悪役転生した奴隷商人が奴隷を幸せにするのは間違っていますか?

桜空大佐

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<第三巻:闇商人 vs 奴隷商人>

第六話:ゾルデ一派の消滅

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 ゾルデの屋敷へ行くとトラファの子分たちが待っていた。
 どいつも一仕事終えたというのに、疲れも見せずにニタついている。
 ひさしぶりに暴れたのが、よほど嬉しかったのだろう。

 山賊の頃は毎日のように喧嘩に暴力、略奪を繰り返していた。
 奴隷商ギルド長のコンラウス・ソレと出会って、奴隷売買を主に扱うようになった。
 村に店を出し、屋敷を構えて細々とでも食っていけていた。
 それが、息子の代に変わってから奴隷の価値が上がり、またニートから奴隷を大切にするほど高く売れることを聞き、言われた通りにしたことで儲けは大幅に増えていた。
 ワルだったトラファにとって、感謝されたことなどなかった。それが、今では奴隷たちから感謝の言葉を聞き、客からも感謝の言葉を言われるようになったのだ。
 まっとうに商売した方が、けっきょく自分のためにも周りのもののためにもなるのだと思い知らされた。
 だからこそ、いつまでも闇商売をしているヤツらをいつまでも放っておくことができなかったのだ。

「ごくろうさまです! 制圧できていやす!」
「おうっ、ごくろうさん。しかし、お前らのその格好、よく似合ってるじゃねえか! がはははっ!」

 奴隷の貫頭衣を着た手下たちは、お互いの格好を改めて見て苦笑いをした。

「そろそろ着替えてもいいですかね?」
「いいや、おもしれえからそのままでいいぞ」

 トラファが、手下を見てプッと吹き出す。
 丸刈り頭に女奴隷が着ているボロの布を頭からかぶり、むき出しの足には毛がモジャっと生えている。

「お前ら、本当に気づかれなかったのか? 本当か?」
「もちろんですよ。俺たちけっこう似合ってましたぜ」

 詰め物で胸を大きく見せていた男が、面白半分に乳を揺らす。
 すると、ポロポロっと何やら詰め物が落ち、それが転がって行くのを慌てて追いかけている。
 やんやと囃し立てる男たち。

「ところで、ゾルデはどこだ?」

 こちらです、と案内されたのは、アジトの地下部屋だった。
 さらってきた者を隠しておくための地下室だったが、そこにゾルデは鎖で繋がれていた。

「へへへ、トラファの旦那。ひさしぶりだな」

 両手を天井の梁から鎖で縛られた男は、トラファが入ってくるのを見て言った。

「お前、まだ生きてたんだな。てっきり薬に溺れて死んだかと思っていたぞ」

 ゾルデとトラファは旧知の仲だ。
 麻薬にさえ手を染めなければいい仲間になれたと思っている。
 だが、今は人間以下だ。
 薬のやりすぎで、幻覚が見え幻聴に悩まされ、不眠で常にイライラしているかと思えば、へらへらと笑うときもある。
 被害妄想が激しく、いつも何やらぶつぶつと言っては、見えない誰かを怒鳴り散らしている。
 見るに耐えないと思って距離を取っていたのだが。

「俺のところの奴隷を盗むとはいい度胸だな」
「は? あれが奴隷か? まんまと騙されたぞ、くっそ、気持ち悪くて思い出しただけで吐きそうだぜ、げへへ」

 手下の一人が、あいつに尻を触られましたと面白がって言うと、周りからどっと笑いが上がった。
 こんなおっさんの尻を触って喜んでいたとは、どうしようもないやつだ。

「なあ、ゾルデよ。これはお前さんの仕業じゃないよな。ジルダの野郎の差し金だろ?」

 トラファは、事前にジルダが何かちょっかいを出してくると言う情報を事前に受けていたので、事なきを得たが、もし何も知らずに奴隷たちを盗まれていたらと思うとゾッとする。

「ああ、さすが旦那は耳が早いな。そうだ、あの野郎に言われたのさ」
「だが実行したのはまずかったな。勝ち目のない勝負なんてやめろっていっただろ?」
「ああ、そういえば何か言っていたよな」

 トラファは鎖に繋がれたゾルデの前で、床にあぐらをかいて座る。
 痛めつけるつもりはなかったが、見るからに中毒者。しかも、廃人寸前だ。
 このまま生かしておくのはゾルデのためにもならないだろう。
 いつか、取り返しのつかないことをして周りにも死人が出るくらいなら、ここで引導を渡してやるのもいい。

「お前の手下は全員死んだぜ。お前はどうする?」
「そうか、死んだのか。ヒャッヒャッヒャ! そりゃ、まさか女の奴隷だと思っていたら旦那の手下だったんだからな。意表を突かれたぜ。まぁいい。俺を殺してくれ。頼むわ、このとおりだ」

 頭を下げるゾルデ。

「旦那。正直、もう俺はここいらで死んだ方がいいのかなって思ってんだ。薬も少々じゃ効かなくなってよ、売るよりも自分たちで使う方が多くなっちゃダメだろ? どうしてこうなっちまったんだろうな」
「そりゃ、お前が弱いからだな。誘惑に勝てなかったんだから、しかたねえな」

 トラファは、立ち上がるとゾルデの肩に手をかける。
 両肩に大きな手を乗せられたゾルデは、顔を少し歪めたが、安心したような表情になった。

「お前にこんなことをさせたジルダを、代わりに懲らしめておいてやる」
「ああ、頼んだ。あの若造の下についたのが俺の運の尽きかもな。旦那はいい主人に出会えたみたいだな」

 トラファは、微笑むと首を縦に振った。

「ああ、甘ちゃんだと思っていたら、ずば抜けた才能を持ってる人だった。人を惹きつける魅力というのかな、周りの者がニート様のために頑張ろうとしてしまうんだ。お前も会っていたら人生変わっていたかもな」
「いい顔してんじゃねえか、旦那。……もういい加減、俺も疲れたから、そろそろやってくれ」

 トラファは腰に差した剣を抜く。
 ひゅっ! 風切り音とともに、横薙ぎにされた剣がゾルデの首をはねた。
 あっけないもんだとトラファは呟くと、その場を後にした。



◇ ◇

 ジルダが、ゾルデ一派が壊滅させられたことを知ったのは、それから一刻ほど後のことだった。

「あの野郎、まともに仕事もできねえほど狂っちまったのか?」

 ジルダの言葉に、カシムが苦い顔をしてうつむく。あの野郎とはゾルデのことだろう。
 カシムも彼とは知らない中ではないため、負けたことが悔しかったのか、唇を噛み締めている。

 すでにジルダたちは、チョルル村を出て、西の街へと向かっていた。

 ジルダは、忌々いまいましげにチョルル村を見た。
 逃げ出したわけじゃねぇ。別の方法を思いついたのだ。
 この借りはかならずきっちりと倍にして返してもらうからな。


 小さな村落を見つけ、略奪したがろくなものはなかった。
 食い物と女だけをさらったが、女も年増の女ばかりだった。
 女をさらってみたものの売れなければお荷物でしかない。
 俺たちには、奴隷売買の許可証がないのだ。
 手に入れるか……盗んでやるか。

「ジルダ様」

 馬車に相乗りしたカシムに名前を呼ばれるまで物思いにふけっていたジルダが顔を上げる。
 カシムは、窓から外の景色を見ながらポツリと言った。

「仲間を集めて、盛大に奴隷ギルドに乗り込みませんか?」
「ああ、それも考えているが、真正面から戦うなんて俺たちらしくねぇ。できたら姑息な手段でじわじわと苦しめてやりてえ」
「それもそうだ。さすが、ジルダ様。何か策があるのですか?」
「あるぞ。それは……」


 その日の夜、チョルル村から山一つ離れた場所にある街に到着したジルダ一行は情報屋のところへと向かった。
 この街の裏社会で情報屋をしている男は、名前は知らないがジルダは懇意にしていた。
 なにしろ、どこの家には若い娘がいる。あそこの家には金がたんまり溜め込んであるなど、普通では知り得ない情報を持っているのだ。しかも、精度も高いときている。

「ご無沙汰していましたな、ジルダ様」
「ああ、久しぶりにこの街に来た」

 何気ない民家の納屋から地下へと続く階段。その奥に情報屋のアジトがある。
 アジトといっても家具らしいものは見当たらない。
 住んでいるのは別の場所だろう。

「さっそくだが、頼みたいことがある」
「はい、なんでしょう。今回はどんな情報をお求めで?」

 手揉みして、わざとらしく媚を売る情報屋から視線を外すと、ジルダはささやいた。

「奴隷売買許可証を見たことがあるか?」
「奴隷商ギルド発行のですか? 奴隷商たちが掲げている」
「ああ、そうだ。それを一つ用意して欲しいのだが」

 ジルダは、ギルド発行の奴隷売買許可証というものを見たことがない。
 だが、奴隷の販売をするときは許可証を見せる決まりになっている。
 ジルダは、その許可証を手に入れて奴隷を売りつけようと思っていたのだった。

「ありますとも。ですが、手に入りませんぜ」
「わかっている。だが、そっくりのものを作ることはできるんじゃないのか?」

 もちろん可能です、と答えた情報屋は偽造が得意な者がいますよと耳元でささやいた。
 こんな地下で耳元で囁くほどのことなのか?

「一つ、融通してくれ。なるべく精巧に頼むぞ」


 この同時刻、ニートは闇商人にさらわれたエルフたちに会うためにマーティの街へ辿り着いた。


 
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