いの側近たち。
トラブルが大好物のこの親分には敵わないなと、誰かが呟いている。
「アジトに着いたら暴れてやれ。やつら麻薬中毒で痛みを感じないから気をつけろよ」
「まかせてくだせえ」
トラファは見張り番に、奴らが侵入した時の合図を再度打ち合わせした。
「誰一人、お前たち死ぬなよ」
がはははと、トラファが笑うと手下も同じく大笑いした。
この男所帯のトラファ一家は、上も下もなく全員が山賊時代からの仲間だ。
トラファは、何よりも仲間を大切にしていた。
そして、不安なことがあってもガハハと笑って吹き飛ばすのが、ここのやり方だ。
「やつら、親分を暗殺しようと考えているかもしれませんぜ」
「ああ、それならそれでかまわんさ。返り討ちにしてやる」
「くれぐれも無理はしないでくださいよ」
手下に心配されるようじゃ、俺も歳をとったなと笑うトラファだった。
その翌々日、トラファの目論見通り、闇商人ゾルデの一派がトラファの屋敷を襲撃し、奴隷たちを連れ出した。
無論、それらは女装したトラファの手下たち。
男たちが奴隷のふりをしていることに気づかれなかったことは、後の語り草になったのは言うまでもない。
翌日、ゾルデ一派が壊滅した後、揚々とトラファはゾルデのアジトへと入ったのだった。
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