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<第三巻:闇商人 vs 奴隷商人>
第八話:エルフの話を聞く
しおりを挟むマーティの街の神殿を出た俺の後ろを、パオリーアとヴィヴィが歩いている。
神殿で話を聞いてもいいのだが、どうもヴィヴィにとってはアウェー感があり、話しづらいだろうと思ったのだ。
同族から嫌われていることに気づいたからだ。
まるで、自分たちの不幸を彼女が原因かのような口ぶりだった。
神殿の周囲に飲食店が数店舗、軒を連ねている。
客がそこそこ入っていて落ち着いて話ができそうな店を選び入る。
「ここで、話を聞こう。あまり連れ回してもキミに迷惑がかかるだろうから」
店の扉をあけてやり、ヴィヴィを先に入れる。
後にパオリーアが続き、俺が入った。
店内の奥に客が一人もいない。そこでいいだろう。
俺は店員に声をかけ、落ち着いて話ができる席へと案内してもらうように頼むと、案の定、一番奥へと案内された。
「まずは、俺たちが誰かは聞いているな」
「はい……奴隷商ギルドの方だと。しかし、そんな方がなぜ私たちに?」
ヴィヴィは、膝の上の手をぎゅっと握ると俺に目を合わさずに答える。
緊張しているのだろう。
「私たちは闇商人ジルダに狙われているらしくって、それでジルダさんがどういう人なのかなって思っていたところに、あなたたちの話を小耳に挟んだもので……ごめんなさい、突然訪ねてしまって」
パオリーアは、そう答えるとヴィヴィの手に自分の手を重ねて、さらに言葉を続ける。
「大丈夫です。何も怖くないですし、あなたたちが望めば助けることだってできますから」
パオリーアは静かにヴィヴィに向かって言った。
さすが奴隷たちのお姉さんと言われているだけのことはある。
心を閉ざした者でさえ、つい心を開いてしまうような包容力を感じる。
「あの……ジルダさんは、どうしてあなたたちを狙うのでしょう?」
「それが知りたくて来たんだ」
俺の言葉に、そうですか……とヴィヴィが答えた。
実は俺はすでに精霊石が装着されたアクセサリーを身につけているため、彼女の心の声は聞こえている。
だが、彼女が自分で他人に話すことで、彼女自身が救われることもあるだろうと俺は聞くことにした。
「ジルダとは仲良くしていたのか?」
「……はい。いい関係だったと自分では思ってて……」
「だが、捨てられた……か?」
「はい」
後悔の念があるヴィヴィは、心の中でどうしてあんなことを言ってしまったのかと繰り返している。
きっと、関係を壊すようなことを言ってしまったのだろうと。
「闇商人たちが今、しのぎが減って窮地に陥っていることは知っているな。俺たち奴隷商や奴隷を保護する法律ができたことで、闇商人たちの裏マーケットが大打撃を受けていると聞く。本当のことか?」
俺は、しおれた花のように項垂れたヴィヴィに聞く。
彼女は、うなずくだけだった。
心の中では、あなたたちのせいなのに他人事みたいに、と俺を責めているようだが口に出していない。
「俺たちのせいだと思っているのか?」
俺の問いに、ハッと顔を上げたヴィヴィは肯定も否定もせず、ただ首を振った。
「俺たちは奴隷制度をこの国からなくしたいと思っている。無理やり奴隷として働かせたり身を売らされたりする世の中は間違っていると思うんだ。その夢のために、法律が作られたり制度が変えられたりしている。闇商人たちはその時代に流れに乗れていないだけなんだ」
黙って聞いているヴィヴィの隣でパオリーアは、うんうんと頷いている。
俺は、ヴィヴィにジルダのことをいくつか質問した。
どれくらいの悪党なのか、話し合いに応じるようなヤツなのか……と。
「彼は、本当は仲間思いで優しい人だと思います。辛い目にあって、自分の力で今の職と仲間を得たのだと言っていました。それに、魂の色は澄んでいました。人でなしは魂の色が濁っています。灰色や茶色のような透明感のない色。しかし、あの人は違った」
「エルフの魂の色を見る力を持ってるんだな。たとえ根は良いヤツだとしても、良い行動ができるとは限らない」
「ええ、そのとおりです。ですが……私には彼が何か焦っているように思うのです」
目に力が宿り、ヴィヴィは俺をまっすぐに見るとお願いすべきか悩んでいる。
「何かに焦りがあって、暴挙に出ると思っているのだな」
「そのとおりです。あの……こんなことを、あなたたちにお願いしていいのかわかりませんが、どうか彼を助けてあげてください」
助けるつもりはないが、ジルダたち闇商人を根絶やしにしようとも思っていない。
降りかかる火の粉は払うが、自分から危険に身を投じるなんてリスクが高すぎる。
この世界は俺のような平和ボケした日本人には生きるには難易度が高いのだ。
「助けたいのなら、お前がすればいい」
俺の言葉に、彼女は落胆を隠そうともせずため息をついた。
どうしたら助けられるっていうのかと心の中で考えているのが、精霊石を通して聞こえる。
冷たいようだが、ジルダの側にいた女ならジルダも話を聞く可能性はある。
俺が説得に走るよりは、彼女の方が適任だろう。
しかし、彼女が俺の側についたことが知られれば逆効果になることも考えられる。
「俺について来るか? ここにいるよりは俺たちのところにいるほうが情報は入るだろう」
俺が突然ヴィヴィを誘ったためパオリーアが驚いたものの、俺の意図を汲んだのか軽くうなずいて見せた。
「連れて行きたいやつがいるなら、連れて来ればいい」
「いません。きっと、私はここにいない方がいいんじゃないかと思っていたから……ぜひ、私も一緒に連れて行ってください」
顔を上げ力強く頷いたヴィヴィの目に迷いはなかった。
◇ ◇
屋敷に戻った俺を、まっさきに出迎えてくれたのはマリレーネだった。
たまたま、門の近くを歩いていたマリレーネが俺たちの馬車を見つけ駆け寄ってくる。
大きなメロンのようなおっぱいが、左右上下にゆさぶられ、ちぎれてしまうのではないかと心配したほどだ。
「旦那さまー! おかえりなさいっ!」
はぁはぁと、息を切らせて走りながら俺に抱きつくもんだから、勢いに押されて尻餅をついてしまった。
「痛ぇな、こら、マリレーネ!」
「ご、ごめんなさいっ! お尻大丈夫ですか? きゃぁーーっ、おしりが二つに割れてるぅ」
「ほんとだ、穴まで開いてしまったじゃないかっ!」
マリレーネのボケに合わせた俺のノリツッコミを聞き、ぎゃはははと腹を抱えて笑うマリレーネにパオリーアが叱りつける。
「マリっ、ダメじゃない。旦那様を押し倒すなんて、はしたないですよ!」
「わりぃ、わりぃ、リア姉さんも元気そうで……あっ、馬車の中でいろいろとエッチなことした?」
「もぉっ、そ、そんなことしてないわよ! またライラ先生にマナーの指導をしてもらいますからねっ!」
パオリーアは、眉間にしわを寄せて睨みつけるが、どこ吹く風でマリレーネは笑い飛ばす。
「ライラ先生の指導はきついからイヤだよ。ウチすごい寂しかったんだから。旦那様もリア姉さんもいなくて」
まあ、と少し恥ずかしそうにパオリーアがはにかむが、すぐに目を三角にして怒る。
「そんなことを言ってもゆるしませんよ!」
「まあ、まあいいじゃないか。ケガしたならともかく、転んだだけなんだから。それより、みんなはどうした?」
マリレーネに尋ねると、屋敷の方を見た。
俺の帰りに気づいたライラが、全速力で走ってきている。砂埃が立ち上る走りは見事だが、かなり怖い。
「ちょっと、待て、ライラ! ちょっ、があああああっ!」
ライラが飛びつくように俺に抱きついてくるのを、足を踏ん張って耐える。
マリレーネに比べたらライラは細身でかなり軽いので、押し倒されることはなかったが危険すぎる。
「旦那さま、おかえりなさいませ。一日千秋の思いでお待ちしておりました」
「ああ、待たせたな……。お前、王都にいるんじゃなかったのか?」
「すべて手はずは済ませましたの。ところで、そのエルフは? ずいぶん小綺麗なエルフですが……ま、まさかっ!」
ライラは、舐め回すようにヴィヴィを見ると、その勢いに押されたヴィヴィは慌ててパオリーアの後ろに隠れた。
ほぼ半裸に近いボンテージ衣装のライラに睨みつけられたら、そりゃ俺だって怖い。
「まさかって、なんだ? こいつはヴィヴィ。ジルダのことに詳しいから来てもらった」
「そうですの? ……ふーん、旦那さまとはどこまでお進みになったのかしら?」
尋ねられた意味がわからず、ヴィヴィは目で俺に助けを求める。
「何もするものかっ! お前は俺が手当たり次第に女に手を出すと思っているのか?」
「ち、違います。そうは思っておりませんが……もしや、また愛人が増えたのではと……」
「同じことだろ、それって。そんなに俺のこと信用していないんだ……」
手をブンブン振って否定するライラを無視して、俺は屋敷へと向かった。
「旦那さま、お待ちください! ああああっ、さっそく放置とかヒドイですぅ」
甘えた声を出すライラは、パオリーアとマリレーネに任せ、さっそく自室へと戻ったのだった。
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