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<第三巻:闇商人 vs 奴隷商人>
第四話:心の痛み
しおりを挟むチョルル村には、荷馬車で七日かかる。
その道すがら、小さな集落を襲ったり、行商人を襲撃しながら闇商人ジルダの一行は進んでいた。
集落を襲ったのは食料調達と女の調達だ。
捕らえた人間は醜女しかいなかったため、とことん体で楽しませてもらった。
そのあとは、裏稼業の男たちに売り払ったが買い叩かれたのは言うまでもない。やはり、エルフなどの人気の商品が欲しいところだ。
ヴィヴィを失ってから、ジルダは女に対して、というよりエルフに対しては、鬼畜となった。
心がなくなったのかもしれないとジルダは手下に話をしたが、みんな理解できずキョトンとしていた。
この空虚さはなんだ……
「まだ旅は続くが、金はまだまだある。今夜あたり宿場町に寄って酒でも飲むか!」
「おぉー! ひさしぶりだな、兄弟!」
「おうっ、酒なんてずいぶん飲んでねぇや!」
最近あまり良いことがなかったので、ここいらでパーと馬鹿騒ぎがしたい。
手下たちの腕っ節の強さは、騎士団の包囲をくぐり抜け荷車を手で引いて走ったほどだ。
騎馬隊でさえ、追いつかないというと冗談が過ぎるが、抜け道に詳しい闇商人は神出鬼没。そう簡単には捕まえられることはない。
だが、すでに国内に指名手配されているだろう。
ジルダにとって、それは些細なことだった。
俺たちは裏稼業、闇商人なのだ。
いくつかの小さな町で、武器や魔道具を売り、略奪した物資で食料を調達しながらほそぼそと生きていくのみ。
「それにしても思い出すだけで腹が立ちますね、ジルダ様」
「何がだ? もしかして、あの夜のことを言っているのか」
「そうですよ。あのヴィヴィってエルフなら白金貨で一枚で売れたかもしれないんですぜ。残してきたのは失敗でしたな」
ジルダの脳裏にヴィヴィの「何でもしますから許してください」と懇願する姿が浮かぶ。
また、あの娘を思い出すだけで胸が痛くなる。
あんな失敗は二度としたくねぇ。奴隷売買も潮時かもしれねぇな。
「そんなタラレバの話をしても仕方がねぇ。とにかく、拾ったガキ二人をとっとと売っちまえ」
「しかし、あんな子供で売れるんですかい?」
猫人族の姉妹は、たまたま襲った村の近くの山で拾ったのだ。
行くあても、金もないからと、連れて言ってくれというので連れて来たが、タダメシ食わせる余裕はなかった、
子供とはいえ働かせるつもりだったが、歌や踊りしかできないと抜かしやがる。
仕方がないので、どこかの街で売っ払おうと思っている。
「あのガキは、見た目はいいが働かせるには小さくて非力だ。だが、踊れるし歌えるというのだ。利用価値はあるだろう」
「ちょっと、歌わせますか? 売り物になるほどだったらいいが、とんだ音痴だったら捨てていきましょうぜ」
「まぁ、そう焦るな、もう少しで宿場町だ」
ジルダの一言で、手下が馬車の窓から外を見る。
空が明るくなっている、街が近いということだ。
「すっかり暗くなったな。今夜は仕事はなしだ。これ以上、追われると面倒だしな。しっかりと羽根を伸ばしてくれ」
その言葉に、一気にみんながやる気を出した。
ジルダと側近の二人だけは馬車に乗り、他の手下は荷馬車の荷台にいる。
後方の手下は、なぜ盛り上がっているのかわからないくせに、真似して雄叫びをあげているのを聞きジルダは苦笑した。
宿に荷物を置き、酒場へと繰り出す。
総勢十五名ほどの人相の悪い集団が入れる店は限られている。
冒険者が行くような、酒場を探すとちょうどいい店が見つかった。
「この店、ずっと前に来たことがありますね。たしか、踊り子がいる店だったような」
「お前、ハゲてるくせに記憶力がいいじゃねえか。ではここにするか」
店は半分ほど客が入っているが、誰一人こちらを見なかった。
冒険者のパーティが何組か見えるが、それ以外は職人たちだろうか。
ドワーフの姿もあった。
みんな仲間と盛り上がっているようだ。今夜はここで酒盛りだ!
この夜、ジルダは浴びるほど酒を飲み、飯を食らった。
何かを忘れたいかのように……
◇ ◇
闇商人ジルダが、酒を飲み盛り上がっている頃 ――――
王都ダバオ近郊にある奴隷商人ニートの屋敷では、諜報屋からの情報がもたらされていた。
「アルノルト、さっそくだが諜報屋の報告をみんなに説明してやってくれ」
俺の部屋には、ライラ、パオリーア、マリレーネ、アーヴィアが集まっている。アルノルトを入れ、この五人には知っておいてもらいたかった。
「では、説明します。現在、奴隷制度法の改正によって、人をさらって人身売買を生業としていた裏稼業の者たちが、次々と兵に捕まっているとのこと。
これは、奴隷の売買は奴隷ギルドの許可を受けた奴隷商人から購入することが法的に義務付けられたからです」
裏稼業の者たちに恨まるのも当然か。
そっちの世界にも根回しをしておけばよかったのだが、俺はそっち方面は疎い。裏稼業の者のことなど頭になかった。
ふとパオリーアたちに目を馳せると、黙って聞いている。
「今まで小さな集落を襲って、女子供をさらっては闇市で売られていた奴隷ですが、最近は購入者が激減したようです。中には、奴隷の闇売買で自警団に捕まり牢に入れられた者もいるそうで、裏の世界ではかなり騒ぎになっているようですね」
「そうなるよな、裏稼業の者たちの商売を横取りしたみたいになった。申し訳ないことをした」
俺は、ポツンとそう言うとライラが「旦那様が謝る必要はありません」と言う。
そうなんだろうけど……
だが、この世界に独占禁止法なんてものがないのだから、今のうちに奴隷商人の既得権を積み上げたい。
「それで? 他に何を書いている」
「はい、先日、マーティの街の近郊にあるエルフの村が襲撃され、エルフが連れ去られました。そのエルフたちは闇奴隷市場で競りにかけられたそうですが、騎士団が突入して救出したようです。その時の闇商人は逃げたようですが、エルフたちは助かったそうですよ」
闇奴隷市場というものがあるのか。
そんなところに出入りする客は奴隷にどんな仕打ちをするのか、想像したくなかった。
「その闇商人はどこに逃げたのだ?」
「この報告書では、闇商人ジルダの一行はチョルル村に向かったとのことです」
「トラファのおっさんの村か。あんな辺鄙なところに行って何をする気なんだろう。 それは何か書いているか?」
首を振ったアルノルトは、報告書を閉じると「以上になります」と言った。
「聞いての通り、法が改正されて奴隷の売買が厳しくなった。これは俺が草案した法律だから、俺たちには都合のいいものになっているが、闇商人や裏稼業の者たちは商売できずに俺たちを恨んでいるだろう。そこでだ……」
俺は、ここで一旦言葉を止め、みんなを見渡した。
みんな俺が何を言おうとしているのか、静かに待っていた。
「実は先日王都でも、闇商人の動きが怪しいという話を聞いた。どうやら、アルノルトが先ほど言った話に通じるものがある。闇商人たちがここを襲撃する可能性もゼロではないと思っている」
ビクンと驚いた顔をするパオリーアたち。
襲撃されるとこの屋敷はひとたまりもない。
何しろ、今でこそ門番や巡回警備している私兵がいるが、まだ襲撃に耐えられるほどの防護力はない。
「俺は、マーティの街で保護されたエルフに会いに行こうと思う。同行はパオリーア、お前がついてこい」
パオリーアが、短く返事をする。
その横で、ライラがハッと顔を上げ抗議の視線を送ってきた。
「ライラ。お前にはしてもらわないといけないことが山ほどある。そう怖い顔をしないでくれ」
「はい、申し訳ありません」
「ライラは、王都に一度戻って私兵を募ってくれ。この屋敷の警備の強化をするんだ。できれば傭兵ではなく、素性のわかる奴らがいい」
貴族の娘であるライラが兵を集めるのに適任だろう。
「アルノルトは、諜報屋に闇商人ジルダについて調べさせろ。どんな些細なことでもいい。それと俺に恨みのある闇商人たちをリストアップするように頼む」
「わかりました。さっそく動きます。ニート様もお気をつけて!」
そのあと、マリレーネとアーヴィアにはもしもの時のために奴隷たちに避難訓練をするようにと申し付けておいた。
備えあれば憂いなしだ。できれば、最悪な事態は避けたい。
なんとか、うまく事を収められたらいいのだが。
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