悪役転生した奴隷商人が奴隷を幸せにするのは間違っていますか?

桜空大佐

文字の大きさ
85 / 97
<第三巻:闇商人 vs 奴隷商人>

第四話:心の痛み

しおりを挟む

 チョルル村には、荷馬車で七日かかる。
 その道すがら、小さな集落を襲ったり、行商人を襲撃しながら闇商人ジルダの一行は進んでいた。
 集落を襲ったのは食料調達と女の調達だ。

 捕らえた人間は醜女しかいなかったため、とことん体で楽しませてもらった。
 そのあとは、裏稼業の男たちに売り払ったが買い叩かれたのは言うまでもない。やはり、エルフなどの人気の商品が欲しいところだ。

 ヴィヴィを失ってから、ジルダは女に対して、というよりエルフに対しては、鬼畜となった。
 心がなくなったのかもしれないとジルダは手下に話をしたが、みんな理解できずキョトンとしていた。
 この空虚さはなんだ……


「まだ旅は続くが、金はまだまだある。今夜あたり宿場町に寄って酒でも飲むか!」
「おぉー! ひさしぶりだな、兄弟!」
「おうっ、酒なんてずいぶん飲んでねぇや!」

 最近あまり良いことがなかったので、ここいらでパーと馬鹿騒ぎがしたい。

 手下たちの腕っ節の強さは、騎士団の包囲をくぐり抜け荷車を手で引いて走ったほどだ。
 騎馬隊でさえ、追いつかないというと冗談が過ぎるが、抜け道に詳しい闇商人は神出鬼没。そう簡単には捕まえられることはない。

 だが、すでに国内に指名手配されているだろう。
 ジルダにとって、それは些細なことだった。
 俺たちは裏稼業、闇商人なのだ。

 いくつかの小さな町で、武器や魔道具を売り、略奪した物資で食料を調達しながらほそぼそと生きていくのみ。

「それにしても思い出すだけで腹が立ちますね、ジルダ様」
「何がだ? もしかして、あの夜のことを言っているのか」
「そうですよ。あのヴィヴィってエルフなら白金貨で一枚で売れたかもしれないんですぜ。残してきたのは失敗でしたな」

 ジルダの脳裏にヴィヴィの「何でもしますから許してください」と懇願する姿が浮かぶ。
 また、あの娘を思い出すだけで胸が痛くなる。
 あんな失敗は二度としたくねぇ。奴隷売買も潮時かもしれねぇな。

「そんなタラレバの話をしても仕方がねぇ。とにかく、拾ったガキ二人をとっとと売っちまえ」
「しかし、あんな子供ガキで売れるんですかい?」

 猫人族の姉妹は、たまたま襲った村の近くの山で拾ったのだ。
 行くあても、金もないからと、連れて言ってくれというので連れて来たが、タダメシ食わせる余裕はなかった、
 子供とはいえ働かせるつもりだったが、歌や踊りしかできないと抜かしやがる。
 仕方がないので、どこかの街で売っ払おうと思っている。

「あのガキは、見た目はいいが働かせるには小さくて非力だ。だが、踊れるし歌えるというのだ。利用価値はあるだろう」

「ちょっと、歌わせますか? 売り物になるほどだったらいいが、とんだ音痴だったら捨てていきましょうぜ」
「まぁ、そう焦るな、もう少しで宿場町だ」

 ジルダの一言で、手下が馬車の窓から外を見る。
 空が明るくなっている、街が近いということだ。

「すっかり暗くなったな。今夜は仕事はなしだ。これ以上、追われると面倒だしな。しっかりと羽根を伸ばしてくれ」

 その言葉に、一気にみんながやる気を出した。
 ジルダと側近の二人だけは馬車に乗り、他の手下は荷馬車の荷台にいる。
 後方の手下は、なぜ盛り上がっているのかわからないくせに、真似して雄叫びをあげているのを聞きジルダは苦笑した。



 宿に荷物を置き、酒場へと繰り出す。
 総勢十五名ほどの人相の悪い集団が入れる店は限られている。
 冒険者が行くような、酒場を探すとちょうどいい店が見つかった。

「この店、ずっと前に来たことがありますね。たしか、踊り子がいる店だったような」
「お前、ハゲてるくせに記憶力がいいじゃねえか。ではここにするか」

 店は半分ほど客が入っているが、誰一人こちらを見なかった。
 冒険者のパーティが何組か見えるが、それ以外は職人たちだろうか。
 ドワーフの姿もあった。
 みんな仲間と盛り上がっているようだ。今夜はここで酒盛りだ!

 この夜、ジルダは浴びるほど酒を飲み、飯を食らった。
 何かを忘れたいかのように……


◇ ◇

 闇商人ジルダが、酒を飲み盛り上がっている頃 ――――

 王都ダバオ近郊にある奴隷商人ニートの屋敷では、諜報屋からの情報がもたらされていた。

「アルノルト、さっそくだが諜報屋の報告をみんなに説明してやってくれ」

 俺の部屋には、ライラ、パオリーア、マリレーネ、アーヴィアが集まっている。アルノルトを入れ、この五人には知っておいてもらいたかった。

「では、説明します。現在、奴隷制度法の改正によって、人をさらって人身売買を生業としていた裏稼業の者たちが、次々と兵に捕まっているとのこと。
 これは、奴隷の売買は奴隷ギルドの許可を受けた奴隷商人から購入することが法的に義務付けられたからです」

 裏稼業の者たちに恨まるのも当然か。
 そっちの世界にも根回しをしておけばよかったのだが、俺はそっち方面は疎い。裏稼業の者のことなど頭になかった。


 ふとパオリーアたちに目を馳せると、黙って聞いている。

「今まで小さな集落を襲って、女子供をさらっては闇市で売られていた奴隷ですが、最近は購入者が激減したようです。中には、奴隷の闇売買で自警団に捕まり牢に入れられた者もいるそうで、裏の世界ではかなり騒ぎになっているようですね」

「そうなるよな、裏稼業の者たちの商売を横取りしたみたいになった。申し訳ないことをした」

 俺は、ポツンとそう言うとライラが「旦那様が謝る必要はありません」と言う。
 そうなんだろうけど……

 だが、この世界に独占禁止法なんてものがないのだから、今のうちに奴隷商人の既得権を積み上げたい。

「それで? 他に何を書いている」

「はい、先日、マーティの街の近郊にあるエルフの村が襲撃され、エルフが連れ去られました。そのエルフたちは闇奴隷市場で競りにかけられたそうですが、騎士団が突入して救出したようです。その時の闇商人は逃げたようですが、エルフたちは助かったそうですよ」

 闇奴隷市場ダークマーケットというものがあるのか。
 そんなところに出入りする客は奴隷にどんな仕打ちをするのか、想像したくなかった。

「その闇商人はどこに逃げたのだ?」
「この報告書では、闇商人ジルダの一行はチョルル村に向かったとのことです」
「トラファのおっさんの村か。あんな辺鄙なところに行って何をする気なんだろう。 それは何か書いているか?」

 首を振ったアルノルトは、報告書を閉じると「以上になります」と言った。

「聞いての通り、法が改正されて奴隷の売買が厳しくなった。これは俺が草案した法律だから、俺たちには都合のいいものになっているが、闇商人や裏稼業の者たちは商売できずに俺たちを恨んでいるだろう。そこでだ……」

 俺は、ここで一旦言葉を止め、みんなを見渡した。
 みんな俺が何を言おうとしているのか、静かに待っていた。

「実は先日王都でも、闇商人の動きが怪しいという話を聞いた。どうやら、アルノルトが先ほど言った話に通じるものがある。闇商人たちがここを襲撃する可能性もゼロではないと思っている」

 ビクンと驚いた顔をするパオリーアたち。
 襲撃されるとこの屋敷はひとたまりもない。
 何しろ、今でこそ門番や巡回警備している私兵がいるが、まだ襲撃に耐えられるほどの防護力はない。

「俺は、マーティの街で保護されたエルフに会いに行こうと思う。同行はパオリーア、お前がついてこい」

 パオリーアが、短く返事をする。
 その横で、ライラがハッと顔を上げ抗議の視線を送ってきた。

「ライラ。お前にはしてもらわないといけないことが山ほどある。そう怖い顔をしないでくれ」
「はい、申し訳ありません」

「ライラは、王都に一度戻って私兵を募ってくれ。この屋敷の警備の強化をするんだ。できれば傭兵ではなく、素性のわかる奴らがいい」

 貴族の娘であるライラが兵を集めるのに適任だろう。

「アルノルトは、諜報屋に闇商人ジルダについて調べさせろ。どんな些細なことでもいい。それと俺に恨みのある闇商人たちをリストアップするように頼む」

「わかりました。さっそく動きます。ニート様もお気をつけて!」

 そのあと、マリレーネとアーヴィアにはもしもの時のために奴隷たちに避難訓練をするようにと申し付けておいた。

 備えあれば憂いなしだ。できれば、最悪な事態は避けたい。
 なんとか、うまく事を収められたらいいのだが。
しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...