悪役転生した奴隷商人が奴隷を幸せにするのは間違っていますか?

桜空大佐

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<第三巻:闇商人 vs 奴隷商人>

第九話:仕込まれたジルダの罠と蠱術

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 麻薬売人のゾルデの全滅の後、ジルダは密かに奴隷商ニート・ソレの屋敷近くにアジトを構えた。
 奴隷商ギルドに雇われた諜報屋を捉え、ジルダの手の内にあった。

「ヤツは奴隷商人に送り返してやれ。俺の術中にすでにはまっているが、念には念を入れておかないとな」

 ジルダは、酒をあおるとこみ上げる笑いにほくそ笑んだ。

「ヴィヴィの奴もどうやら潜り込めたようですぜ」
「ああ、本当に噂通りの甘ちゃんみたいだな。三代目ってのはどいつもこいつもマヌケだな、おいっ」

 ぎゃははは、と一斉に笑いが起きる。

 ジルダは、懐からハロニア貝の形そっくりの魔道具を取り出し、手のひらでさすった。
 魔族でも最高の術者が作ったこの魔道具は、「蠱術」という人の耳の中から入り込み脳に作用して記憶や言動を思うように操ることができる。これこそ、ジルダの最終兵器とも言える。
 だが、この術は仕込みに何日も必要になるなど、気軽に使うことはできない。

 ジルダは、蠱術をエルフのヴィヴィに毎夜少しずつ掛けていた。
 耳の穴からスライム状の虫を一匹ずつ仕込んでいき、脳に巣くうと脳の働きを奪う毒を吐く。
 それによって死ぬことはないが、ジルダの持つハロニア貝に言葉を吹き込むと、蠱術をかけられたものはなんの疑いもなく、その通りに行動する。
 もちろん、記憶も言葉も自由に操ることができる。強力な闇魔道具のため普通の魔族では作ることはできない。
 最高の術者に大金を払って、やっと作ってもらえるほど貴重な物だった。


「まあ、もうしばらくは仕込みにかかるだろうな」

 ジルダの独り言に手下たちは、何も言わずにうなずく。

「ヴィヴィの奴を操つるためには、屋敷の近くにいる必要がある。あそこの警戒は今はどんな調子だ?」
「すでに屋敷の四方に物見櫓が二箇所ずつ作られていやした。警備の方は日に日に増えているようですが、どうやら王都から兵士が交代で見張りに来ているような感じですわ」

 ジルダは、奴隷商ソレの屋敷と敷地が書かれた羊皮紙を広げて、物見櫓が建てられた位置を見張り役の手下に書かせる。
 外を固く守れば守るほど、中の警戒は甘くなる。
 だが、ジルダは内部から狙っていた。

 あのエルフの女に蠱術を使ったことは後悔していない。
 だが、できることならもう一度取り返したいとも思っている。

「諜報屋が、俺たちについて偽情報を持ち帰るだろう。すでに、ヴィヴィは屋敷に招かれるほど信頼されている。偽情報と合わせて総合的にヤツは俺と会おうとするはずだ」
「そうなりますかね?」
「ああ、なるさ。ヴィヴィは、俺のことを悪いやつではないから殺さないでほしいと頼むだろう。諜報屋は俺が傘下に入りたいと思っていると偽情報を流す。そうすると、あの野郎はどうすると思う?」

 手下に一人に話を振ると、愉快そうに笑った。

「中からは、ヴィヴィがなんとかするだろう。あとは、騒ぎに乗じて俺たちも屋敷に潜り込むだけだ」
「あの守りをがっつり固められて、うまくいきますかね?
「あの女エルフが起こす騒ぎが大きければ大きいほど、俺たちは忍び込める機会がくるさ」



◇ ◇


「あの、お客人! 夜は屋敷の外に出てはいけません。決まりですので」

 屋敷の周囲を囲む塀のそばにいた兵士が、人影を見つけ駆け寄るとエルフの女が一人で歩いているのを見つけ声をかけた。

「あら、そうだったの……ごめんなさい。知らなくて……眠れなかったので」
「物騒になってきているので、外を出歩かれますと危険ですから。さぁ、お部屋にお戻りください」

 兵士に促され、エルフの女は元来た道を戻ると屋敷へと入っていった。

 一方、ヴィヴィはというと兵士に叱られて、部屋に戻ると寝付けずに窓から外を見た。
 紺色の空には、うっすらと雲が浮かび星を隠している。

「どうにかして、ジルダ様の良さをニート様にお伝えして、争いを止めなければ……」

 ジルダのそばに仕え、夜伽だかれるたびに日増しに恋心が芽生え、自分でも不思議だった。
 あんなに憎いと思っていた男に、惹かれてしまう自分にも、そして優しい言葉をかけてくれるジルダにも。

「過去はどうでもいい。そう、どうでもいいわ。この先、あの人が幸せになってくれたら……それでいい」

 ジルダの顔を思い浮かべ、短くても一緒に過ごした日のことを思い出す。
 村のエルフたちは、ヴィヴィがいくらジルダの良さを伝えても誰一人賛同してくれず、馬鹿にされ無視された。
 たとえ、自分一人になっても味方しなければと強く思った。

 窓から離れ、再びベッドに潜り込むと、いつの間にか眠りについていた。


 翌日、門番をしていた男奴隷たちは部屋へと戻る。入れ違いに王都から来た兵士と交代の時間だった。

「何か、変わったことはないか?」

 門番の引き継ぎは、まず報告から始まる。
 だが、夜間警備をしていた男奴隷たちは何事もなかったため、特になしと答えた。
 この時、夜屋敷を出て歩いていたエルフのことなど、すでに門番の記憶から抜け落ちていたのだ。

「では、夕刻の交代までよろしくおねがいします」

 男奴隷たちは、兵士に会釈を返すとそれぞれの部屋へと戻っていった。

 もし、あの時エルフの女のことを伝えていればと、後でこの門番たちは後悔することになる。
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