90 / 97
<第三巻:闇商人 vs 奴隷商人>
第九話:仕込まれたジルダの罠と蠱術
しおりを挟む麻薬売人のゾルデの全滅の後、ジルダは密かに奴隷商ニート・ソレの屋敷近くにアジトを構えた。
奴隷商ギルドに雇われた諜報屋を捉え、ジルダの手の内にあった。
「ヤツは奴隷商人に送り返してやれ。俺の術中にすでにはまっているが、念には念を入れておかないとな」
ジルダは、酒を呷るとこみ上げる笑いにほくそ笑んだ。
「ヴィヴィの奴もどうやら潜り込めたようですぜ」
「ああ、本当に噂通りの甘ちゃんみたいだな。三代目ってのはどいつもこいつもマヌケだな、おいっ」
ぎゃははは、と一斉に笑いが起きる。
ジルダは、懐からハロニア貝の形そっくりの魔道具を取り出し、手のひらでさすった。
魔族でも最高の術者が作ったこの魔道具は、「蠱術」という人の耳の中から入り込み脳に作用して記憶や言動を思うように操ることができる。これこそ、ジルダの最終兵器とも言える。
だが、この術は仕込みに何日も必要になるなど、気軽に使うことはできない。
ジルダは、蠱術をエルフのヴィヴィに毎夜少しずつ掛けていた。
耳の穴からスライム状の虫を一匹ずつ仕込んでいき、脳に巣くうと脳の働きを奪う毒を吐く。
それによって死ぬことはないが、ジルダの持つハロニア貝に言葉を吹き込むと、蠱術をかけられたものはなんの疑いもなく、その通りに行動する。
もちろん、記憶も言葉も自由に操ることができる。強力な闇魔道具のため普通の魔族では作ることはできない。
最高の術者に大金を払って、やっと作ってもらえるほど貴重な物だった。
「まあ、もうしばらくは仕込みにかかるだろうな」
ジルダの独り言に手下たちは、何も言わずにうなずく。
「ヴィヴィの奴を操つるためには、屋敷の近くにいる必要がある。あそこの警戒は今はどんな調子だ?」
「すでに屋敷の四方に物見櫓が二箇所ずつ作られていやした。警備の方は日に日に増えているようですが、どうやら王都から兵士が交代で見張りに来ているような感じですわ」
ジルダは、奴隷商ソレの屋敷と敷地が書かれた羊皮紙を広げて、物見櫓が建てられた位置を見張り役の手下に書かせる。
外を固く守れば守るほど、中の警戒は甘くなる。
だが、ジルダは内部から狙っていた。
あのエルフの女に蠱術を使ったことは後悔していない。
だが、できることならもう一度取り返したいとも思っている。
「諜報屋が、俺たちについて偽情報を持ち帰るだろう。すでに、ヴィヴィは屋敷に招かれるほど信頼されている。偽情報と合わせて総合的にヤツは俺と会おうとするはずだ」
「そうなりますかね?」
「ああ、なるさ。ヴィヴィは、俺のことを悪いやつではないから殺さないでほしいと頼むだろう。諜報屋は俺が傘下に入りたいと思っていると偽情報を流す。そうすると、あの野郎はどうすると思う?」
手下に一人に話を振ると、愉快そうに笑った。
「中からは、ヴィヴィがなんとかするだろう。あとは、騒ぎに乗じて俺たちも屋敷に潜り込むだけだ」
「あの守りをがっつり固められて、うまくいきますかね?
「あの女エルフが起こす騒ぎが大きければ大きいほど、俺たちは忍び込める機会がくるさ」
◇ ◇
「あの、お客人! 夜は屋敷の外に出てはいけません。決まりですので」
屋敷の周囲を囲む塀のそばにいた兵士が、人影を見つけ駆け寄るとエルフの女が一人で歩いているのを見つけ声をかけた。
「あら、そうだったの……ごめんなさい。知らなくて……眠れなかったので」
「物騒になってきているので、外を出歩かれますと危険ですから。さぁ、お部屋にお戻りください」
兵士に促され、エルフの女は元来た道を戻ると屋敷へと入っていった。
一方、ヴィヴィはというと兵士に叱られて、部屋に戻ると寝付けずに窓から外を見た。
紺色の空には、うっすらと雲が浮かび星を隠している。
「どうにかして、ジルダ様の良さをニート様にお伝えして、争いを止めなければ……」
ジルダのそばに仕え、夜伽るたびに日増しに恋心が芽生え、自分でも不思議だった。
あんなに憎いと思っていた男に、惹かれてしまう自分にも、そして優しい言葉をかけてくれるジルダにも。
「過去はどうでもいい。そう、どうでもいいわ。この先、あの人が幸せになってくれたら……それでいい」
ジルダの顔を思い浮かべ、短くても一緒に過ごした日のことを思い出す。
村のエルフたちは、ヴィヴィがいくらジルダの良さを伝えても誰一人賛同してくれず、馬鹿にされ無視された。
たとえ、自分一人になっても味方しなければと強く思った。
窓から離れ、再びベッドに潜り込むと、いつの間にか眠りについていた。
翌日、門番をしていた男奴隷たちは部屋へと戻る。入れ違いに王都から来た兵士と交代の時間だった。
「何か、変わったことはないか?」
門番の引き継ぎは、まず報告から始まる。
だが、夜間警備をしていた男奴隷たちは何事もなかったため、特になしと答えた。
この時、夜屋敷を出て歩いていたエルフのことなど、すでに門番の記憶から抜け落ちていたのだ。
「では、夕刻の交代までよろしくおねがいします」
男奴隷たちは、兵士に会釈を返すとそれぞれの部屋へと戻っていった。
もし、あの時エルフの女のことを伝えていればと、後でこの門番たちは後悔することになる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる